「SNS上の誤情報や偽情報については、コロナがパンデミック(世界的大流行)となる以前から憂慮していました。例えばヘイトスピーチや、暴力によって大勢の人々が隣国に逃れることになったミャンマーでの反ロヒンギャ言動などです」
「世界保健機関(WHO)が、コロナのパンデミックに加えて誤情報やデマが広がる「インフォデミック」への警戒を呼びかけてすぐ、国連のプラットフォームをあげて、科学的に正しい情報発信に取り組むことを決めました。国連は世界中に事務所と各種の専門家を持ち、SNSで多数のフォロワーを持っていますから」
「しかし、科学的に正しい情報というのは往々にして、長大で読みにくいPDFファイルに収められたりしています。一方、偽情報、誤情報をばらまく人々は、SNS上ですぐにシェアされるような短くて感情を刺激するコンテンツを作るのがうまいということもできます」
「だから、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は2020年5月に「Verified(検証済み)」キャンペーンの立ち上げを宣言した時、「科学的で人々の団結を強める情報と解決策で、インターネット空間をあふれさせる」と言ったのです」
「例えば飲酒運転対策で「飲んだら乗るな」という言葉がありますよね。SNSでは、目についた何かをすぐシェアするのではなく、まず立ち止まって考えよう、ということです。このキャンペーンを「Pause/ちょっと待って」と名付け、デマのまん延を防ぐため、シェアの前にちょっと立ち止まり考えよう、と呼びかけることにしたのです」
「国連本部だけでなく、難民高等弁務官事務所(UNHCR)やWHO、ユニセフも同様に動き、人々が検索したりして情報を探す時、正しい情報が先に出てきて誤情報を圧倒するようにしたのです」
「こうした様々な努力が続いているのですが、今も検索すれば誤情報はどこでも見つかります。今でも巨大な問題なんです。デマを一つ潰すと、また新しいのが出てきてしまう。いたちごっこのようです。だから、本当に大変な闘いなんです」
・新型コロナウイルスは実在する脅威で、非常に危険だということ
・ワクチンを受けるまでは(ソーシャルディスタンスやマスク、手洗いといった)とてもシンプルな手段で感染から身を守ろうということ
・そして、ワクチンはまさに科学の奇跡と言っていい存在で、安全だということ。副反応があったとしてもリスクは低く、うたずにコロナに感染して死亡する危険性の方がはるかに高いこと
「人々は、恐怖や怒りを感じたりときにリアクションを取りがちです。アメリカでQアノンの陰謀論があれだけ広まってしまったのも、多くの人々が操作された情報を信じ、しかもそれが自分たちが調べた結果だと思い込んで「あっちの世界」にはまってしまったからですが、私たちは情報操作はしません(苦笑)」
「私たちは科学の力によって効果的なワクチンを手に入れたというのに、供給や物流の問題、ワクチン・ナショナリズム、そして人々の誤った振る舞いなどの問題が起きるようであれば、せっかく科学の力で有効なワクチンを手にしたというのに、私たちはこのパンデミックから早く抜け出せない危険性もあるのです」