第十一章 聖女さまのパン焼き隊結成します!?

11-1

 聖女が歴史上はじめて闇の精霊の受肉に成功したという大ニュースが、エリュシオン王国全土を揺るがした。


「そんな……馬鹿な……」


 クリスティアンは衝撃に震え、そのたった一言を絞り出すことしかできなかった。


「あの悪女にそんな価値があるわけが……」


「……まだそんなことを言っているのか」


 国王――ヘンリー七世がクリスティアンをにらみつけ、苛立たしげにため息をつく。


「いい加減に認めんか。アヴァリティア・ラスティア・アシェンフォードは聖女だ。しかも史上初、原始の精霊の受肉を成し遂げたほどの偉大な。小さなことを騒ぎ立てた結果、お前は大きく国益を損なったんだ」


「小さなことですって?」


「違うとでも?」


 王の声が冷たさを増す。


「絶対に婚約破棄だけはすべきではなかった。なにがあろうともな」


「っ……それは……」


「それが理解できないのであれば、お前はそれまでの器ということだ」


 ヘンリー七世はぴしゃりと言って、はぁっとため息をついた。


「お前は自分がなんと謗られ、嗤われているか知っているのか? ものの価値がわからぬ王太子。つまらぬ平民に入れあげ聖女を手放した愚か者。聖女に無礼を働き、真の忠臣アシェンフォードを敵に回した大馬鹿者。果ては、王国を沈める史上最悪の反逆者とまで言われているんだ」


「そんな! 反逆者だなんて!」


「そうは言うが、一つでも反論できるか? そのとおりではないか」


「っ……」


 ヘンリー七世の言葉にクリスティアンは顔を真っ赤にし、屈辱にぶるぶると身体を震わせた。


「王太子とあろうものが大局を見ず、好いた腫れたで行動した結果がこれだ。情けない」


「父上……!」


「下がれ、クリスティアン。今はお前の顔を見たくない」


「っ……」


 クリスティアンがギリッと奥歯を噛み締める。


 しかし、これ以上父王の機嫌を損ねるわけにはいかない。

 クリスティアンは黙って頭を下げると、足早に謁見の間をあとにした。


「……はぁ、まったく」


 ヘンリー七世はため息をついて、額に手を当てた。


 頭が痛い。


 国のためにも、このまま聖女にそっぽを向かれているわけにはいけない。アシェンフォード公爵家が領地に引っ込んでいる状態も早急に解消しなくてはならない。

 聖女もあ線フォード公爵家も、この国には絶対に必要な存在だからだ。


 だが、どうやって両者の怒りを解けばいいのか。

 クリスティアンを排斥できれば簡単だが、そうもいかない。クリスティアンの代わりはいない。

 クリスティアンが執心している平民の小娘一人罰したところで、クリスティアンに罰を与えないままでは、聖女はともかくアシェンフォード公爵家は納得しないだろう。


「厄介な……」


 再び深いため息をついていると、脇に控えていたアルマディン侯爵が近づいてくる。


「陛下」


 そして、ヘンリー七世にそっと耳打ちした。


「実は、アレンディードさまが……」


「なに?」


 ヘンリー七世が目を見開く。


「アレが聖女の傍にいると? たしか、アレは聖騎士となったのではなかったか? ということは、聖騎士として聖女の信を……あるいは寵を得られたということか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2025年4月8日 17:00
2025年4月9日 17:00
2025年4月10日 17:00

【書籍化】【コミカライズ】断罪された悪役令嬢ですが、パンを焼いたら聖女にジョブチェンジしました!? 烏丸紫明 @shimeikarasuma

作家にギフトを贈る

カクヨムサポーターズパスポートに登録すると、作家にギフトを贈れるようになります。

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ