タフネス系乙女ゲー主人公VS一般転生モブ兄妹VS出遅れたイケメンども。   作:はめるん用

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 その後の説明とストーリーを同時に進めながら初投稿です。



入り口へようこそ♡

 ふたりの侍が無手で対峙する。

 

 互いに目隠しで視力を封じ、互いの発する霊気と、これまで培ったスキル効果を頼りとした組手である。

 

 先手。刺突武器の扱いで身に付けた踏み込みを活かし、静流が正面から拳による突きを放つ。

 その動きはまるで水に流れる花弁の如く静かなものであったが、その拳が纏う水の霊気は濁流の如く荒々しい攻めの氣で満ちていた。

 

 それを迎え撃つ紅蓮が受け流しを試みる。が、タイミングが合わず咄嗟に防御に切り替えた。

 接近戦の経験値は静流と紅蓮では比較するまでもない。丁寧に拳打を受けてそのまま反撃を、蹴りによるカウンターを狙う。

 

 が、打撃の見切りスキルによる反応を利用した受け流しから、咄嗟に耐性スキルの防御に切り替えたことでズレが生じたのだろう。繰り出された回し蹴りは鮮やかなものであったが、それを静流は難なく回避する。

 

 

 そんなやり取りを続けること数十秒。

 

 

「……ふぅ。ようやく少しは模擬戦らしい形になってきたな。普段の筋トレとは体力もそうだが、精神の疲労が比べものにならん」

 

「そうですね。しかし最初に比べれば私も紅蓮さんも上達したほうではないでしょうか? 少なくとも互いに鼻っ柱を打ち合って悶えるようなことは無くなりましたから」

 

 四神の侍が新しい訓練方法を編み出した、などと騒がれるのは御免被る。紅蓮と静流はなるべく人の気配が無い場所で訓練しようと、裏山の自然に囲まれながらトレーニングをしていた。

 

 破軍の迷宮攻略については“中ボスらしき巨大なムカデを撃退したあと上位の鬼と遭遇したが、戦闘にならずそのまま立ち去った”と報告した。もちろん証拠隠滅も抜かり無い。即座に迷宮から離脱して、吐き出された彼方を朱雀と玄武の加護を使って治療している。

 これまでの学園の対応からアテルイとの戦闘は紅蓮と静流の手柄として扱われるのは明白。それでも正直に報告して、むしろ無銘彼方の名誉回復に利用することもできるのでは? と静流は控え目に主張したが、ほかでもない本人から拒否されては押し通すこともできない。

 

 武器のことに対する引け目もあっての発言だったが、それも含めて彼方から「俺は気にしてない。だから、これ以上はお前の自己満足でしかない。償いをする自分に酔いたいなら俺を巻き込まないで他所で勝手にしてちょーだい」とキッパリ拒否されてしまったのだ。

 

 それでも静流は簡単に割り切ることができなかった。静流は。紅蓮は普段のやり取りから彼方の返事は想定内であったので、さっさと自分が気になっていることを────アテルイとの戦いで自らの五感を封じた意味を教わることを優先した。

 

 

「ステータスで勝てないなら、スキルに完全に身を委ねる。言われてみれば確かにステータスとスキルの熟練度はそれぞれ独立しているな。それに気付いたからといって……こうして真似てみれば、彼方がどれほどこの技術のために時間を費やしたのか想像もできん」

 

「勝手に身体が反応してしまわないように、視覚と聴覚を自ら潰す……。それが必要だったから実行しただけ、と彼方さんは仰っていましたが。確かに目隠しをすることでエーテルの流れも、霊気の流れも、スキルによる反応も掴みやすくなりますが……これを、あの、実戦で使いこなすのは……」

 

 

 イケメンふたりなら余裕で習得できるでしょ! だって世界が選んだメインキャラクターなんだから。モブキャラの俺もやったんだからさ!

 みたいなノリで色々と説明した彼方だが、まさか才能に恵まれた人間ほどこの技術が桁違いの絶技に感じるとは想像できなかったらしい。

 

 まぁ、どうしたって無理に決まっている。だって紅蓮も静流も基礎ステータスが高いのだから。それなら五感をしっかり使って相手の動きを観察し、加護の力も使って真っ向勝負をしたほうが話が早い。

 とにかく強力なスキルを叩き付ける戦い方が主流になって数百年、治安維持のため手段選ばず鬼を斬り捨てた浅葱の羽織の集団が異端扱いされているこの世界ではこうした技術は二の次扱いなのだ。当然ながらそんな常識の中で育った紅蓮と静流ではスキルに身を委ねるのはとんでもなく難しい。

 

 

 刀が折れれば鞘で殴る、鞘が壊れたら素手で殴る、素手も砕けたら噛み付いてでも仕留める。そんな戦い方もお手物だった誠の旗を掲げた侍たちが見れば後方師匠顔でうんうん頷きそうな戦法がデフォルトの彼方が()()()()()()()()()()()()技術だ、文明人で現代人のふたりが簡単に習得できる道理はなかった。

 

 

 逆の言い方をするなら、こんなことをしなくても順当にレベル上げをしていれば紅蓮も静流もアテルイとそれなりの勝負ができるようになるかもしれない……ということでもある。

 外伝作品も含めて明確な敗北の描写がないアテルイを完全な形で討伐するのは難しいかもしれないが、それでも撃退っぽいことぐらいなら可能性はゼロではないだろう。鬼仙の中でも上澄みのアテルイは人間のことを好ましく思っているのだから。

 

 だがそんなことは知らないふたりの辞書に、ほどほどで妥協なんて文字は存在しない。いまの自分たちでは上位の鬼には、少なくとも鬼仙の格を持つ相手には決して勝てないことを知ってしまったのだ。なら、その鬼仙と互角に戦える侍の技術をなんとしても学ばねばと考えるのは自然なことだろう。

 

 

「やはりエーテルの流れを掴むための瞑想からもう一度やり直すほうがいいか……? 静流、あと数回ほど手伝ってくれると助かるんだが」

 

「もちろん。むしろ、私のほうこそお願いしたいくらいです。スキルの反応を最大限に利用した回避技術は、弓使いとしては是非とも習得したいですからね」

 

 

 

 

 

 

 軽口と水分補給を済ませ、目隠しの模擬戦を再開してしばらく。

 

 

 

 

 

 

「……なにやってんだ、お前ら?」

 

「目隠しをしての模擬戦、ですか。またなんとも変わったことをしていますね」

 

 

 

 

「その声は……やはり大地、それに風魔もか。珍しいな、お前たちが裏山にいったいなんの用事だ?」

 

「お前たちを探してたんだよ。人に聞いても知らねェって言われたから、白虎にも手伝ってもらってな」

 

「なにか用事があるのでしたら、普通に電話かメールでもしてもらえれば応答しましたよ? いまは霊気を絞る戦い方を試しているところですし、着信音を聞き逃すこともありませんし」

 

「用事なら……たったいま、新しくできたところですよ。紅蓮、静流。僕たちにもそのトレーニングについて、詳しく教えてもらえないでしょうか?」

 

「頼むッ!! オレも風魔も、いまよりもっと強くならなきゃいけねェんだッ!! いまのオレたちじゃあ……朝比奈を守り切ることができねェ……いままでのトレーニングだけじゃ全然足りねェ、新しい戦い方ってヤツを身に付けなきゃダメなんだ。だから、頼むッ!!」

 

 

(……学園の公式発表では“中間地点の鬼は討伐したが、襲撃してきた上位の鬼には逃げられた”だったか? ふたりに詳細を聞くタイミングを逃していたが)

 

(このおふたりのご様子と、学園上層部の方針を知った上で考えるのであれば……事実と大きく異なるのでしょうね。詳しい事情を聞けば、たぶん私たちには教えてくれるかもしれませんが……)

 

 

 察する。

 

 なんとなくの空気感から。

 

 

 自分たちが無銘彼方と一緒にパーティーを組んで実力不足を痛感したように、このふたりも朝比奈真白と3人でパーティーを組んで自信が揺らぐような出来事があったのだろう……と。

 断る理由はない。仮にこの場に彼方が居たとしても、快く彼らにアレもコレもと丁寧に説明することだろう。ならば強くなりたいと願う風魔と大地の申し出に協力したところで不興は買わないはず。

 

 詳しい事情について聞き出そうとするのは、まぁ。自分たちだって真実を秘匿しているのに他者のそれを暴いて当然と考えるのは破廉恥というものだ。

 もしも真白が入院するようなことになっていたなら先に事情を話せとなっただろうが、自分たちのように誤魔化すまでもなく無事に離脱しているのだから無理強いすることもないだろうと判断した。知らない、ということはときに幸せなことなのかもしれない。

 

 だったら普通に情報交換という形でお互いのことを話せばそれはそれで一体感が生まれそうなものだが、なにぶん紅蓮も静流も基本が真面目なのでその辺りのコミュニケーション技術がちょっと足りていなかった。

 

 

「それなら、まずは……そうだな。エーテル感知能力を高めるための瞑想から始めるとするか」

 

「あん? そんなん普段からやってるぞ? 基礎が大事なのは当然だけどよォ、できんならいまはもう少し踏みこんだヤツをだな」

 

「ですが大地さん、それに風魔さんも“自分自身の霊力を植物や昆虫のエーテルを感じるレベルまで抑制する”トレーニングは私たちと同じように未経験ではありませんか?」

 

「雑草や虫の、ですか。隠れた鬼を探し出すスキルであれば普段から鍛えていますが、そんなもののエーテルを感知するとなるとさすがに試したことはありませんね……」

 

「ある人物曰く“人間や鬼に限らず命あるモノ全てにエーテルは宿る”だそうだ。オレたちが無意識に垂れ流している霊気のせいで感じ取ることができないというだけで、な。だから、まずは無意識レベルの霊力の無駄遣いを減らすところから始めるぞ」

 

 

『そういえば昔の侍にはそんな技術を得意とするヤツもいたねぇ』

 

『ふむ……確かにいた、な。すっかり忘れていたが、確かに記憶にある』

 

『仕方あるまい。我らが加護を与える侍たちには、そうした技術よりも優先しなければならん役割があるからなぁ』

 

『旗印となって先陣を切らねばならんのだ、戦場で霊力を制御するような場面など無縁というものだったが……』

 

 

 四神の侍に限らず、強力な加護を持つ者は自分の存在をアピールして鬼を牽制する、あるいは逆に引き寄せるといった役目がある。適材適所とでも言うべきか、少しでも被害を減らすためにも強い鬼とは自分たちが積極的に戦う形に場を整えなければいけなかった。

 それを政治屋が都合良く利用したせいで加護の有無による差別意識が地味に普及してしまったワケだが、それはそれで加護持ちの侍と巫女らが自尊心を保つため自ら困難に立ち向かわなければと奮起しているので悪いことばかりではないだろう。本人の向上心とは別に神霊や精霊に気に入られたりした場合は少々勝手が変わってしまうが。

 

 そのあたりの大人たちの残念さについては文句を言っても仕方ない。善人も悪党もごちゃ混ぜになっているのが人間社会のスタンダードなのだから。

 

 で。そのあたりの事情を考えるなら霊気の抑制はあまり推奨されない行為であるが、彼方を見殺しにする形になった朱雀と玄武から反対意見など出るはずもない。

 それを積み重ねたことで鬼仙を相手に量産品の曲刀と短剣で立ち向かえたのは事実なのだから、むしろそうした強敵と積極的に戦う立場としては貪欲に学ぶべきだとさえ思っている。

 

 人を導くのが神霊としての役目だとしても、本人が自らの意志で前に進むのであれば見守ることも肝要なのだ。具体的には、自主的に宿題をやろうとしている子どもに上から勉強しろと偉そうに指示してはいけないのだ。

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

 四神の侍が霊力の量ではなく質を高めるトレーニングに励んでいるそのころ。

 

 

「……東風先生から教えてもらった場所はここだな」

 

「ほぅほぅ。なんだかお店って感じはしないねぇ? 万華鏡みたいな霊気の波動がなかったら普通の民家にしか見えなかったよ」

 

 

「おや、万華鏡とはずいぶん洒落た表現をしてくれるじゃないか。それで? そっちの小僧は東風のジジイが言っていた無銘彼方だとして、こっちの小娘は何者なんだい?」

 

「あ、どうも。私、朝比奈真白と言いまして、これでも一応黄龍の巫女をやってます。黄龍の姿は見たことありませんが」

 

「はッ! 人間を導くとか御大層なこと言っておきながら気まぐれに加護を与えては勝手に失望して奪ってを繰り返す無責任でいい加減な連中の姿なんか視えなくたって人間は生きてけるんだよ。それなら精霊のほうがまだ信用できるってもんだ」

 

「ハッキリとした物言いをなさりますね。東風先生が信頼できる人物であると仰っていたのもわかります。せっかくならいまの言葉を聞いた霊験庁や武功庁の御役人がどんな顔をするのか見てみたいものです。あ、これお土産です。好みを確認するのを忘れてしまったので、私の趣味になってしまいましたが」

 

「ほぅ? うん……うん、いいじゃないか。ババァ相手だからって安易に和菓子を選ばなかったことは褒めてやる。テレビや雑誌で紹介されてるような有名どころをしっかり外してきたのも悪くない。なんてことのないシュークリームとバナナボート、こういうのでいいのさ」

 

「やっぱり甘いクリームは正義だって、ハッキリわかるんだね!」

 

「どら焼きとか、羊羹とか、そのへんも美味いけど。洋菓子ならではの満足感ってあるよな」

 

「さて、わざわざ土産まで持参してきたのをいつまでも玄関先で立たせておくワケにもいかないねぇ。ホレ、さっさと入りな。茶くらいは出してやる。あぁ、ジジイから聞いているだろうが自己紹介もしておこうか。アタシは西浪永泉(にしなみ えいせん)、しがない刻印師さ」

 

 

 彼方と真白はいま何処にいるのか、そもそも何故ほかのメンバー抜きのふたりで行動しているのか。その辺りを説明する前に西浪女史について解説しておこう。

 といっても、本作の読者の皆さんには原作での役割りについてお話するだけで大体のことは伝わるかもしれない。こちら、刻印師の西浪女史は鬼からドロップしたエーテル結晶を消費して装備品に特殊効果ガチャを施してくれるとっても素敵なお方である。




冥界童女
『ガチャのぉ……お時間だずぇ……』

座敷童
『ガチャのぉ……お時間ですねぇ……』
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