タフネス系乙女ゲー主人公VS一般転生モブ兄妹VS出遅れたイケメンども。 作:はめるん用
今回の真白はちゃんと巫女らしいことをしているので初投稿です。
怨念の集合体として誕生してから今日まで
故に、一目で理解した。目の前の巫女が鎧を身に纏い大太刀を担いでいる姿は決して虚仮威しなどではない、と。なんなら「テメェにはどういう理由があって巫女の格好なんてしてたんです?」なんて感想が出てくるぐらいには様になっていた。そりゃあ朝比奈真白は黄龍の巫女なんだから巫女らしい格好だってするに決まってるだろうに。
そんな些細な疑問はともかく。
こうなってくると贋作狂いも普段の調子で軽口を叩くのは難しい。彼は人間を創作のための素材として扱いながら、同時に警戒するべき敵として見ている。相手の霊気の強さに関係なく、直感的に少しでも危険を感じたのであれば油断してはならないと自分を戒めていた。
そして、黄龍の巫女から感じる危険は少しどころではない。青龍と白虎の侍が放っていた攻めの気迫もそれなりだったが、こちらが放つのは攻めの気迫などでない。ここから逃げる気など全く無いと、これより先は半端な決着など認めぬという明確な殺気。
贋作狂いに武人としての誇りはない。彼はあくまで芸術家なのだ。だから逃げることを躊躇いはしない。生存という目的を優先できるからこそ、鬼豪レベルの格を持ちながら知られざる鬼として生きてきたのだ。
(まいったねぇ、困りましたねぇ……ッ! 最高の素材を前にしてあるていすとが尻込みするなんて笑い話にしかなりませんよ。でもね? オレ様は知ってるんです。人間だって理屈に合わない高望みをしてやっちまったりするでしょう? なら鬼だって高望みして挑戦したっていいと思いませんか? オレ様は思いまぁ〜すッ!! だから、巫女ちゃんの前から逃げるワケにはいかないんですねぇッ!)
選んだ武器は短剣2本。
可能であれば木術を使って場の支配率を上げたいところだったが、この廉貞の迷宮内にエーテルの空白地帯があるとは想像もしていなかった。黄龍の巫女に先に立ち入られたことで、場の支配率は完全に向こう側に傾いている。
先の青龍・白虎のふたりを容易く撃退できたのはステータスの差だけではない。迎撃の準備をしっかりと調えていなければ、あるいはどこかのタイミングでそれぞれの得意属性で場を塗り替えられて不利な戦いを強いられたかもしれない。
贋作狂いは朝比奈真白の戦闘力がどんなものかは知らないが……相手を見下す悪癖から、こんなハッキリと殺意を飛ばせる人間を前にして油断する間抜けとは違うのだ。
相手は大太刀。
まずは初撃を避けることに専念する。
「────ふッ!」
数歩、間合いを詰めた所で真白が動くッ!
(まずはこれを避けるッ! でも外したときのことぐらい、考えてるからこそのクソ重い武器を選んでるんですね分かりますッ!)
このまま地面に刀身が食い込めば、次の一手は贋作狂いが有利となるだろう。もちろんそんな都合の良い展開など欠片も期待していない。重量のある武器を使っていて、その弱点を知らないままではエーテルも霊気も淀み無い構えなど身に付かないからだ。
エーテルの質や流れを可視化できる贋作狂いだからこその読み。そこに間違いがあるとすれば、黄龍の巫女である真白もまたエーテルの流れを視る能力に長けており、さらにはその場にあるエーテルを“掴む能力”にも秀でているとを知らなかったことだろう。
「…………は? はぁッ!?」
真白が振り下ろした大太刀が、
地面に触れるどころか、力の方向を変えるための一時停止すらない。仮に超人的な筋力と霊力で百、ゼロ、百という動きで軌道を変えることが可能というだけでも厄介なのに、真白の太刀筋はその上を行く百から百への連撃であったッ!
それでも贋作狂いのステータスであればギリギリ回避は間に合うだろう……が、あえて腕一本を犠牲にする前提で防御を選んだ。こんなデタラメな斬撃を放てる相手に紙一重の回避はリスクが高すぎるからだ。事前に集めていた情報だけでは足りていない、常識から外れたナニかを黄龍の巫女は持っていると贋作狂いは判断した。
腕の中に、幾重にも根を張る。
筋力やスキルではなくエーテルの流れに任せるように放たれた真白の斬撃は、まるで磁石に吸い寄せられるかのように贋作狂いの腕に食い込んだッ!
ただ、攻撃力そのものは思ったほどではなかったらしい。あまりにも見事な斬り返しではあったが、幸いにして腕の半分にも届かない位置で刃は止まってくれた。だが。
「せぇぇぇぇいッ!!」
「うひぃッ!?」
その食い込んだ刃を真白が渾身の力で蹴り上げるッ!!
隙を生じぬ二段構え、贋作狂いの腕が切り飛ばされたッ!!
不幸中の幸いなのはそれで真白の体勢が崩れてしまい、これ以上の追撃がこなかったことだろう。これもまた経験値の不足によるもの。本来なら巫女が接近戦の経験値を稼ぐ場面があること自体おかしいよね? とか思ってはいけない。
「いやぁ〜、お見逸れしましたねぇ! 惚れ惚れするほど見事な太刀筋でした。オレ様の記憶に残っている侍たちと比べても見劣りしないかもしれません。テメェは本当に巫女なんですか? まったく……」
「ッ! 腕が……」
「おや、ご存知ありませんでしたか? 美術品ってのは経年劣化なんてモノは避けられない運命なんですよ。後々の時代までそれらを残すためにも、修繕技術ってヤツが必要なんですねぇ。はい、元通り〜ッ! 本来はあるていすとの仕事とはちょいと違いますがねぇッ!」
腕を拾うだけの余裕があったのは贋作狂いとしては儲けもの。再構築するよりは繋ぎ直すほうが消耗する妖力は少なくて済む。
だが真白の荒々しくも勇ましい、そして巧みな一撃は贋作狂いを形成する怨霊たちの感情を大きく揺さぶるものだった。個体であり群体である贋作狂いにとってそれは、あまり好ましい変化ではない。
(うへぇ、内側で
負の感情というヤツにも色々ある。不当な評価で貶められた無念であったり、周囲を顧みなかったことで大切なモノを失ってしまった絶望など、そうした事情であれば多少は同情の余地もあるだろう。
だが努力を怠りながら他人の成功に不満を持つ者、目先の欲に溺れて身を滅ぼす者、他者を見下し続けた挙げ句に裏切られたような者たちの成れの果てを、いったい誰が哀れに思うことか。
羨ましい。
恨めしい。
妬ましい。
そんな欲望塗れの怨霊たちにしてみれば、目の前の黄龍の巫女はそれはそれは逆恨みするには格好の的だろう。それを贋作狂いが好ましく思わないのは、こういうパターンのときは怨霊たちの気が済むまで素材を嬲らないと次の工程に移れないからだ。そんなことに使う時間があるなら1秒でも多く創作活動に使いたいのに。
それでも、そんなクリエイティブ的には邪魔でしかない無能な感情の集まりでも、こんな場面では有効活用できるもの。
それらを両手の短剣にタップリと、黄龍の巫女へ向ける負の感情をそのまま乗せて投擲する。別に当てる必要はないので狙いは雑でもかまわない、ただ巫女の近くに怨霊たちを運んでくれればそれでいい。
「あ……ッ!? ぐ、うぅ……なに、これ……ッ!?」
霊気のガードで全身を覆い盾としながら最短距離を突き進んでいた真白だが、短剣から歪んだ妖気が放たれた瞬間その動きが止まる。通常の巫女よりもはるかに優れた感応能力が仇となり、怨霊たちによる精神汚染をまともに受けてしまったのだッ!
本来ならこの呪術による攻撃は防ぐ事ができた。木属性の使い手だと思い込んでいたところを風魔が精神を乱されて、それを真白が立ち直れるようケアをする。
相手の鬼がどのような存在なのかを調査する過程で絆を深めながら呪術耐性のアクセサリーを入手していたはずだったが、この世界では諸事情によりそれらのイベントは全てスキップされている。
「いまでぇ〜すッ! 派手に爆ぜてやっちまいましょうッ!!」
「あぐッ!?」
全方位からの衝撃、逃げ場無しッ!
精神が乱され霊気のガードが弱体化していたこともあり、全てのダメージを余すことなく受けてしまった真白はそのまま膝から倒れてしまったッ!
守りさえ崩せれば、黄龍の霊気で場を支配されていようとも問題ない。大猿にそうしたように真白の四肢へ木術の束縛を食い込ませ、動きを封じた所で頭を踏みつけて、ゆっくりと怨霊たちの自尊心を満たしながら次に備えればいい。
「こういうの、良くないとオレ様も思ってはいるんですよ? ですが巫女ちゃんが頑張り過ぎちゃうもんですから、暴力衝動をどうにかしないと創作活動どころではありません。なので黄龍の巫女ちゃんには少しだけご協力のほどを────ほ」
恥辱でも、絶望でもいい。
騒ぎ立てる負の感情さえ鎮めることができればいいと、真白の表情を確かめてやろうと覗き込んだ贋作狂いの呼吸が止まる。
助けを期待できない状況で動きを封じてしまえばそれまで。侍だろうと巫女だろうと、どんな強力な加護を持っていたとしてもそれで終わり。これまでずっとそうだった、だから黄龍の巫女とて同じように瞳が濁るだろうと確信していたのに。
「あ、う…………ッ!?」
混乱。
困惑。
そして。
「────キキィッ!!」
「が、あぁッ!? クソ猿の子分が……こ、のッ!! ヒトの顔に乗ったらお行儀悪いって知らないんですかねぇッ!!」
大猿が猿鬼たちを侮辱されたことに怒ったように、猿鬼の中にも恐怖など知らぬと報復を企てる者がいた。
その中の一匹が
顔に張り付く猿鬼をはぎ取り地面に叩き付けるまで、ほんの数秒。しかしそれが致命的な隙となるッ!
「いぎぃッ!? 足ッ!? 今度はナニが、ってぇッ!?」
Q,手足が封じられた。どうしよう?
A,まだ顎が動くじゃない。
朝比奈真白は知っている。心臓を貫かれるのも構わずに、格上の鬼を相手に踏み込む気概を見せた侍がいること。ならば、手足が動かない程度でどうして勝利を諦めるなどと考えようか?
なんとも好都合なことに、目の前には贋作狂いの足首がある。未だに負の感情タップリのエーテルを感知した影響で頭痛が酷いが、噛み付くだけなら繊細な技術など不要。ただ気合と根性を振り絞るだけの簡単な作業だ。
反対側の足で蹴られた。
胸元の鎧が砕ける。
無理な姿勢の影響で、首も痛む。
だが、離すつもりは無い。
また、蹴られた。
鎧ではないナニが砕ける音。
喉奥から血が逆流した。
だが、離すつもりは無い。
3回目。
ほんの数センチかもしれない。
もしかしたら数十メートルかもしれない。
地面の上を転がる。
口の中に残る異物を吐き出した。
視界が暗くなり、もう指一本動かない────否、一本だけ動く。じんわりとそこから温もりが全身に広がり始め。
◆◇◆◇
「ん、ふぅ……ッ!? 足が……なんでぇ……?」
人間は足の腱を食い千切られては歩けない。これまでの創作活動で侍や巫女を逃げられないようにするための処置として、勉強の成果により知識としては知っていた。
だが贋作狂いが自分自身で体験したことはない。それでも得意の木術を使えば簡単に治療できるのだが、いまの贋作狂いにその判断ができるだけの冷静さはない。個体であり群体であるその鬼を形作る怨霊たちが、想定外の反撃に荒れ狂っているからだ。
「と、とにかく……巫女ちゃんを、始末……始末? 違い、ますよねぇ……ッ! オレ様は、あるていすとなんですよ……ッ! オレ様は、テメェらみたいに破壊だけして満足したりとかってのは……違うって────ふぁッ!?」
「ちィィえりおォォォォッ!!!!」
顔を上げれば正面に、そこには元気に両手で斧を振り上げて跳躍する黄龍の巫女の姿がッ!!
瀕死まで追い込んだ、その手応えがあったからこそ贋作狂いは内なる怨霊たちに意識を向けていた。
だが皮肉にも瀕死まで追い込んでしまったことで、真白が装備しているアクセサリー『惜別の指輪』の発動条件を満たしてしまったのだ。
「思ったよりも、元気、イッパイですねぇッ!! どんなときでも前向きなのはオレ様的にも偉いと思います……よッ!!」
足が動かなくても、地面を転がることぐらいはできる。
スキルもなにも関係ない力任せの振り下ろし、これさえ凌げばどうにでもなるだろう。その慢心が、贋作狂いの得意とする観察力を鈍らせた。
蹴り飛ばす前に施していた束縛が、惜別の指輪から広がった朱雀の炎で全て焼き尽くされていることに気付けていないのだ。そうでなければ立ち上がることさえ困難だというのに。
当然、斧による渾身の一撃を回避されたとしても真白の追撃は止まらないッ!!
「逃がさ、ないよッ!!」
「ご、あッ!?」
体当たり、からの頭突きであるッ!!
いわゆるマウントポジションで、これ以上の小細工などさせないと両手をがっしりと掴み、贋作狂いの顔面に目掛けて繰り返し頭を打ち付けるッ!!
奥歯が軋んで砕けそうになるほど歯を食いしばり、額が裂けて血が流れ出すのも構わずに、体力が尽き果てるまで何度も何度でも相手の息の根が止まるまでッ!!
(妖気……集中、無理……ッ! 死んだフリで、油断を……反撃は、ダメ……ッ! 気取られ、たら……終わりで……す、よ……ッ!)
贋作狂いは抵抗を放棄した。真白の油断を誘うためでもあるが、戦う気力が尽きていることも事実。ここで意地を通すよりも、大人しく次のチャンスを待つほうが賢い選択だと判断したのだ。
相手が『巫女』の真白であればそれで良かった。だが『武人』の真白にそれは悪手でしかない。討ち取った証明であるエーテル粒子化が始まるまでは油断してはならない、相手が倒れたとしても決着とは限らないと知っているのだから。
無抵抗となった贋作狂いを見下ろしながら、真白は武器スロットに登録してある脇差しを実体化させて────脇腹から心臓目掛けて突き刺したッ!!
「あが……ッ!? が、はぁ……ッ! て、テメェ……ッ!?」
「笑い、なよ……ッ!」
「なに、を……」
「いままで、侍や巫女を……何人も作品に、したんでしょう? 今度は、私がッ! 貴方を芸術に……して、あげるから……ッ! 嬉しいよねぇッ! アーティストさんッ! だからァッ! 好きなだけぇ……笑えばッ! いいとッ! 思うよッ!!」
「がぎぃッ!?」
ゴギュリ、グヂュリと鈍い音。
脇差しを捻り内臓を巻き取るように引き千切る音。
負の感情という怨念の、怨霊の集合体である贋作狂いであれば必ずしも人間の姿でなければ活動できないということはない。その気になれば自由自在にその姿を変えることができる。いまこの瞬間に小さな虫にでも変化すればこの苦痛から逃げ出すこともできただろう。
ならば何故そうしないのか。そうするだけの余裕が無いのも理由のひとつだが、芸術家であることが存在証明である贋作狂いは人間の姿を棄てることができないのだ。芸術を生み出すためには人間の姿が必要だと信じているからこそ、自らの意志で人間の姿を放棄したりすればその瞬間に
(こんな、ところで、終わる……? オレ様の、芸術は、こんな、こんな、ところで……もう……終わりですか……? そんな、こと……認め、認められ……認めるワケには…………あ)
黄龍の巫女が見える。
朝比奈真白の表情が見える。
憎しみでも怒りでもない。使命感や責任感でもない。ただ“鬼を切る”ことだけを目的とした、冷たくて、力強くて、どんなエーテルの輝きよりも煌めいているその両眼は、自分の返り血を浴びてもなお穢れを感じさせない揺るがぬ意志が宿ったその顔は。
(あ〜、そういう。参りましたねぇコイツは。ハハッ、最高に悔しくて最高に清々しいですねぇッ!! こうなってくるとオレ様の内側で騒いでいるぱとろんたちに対してもザマァ見ろ、って気分になるもんです。バァカめ、オレ様はオレ様としてこのまま死ぬんだもんねぇ〜ッ! テメェらは永遠に彷徨い続けるといいよッ!!)
自分を殺す朝比奈真白の姿こそが最高の芸術だと認めたことで、贋作狂いの心は満たされてしまい────そのまま折れた。もう2度と“この”贋作狂いがこの世界に誕生することはないだろう。
幾人もの侍と巫女を再起不能にし、大勢の人々に恐怖を与えて希望を奪っておきながら自分は満たされながら消えていく。なんとも勝手なことだが、人間を真似ることを最善とした鬼の最後としては実に
「……終わった〜ッ! けほっ、えほっ……ッ! うぅ、口の中が錆びた鉄の味しかしない。勝利の味、って言うには苦すぎるかなぁ? …………うん。ヌフフ〜♪」
バタンッ、と地面に倒れた真白が満足そうに微笑みながら指を見る。役目を果たして光を失った指輪を見て、満足そうに。
「……あれ?」
「キキッ」
「「「「ウキッ」」」」
いつの間にか周囲に鬼猿たちが集まっている。戦うつもりがないのは妖気の波動からわかるが、どの鬼猿も両手いっぱいに桃の実らしきものを抱えているのはどういうことだろうか?
さて、どうするつもりかと黙ってみていれば、鬼猿たちが手足やら胴体やらの上で桃を握り潰し、その果汁を惜別の指輪だけでは回復しきれなかった傷に振り掛けたではないか。
「お、お? おぉ〜?」
その桃の実は原作にも登場した回復アイテムである。使用すると最大体力の30パーセントほどを徐々に回復する効果があり、ほかのスキルとも併用できる上にスロット辺りの所持数が20個と多めなのも嬉しい便利アイテムだ。
真白は大猿の敵討ちのために戦ったのではない、その程度のことは鬼猿たちも理解している。それでも自分たちでは成し得なかった贋作狂いの撃退だ、恩返しのひとつぐらいはしたくなったのだろう。そう、鬼猿たちは、100パーセントの善意で行動している。
なので。
これから鬼猿たちが真白に対して行うことも、100パーセントの善意によるもので。
「……ん? あの〜」
「「「「ウキッ、ウキキッ!」」」」
ぱっくり額が割れて血が流れている。口の周りも血で汚れている。頭部の怪我は優先的に治療が必要なことを鬼猿たちは知っている。なので、恩人のためにと数匹の鬼猿が大量の桃の実を一斉に握り潰したのだ。真白の顔面の上で。
「いやちょっとそれは多い多いってばオボボボボ」
ヒロイン、水没ッ!!
◆◇◆◇
「う〜ん、巫女装束に着替えても全身から甘い匂いがする。でもこの桃、学園の食堂で食べたヤツより美味しいなぁ〜。ねぇ、お土産に何個かもらってもいい?」
「ウッキッ!」
「うん、ありがとう! とりあえず、望国くんと目白くんに食べさせないとダメかな」
「朝比奈ッ!」
「朝比奈さんッ!」
「あ、ふたりとも復帰できたんだ。は〜い、朝比奈さんはここにいますよ〜」
「朝比奈ッ! 無事で────猿ッ!? テメェら朝比奈から離れ「はいストップ」ぷぎッ!?」
「朝比奈さんッ!? なにを」
「ふたりとも、落ち着いて。そんなに焦るほど、私がこの子たちに襲われているように見えるのかな? この子たちはさっきの鬼から
周囲の鬼猿たちが一斉に真白を見る。たぶん「コイツなに言ってんだ? あの鬼はお前が倒したんじゃねーか」とか思ってるかもしれない。
だが鬼猿たちの言葉も感情も読み取れない風魔と大地にとっては真白の自己申告だけが真実となる。本当のことを教えたとして目の前のふたりが腐るようなことはないと一応信じているが、それとは別にたぶんバカ正直に学園や家に報告してしまうだろう。
面倒に巻き込まれる未来は遠慮したい真白としてはそれは困る。倒せなかったのを倒したと嘘の報告をするよりは、本当は倒したけれども逃げるしかなかったと報告するほうがマシ……かもしれない。警戒心を解かないように、と考えれば凪菜も同じことをしているのでセーフとも言える。
「この桃、エーテルを補充できるみたい。ふたりも食べたほうがいいよ。帰る前にもうひと仕事あるし、それが終わるまで護衛をお願いしたいから」
「「もうひと仕事?」」
桃をかじる侍ふたりと、桃を担いだ大勢の鬼猿を引き連れて、真白がやってきたのは本来のボス部屋。
悪趣味なオブジェにされた大猿の前に立った真白は意識を集中して装備スロットの中身を大太刀と斧から聖鈴ふたつと入れ替えた。
巨体に見合う生命力からか、エーテル粒子化はまだ完了していない。助けることはできないかもしれないが、安らかに眠れるように介錯できないか試すつもりだ。
「ぬくもりの火よ、太陽の光の癒やしよ、勇敢なる魂の帰路を照らし給え……」
彼方の協力のもと習得したものの出番が見つからなかったスキルの使い所。聖鈴を鳴らしながら、スキル効果を高めるため周囲を流れるエーテルを丁寧に追いかける姿はまるで舞のようで。
「なんつーか、いまの朝比奈……」
「えぇ。とても、綺麗だと思います……」
鬼猿の手助けがなければ勝てなかったかもしれない。せめてもの恩返し。纏わりつく植物を散らし、あとは消えゆく大猿に祈りを捧げて終わり……と、思いきや。
「……はぇ?」
まだ意識が残っていたのか、大猿が動く。自分の心臓のあたりを握ったかと思えば、その拳を真白の前に差し出して────美しいエーテル結晶を手渡してきた。
返礼の品であれば、と素直に受け取る真白。これだけの品質であれば使い道はいくらでもある。ありがたく有効活用させてもらおうと考えていたが、受け取ったその瞬間に大猿の真意を理解する。
「私としては助かるけど、本当にいいのかな?」
「──、────ッ!」
「そっか。ありがとう。頼りにさせてもらうねッ!」
スーパーヒロイン朝比奈真白ちゃん、敗北イベントである贋作狂いの完全討伐に加え、精霊『
装備効果で魔法系の攻撃と防御はマイナスされてしまうが、物理攻撃全般の強化と重量武器の使い勝手向上は必ず役に立つことだろう! 朝比奈真白は一応巫女なのになんでだろうね!
本来なら侍の誰かに譲るところなのかもしれないが、たぶんこの世界の真白はそれをしない可能性が高いのでどうしようもない。順調にイベントが潰れている風魔と大地にはご都合展開ナシの自力で真白を攻略してもらおう。
黄龍
『黄龍の巫女がww猿の巫女にwwクラスチェンジしたったww物語はあるべき姿にww猿の巫女www』
座敷童
『あとはイヌとキジがいれば完璧ですね。ちょうど桃まみれになったことですし』
世界の理
『( ゚д゚)』