タフネス系乙女ゲー主人公VS一般転生モブ兄妹VS出遅れたイケメンども。 作:はめるん用
じゃあ中年の男女が主人公のポケモンシリーズやアトリエシリーズがやりたいかと言われればはそんなことはないので初投稿です。
本来のストーリーの流れとしては、最も好感度の高い攻略対象と一緒に対応する迷宮の中ボスを討伐したところで鬼の現世侵攻イベントが開始する。
イケメンたちの負け戦が始まるのはその後の話であり、真白との絆でパワーアップしてリベンジ達成→第二次防衛戦→鬼たちを押し返してそのまま迷宮攻略→ラスダンの流れとなるのだ。
なので、今回の鬼『
ただ相手を間違えてしまったことだけが失敗なだけで。正々堂々戦うことを是とする大地であれば人質戦法も有効だったのだが、原作知識持ちの彼方は状況から虚繰行者が相手だと見抜いていた。ほかの鬼たちとの遭遇イベントが終わっていたからこそ心構えができていたことも大きい。
こうして人質を操る余裕を与えない先手の奇襲は成功した。
もっとも、仮に失敗して人間たちを使われたとしても彼方は思いっきり戦うつもりであったが。ここは魔法が存在するファンタジー、動きを封じるために手足のひとつやふたつぐらい切り落としても後遺症無しで治療することができる。
人質が有効だと思われるから厄介なのであって、人質がいようとも鬼を切ることを最優先とする危険な相手と思わせれば不利を覆せるかもしれない。一般人の命を優先するつもりではいるが、それでも優先順位は存在するのだ。操られているだけの人を傷付けるなんて! とか言ってる間に状況が悪化しては目も当てられない。
(ここは朝比奈に虚繰行者の相手を任せるのが正解だな。どういう流れで猿天哮を従えることになったのかは知らないが、この状況では────
目線の合図。まずは真白、次いで猿。
次の瞬間、ひとりと一匹の刃が虚繰行者に向けて駆け出したッ!!
「なぁ……め、るなぁ……ッ!!」
肺を潰され喉から血が逆流しようともさすがはストーリーの中ボス、妖気の糸を操り彼方と猿天哮を
が、その糸は届かない。
何故なら彼らの役割は本命のための囮だから。
「どらぁぁぁぁッ!!」
戦いに生きる者同士。ひとりの雌のために刃にならんと決意した超雄同士。余計な言葉など無くとも完璧なタイミングで左右に飛び退き真白が突撃するための道を完成させるッ!
「ひ……ッ!? ぐ、うぅ……ッ!!」
咄嗟に糸で盾を作り受け止めるが、背中側がコンクリートの壁では衝撃を逃がすこともできない。
完全に主導権を奪われ、もはやスーパーヒロインである真白ちゃんの女子力(物理)で磨り潰されるのも時間の問題だろう。
スキル磨きにエーテルを注ぎ込んでいた彼方と違い、じっくりと筋力のステータスを鍛えていた真白の一撃は並の侍よりずっと重いのだ。
それでも虚繰行者の格は鬼豪、生命力だけは見事なもの。どうにか状況を打破しなければと、真白の斧から地面を転がるように逃げ出して操り人形に仕立てた人間たちを動かそうと試みるが────それらの大半はすでに彼方の手によって再起不能にされていた。
もしも操り人形の中に友人知人が紛れていれば彼方も躊躇いながら殴っただろう。あるいは、周囲に人の目があれば真白の評判を気にして歯噛みしながら殴っただろう。
しかし虚繰行者が揃えた操り人形は名前も顔も知らない他人ばかり、そしてギャラリーを気にしなくていいように路地裏の先を戦場に選んだのだから遠慮なく殴れるというもの。
もちろん手加減はしている。ただ、あともう少しというところで自害するよう命令されては面倒なので、予めボコボコにしておくことで身動きひとつできないようにすることで彼らの生命を守っているのだ。
人質とは無事だからこそ価値がある。ならば、無事ではない状態にしてしまえば人質としての価値はない。まさに逆転の発想、もしもこの戦いを監視している者がいたとしても、人質作戦が必ずしも有効ではないと知らしめることになるだろう。
そして、そんな彼方の考えなど知らぬ存ぜぬの虚繰行者は目の前の光景に思考停止となる。この鬼にしてみれば無銘彼方という侍が“鬼を殺すためであれば一般人でさえ障害として排除する”危険極まりない人間にしか見えないのだから。
この戦い方で常勝不敗だった、侍も巫女も人間を守るという建前を掲げ誇りなどという無価値なモノに縋りながら死んでいった。
何度でも何度でもそれを繰り返し心を折るのは愉快であったし、その光景を見せられて恐怖する人間たちの表情を見ながらエーテルを奪うのは最高の気分だった。
だが、そんな楽な戦いばかりを続けていればどうなるか?
これがまだ本来のイベントのように、正々堂々たるを誇りとする目白大地が相手であれば違っていた。見ず知らずの他人だろうと彼の性格からして傷付けるような真似はできないし、真白の安全を引き換えにされれば黙って殴られることすら迷わず受け入れるだろう。
しかしいま目の前にいるのは冷徹に……そう、冷静に徹して優先順位を振り分けることができる無銘彼方である。自分の命さえ賭け札とし、主人公である朝比奈真白でさえも一般人と天秤に掛けて使い倒すべきと判断できる男を脅迫するには────余りにも未熟ッ!!
じゃあどうすれば彼方を倒せたかといえば、普通に操り人形にした人間をスタミナ切れまで黙々とぶつけ続ければ少しは勝ち目もあったという話である。ゲームでは立ち止まっていればスタミナゲージが回復するが、そんな都合の良いシステムはこの世界には存在しない。
「そぉぉぉぉいッ!!」
「ひぃッ!?」
策に溺れた策士が真っ向勝負などできるはずもない。
戦うべき相手と戦えなかった鬼の末路は。
「上」
「は?」
「頭上注意、だよ」
巫女の一撃ですらない、猿天哮の落下攻撃により両断されて終りとなる。
◆◇◆◇
「……うん、見えねぇ。どうやら召喚で実体化しているときはともかく、精霊としての状態じゃあ俺のステータスではムリっぽいな。ま、だとしてもそこにいるなら関係ないってね。助かったよ、俺ひとりじゃ本当に朝比奈を囮にする可能性もあったからな」
なにもない空間に頭を下げる彼方。
しかし真白には両手でサムズアップする猿天哮の姿が見えている。姿も見えず声も聞こえずそれでも成立する男同士のコミュニケーションをイイねと思いつつも羨ましい乙女心。そして視えずともそこに在るならそれで良しというスタンスには冥界童女も月読もニッコリである。
しかし、ついに現世で鬼との戦闘が起きたというのは一大事なワケで。
「問題は誰に報告したものか、だな。操られていた不良たちは適当に治療してアルコールぶっかけておいたから酔っ払いのバカ騒ぎ的な感じにお巡りさんが処理してくれるだろうとして。……ぶっちゃけ、そもそも信じてもらえるのかって話だよなぁ。建前としてはアレなんだし」
「まぁ〜世間を賑わすビックリなニュースになっちゃうよね〜。だって私自身も驚いてるもん。一応、このエーテル結晶が証拠にはなると思うんだけど……う〜ん」
基本的に真白は学園の上層部を信用していない。これまでの扱いで誠意を感じるような場面が無かったのだから当たり前だ。
そして彼方もまた、主人公やメインキャラクターが活躍するための世界とはいえ、残念な対応続きであまり頼りたいとは思っていない。
誰も彼もが信用できない、とまでは言わないものの。せめてプロの探索者たちとの交流でもあれば別だったのかもしれないが、それもまた不自然なほど関わる機会が存在しない。
原作という概念がある彼方には、それを“どこまでも学生たちを主役として舞台を回してやる”という強い意志のようなものに感じていた。それを妹と一緒に派手にブチ壊しているとも知らずに。
「なんにせよ……まずは信じてくれそうな相手に連絡をしてみる、か。焦ったところで解決する問題でもないしな」
所変わって。
「……ん? 彼方からメッセージか。武器を新調すると言っていたし、また自慢話でも────なんだとッ!?」
「紅蓮さん? なにかトラブルですか?」
「静流。いますぐ東風先生に連絡を頼む。どうやらアイツの懸念は事実だったらしい」
「……まさかッ!? それで、彼方さんはッ!」
「無事、のようだ。朝比奈が討伐したと言っている。まぁ、ヤツのことだ。黄龍の巫女という立場を考えて
「紅蓮、朝比奈さんがどうかしたのですか?」
「お前にしちゃ珍しくデケェ声出して、何事だよ?」
「あぁ……実はな」
彼方の可能であればあまり目立ちたくない、という考え方を尊重しながら言葉を選んで説明する。風魔と大地も東風先生のことは知っているので、鬼が現世に攻め込んでくる可能性について偶然教えてもらう機会があったという形でふたりに話すことにした。
あまり友人に必要のない嘘を吐くのもどうかと思いつつ、無銘彼方の強さや特殊性について言葉で説明するのは難しい。こればかりは巧い具合にタイミングが噛み合ってくれることを期待するしかないだろう、というのが紅蓮の判断であった。自分のように手合わせをすれば……いや、あの戦い方は逆に拗れそうで不安しかないな……。
ま、そんな細かな葛藤はさておき。
紅蓮から諸々の話を聞かされた風魔と大地は「そんなことになっているなら自分たちがなんとかしなければ!」と意気込み始めた。朝比奈真白という普通の巫女とはちょっと違う女性に惹かれつつあるふたりにしてみれば、守りたいと願いながらも知らぬ間に危険な目に遭わせてしまったという感覚になっているのだろう。
そしてそれを紅蓮がまぁ落ち着けよと冷静に嗜める。共に戦う仲間として真白のことを認めてはいるが良くも悪くも異性として全く意識していない紅蓮にしてみれば、驚きはしたものの無事に撃退したのであれば帰ってきてから詳しく事情を聞けばいいだけのこと。そしてそんなやり取りを見ていた静流は「風魔さん、貴方もですか……」と慈しむような目線である。
「東風先生はこの可能性についてご存知だった。なら、他にも鬼が現世に現れることについて備えている者は大勢いるはずだ。風魔、大地。鬼と戦っているのはオレたちだけではないんだ、もっと誰かを信じて頼ることも考えろ」
「「…………ッ!!」」
「以前は単独行動を好んでいた紅蓮さんが言うと妙な説得力がありますね」
『それだけ成長したということだろう。見ろ、朱雀の霊気が孫の晴れ姿を喜ぶ年寄りのソレになっている』
紅蓮の説得により黙るふたり。
そして。
「────フンッ!」
大地が自らの額を拳骨で殴りつけた!
「紅蓮、お前の言う通りだ。オレたちはいろんな人に支えられて鬼と戦ってんだよな。なのに、オレは白虎の加護持ちだからってオレがなんとかしなきゃいけねェって自惚れてた。いまのオレにはまだまだ力が足りねェって、ついさっきそう言ってトレーニングを手伝ってもらってるっていうのによォ……」
「僕も同じですね。加護を持たない侍や巫女を軽んじる風習を下らないと言いながら、いつの間にか同じ穴の狢となっていたようです。冷静になって考えてみれば、僕たちよりも長く鬼と戦い続けている大人たちがなにも対策を考えていないはずがありません」
「オレだって偶然そういう話を聞いていたから落ち着いているだけだ。そうでなければお前たちと同じように、自分の力だけで解決しようとしていただろう」
「3人とも、東風先生との連絡がつきました。明日にでも私たちにも詳しい話を聞かせてくれるそうです。それと、やはり鬼の現世侵攻を想定した対策班も存在するとのことで、現場についての詳しい情報を……あぁ、こちらは私が確認して報告しておきますので、学園側への報告をどうするのかをお任せしますね」
彼方にメッセージを送り出迎えに向かう静流。
その場に残された3人は。
「学園への、報告か……確かに必要なことだが」
「う〜ん、理事長も悪人じゃあねェんだけどよ」
「これまでの朝比奈さんへの対応を考えると」
特別な力を持つ者は特別な責任がある。
特別な待遇をされるのだから努力することはもちろん、結果を示さなければならない。
そんな教えを受けて育ってきた自分たちはそれでいいかもしれない。だが朝比奈真白はそうではない。黄龍の巫女として覚醒したから、ただそれだけで一般人として過ごしていた少女にいきなり義務と責任を押し付ける異常さに気が付いてしまえば学園のやり方を疑うようにもなる。
そのことに真白が編入してきた最初期の頃に思い至っていれば……と反省したところで自分たちの問題だらけの対応が無かったことにはならないのだが、それなら学園上層部や政府のことも仕方ないよねと開き直ることができるかと言われればそんなことはない。むしろ“これまで”を間違えたからこそ“これから”を少しでも良くすることを考えるべきだ。
が、努力しようと決意しただけで急にアイディアが生まれるなら誰も苦労しないワケで。
「……えぇと、ひとまず、そうですね……不審者が現れたので注意喚起を、という方向性にしておきましょうか? 侍や巫女が相手と知って襲ってきた、となれば警戒する理由としては充分でしょう」
悲しいかな、四神の侍のうち3人が揃っていても出てくるのは文殊の知恵ですらない妥協案。生まれたときから常識と仲良く殴り合いを続けているどこかの兄妹のようにはいかなかったようだ。