タフネス系乙女ゲー主人公VS一般転生モブ兄妹VS出遅れたイケメンども。 作:はめるん用
折れた曲刀がデーモン武器の素材のような扱いをされていることに読者層の趣味を感じながら初投稿です。
「……と、こんな具合に風の霊気を操ることでソナーのように利用する事ができるんです。僕のように広範囲を探れるようになるまでは時間が必要ですが、曲がり角などを調べる程度であれば朝比奈さんなら簡単に習得できますよ。きっと。少なくとも大地よりは可能性があるかと」
「うっせーよ。戦いってェのは適材適所、オレにはオレの役割があるんだからそれでいいだろ。ちゃんと風魔にも朝比奈にも鬼どものタゲが向かないよう立ち回ってんだからよォ」
「あはは……おかげさまで魔法スキルを安全に使えてるよ。でもそうだよね、適材適所の考えでいうなら巫女
「あ、いえ、別に朝比奈さんのサポートに不満があるという話ではなくてですね……。ま、まぁ……やる気があるのは良いことです。この『廉貞の迷宮』はまるで大自然に飲み込まれたお城のような造りですからね。警戒するための手段は多いほうが安心できるでしょう」
無銘兄妹が激しくダンジョンバスターモードを満喫しているころと時を同じくして。ちゃんと巫女装束に錫杖を装備したヒロイン真白と攻略対象の風魔と大地は廉貞の迷宮を慎重に探索していた。
原作のダンジョンデザインのテーマが“自然の脅威”ということで、日本的なお城や砦が成長する森に破壊され取り込まれたかのような雰囲気になっている。空が木々で覆われて全体的に陽の光が不足しているが、ホタルのような小さい虫が光源となり戦闘で極端に不利に感じるほどではない。
むしろ、鬼が襲ってくる方向が限定されるという意味では現在のパーティーにとっては有利ですらある。拳による正面からの殴り合いを得意とする大地はもちろん、この迷宮の主な敵である猿のような鬼には風魔の槍も間合いの外からよく刺さるのだ。
こうなってくると後ろに控えている真白はバフ系スキルによる支援しかやることがなくなってしまうのだが、武器・魔法のあらゆる属性に適性を持つ黄龍の巫女としての恩恵を活用する練習も必要だと割り切っている。具体的には彼方と組んでいるときに拝借したエンチャント系のスキルを使いこなすためにも、各属性の熟練度を上げておきたいところなのだ。
そういう意味では剣属性を得意とする紅蓮と積極的にパーティーを組みたいところだったが、真白にとって原点であり師匠である彼方と一緒に戦ってみたいと言われれば引き下がるしかないだろう。
でぇじょぶだ、我らがスーパーヒロイン真白ちゃんはその溢れ出る女子力により「どうやらキミにも、ようやく彼方くんの価値が理解できたようだねぇ?」と姉弟子ムーブでしっかり煽っているぞ!
これから真白と紅蓮による“自分のほうが無銘彼方をリスペクトしてますがなにか”合戦を見せられることが確定した静流の心労については必要経費ということで見て見ぬふりで解決するとして。そういう事情であれば残りのふたりから学べることは学んでおこうと仕事のできる女・朝比奈真白は考えた。
絵に描いたような巫女巫女ムーブで禄存の迷宮を突破する姿を見たことで忘れてしまっている人も多いと思うので改めて申し上げさせていただくが、真白のメインウェポンは『大太刀』と『斧』である。風魔の風属性スキルによる攻撃範囲強化は大太刀と相性抜群だろうし、大地が使用していた地面を殴って地割れによる直線上の鬼をまとめて倒す方法は斧でも再現できるかもしれない。
どっかの誰かさんのせいで鍛える=即迷宮の思考回路に染まっている真白にとって学園内の施設を利用するトレーニングは危機感が足りなくてあまり強くなっている実感がないのだが、風魔も大地もそれぞれの属性の使い方について教えて欲しいと相談したら快く引き受けてくれたのだ。これで不満を持つほうが人間的にダメだろう。
と、まぁそんな具合で。学園で一緒にトレーニングした成果を試してみようと3人で廉貞の迷宮に乗り込んでの攻略中なのだが。
(……青龍、先ほどからやけに機嫌が良いようですが)
『うん? あぁ、大したことではない。キサマが黄龍の巫女を共に戦う間柄として受け入れたことを喜んでいるだけだ。同じ肩を並べるにしても“協力しても良い”と“協力しよう”では全く意味合いが違うからな』
(その割には僕が朝比奈さんとパーティーを組むことに懐疑的だったときも、貴方は特になにも言うことなく黙っていたじゃないですか)
『当然だろう? 己は青龍、自由なる風の象徴。キサマなりに考えあってのことであれば、余計な口出しなどせんよ。もちろん、意見を求められたのであれば説得のひとつでも試みるつもりではあったが』
(僕の意思を尊重してくれるのは嬉しいのですが……小学生の子どもじゃないんですから、アドバイスを頭から否定するようなことはしませんよ)
『そうか、ならば今後の参考にするとしよう。さて、黄龍の巫女がキサマの風の聞き耳を真似るのに苦労しているぞ? 試すように勧めたのはキサマなのだ、良かれと関与したからには丁寧に面倒を見てやることだな』
錫杖を構えて難しい顔で風属性の霊気を操る真白。どうにか鬼を探知できるようにと努力する真白に対して丁寧にコツを教える風魔の姿に、これで少しは女への偏見が無くなればよいが……と、青龍は守護神霊というよりも、まるで保護者のようなことを考えていたと。
そうなるだけの理由があることはもちろん知っている。青龍の侍というのはもちろんのこと、望国の家は発言力も経済力も高い。四神の家系はどれも相応の格式があるが、その中でも頭ひとつ抜けているのだから女たちから見ればそれはもう……顔を含めて色んな意味で魅力的なのだろう。
だから、まぁ、青龍としても風魔の女性不信については、そう。理解できないこともない。が……人の世で永く生きている青龍には、本心からの善意で風魔を気に掛けてくれた女性のことも視えていた。
本人は波風立てることなく巧い具合に避けたつもりでも、案外そういう強い感情というものは相手に伝わるものだ。それでいて自分は黄龍の巫女という特別な存在に興味を示すようになっているのだから笑い話でしかない。
青龍の価値観としては、この程度なら可愛いものだ。誰もが他人に人格者たるを求めるが、性格に欠点の無い人間はそれはもうヒトの形をしたヒトではない生き物だとさえ思っている。
なので、このまま朝比奈真白との交流でもう少しばかり肩の力を抜いて女性と関われるようになって欲しいと願っていた。
実際には肩の力を抜くどころではなくなるのだが。人間の感情というものは、マイナスが強い状態から反転するときの反動というヤツはなかなか曲者なのである。
◆◇◆◇
「……おかしいですね。鬼の襲撃があまりにも少なすぎます。仮に大地の纏う霊気を警戒しているのだとしても、僕の風ですら見付けられないというのは普通ではありませんね」
「だな。上手く言葉にはできねェが、オレにも周囲のエーテルが嫌な感じにピリピリしてるのがわかるぜ。朝比奈、前に出るなよ。風魔、いざというときはオレが盾になる」
「えぇ、了解しました。僕はいつでも攻撃系のスキルを発動できるように準備しておきます。しかし……本当に、あまりにも静かすぎる。猿のような見た目でしたし、木の上に潜んでいたとしてもおかしくはないのですが」
『大地、止まりなッ!!』
「白虎?」
『強い気配だ。迷宮で番人やってるタイプの妖気じゃない。たぶん、少なく見積もっても鬼豪クラスのヤツだ……ッ!』
「鬼豪……上位の鬼、とかってヤツか。面白ェ、オレの拳がどの程度通用するのか試してやる……ッ!」
『油断するんじゃないよ、私の知らない妖気だ。青龍、アンタはどうだい?』
『……いや、心当たりは無いな。どうする風魔? 己はここで撤退するのが賢い選択だと思うが。この廉貞の迷宮、己にとっては久方ぶりでもキサマらにとってはそうであるまい。不慣れな戦場で不明の鬼。幸いにしていまなら離脱する余裕はある』
「撤退、ですか……」
「むぅ……いや、確かに青龍の言う通りではあるがよォ……」
チラリ。
「うん?」
風魔も大地もなんだかんだで男の子、他人と比較されることについて思うところがあったとして未熟と指摘するのも野暮というもの。
ふたりは知っているのだ。同じように想定外の形で上位の鬼という存在から、真白と棗という巫女をふたりまとめて守りきった侍の話を。
無銘彼方は加護持たず、しかも守護したのは巫女ふたり。こっちは青龍と白虎という神霊の中でも上位の加護を持つ侍が揃っている。同じ3人でも状況の良し悪しについてどちらが上かは議論する必要すらないだろう。
しかも、彼方は上位の鬼の存在そのものを知らずに奮闘した……と、ふたりは思っている。どれだけ才能に恵まれていようとも、前世の知識でそうした鬼がいると知っていた、という答えにたどり着くことは不可能だ。ところで対処方法に前世の知識は関係あったんか? という質問は受け付けない。
まぁ、つまりは。
ここで退けば、彼方に負けたことになる。
いや普通に考えるなら勝ち負けで判断するような場面ではない。しかし、如何せん風魔も大地も四神の侍という“鬼との戦いにおける旗印”としての役目について真面目に向き合っているため簡単に退くワケにはいかないのだ。
せめて、前例がなければ。上位の鬼から襲撃されて、黄龍の巫女と鵺の巫女をただの侍が守り抜いたというデタラメな前例さえなければ、まだふたりも冷静に撤退を選べたかもしれない。これが通常の攻略であれば、ルート確保を理由に帰れたのかもしれない。
そしてこういうときに限って頭の回転が絶好調になり都合の良い『理』が思い浮かぶのが人間なのだ。
相手が何者かわからないからこそ、少しでも情報を持ち帰るべきではないのか?
黄龍の巫女がいて、青龍と白虎の侍がいるのだから条件は決して悪くないのではないか?
むしろ、このパーティーで苦戦するような鬼などほかの学生たちに任せるワケにはいかないのではないか?
(うーん。この……エーテルというか、妖気の感じ? な〜んかベトベトしててイヤだなぁ。なんかこう、問答無用で殴りたいね! 少なくとも蜂眼坊さんのときはこんなんじゃなかったし。……う〜ん。なんか、危ないのもそうだけど、気分的にイヤだなぁ〜)
迷う侍ふたりとは対象的に、妖気に含まれた不快感を嗅ぎ取った真白は撤退に気持ちが傾いている。なんならこんなところでグダグダしてないでさっさと帰って、彼方と一緒に改めて攻略したほうが早いのでは? とさえ思っていた。
もちろん風魔と大地の立場や矜持に配慮してそんなこと言ったりはしない。言ったりはしない……が、真白の中では四神の侍に対する信用と、無銘彼方に対する信頼では大きな隔たりがあるのだ。
未だに黄龍の姿を見ることができていないのに、黄龍の巫女だからと持て囃されたところで嬉しくもなんともない。そんなちょっとしたことでも何度も繰り返されればストレスとなってしまう。なら、ひとりの巫女として自由に戦わせてくれる彼方と攻略するほうが精神衛生面で大変よろしいのである。
でも言わない。
なぜなら真白ちゃんは巫女だから……ッ!
侍のふたりが一生懸命エスコートしてくれているのだから、ここは大人しく意見がまとまるのを待っておこう。女子力高めのヒロイン・朝比奈真白は自己主張を控えることだってお手の物なのだッ!
んで結局。
「この先、生い茂る木々が壁のようになっている向こう側。そこで上位の鬼が僕たちのことを待ち構えている……ということですね?」
『その可能性が高いだろう。これだけ接近したのだ、向こうも己らの存在は察知しているはず。それでも妖気の流れに大きな乱れが感じられないとなれば……』
「へッ! 上等だぜッ! どうせいつかは戦うことになるんだろ? だったらここでブチのめしてやったほうがオレたちとしても手っ取り早ェってもんだッ!」
『何度もいうけど油断だけはするんじゃないよ。いくら迷宮の外で復活できるとはいえ、鬼豪レベルの相手に殺されりゃ精神への負担もデカいんだからね』
やっぱり立場的に逃げられないよねー、と。判断を任せたからには決定に異を唱えるべからずの精神で真白は黙ってふたりの後についていく。鬼の現世侵攻の真実を知らなくても、鬼が迷宮の外へ出てこないようにするのが侍と巫女の役目だと信じているので特に不満はない。
覚悟を決め、武器を構え。
目的の妖気の場所へ踏み入れば。
「やぁやぁいらっしゃい! 待ってたよ人間たち! ちょうどオレ様の
頭の角以外、完全な人型。
歓迎するという言葉そのものは本気なのか、放たれる妖気は不気味でも戦意はまだ穏やか。
そして、両手を広げて楽しそうに語る男の背後には道中で戦った猿のような鬼と、その親玉らしき大型の猿鬼が、生きたまま内側から植物に喰い破られ血の滴る悪趣味なオブジェに仕立てられていた。
世界の理
『この戦いを切っ掛けに四神の侍と黄龍の巫女の仲は必ず深まる……だから、まだ慌てるような時間じゃない……物語はあるべき姿へと戻るのだ……』
黄龍
『へー』