タフネス系乙女ゲー主人公VS一般転生モブ兄妹VS出遅れたイケメンども。 作:はめるん用
需要があるかはわかりませんが初投稿です。
アレとは違う。
だが、同じエーテルを感じる。
縄張りに侵入してきたソレの存在をハッキリと感知して……否、そうではない。ソレの放つ攻撃的な霊気は水底を揺蕩う己を呼んでいるのだ。
陽の光すら届かないこの場所まで大声で呼びかけるソレの声無き声をハッキリと聞いて、大イワナは大きく跳躍して浮島を飛び越えた。
そこに、ソレはいた。
「おぉ……ッ! ハハッ、こりゃすげぇや。画面越しに見るのとは迫力が全然違うねぇ。さぁて、面倒続きで思いっきり運動する余裕が無かったからな。悪いがちぃっとばかり、俺と遊んでくれやッ!」
ソレは確かに敵である。
だが、ソレは自分を敵として見ているワケではないらしい。
ソレの姿を確認して再び水中に戻った大イワナは考える。ソレの強さは大したことがないと、これまでの経験とエーテルの波動から理解している。
だが同時に本能がソレを危険な相手であると警告してくる。つい最近戦ったアレよりも弱いのに、過去に縄張りに踏み込んできたアレやコレよりも弱いのに、そのどれらよりも危険だと本能が告げてくる。
だが、大イワナのやるべき事は変わらない。どんな相手だろうが自分の得意とする戦い方で押し切るだけのこと。
「遠距離からの水弾、ね。そりゃゲームと違って自由に戦えるんだから、そういう手も使ってくるわな。なら、俺も新技を試させてもらうとしようか? 見切りスキルを攻撃に応用できるか……さて、どうなることやらッ!」
腹に抱えた迷宮から水を吐き出す。
ひとつ、ふたつ、みっつ。
ソレのエーテルに向かって真っ直ぐ飛んでいる。避けられるか、そうでなければ直撃するが。
「────蒼の、刃よッ!!」
切られた。
水弾を包む水の妖気を切られた。これでは内側に包み込んだ水が溢れて、水弾が壊れてしまう。
「水属性見切りと斬撃の合成、やったぜ! でもダメだわコレ単純に質量差がどうにもなんねぇ慣性の法則による水の勢いまでは切れませんでしたぁ〜ッ!! うぉっ、危ねッ!?」
ざぼんッ! と一度水の中に引き下がり大イワナは考える。ソレを相手にただ水をぶつけようとしても当たらないかもしれない、と。
実際にはそんなことはないのだが、視力が退化しているためエーテル感知能力を活用して戦う大イワナには“水弾を切られた”という情報が判断材料として優先される。
みっつ飛ばしてもダメならば。
もっと沢山飛ばせばいいのでは?
とはいえ、一度に飛ばせる量には限りがある……ような気がする。どうにもひとつひとつ妖気で水を包むのが手間に感じるというか、続けてやろうとすると集中力が乱れるような感覚に襲われる。
では、どうするか?
なら、こうしよう。
「……? 上を向いてなにをするつもり────オイオイ、そうきたかッ! 一人時間差攻撃とはやってくれるッ! まさに“水は低きに流れる”ってコト!?」
上空に数発飛ばして山なりに浮島へ。エーテル感知能力の高い大イワナにとって、着弾地点の予測など容易いこと。
そして一度水の中に戻って速度を稼ぎ、その勢いのまま水面から飛び出して直接ソレへ向かって水弾をばら撒いてやれば。
……いない? 何処だ。
先に破裂した水弾、それから溢れ出した瘴気が邪魔でエーテルを探せない。浮島の上には何処にも────浮島には?
正面。空中なら?
いる。
エーテルの形、霊気の流れ。それらから大イワナはソレが弓を構えていることを知る。いいだろう、防御力には自信がある。たかが弓程度で貫けるものなら貫いてみればいい。
……いや、なにかがおかしい。なにか、ひとつ、異質なエーテルの反応が、小石の礫ほどの異物がある。
大イワナには見えていないが、ソレは弓を構えながら口にエーテル結晶を咥えていた。巨門の迷宮の主、双骨鬼から手に入れたそこそこ純度の高いエーテル結晶をだ。
ソレが咥えているエーテル結晶をバチンッ! と噛み砕いてキラキラと輝く粒子を取り込む……取り込まない? 周囲に粒子が浮遊して……いや、違う。エーテルの粒子が弓に、矢に、集まっている。
「────この矢は『射』を封ずる」
知らない感覚だった。刺さるというよりは潜り込むといった感触が、矢の当たった場所だけでなく全身を蝕んでいく不気味な感覚。
水弾を撃てなくなった、らしい。理屈は知らない。大イワナにとって理屈とはなにも重要ではない。水弾を封じられたかもしれないという予感と、水弾を撃てなくなったという事実だけで事足りる。
ふむ。撃てない。
撃てないが、水を使えないというワケではない。
ならば話は簡単だ。
「……俺が転生したのはデビルメイクライの世界だったかもしれねぇ」
大イワナは水を撃つのではなく、その場に留めることを選んだ。
天を仰ぎ、
大きく口を開き、
腹の内側から続く異界の先にある満水無尽の仄暗き穢れた海から瘴気と破壊の力で満たされたモノを喚び出し濁った巨星を作り出すッ!!
大イワナがイメージするのは、ソレを掴むための腕。
常形無き水であれば、それを操る術に長けた大イワナであれば、その水塊より無数の腕を伸ばしての攻撃程度であれば。
────轢殺せよ。『大壊掌 百万瀑布』
「のぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!?!?」
見切りスキルも耐性スキルも関係ない、質と量による圧倒的な暴力の前では侍如き小さき存在では戦闘など成立しないだろう。
それでも大イワナは攻撃の手を緩めない。浮島の全てをその掌で削り切ったとしても、それで決着となる相手ではないという予感を正しいモノとして確信しているから。
さらなる一撃を、追撃のダメ押しを。小手先の技術に頼るばかりではなく、基本に忠実に自分の強みを活かして────瘴気の水を纏いながら高く飛び上がり、真上からソレ目掛けて突っ込んだッ!!
その破壊力ッ! 浮島だけでなく前の院も奥の院も巻き込んで、直径数百メートルの範囲を吹き上げられた瓦礫と水と瘴気の円柱は天まで届くと錯覚するほどであるッ!!
「瘴気……ッ! 霊気のガードを……呼吸は、どうする? 適当なエーテル結晶を酸素ボンベの代わりにしてみるか……ッ!」
やはり、いる。
少しは期待したが、やはりこの程度では仕留められなかったらしい。だが瘴気に心身を蝕まれぬようにと霊気のガードを強めている様子が大イワナにはハッキリと視えている。
ならばなにも問題はない。伊達や酔狂ではないのだ、異湾魚の真名は。そこに物質としての水が無かったとしても、充分な濃度の妖気と瘴気で満たされているのであれば、大イワナが“そう”だと認識した瞬間から────そこは『空』ではなく『海』となるッ!
「あれは、迷宮の鬼かッ! この状況で乱入はさすがにキツい……いや違うわ。アレ巻き込まれただけだわ。めっちゃダバダバしてるもんな。とにかく、いったん上を目指して────いや、それはお前、さすがに頑張り過ぎだってばよ……ッ!?」
問題なく泳ぐ。
ソレを飲み込むために。
「おぉ、すっげ。なんでもアリかよ。知ってるゲーム世界の中ボス戦のはずなのに、初見のオンパレードで退屈しないねぇッ! やっぱ原作知識なんてものは使うのはともかく頼るのはダメかもしれん、なぁッ!!」
瓦礫や鬼を足場とし蹴り飛ばしソレは上へ上へと跳んでいく。
それを大イワナが繰り返し切り返し襲い掛かる。
そこで気が付く。なにかが纏わりついている。
糸? 糸だ。この気配は知っている。迷宮の主である、大イワナの飼い主である鬼神の姫の友人の気配だと知っている。なんとも久し振りの匂いだが、これは八雲姫に由来する素材の糸であるのだろう。
だがそれがどうした、その程度のか細い糸でこの巨体を止められるものか。大イワナは周囲の瓦礫も巻き込んで糸が絡みつくのを全く無視して、糸を張り巡らせながら逃げるソレを飲み込むべく繰り返し突進を続けた。
しかし。
「さぁ、捕まえたぞ?」
ソレの狙いは動きを封じることではなかった。瓦礫と共に纏わりついた糸を頼りに大イワナの背中に張り付くことが目的だったのだ。
ザクリ、と。刀のようなものが背中に突き立てられる。この程度で痛みなど感じないが、これまでのアレやコレとの戦いと違い、ソレを相手にしてこの状況はあまり良くないことだ。
振り解けるか?
否。どうやらソレは自分がそうすることも想定して張り付いてきたらしい。力が足りないことを知って、自分の力を利用することにしたのだ。水と、瓦礫と、瘴気の流れに逆らうことで、刀に力を乗せて背中を切り裂くつもりなのだ。
ソレは決して離れない。離さないだろう。大イワナに侍の在り方など興味無いことではあるが、ソレがいまこの瞬間を待ち望んでいたことはわかる。
何故なら大イワナもこの瞬間を待ち望んでいたような気がするから。だから、ソレに根負けという選択肢は無い。どうにかして状況を打破しなければ背中を頭から尻尾まで真っ直ぐ切り裂かれる。
では、どうする?
決まっている。大イワナは自分が最も得意とする戦い方を、自分が最も勝てる戦い方を知っている。
「……あ〜、うん。そうね。そうするよね当然。仕方ない、次までに負けた理由……は、明確だから、勝つための作戦を考えてくるわ」
ぐるりと身体の上下を入れ替え、瘴気の結界から飛び出して、前の院のさらに前。しっかりと底の底まで続く地面の上に落下するッ!
もちろん大イワナだって少しは痛い。だが、ソレは痛いでは済まされない……はず。なんと言うか、めり込んだ地面から這い上がってきてもソレなら有り得るとか考えてしまう。
どすん、と。
背中と地面の間でエーテル粒子化が始まったことを確認した大イワナが、存分に戦えたことに満足して水の中に戻るためにゴロリと転がる。と、なにやら鼻先を撫でられるような感触がする。
はて、なんの霊気だろうか? おそらくは誰か、あるいは何かの神霊なのはエーテルの波動でわかるのだが。ソレに加護を与えている神霊だとすれば、どうして自分の鼻先を撫でるのだろう?
だが……まぁ、いい。褒めてくれるのであれば素直に喜ぶだけだ。やったぜ。実に良い気分だった。なにより、ソレがきっともう一度、いや何度でも自分に挑んでくることが決まっているのが良い。
高いエーテル感知能力を持つ大イワナには、ソレが消えていくときのエーテルの色合いからそれがわかる。きっと、ソレは勝ったり負けたりも大事なのだろうが、それ以上に自分と戦うことを大事にしてくれるのだろう。
ざぶん、と。
百年ぶり? 二百年ぶり? まぁ、時間の感覚など大イワナには在って無いようなものだが、少し前のアレとの戦いとも違う、とにかく数百年ぶりに不思議な満足感に包まれて大イワナは水の中をゆっくりと沈んでいった。
◆◇◆◇
奥の院のさらに奥。そこでは文曲の迷宮の支配者である『
「ふむ。良いぞ、実に良いぞ。異湾魚がこうも楽しげに遊んでいる姿など久し振りに見たぞ。ふむ。あの侍、実に好ましい
「八雲姫様より届きました文に記されていた侍とは、きっとあの人間のことなのでしょうな。良き眼をしておりました。自分も昔を思い出します」
「うむ、うむ。さて、実に愉快なことが続いたものだな? 妾の迷宮に我が物顔で踏み入ってきた糞蛙も人間の巫女たちが始末してくれたことであるし……ふむ。現世への侵攻、妾も少しは戯れてやるか」
「姫様、それは」
「これ、これ。そう嫌そうな顔をするでない。北辰の迷宮で魔王を名乗る阿呆に頭を垂れるつもりはない。ただ現世の、いまの人間たちに興味が出てきたというだけのこと。まぁ……此度の侍ほどの傑物などそう居るものではないだろうが」
「ハッ! 失礼しました」
「良い、赦す。……ふむ。そうだな、八雲の奴も現世の菓子に興味があるとのことだ、せっかくだから誘うてみるか。アレも人間を嫌ってはおらんからな、無闇矢鱈と力を使うような真似は……真似は……しない……よ、な?」
「自分からはなにも申し上げられません」
「…………」
「…………」
「玄武、だな」
「玄武、で御座いますか」
「うむ。妾の経験則でしかないが、玄武の侍であれば少しは話が通じるであろう。一騎打ちを提案すれば、向こうは民草の心配をせずとも済むし、妾も無意味に眷属を封じられることもない。八雲は……その、アレだ。こう、適当に菓子でも食わせておけば、しれっと人間に混じって大人しく観戦することだろう。…………………………おそらくは? おい、目を逸らすな」
こうして玄武の侍・喜多静流ほか3人が現世侵攻イベントで戦う相手は何処かの誰かのエンジョイ行為により鬼神・涼蘭姫に決定した。
シリーズが続いたことにより追加された様々なフレーバーテキストが無駄に仕事をしているせいで涼蘭姫のステータスは真白編のラスボスより強化されているが、状況としては東風先生に会うため四神の侍が勢揃いしているところに攻め込んでくるので人数だけは有利である。
ただちょっとイベント戦闘の内容が変更されるというだけで、たぶんそこまで絶望的ではないだろう。ただちょっと雑魚鬼の大群を蹴散らすだけの簡単なイベント戦闘が、黄龍の巫女の加護による強化がなければまともにダメージを与えられない圧倒的に格上の相手に真白抜きで挑まなければならないというだけで。ただちょっとその背後に同格の鬼神のおかわりが用意されているというだけで。
少なくとも民間人が命を落とすことはないので、実質的にこれは勝ち確のイベント戦闘のようなものである。きっと4人の活躍を望む世界の理も大満足してくれることだろう。
大イワナ
「とても、まんぞく」
※破壊された迷宮は、ペットが遊んだ後始末は飼い主の義務であるとして涼蘭姫が御自ら先頭に立って修繕しました。