「自由なシリアが正直想像できない」アサド政権崩壊から3ヵ月、日本で暮らすシリア人たちの葛藤と願い

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取材に応じてくれたシリア中部ホムス出身のアブドゥッラハマンさん。栃木県にある大学の工学部でシステム情報学を専攻し、現在は就職活動を行っている
取材に応じてくれたシリア中部ホムス出身のアブドゥッラハマンさん。栃木県にある大学の工学部でシステム情報学を専攻し、現在は就職活動を行っている

’24年12月にシリアのアサド政権が崩壊してから、約3ヵ月が経った。欧州や北米など世界各国に離散した難民の帰国が進んでいるが、13年以上にわたった内戦によりインフラは荒廃し、経済活動も低迷している。外国ですでに生活基盤を築いた人も多く、帰国を渋る声も多い。

「今世紀最悪の人道危機」と呼ばれた内戦により、家を追われた難民や国内で避難した人の数は1300万人を超える。日本では、’19年に3人、’20年に4人、’23年には1人のシリア人が難民認定されたほか、人道的配慮から在留許可を受けた人、大学の難民受け入れプログラムを通じて在留許可を得たシリア人学生も複数人いる。

日本で暮らすシリア人たちは、母国での政権崩壊をどう捉えているのか。3人のシリア人学生に話を聞いた。

長い間願ってきた自由が実現したが…

シリア中部ホムス出身のアブドゥッラハマンさん(26)は、難民支援協会(JAR)の「シリア難民留学生受け入れ事業」(現在は『パスウェイズ・ジャパン』に事業移管)を通じ、’22年に栃木県にある某大学に入学した。工学部でシステム情報学を専攻し、現在は就職活動を行っている。

子どものときから日本のアニメが好きだったと話すアブドゥッラハマンさんは、内戦勃発後の’11年から’12年にかけてシリア国内で避難生活を送った。故郷ホムスの自宅は政府軍に破壊され、兄は政府軍の兵士から数週間にわたり拘束され、拷問を受けた。

身の危険を案じ、’12年に家族でサウジアラビアに逃れた後、アブドゥッラハマンさんとその兄はトルコに移住し、ともに大学に進学した。

「在学中、トルコ在住のシリア人学生向けの奨学金プログラムがあることを知った。日本で技術を学び、いつか母国の再建に活かしたいと思い、留学を決意した」

日本語を流暢に話すアブドゥッラハマンさん。シリアの自宅は、内戦中に砲撃を受け破壊され、子供のころから仲の良かった友達も、全員他国へ逃れてしまった。

「シリアでは、生まれてからずっとアサド政権下で暮らしてきた。どこに行ってもアサド氏の写真が飾られており、学校では政府を讃える歌を歌う。学校行事の一環として、政権支持のデモに強制的に参加させられることもあった。政権崩壊のニュースは、僕にとって間違いなく人生で一番嬉しい出来事だが、民主的なシリアがどんな国になるのか、正直想像できない」

アブドゥッラハマンさんを含め、ほとんどの人が「自由なシリア」を見たことがない。長い間自由を願ってきたものの、いざ実現すると、母国が自分の知らない全く別の国のように感じられるという。

故郷を一目見たいという気持ちが募る一方、住む場所もなければ、働く先もないことから、アブドゥッラハマンさんは帰国に踏み切ることができずにいる。破壊された建物やインフラ設備などを含め、シリアの再建には最低でも20年かかると言われている。