チート無しで鬱すぎる現代和風同人ギャルゲーの世界にモブ転生しちまったと思うんだけど、どうすればいい?   作:茶鹿秀太

4 / 4
いっぱいたくさん書きたいこと書いたせいで

視点がすっごく多いよ。

一応まとめてるよ。

ごめんよ。

あとなにこれ。長くない?

過度な期待はしないでください。

あとミスってたら報告ください。コメでもいいです。

誤字脱字? 知らない子ですね……。


【神話生物】事件 中編

side ???

 

 

それはかつてあったはずの、ある暮れの日。

 

明晴学園の実験室。

 

白衣を着た迫野 小登里(はこの ことり)が、未だに実験を繰り返した時のことだ。

 

無造作に扉が横に開かれる。

 

「失礼。まだ帰宅していない生徒はいるか。……迫野くん。まだ帰っていなかったのかね」

 

「……」

 

「迫野くん」

 

「……ん? うわっち!? な、なんだよぉ〜……、あ。かいちょー?」

 

「はぁ……。精が出るな、迫野くん。実験は上手くいっているかね」

 

迫野が見たのは、襟も裾もキッチリと仕上げ、帯刀した刀の鞘も美しく手入れされており、キリッとした吊り目が、男らしさを感じさせる男性。

 

生徒会長、渡辺 捧(わたなべささぐ)であった。

 

「い、いやぁ。その。……えへへー」

 

「なんにせよもう下校時間だ。無理はするものではない。君の頑張りは重々承知の上だ。だが君も休息を取らねば」

 

「……はぁい……へへ」

 

「……。はぁ。どうせここで撒ければ実験し放題とでも思っているのだろう」

 

「げぇ!!? な、なんで分かったんすかぁ……」

 

「君もまた、陰陽師だからだ。実験の成果が出れば、救われる陰陽師たちがいる。……君が戯けた拍子で動こうが、君の善性は揺るがないだろう」

 

「そ、そんな。へへ、いやーやだなーかいちょー。私がそんな、そんな……」

 

「取り繕わなくていい。何度も言うが君は良くやっている。人々の為に励むその姿勢は感服だ。だが休んでくれ給え。君が倒れると、……俺も胸が苦しい」

 

「!? か、かいちょー。それって……」

 

「むっ。す、すまない。余計なことを言った。忘れてくれ!で、では!」

 

「あっ」

 

 

そそくさと去っていく渡辺捧。

 

その後ろ姿を、顔を赤らめて見つめる少女。

 

「……世のため人のため、じゃないです。かいちょーに、死んでほしくないだけなんです」

 

 

白衣を纏う高校2年生、迫野 小登里。

それが彼女のゲーム本編での設定。

 

 

 

なのに、どう言うわけかニャルラトホテプの介入により、中学2年生の姿で、高校生に飛び級しトーナメントに出ている。

 

それが、須藤与一の疑問であった。

 

その答えは、トーナメントにて明かされる。

 

 

 

 

 

はずだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

side ニャルラトホテプ

 

 

「あ、がっ、ぇ?」

 

彼女の魔法少女モードに弱点はない。

 

相手の術式を瞬時に看破し、自身が作成した「擬似・八咫鏡」を用いて構成要素を分解、解析、再現を行う。その後「偽典・勾玉」を使い術式をミサイルという形に変換して相手の上位互換の技を叩き込む。

 

弱点は、無かったはずだった。

 

【宴夜航路】迫野 小登里。

 

彼女は今、氷になっていた。

 

いや。

 

結界内全てが氷漬けにされていたが近い。

 

「慢心でしたわね。言ったはずですよ、ごきげんようと。最初から情報が出ているのであれば対策は余裕です。コピーするのであれば術式を見せる前に、一瞬で終わらせて仕舞えばいい。意識も刈り取り、四肢を動かなくさせ、その道具の命(でんげん)を停止させる。以上が私、六波羅学園並びに小笠原家唯一の代表、小笠原雹香の結論です。如何でしたでしょうか皆様」

 

 

 

「「「「「う、うううおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」

 

「瞬殺ぅうううううう!!! 小笠原家からの天才、小笠原雹香!!!!! 第一試合よりも素早い、1秒での瞬殺劇ぃいいいいいいいいい!!!!! 他者のプライドを全てへし折ってでも突き通すという小笠原家の意地を見たぁああああああ!!!!」

 

 

セコンドに立っていた先生、ニャルラトホテプは肩をすくめた。

 

「えー? この時代のパワーバランスおかしくない? 流石に予想できなかったネこれ。そっかぁ。もっと難易度を上げても良かったかぁ」

 

 

周囲は瞬殺劇に驚いているが、ニャルラトホテプが一番驚いているのは“判断”だ。

 

五星附属術浄学園の情報はそもそも外に出していなかった。あったとしても当日出した情報ばかりである。

 

にもかかわらず、情報源としてアナウンサーの紹介程度の情報を信じきり、相手の術式への対抗策を叩き出し、完璧な打開に成功した。

 

一切の手も足も出させず【宴夜航路】迫野 小登里を攻略したのだ。

 

評価すべきはその頭脳と決断力、結界内を一瞬で凍らせる陰陽術の精度。

 

「……くすくすくす、ひどいなぁ! まるで出オチだぁ! ……、ま、いっか。このルートに入るなら、よりエグ味のあるEDになるだけだしネ」

 

そう言って微笑みながら、彼は“彼女”を見つめた。

 

そう、この国の太陽を。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

side 須藤頼重

 

 

「あやつは何者じゃ?」

 

日輪の声が貴賓室に響く。

 

誰もが言葉を発さない中、諦めたように宮内庁代表 小笠原 遊里が問い直す。

 

宮内庁の代表という素晴らしい実績を持ち、小笠原の名前のもとそれはもう偉そうに鼻のひげをつまんで撫でた。

 

「それは、我らが小笠原の娘の話ですか? それとも、あの教員のことでしょうか?」

 

「教員じゃ」

 

「成程。はぁ、小笠原をアピールする良い機会だったのでございますがね。土御門博士、ご回答を」

 

いつも元気な土御門グレゴールが飛び跳ねた。

 

「はぁ!? なんで儂なんじゃ!!?」

 

「……五星局管轄の学園だからに決まっておりますれば」

 

「あぁ、そういやそうだったな」

 

「もーこれだから五星局とかいう研究だけやってれば良いとか思っちゃってる機関は……よろしくないですよ〜ホント」

 

「がっはっは。すまんな。……だがしかし」

 

ぶっちゃけて砕けた小笠原遊里を尻目に、土御門グレゴールは訝しんだ。

 

「儂は研究しかしとらんからな。大まかに前情報しか聞いとらん。……だが。若干今回のメンバー選出については元々きな臭さがあったと聞いている。菫子(すみれこ)」

 

「りょ!」

 

安倍菫子が資料をかばんから取り出す。

 

「えーとですねー。今回のメンバー選出3名は元々中学生の子をスカウトする形で飛び級入学させてます。正味それヤバくね?ってことでウチと教授は拒否った意見提出してます。でもー、相手の学園長と理事長が突っぱねたんすよね! 正気じゃ無いくらいの勢いで、お家騒動の政治まで持ち出してきて。……その時っすかね? 教員も1名スカウトされてますね。それがあの男です。名前は……若流 夏(ニャル サマー)」

 

「若流 夏(ニャル サマー)」

 

小笠原遊里が復唱する。

 

「……若流 夏(ニャル サマー)」

 

土御門グレゴールも復唱する。

 

安倍 邑楽(あべの おうら)、【陰陽王子】安倍時晴の実の母が突っ込んだ。

 

「いや、偽名でしょうどう考えても。もう今すぐ捉えて吐かせましょうか? 疑わしきは罪です。私がやりましょう今すぐに」

 

「い、いやそこまでせずとも。もーコレだから政治の分からない安倍の脳筋ちゃんはー」

 

小笠原遊里が必死に止める最中、グレゴールが安倍菫子に囁いた。

 

「あれ絶対息子が須藤のせがれに負けて荒れとるじゃろ」

 

「まぁ、息子ちゃんが運動会でボロ負けしたらなんかもう無性に腹立っちゃいますよねー。しかもあんまり試合観れませんでしたし」

 

「あ“? 何か言いましたか????」

 

「「何も言ってませんです」」

 

わちゃわちゃとした空気感の中、日輪だけが、神妙にしていた。

 

「……あれは、本当に人か?」

 

その言葉が聞こえたのは、じぃじと、須藤頼重のみだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

side 須藤与一

 

 

俺こと須藤与一は困惑していた。

 

え?

 

ま、負けた?

 

あんな、あんな黒幕っぽく登場しておいて、冒涜的な装備をした原作ヒロインを用意して、魔法少女に魔改造した挙句、負けた?

 

は?????????

 

な、なんで?

 

いや、え?

 

手を抜いて……、いや、ノータイムの敗北だ。こればかりは……。

 

ニャルラトホテプのシナリオを、小笠原雹香が上回った……?

 

「ーーおや? まぁまぁどうしましたか? ここでたむろしていても、意味なんてないでしょうに。ネ? 須藤、与一くん」

 

生徒を置き去りに、一足先にフィールドから戻ってきたニャルラトホテプ。

 

邪神/先生は美しい顔で微笑んだ。

 

「どういう、つもりだ。ニャルラトホテプ!」

 

ひとみといろはが俺の側に寄る。

 

「与一さん、これは一体?」

 

「あの、この人ーー」

 

「邪魔ですよ」

 

パチン、と指を鳴らす邪神/先生。

 

時間が止まったように、二人は動きを止めた。

 

それだけではない。

 

世界が、グレーになったような、錯覚すら……。

 

その技を、俺は知っている。

 

「ーー【無貌にて這い寄る使者(ロストルート)】。この瞬間、議論や問答を深め、PL、人間に対して決断を求める、このゲームにおけるニャルラトホテプの能力。その試練を乗り越えれば莫大なる報酬を。乗り越えなければ……最悪のバッドエンドに叩き込む悪意の強制!」

 

「ふむ。やはりお詳しい様子。しかししかし……非常に面白い。そして素晴らしい。この会場において、私に怖れを抱くものはいなかった。貴方だけはーー、正しく、そして誤った私の脅威度を測っている」

 

く、くそったれ。

 

ダメだ、マジで最悪だ。

 

この技は、【人間は回避できない】ものであり、【一度発動すれば誰も干渉できない】のだ。

 

ひとみも、いろはも、おそらく俺を救出することはできない。

 

ーー逆に、言えば。

 

こいつも、俺に試練を提示しなければ、解除できない。

 

こいつは俺に、攻撃するという選択肢が使えないのだ。

 

ゲーム通りであれば、であるが。

 

「おっしゃる通り。【厄モノガタリ~花咲き月夜に滅ぶ世界~】でしたか。よくもまぁ私の個人情報をツラツラと記載したものです。販売中止も……まぁ、私が出るのです。やむを得なかったでしょうねぇ。殺(さぁ~つ)人事件まで起きてしまったのですから。ネ?」

 

「--っ、ふざ、けるなよ……! な、なんで」

 

「理由をお聞きしたい!? 私から!? 不敬ですねぇ~。神から聞くのであれば、試練を受けていただきますがーー、まぁ、いいでしょう! 貴方は……素敵なお客人として扱わなければ」

 

「……?」

 

「それでは、参りましょうか」

 

「……どこへ」

 

「--デートですよ、デート」

 

 

 

 

 

 

「うげっ、うごぇぇぇ、え”ぇ”う”っ”(本心からのゲロ)」

 

「はっはっは!!! 素直ですネ! しかし、貴方には付き合ってもらわなければ。時は遡りあの日まで。貴方が”九尾の狐”を、いえ……」

 

勿体つけるように、彼は嗤った。

 

見えない表情。

 

だが、嗤ったのだ。

 

「--若干7歳にして”九尾の狐”の単独討伐に成功した貴方と話したいのですよ、須藤与一くん」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

それは、須藤与一が7歳の頃のことだ。

 

 

「坊や~。これ、坊や。坊や~。どこにおられますか~? 坊や~?」

 

長い金髪を揺らして、和傘をさして歩く美女。

 

和服をまとい、竹林に差し込む太陽の光を転がすように、和傘を回していた。

 

「坊や~?」

 

その女性は、九本もの狐の尾があった。

 

「……あぁこれ! 坊や、そこに隠れておられましたか。ーー物陰に隠れて泣く癖はまだ治りませぬか?」

 

「う、うるさい!」

 

真っ赤な鼻をずびずびと鳴らして、木刀を持って傷だらけの肌をびくびくと震わせて、彼はそこに座っていた。

 

彼が、須藤与一である。

 

(ちなみにこの時には既に須藤いろはは彼を観測している)

 

「これこれ、鼻はそうやってすするものではあらぬのです。現代では小さくて袖に入る程度の大きさの白い紙を使うのですよ」

 

袖からポケットティッシュを取り出そうとする九尾の尾の女。

 

「っ、鼻なんてすすってない! 泣いてもない! 俺は、修行中なんだ! 修行の時に涙なんか男は流さないんだ!」

 

腕を使って顔をごしごしとする少年。

 

黒い袴に白い胴着は、もはや土汚れや濡れた後、焦げ跡でボロボロだ。

 

「そうでございましたか~。坊やは頑張り屋さんですねぇ。お父様とお母様が呼んでおりましたよ。頑張る坊やの姿を見に来たのでしょう」

 

「ーー行きたくない。だって、まだ勝ってないもん」

 

「ふふ。また挑めばよろしいかと。今はあれでございましょう。えー、そう、今噂の子と遊んでいらっしゃるのでしょう。あの……幼馴染ちゃんと」

 

「……うん、そう。緋恋ちゃ……、幼馴染ちゃんと、戦って、また……っ! 俺悔しい! いつも、いつも逃げるしかできないもん! 俺の剣は全然当たんない! 白くてでっかい猫に乗って滅茶苦茶な動きするもん!! あと薙刀のリーチが遠すぎる!!」

 

「坊やは熱心ですねぇ。男の子ですねぇ。私が教えている部下にも見せたいくらいの気合ですよ~。例えば! その……、……はぁ。失礼。部下の子の名前も、どうにも覚えられなくて。でも坊やのあだ名呼びのお陰で、坊やのお友達だけはなんとなく覚えてられます。ありがとうございます。」

 

「ううん。……しょうがないってみんな言ってた。でも、……でも坊やって呼んで、俺の事はどうして覚えようとしてくれたの? 銀子さん」

 

「ん? んー、そうですねぇ。……どうして、でしょうかねぇ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

須藤頼重は、銀子と呼ばれる女性と肩を並べて話している。

 

与一は母親に甘えつつも、都合よく強がって母親に叱られていた。

 

「それで、どうでしょう。ぬらりひょんという存在はいましたでしょうか」

 

「おりませんねぇ。その……えぇ、と。頭の長い坊主頭で壁をすり抜けて妖怪全てを束ねるカリスマの持ち主で無意識にそこにいることを受け入れてしまう妖怪という存在は、いた記録はありましたが、坊のお父様が言うところの学園地下。えぇと、あれですあれ」

 

「明晴学園」

 

「そうそう、その地下。あらゆる妖怪を封印できる龍脈の流れがありまして。封印は確実にされていた。ですが、その件の妖怪がいないということは」

 

「--うん。僕が干渉する前に、既に誰かがやったのかな。若干聞いていた話と違うけれども、……いや、あの子、与一は”入っている”と言っていた。一応これも予言通りになるのかな? それとも……。何か例外が……」

 

「なるほどぉ。ただにわかには信じられませぬ。坊やが未来を予言するなど……。なにせ、あらゆる陰陽の才がありませぬ。ーー使い切ってしまったと?」

 

「有り得ます。しかし、あの子はフィジカルだけが尋常じゃない。7つにしてあの蘆屋の天才児の式神と薙刀を躱しながら逃げ切る? それは、別種の怪物だ。なんらかの事情で陰陽の才を枯らしたとしか思えない。そしてその心当たりが、予言だ」

 

「……。ですねぇ。では、私はこれで」

 

「あ、そうそう。……貴方は、まだ大丈夫ですね?」

 

「……えぇ。まだ、大丈夫ですよ?」

 

 

 

 

 

 

教育式神【九尾の狐】の話をしよう。

 

陰陽庁直轄の教育式神4人衆。

 

【土蜘蛛】【赤鬼】【九尾の狐】【だいだらぼっち】

 

この式神たちから直々に指導をしてもらっている人間は、陰陽庁のエリートとして一目置かれるほどだ。

 

その中でも【九尾の狐】は、陰陽術を無意識かつ無呼吸で大量展開でき、あらゆる呪詛、仙術、風水に長けている最強の妖怪の一角だ。

 

かつて安倍晴明に仕えていたと、ゲームでは記載があった。

 

ゲーム本編での彼女の性格を表すのであれば。

 

ーー【淫虐】である。

 

それは彼女の経歴が理由である。

 

 

 

 

彼女は国を亡ぼすとされる傾国の美女であり、仙人であり、狐狸であり、精霊であり、犯罪者である。

 

ただ微笑むだけで、人を殺す。

 

ただ眉を顰めるだけで、人を殺す。

 

ただ指でなぞるだけで、人を狂わせ倫理を飛ばす。

 

ただ目配せをしただけで、人は彼女の足を舐めた。

 

一人で、ただ歩くだけでこの国を滅ぼせる女である。

 

しかし彼女は安倍晴明に調伏され、彼女自身が懇願した。

 

ーーお願い。もう、私は私として生きたくない。

 

安倍晴明は、その願いを叶えた。

 

悪しき心を封じて、善き心のみで生きていける封印を施したのだ。

 

その代償に、彼女は【名前】が覚えられなくなった。それはある種、言語変換の不具合と言える。

名前を聞く、記憶する、口に出す。その行為の不具合だ。

彼女は聞くことはできても、その時記憶しても、周辺の情報だけ覚えて忘れて、口に出すことができない。

 

それは、ただの呪いであり、理由のある祝福でもあった。

 

ゲーム本編ではその封印は、敵の戦略によって壊されてしまい、彼女は悪しき心を取り戻し、ぬらりひょんに付いた。

 

その心を理解できる人間は、恐らく誰もいなかった。

 

故に。

 

須藤頼重は、彼女に警告していた。

 

封印が解かれる可能性があると。

 

【九尾の狐】銀子は答えた。

 

それはあり得ない、と。

 

私しか解くことができない封印だ、と。

 

自分が望まない限り、封印は解かれることがない、と。

 

それは、死んでも行わない、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だから、解かれたのだ。

 

ぬらりひょんの登場によって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

side 安倍 怜音

 

 

 

「さて、さらに瞬きほどの時の中でで幕を閉じた第二試合!!!! 次の試合は【五星附属術浄学園】から登場するのは問題児!! 彼が7歳の頃には既に才能の鱗片はあった!! しかし雑過ぎた!!! 力のままに力をふるい、未だに残った自然や人間への傷跡は無限大!! そして彼が出した結論は、「それでいい」!!!! 現代兵器を用いて戦う新しい陰陽師、【獅子強攻】安倍怜音(あべの れおん)!!!」

 

スマホをいじりながら、ステージに上がる男。

 

だらしなく制服を着崩すイケメン。どこか時晴に似たワイルドな顔立ち。

 

髪を逆立てて目に深い隈を乗せて、へらへらと笑いながらサンダルを履いている。

 

陰陽師らしからぬ彼を見て、観客席は動揺しているようだ。

 

ーーこれが、安倍? と。

 

誰もが信じられないと落胆を抑えきれずにいる。

 

しかし、本人には全く関係がない。

 

スマホから目を離して顔を上げると、道着を着た坊主がいた。

 

音も気配もない。

 

当たり前だ。寺で生み出された暗殺術。その担い手がここに一人。

 

「東寺仏教流の妖怪退治!!! 健全な肉体に健全な精神! 悪意鏖殺、妖即滅!

肉体のみで幽霊や妖怪と戦い続け、極秘とされた御留流!!! ついにお披露目されるのは、日本最強の肉体強化!!!【寺生まれのG】東 呉十郎(あずま ごじゅうろう)だぁああ!!」

 

それは少年のような身長と容貌だった。

 

しかしある意味、飢えた獣のように笑う。

 

今にも安倍を殺そうとする、血気盛んで無邪気な笑い。

 

胴着に隠れた肉体は、既に喜んでいる。

 

「よろしくお願いします! よい戦いを!」

 

スポーツマンのように合掌し深々と挨拶をする、東。

 

しかし、安倍怜音は一瞥しただけで、再びスマホをいじり始める。

 

「その光る板が貴方の武器ですね! 未知の学問、科学。私のライバルのような存在です。しかし、私は必ずやこの肉体が天下を取ると信じておりますれば! さぁいざ!! いざいざいざ!!!」

 

拳を構えた少年。

 

そして、試合がーーーー。

 

「おい。クソ坊主。10分間遊んでやる。それで大方のお披露目は完成する。10分後俺はこの試合を降りる。この予言が当たったら、お前に役割を与えてやる。死ぬ気で実行しろ。でないと殺す」

 

「は?」

 

 

「ファイッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!」

 

「いいな? 俺の【観測拒否(アルベレイター)】の予想は決して外れてくれない。行くぞクソ坊主。無駄撃ちはできないんでな。最小限で殺しに行くから生き延びろ。それで東寺の面目躍如。安倍の泣き顔も見れて一石二鳥だ」

 

その瞬間、会場は再び阿鼻叫喚の嵐となる。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

side 須藤与一

 

 

「どうしてそれを知ってるんだ? 俺だって詳しく知らないのに。あの場に、ぬらりひょんがいたのかよ」

 

俺、須藤与一はグレーに染まった世界で街を歩く。誰もかれも動きを止めている。

 

腹立たしい。

 

【無貌にて這い寄る使者(ロストルート)】

 

『今ごろは一回戦第三試合が始まっているころだろう』

 

性質が悪い。この能力はある意味で時を止める能力でもあるが時は止まっていない。

 

『PLに関係のないイベントは勝手に進んでいる』のだ。

 

要は俺がどうするかを決定するまで、俺は俺の物語を進めない。

 

俺が関係しないイベントは勝手に進む。

 

後に帳尻を合わせるように、時系列にそって俺が関係してくるイベントに合流するしかできない。

 

だから周りから見れば、俺は「一人で悩んで街を徘徊している」ということで処理されるだろう。

 

なにより、これは俺がニャルラトホテプの試練をどう選択していくか自分だけで決断しなければいけないことだ。

 

だから俺の式神である「餓者髑髏の花嫁」「ヒトコイシニンシキノトリ」は巻き込まれで完全に停止しているのだろう。

 

俺の体のパーツに契約していることが、ここで抜け穴となった。

 

露店の料理を勝手に奪い、むさぼっていくニャルラトホテプ。

 

俺は財布を取り出して、2人分の金を置いて俺も食べることにする。

 

もうこれ以上は悩んでも仕方がない。

 

挑むしかないのだ。この邪神に。

 

「それで、結局俺にどうしてほしいんだよ。俺がお前の試練を達成しないと、この状態が続くのすげぇ嫌なんだよ。さっさと提示しろ」

 

「ーーふぅむ。正気度が下がっている……訳ではなさそうだ。素晴らしい。本当に貴方は逸材だ。かの名の埋もれていった天才たちを思い出す」

 

「……?」

 

名の埋もれていった、天才たち?

 

「なぁに、簡単ですよ。このシナリオのタイトルは……そうですねぇ。云わば『【神話生物】事件』! 私は貴方に合図を出しますので、シナリオの途中に登場するとある【剣豪】を倒してほしいのです」

 

「……【剣豪】?」

 

「えぇ。剣豪、またの名を……ぬらりひょん」

 

「!? お前っ……」

 

「そう、明晴学園地下に封印されており、原作ゲームにおけるラスボスであり、……貴方のお父様の部下が、今もなお監視しているはずの、ぬらりひょんですよ。須藤与一くん?」

 

「ふ、ふざけるなよクソ野郎……!!! ゲーム本編を始めようってのか!! あの、血にまみれた最悪の!!!」

 

虐殺だ。

 

虐殺が始まる。

 

ぬらりひょんの開放は、今の日本を、世界を。

 

俺の周りの人間を、皆殺しにしてしまう。

 

ーー安直に考えていた。

 

どうせ、原作主人公がなんとかしてくれんじゃないか?

 

俺も手助けすれば、なんとかなるんじゃないか?

 

そんな風に考えていた。

 

なのに、おい。おいっ!

 

原作主人公がいない間に、原作を始めようって言うのかよ!!!!!!!!

 

 

「良いでしょう? 思いませんか? 何故わざわざ原作のゲームのラスボスを封印するだけで満足するのか? 殺せるタイミングがあるのであれば殺した方がいい! ーー原作主人公の渡辺捧であれば即答したでしょう。太平の世の為に斬ると! ……貴方も斬れるなら斬りたいでしょうに。ネ? これはチャンスでしょう。今なら、ぬらりひょんを、倒す選択肢があるということを!」

 

「……」

 

なるほど、ニャルラトホテプが選択肢を提示した時点で、「ぬらりひょんを倒せる」可能性があるということ。

 

であれば、……それは、チャンスにもなる。

 

だが、俺が倒す?

 

ーー陰陽師の才能のない、俺が?

 

「さて。こう見えて私、教員ですので。そろそろお暇させて頂きましょう。【五星附属術浄学園】の生徒と戦うことになったらよろしくどうぞ。では、此れにてーー」

 

「!? 待---、って」

 

グレーな世界が解除され、目の前にいた邪神は消えた。

 

 

 

その瞬間、一瞬にして地面をすべるように高速移動したであろう小笠原ひとみが俺の前に立つ。

 

 

 

「与一さん! 無事ですか!」

 

「……ひとみ」

 

「突然私もいろはさんも、思考がよどんで、試合をぼーっと見てしまっていました。……ほっ、ケガはないようですね。……あの、大丈夫、ですか?」

 

「……ひとみ。いろはと後で作戦会議だ」

 

「え?」

 

「あの邪神に、好きにさせてたまるかよ」

 

俺の中の闘志が、ふつふつと湧き上がってきた。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

一回戦第三試合

 

●【獅子強攻】安倍怜音

 

vs

 

〇【寺生まれのG】東 呉十郎

 

 

 

≪試合概略≫

試合開始から10分で安倍怜音が自ら降参し決着。

試合展開は序盤中盤と一方的に安倍怜音が蹂躙。科学という式神を使用し、遠距離からの攻撃が中心であった。

しかし東呉十郎も弾丸を手刀で切り刻み、接近戦に持ち込もうと奮闘する。

接近戦では安倍家式神、「前鬼、後鬼」を使用し、肉弾戦が始まる。

式神を倒し、迫る東。突然安倍怜音のスマートフォンと呼ばれる機器から音が鳴り響き、そのまま白旗を上げた。

この瞬間会場は阿鼻叫喚。安倍家の株は激落、同時に東寺の暗殺術のすばらしさを会場は拍手で答えた。

 

 

 

一回戦第四試合

 

●【黄泉比良坂で会いましょう】忍坂 義和

 

vs

 

〇【現代魔女】シルク・ストロベリ―

 

 ≪試合概略≫

試合開始早々、忍坂が禁術を展開。死霊の暴走を引き起こし、初手で命を獲りに行こうとする。

しかし現代魔女は格が違った。人差し指を忍坂に向けた途端強大な光線が放たれ、死霊もろとも忍坂が吹き飛び、決着。忍坂の禁術の全てを拝むことはかなわなかった。

陰陽師の対を成す存在、魔女。

その真価はこのトーナメントで全て理解できるのかもしれない。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

side 須藤与一

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまり、邪神? がこの会場にいると?」

 

いろはの言葉に俺は頷いた。

 

急ぎ会場に戻り、観客席の空いているところに3人で座る。

 

話をする為に俺が真ん中、右側にいろは、左側にひとみがいる。

 

ひとみはいまいちイメージが掴めず無言で悩んでいるようだった。

 

いつの間にか一回戦第4試合まで終わっている。

 

最悪の気分だ。時間をすっ飛ばされたような錯覚すら覚える。

 

「あぁ。しかも滅茶苦茶厄介なやつだ。……普通に、勝てないタイプの敵なんだよ。おそらく敵対した時点で廃人になるし、奇跡的に、それこそクリティカルな出目を永遠に出し続けて勝利したとしても、瞬きしたら普通に復活しているレベルだ」

 

「……なんというか。変な人もいるんですね。あ、神でしたか。でもそれって、……なんだか」

 

いろはが少し考え込む。

 

「……わ、私みたいですね」

 

「え? ……あっ」

 

そうか。そういえばいろはの基になっている「日本生類創研」は、このゲームではニャルラトホテプが関わっている。

 

それこそ安倍晴明の時代にあいつが医療者と契約を結んだのだ。

 

ちなみにこのゲームでの異形の医療者が生んだものは「犬と猫をつないだもの」「平安ムカデ人間」だ。

 

契約を結んで得られるものなど、狂気と混沌の世界だけなのだろう。

 

発狂した異形の医療者はその知識や作品を受け継いでいき、シンパが増え、そして生まれたのが……「にんしきのとり」。

 

そんなサイドストーリーを踏まえ生まれたのが、「須藤いろは」その人なのだ。

 

にんしきのとりのギミックとクトゥルフ神話は確かに親和性があるような気さえする。

 

幻覚の世界に連れていかれ、姿を見れば死の恐怖から発狂する。

 

違いがあるとすれば、クトゥルフ神話生物は「もしかしたら脱出可能」という可能性はあるが、にんしきのとりにはそんなものないということである。

 

理由は分からないが、流石にインフレ調整が入ったのかにんしきのとりの本来のスペックであれば俺はもうこの世にいないのだろう。

 

それくらい強いんだぞあれ。マジで。ぼくがかんがえたさいきょうのSCPみたいなもんだぞ。

 

「いろはのスペック的にも、ニッソ的にも、間違いなく大本にあるのがニャルラトホテプ。めっちゃやばい」

 

「つまり……。大本をたどれば……私の、え、わ、私の、お、おとうさ」

 

「いろはぁ!!!!!!!! 考えるな!!!!! いいか、いいな何も考えるな!!!!!! 考えたくない!!!!!!!! 俺もうマジでそこの点は想像したくないし考えたくない!!!!!!!!!!」

 

嫌だぁ!!!!!!!

 

いろはのお、お、お父さんみたいなポジがニャルラトホテプ!?

 

い、いや、嫌だぁ!!!!!!!!!!

 

考えたくない考えたくない考えたくない!!!!!

 

「……ではどうしたらいいのです? その邪神ナンタラの言うことを聞けと? 剣豪ぬらりひょん討伐を? ……正直、簡単すぎませんか?」

 

ひとみが楽観的に肩をすくめる。

 

「私といろはさん、それで十分対処できます。なんなら私だけでも良いのでは? ぬらりひょんとは、そこまで恐れる存在なのですか?」

 

「いや、ぬらりひょんは……」

 

あれ。

 

そういえば、ぬらりひょんって……。

 

あれ。なんだろう。

 

ゲーム本編では、世界各地のヤバい怪異を開放しまくってて……大量の仲間を連れて……。

 

そのヤバい妖怪たちが、虐殺しまくってて……。

 

 

ぬらりひょんって、ゲーム本編では戦ったルートが、無いような……?

 

剣豪、そもそもぬらりひょんって剣豪なのか?

 

謎だけが、深まっていく。

 

その謎を置き去りに時間は無常に過ぎていき、幼馴染ちゃんがステージに立っていた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

side 蘆屋 緋恋

 

 

 

 

 

「ひどいよねぇ。与一くんってば、私が頑張ってアピールしてるのにさー。私の事全然見てくれないしー。久々に会えたのにさー。やっぱ変な女の子にモテるんだよねぇー。ずっと私の部屋にしまっておかなきゃ……ダメなのかぁー」

 

式神白虎を小さくして胸に抱きかかえる幼馴染ちゃんこと、蘆屋緋恋。

 

白虎は死んだ目でぽやぁっと空を上げていた。

 

「ぐるる(何を言ってるんだろうこの主の顔)」

 

「うんうんそうだよねー。やっぱり女の子は度胸なんだよ。お家騒動とか知らないもんねぇー。邪魔なら虎に蹴られちゃえばいいもんねー」

 

「ぐるぅ(いい天気だなぁの顔)」

 

ステージに上がってのんびり恋バナに花を咲かせる蘆屋の天才、彼女に相対するように、対戦相手が胸に手を当てる。

 

丸メガネの学生服、文学少女のような出で立ちで、ボブカットの少女はぼそぼそとつぶやいている。

 

彼女の影が、けたけたと笑うようにのけぞった。

 

「あのね、ダメだからね。これは勝負で、殺し合いじゃないからね。ダメだよ好きに動いちゃ、うん、絶対ダメ、絶対ダメ、……ふぅ、……大丈夫かな、これ」

 

敵は【祟神サーの姫】姫川 杏子。

 

明確に神を、式神にした女性である。

 

ーーすっと、舐めるように、蘆屋緋恋は彼女の輪郭を目でなぞる。

 

害意が無い。敵意が無い。

 

戦闘力がない。彼女自身に、才能は無い。

 

0ではないが、一般兵にはなれない。

 

そんな落第生に脅威は感じない。

 

だからこそ、怖い。

 

あの蠢く影が、おぞまじい。

 

祓わなきゃ。その程度の感慨だけが疼く。

 

「トラ。トラちゃん。そろそろ時間みたい。速く終わらせて、デートしに行きたいから、がんばろうね。白虎、戦闘隊形」

 

「がるぅ」

 

小さなトラが、彼女の胸元から飛び出して白い光に包まれる。

 

同時に、蘆屋緋恋が手を振ると白銀の鎧と、薙刀が現れる。

 

「まだ開始はしてないけれどー。準備くらいはいいでしょー?」

 

 

 

 

相対する姫川杏子は肩が重くなった。

 

嫌な気分だった。

 

元々戦いをしたいと思わない性根に加え、

 

右肩に、手が乗ったからだ。

 

『杏子、アレは見事だ。陰陽師だ。神の化身だ。毘沙門天の代行者だ。我が守らなければ死ぬぞぉ? 死んでしまう。ぽろりと首を落として死ぬぞぉ? 生きたいか杏子? 我が助けよう、あぁ助けよう。他ならぬお前の為だ杏子。死ぬぞぉ。殺されるぞぉ。他ならぬお前の命を救うために、神の国で清らかなまま死ねるように、あれは奉げるしかない、殺すしかないんじゃないか?杏子、なぁ。杏子』

 

首元に指を這わされ、ため息を漏らす姫川杏子。

 

「あの、話聞いてました? いつもみたいに無力化するだけでいいんです。殺しとか良くないんで。うーん、そうですね。シルクちゃんくらいの想定で。シルク・ストロベリーちゃんです。彼女と戦うときくらいの出力で、程よくで」

 

『……』

 

白く長い髪。その隙間から、目が一つぎょろりと蘆屋に向いた。

 

 

「すごい。あれが神さまなんだ」

 

竜の如き角が2つ頭から生え、白く長い髪を垂らし、顔が見えない。

 

灰をまぶしたように薄汚れ煤けた小忌衣。

 

全身が、水に濡れている。

 

それが涎を垂らすように、髪からしとしと床に落ちる。

 

指や手は枯れ枝のようだ。

 

神、神か。

 

「祟り神だねー。初めて斬るよー」

 

『神を斬る、神を斬る、神を、斬る! おぉぉ、おぉおぉ代行者、毘沙門天の代行者よ、斬るか、我を、斬る、その光りが接吻したような刃の薙刀で、聖者の肉を切り裂く鋭利な白虎の牙で、かくあれかしと呟きながら斬るか、罪はあるか? 罰のみあるか? 血染めの大蛇、阿頼耶識の勾玉、原初の土を二度混ぜ旭光、外様の国のまりあの諮問、餓えた鼬の晩餐歌ーー』

 

「えっ、ちょ、なんでもうおっぱじめて!?!?」

 

「審判、向こう詠唱始めちゃったー。ずっこいよー。まぁいいけど、じゃあよーいスタート」

 

 

 

 

「え、え!? ちょ、ちょっと!! あーもう!!! 実況の機会を奪わないでよ! 私これで就職するつもりなんだからね緋恋ちゃん!!! 一回戦第5試合!! 【今毘沙門天】 蘆屋 緋恋vs【祟神サーの姫】姫川 杏子!!! れでぃふぁい!(出来る限りの早口)」

 

 

 

 

 

 

 

 

試合開始10分後。

 

神の体を同時切り17分割して悠々とステージから降りる、幼馴染ちゃんがいた。

 

幼馴染ちゃんの最後のセリフは、「良い汗かいた」だった。

 

「えぇ……。いや。えぇ……? ウソォ。途中から全力だったのに倒しちゃった。初めて見たこんなの。うわーすごい。後で蘆屋さんとお話しできるかな。早く私も神様から解放されたいんだけど誰も倒せなかったから諦めてたのに。……。まだ契約紋は残ってるっぽいし、でも彼女なら私を助けてくれるんじゃ。……ん? あれ? どこにいったんだろう、神様」

 

姫川杏子が周囲を見ても、あの万夫不当の神はいない。

 

あの神が17分割された程度で死ぬはずがない。

 

「--まさか」

 

姫川は声を漏らした。

 

「……女の子に負けて、ふてくされて引きこもったんだ……」

 

彼女は鼻歌スキップしながらステージに降りた。

 

この後、友達であり同じく一回戦負けした【黄泉比良坂で会いましょう】忍坂 義和と露店巡りでもしようと思って。

 

次の試合の、友達を応援しようと思って。

 

 

 

神の所在を、見失ってしまったのだ。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

side 忍坂 義和

 

【黄泉比良坂で会いましょう】忍坂 義和は嘆いていた。

 

彼は一回戦第三試合で、同じ学校のシルク・ストロベリーと対戦させられた。

 

理由としては、一回戦第1試合で同校対決が発生したため、なし崩しに同校対決がオッケーの空気になってしまい、学校が被っても戦わされたという悲しい結末だった。

 

「はぁ……。まさか禁術一つしか出せないとは。いや分かってる。分かっているんだ。てかなんで同じ学校で戦わせるんだよ。油断してないシルクに勝てるかよ。こう見えてあれだかんね。あいつマジで一回僕に負けてめっちゃ対策してっかんね。あのビーム一つで滅茶苦茶色んな付与されてっからね。ふざけてる。マジで今まで夜な夜な準備してたの全部無駄かよ。くぅ、シルクもシルクだよな。マジで。もうちょっと花をさ、持たせてくれてもいいじゃんか。僕だって徹夜ですごい頑張ったんだから初手で機会を全部奪わないでほしいっていうか」

 

顔面に経文が書かれた包帯をぐるぐるに巻き、首元までボタンをきっちりしめた男子学生服。

 

忍坂は呪具を全身に身に着けた、年相応の中二病である。

 

つまり愚痴を吐くときは、普通に愚痴を吐くのである。

 

「もっとさぁ、ポーズとか考えたんだよ。この技使うときは詠唱してとか。滅茶苦茶暗記したのに」

 

ちなみに、彼はモチベーションで性能がよくムラつきが出る人であり、テンションが上がれば上がるほど強くなるタイプでもあった。

 

彼自身の陰陽師の才能は無い。

 

しかし、禁術の才能と、呪具を扱う才能だけは尋常じゃなかった。

 

だからこそ学園選抜であり、その性能を知っていたシルク・ストロベリーが初戦というのが最大の不幸であった。

 

彼は初見殺し限定で、下手をすれば【餓者髑髏の花嫁】小笠原ひとみよりも実力が上である。

 

「はぁー。もういい、姫川の試合もすごかったからあとで声かけて、二人で松前応援してくかぁ……」

 

同じ学園の【祟神サーの姫】姫川 杏子に合流後、【トゥス-クル】松前 鈴鹿を応援すべく応援席に戻ろうとする、その時だった。

 

「おい、クソファッション」

 

「クソファッ!?」

 

動揺して振り返ると、【獅子強攻】安倍怜音がいた。

 

「あ、あの。なにか、じゃなかった。クックック、安倍の零れ球が一体我に何の用か」

 

「--、そうだな。クソファッション。今度安倍家からの持ち出し禁止の特級呪物くれてやるから力を貸せ」

 

「--えっ!?!?!?!? ま、マァジぃ!!!!!!!!!」

 

忍坂 義和は禁止とか特級呪物という言葉に弱かった、ただのオタクである。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

side 須藤与一

 

「やっほー。終わったよー。与一くんデートしようー」

 

試合を終えて、幼馴染ちゃんがニッコニコしながら俺の右腕を引く。

 

「は?」

 

ほらぁひとみキレたじゃん。やめてよもぉ。もう疲れたよぉ。

 

しんどいよぉ。

 

なんで俺このトーナメント参加してるの?(今更感)

 

何でいつも変なことに巻き込まれるの?(今更感)

 

まぁ、正直なぁ。

 

ニャルラトホテプの刺客の一人、迫野 小登里が弱かったことと、ニャルラトホテプから刺客はぬらりひょんと聞いている。

 

そして、神に勝った幼馴染ちゃんが右ブロック全勝の未来が見えすぎている。

 

おそらく、学生はフェイク。

 

ぬらりひょん対策を十全にすべきだ。

 

というかぬらりひょんは脱出できるのか?

 

親父とその部下が監視しているんだ。でも、俺が戦うのか?

 

ーー監視の強化を進言する必要があるのか。

 

ーーそれとも、放置すべきか。

 

「与一さん」

 

いろはが俺の肩を掴んで顔を寄せてきた。

 

「そういえばお父様は今日いらっしゃってるんですよね。1回戦が終わる前にご挨拶したい気持ちなんですけれど」

 

「え? いや親父は警護で……てか残った試合も……。ん」

 

いや。

 

アリか?

 

ニャルラトホテプの問題を、俺一人で解決することなんてない。

 

それに無駄な犠牲を出す必要もない。

 

次の試合が観られないのは残念だけど、それでも行くべきかもしれない。

 

親父が動けば、まだ、なんとか……。

 

あの人も動いてくれたら、なんとか……。

 

 

 

 

貴賓室に目を向ける。

 

今考えていた女性と目が合った。

 

金髪の長い髪。九本の長い尾。

 

ーー銀子さんと。

 

銀子さんが、軽く手を振った。

 

俺は、手を挙げて会釈して、そっちに行くとジェスチャーをした。

 

すると彼女は、親父を呼んで、俺のジェスチャーの内容を伝えているようだった。

 

助かる。そう思って俺はみんなと一緒に貴賓室に向かう。

 

ーー銀子さんの顔を見て何となく思い出した。

 

 

俺が7歳の時、何が起こったのかを。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「ひっひっひ、儂を目で追える幼子がいるとは驚いた……。嬉しいのぉ。嬉しいのお。これだから俗世は辞められん。--斬りたい獲物が多すぎる」

 

一瞬の出来事だった。

 

それは須藤与一がいつものように稽古をしていた時の事だった。

 

稽古中に幼馴染ちゃんと再び戦い、無事逃げまどい、涙をこぼしていた。

 

茂みの中で泣いているときに、激しい音が聞こえたのだ。

 

それが気になって顔を出して、音の鳴る方に走った。

 

走った先にいたのが。

 

ドスを持ったぬらりひょんと、銀子だった。

 

「っ!? 坊や、逃げーーーー」

 

「---渇ぁぁっっっ!!!!!!!」

 

一瞬の出来事だったのだ。

 

一瞬にしてずたずたに切り裂かれた銀子。

 

何が起こったのかまるで分っていない様子で唖然としている彼女だったが、須藤与一だけは、目で追ったのだ。

 

追えてしまったのだ。

 

「あぁ、ああ嬉しい。だがまずは狐追いじゃあ、狐狩りじゃあ」

 

後頭部が肥大化し、白いひげを生やした和装の老人。

 

ヤクザの元締めのような風格。それでいて、右手が血まみれ。

 

地面には、銀子の尾の毛が散らばっていた。

 

「ぼ、坊や……はやく、逃げて……あの、妖怪は……強くて……」

 

「っ、銀子さん……っ!」

 

血まみれで、この事態に対処するにはボロボロに成り果てた彼女を見て動揺する。

 

そして、幼馴染ちゃんの顔が過った。

 

ーー身近な幼馴染に勝てないのに、銀子がやられた妖怪に、勝てるはずがない。

 

齢7つにしては冷静な判断だったし、転生した頃の記憶が導いた結論ともいえる。

 

しかし、遅すぎた。

 

「では斬ろうか。----渇ぁぁっっっ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

霧のように姿を消し、少年の懐に気付いたら入っていて居合切りの姿勢に入られる。

 

狐狩りをする、と言って騙し、少年を殺そうと真っ先に狙ったのだ。

 

だから、銀子も対応が遅れた。

 

「坊っ」

 

銀子がようやく気付いて振り返った。

 

そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキャンッッッ!!!!!!!!

 

 

 

 

少年の持っていた木刀は、ぬらりひょんのドスを弾いた。

 

刃ではなく、持ち手の部分を正確に弾いて。

 

「だぁ!?!?」

 

老人が動揺に吠える。

 

少年の体のスイッチが、入った。

 

「-----しゃぁっっ!!!!!!!」

 

蛇がうねるが如く弾いた衝撃を生かし、剣先がU字を描いてぬらりひょんの首に向かう。

 

「--じゃかぁあああしいぃッッッ!!!!!!!!」

 

再び霧のように姿を消して、一瞬で先ほどの元の位置に戻るぬらりひょん。

 

しかし、ぬらりひょんの首元に擦れたような赤い跡が残る。

 

当たった。当たったのだ。

 

「ぼ、坊や……?」

 

「はぁ、はぁ、はぁ、い、今のは……」

 

反射だ。

 

体が勝手に動いていたのだ。

 

何故、そんなことができたのかは分からない。

 

いや、体だけはわかっていた。

 

ーー凡百の剣士と一万打ち合うよりも、一人の天才から打ち合い、躱し、逃げ続けた経験が今の技を可能にしたと。

 

負け続けたコンプレックスで今まで見えなかった、フィジカルギフテッドの本領発揮だった。

 

「ぁ、ぁあ、ぁああいいぞ、いいぞ童ぇえええええええ!!! 儂に、この儂に触れた武士は何百年ぶりかぁああっ!!!! 渇ぁああああああああッッッ!!!!!!!!」

 

消えて、側面から、背面から、正面から、地面から、空中から、様々な斬撃が飛んでくる。

 

側面からの攻撃を弾く。

 

背面からの攻撃は、体捌きで躱す。

 

正面からは打ち合い、地面からの攻撃をステップで飛び逃げる。

 

空中からの攻撃は、むしろ地に伏せて木刀をみぞおちにねじ込んだ。

 

「ガッッッ!!?」

 

「----うわあああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」

 

木刀をみぞおちにねじ込んだ後引き抜き、ぬらりひょんが空中から自由落下したのを見計らい、猫のように、弾かれるように体を回した。

 

地面に付したまま回転し、その勢いを利用して、片手で縦にぬらりひょんを斬る。

 

ぬらりひょんの背骨に木刀が振れる。

 

ばきり、と何かが折れた音がした。

 

「ぎゃぁああああああああああああああああああああああああ!??!?!?」

 

悲鳴を上げる老人。

 

致命的なダメージを負ったような声だった。

 

老人が地に伏せもがいている。

 

「はぁ、はぁ、や、やった……」

 

須藤与一は手を挙げた。

 

「やった! おれ、俺勝った! 勝ったんだ! 銀子さん!」

 

「--坊や、後ろぉっ!!!!!」

 

「え?」

 

少年が振り返った途端、首が締まった。

 

首を、片手で握りつぶされるように掴まれ、持ち上がった。

 

「が、ぁ、ぁあ……っ!?」

 

「ぜぇ、ぜぇ、こ、このクソ野郎が……わ、儂の……核に、き、亀裂を……ちぃっ!」

 

「ぼ、坊やぁああ!」

 

ぬらりひょんが、須藤与一の体を銀子に見せつけるように突き出す。

 

「九尾の狐よ、このままでは童は死ぬぞ、ほら死ぬぞ、もう死ぬぞすぐ死ぬぞ! さぁどうする? できるか? 目の前の命を犠牲にしてでも、己の封印を解かずに生きていけるか? さぁ、九尾の狐、稀代の悪女よ!!! 封印を解け!!! 解かねばガキは殺すぞ!!! 儂をこれ以上怒らせるか? 殺すが先か否か!!!!」

 

「ぐ、ぐぁ、があぁあああっ、あぁ……ぁあっ!」

 

「坊や! 坊や! やめ、やめて、やめてぇ! やめてよぉ!!! その子は、その子は殺さないで! お願い! 私の、私のダメなところを、受け入れて肯定してくれた、ただ一人の、子どもを」

 

「解けぇええええええええええええ!!!!!! 解かねば殺すと儂は決めたぞぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

「っ、ぁぁ、ぁあああああああああああああああああ」

 

 

 

九尾の狐の封印は、元を糾せば契約である。

 

ーーお願い。もう、私は私として生きたくない。

 

安倍晴明は、その願いを叶えた。

 

悪しき心を封じて、善き心のみで生きていける封印を施したのだ。

 

 

つまり。

 

「元の私に戻りたい」

 

そう考えて、受け入れることが安倍晴明との約束であり、たった今それが破られた今。

 

つま先から、指先から真っ黒に染まっていく感覚が、銀子にはあった。

 

戻る。

 

見るだけで、意識を向けるだけで、触れるだけで人間を殺す化け物に、戻る。

 

戻っていく。

 

戻ってしまう。

 

彼女の涙とともに、淫虐の二つ名が正しいものに変質していく。

 

 

「ぐ、は、はっは、がっはっは!! なんと想像以上の妖気! 太古の怪物、人類の罪の集合体! --さぁ甦れ九尾の狐。ともにこの世を乱すため……」

 

「っ、らぁっ!!!!!!」

 

「えっ」

 

握られた首を支点に、両足を振り子にして体を回し、少年は変則の飛びつき腕十字に移行。

 

一瞬で、老人の腕を逆方向に曲げた。

 

「ぐおっ!?」

 

驚きを一瞬に、首の方に片腕を回す。

 

締め技を警戒して残った腕を少年の手を防ぐために使おうと反射するも、須藤与一の狙いは別だった。

 

反対の手を、親指を立てて、老人の目を一直線になぞったのだ。

 

「がぁ!?」

 

反射的に両目を抑えようとしてしまう。

 

完全に意識が自分から離れたと判断し、即座に少年は。

 

ーー地面に転がったぬらりひょんのドスを、老人の心臓に向けて突き刺した。

 

「--くぁぁっあっはぁぁぁぁ………っ!?」

 

肺から空気が抜けるような音。

 

刃の感触は、肉がゼリーのように柔らかく、心臓がやたら硬い感触。でも、貫いた感覚がある。

 

「ぁぁぁ、ぁぁぁ、こ、こんな、子ども、に、ゆ、油断、ぁ、ぁあ、ち、ちがう、こ、これ、此れは儂の、全力じゃ、ゆだ、ち、ちくしょ、ぐぅぅうぁああああああああああああああ…………。……あ」

 

あっけなく、老人はゆっくりと倒れてぴくぴくと震えていた。

 

血の一滴も流れず、ただ動かなくなっていた。

 

「はぁ、はぁ。はぁ、っげほっげほっ……。……。ぎん、こさん……」

 

 

 

 

彼女は膝をついて泣いていた。

 

両の目を押さえて、瞼を閉じずに泣いていた。

 

「ぁ、ぁぁぁ、ぁぁぁ」

 

戻らなくてはいけない。

 

戻らなくてはあの子が死んでしまう。

 

坊やが死んでしまう。

 

嫌だ、戻りたくない。

 

あの子が、死んでしまう。

 

その前に殺さなくてはいけないのぉ。

 

違う違う違う、殺してはいけない。

 

助けなくてはいけない。

 

這いつくばって助けてくださいと懇願させてしまえ。

 

違う、違うのだ。

 

そうではないのだ。

 

所詮精通もしていない童なのだ。眼球を直接舐めて喜ぶように教育しても面白いなぁ!

 

あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。

 

悪意が、全身を蝕んでいく。

 

今まで否定してきたものが、正しいことのように思えてしまう。

 

でも、そうだ、戻ることは正しいのだ。

 

ぬらりひょんと言ったか。あの男と共にあの童の両手足をちぎってハムにでもしてしまおう。きっと柔らかくて美味に違いないぞぉ?

 

やめてよぉ!!! やめてってばぁ!!! 違う、あの”ぬらりひょん”を倒すためにはこれが正しくて。

 

ーーあ、名前、何で憶えてるんだろう。よりにもよって、最初に、あの妖怪の名をーーーーー。

 

「--さ、-----んこさぁーーーーーー、銀子さぁああん!!!」

 

名前を呼ばれた。

 

誰に名前を呼ばれたんだろう。

 

名前が分からない。

 

一回しか名前を聞いていないから、憶えていない。

 

何年も前に、聞いたはずなのに。

 

ぼう、や。

 

そう、坊やだ。

 

あの子は、坊やだ。

 

ーーあ。

 

「-----------寄るなぁああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」

 

ダメだ、見てはいけない。

 

私を見ないで。

 

殺してしまう。喜んで殺してしまう。愉しんで殺してしまう。

 

魂を汚して、体を穢して、弄んで飽きたら殺してしまう。

 

視界に入ったらダメだ。声を聞かせてもダメだ。

 

意識してもダメだ。触れてもダメだ。嗅いでもダメだ。

 

ーーあ。ダメだ。もう、手遅れじゃないか。

 

守りたかったはずの坊やはもう、私が殺してしまうんだ。

 

 

 

 

 

「銀子さ、うわあああ!?!??!?」

 

須藤与一に、妖気が襲い掛かる。

 

それは、初めてエッチな本を読んでしまう小学生のような、思春期のような、あるいは叩きつけられた下卑た感覚だった。

 

その妖気に触れたものは、みな九尾の狐に支配されてしまう。

 

ーーしかし、例外がそこにあった。

 

「-----ぐぅうううううっ!!!!!!!!!!」

 

気合だけで、彼は一歩進んだ。

 

「ち、ちくしょう、なんで俺は……。一体何が……」

 

その妖気は絶え間なく襲い掛かっている。

 

言わば嵐の中の強風。

 

肌をヒリつかせるような熱気に晒され、周囲の動植物ですら狂い始めた。

 

妖気の強大さは、ようやく陰陽庁に警報が鳴らされたレベルだ。

 

ーーそれではすべてが手遅れだ。間に合わなくなる。

 

瞬時に判断した幼子は、須藤与一はまた一歩進んだ。

 

「---銀子さぁああああああん!!!」

 

涙を流した獣が、ようやくこちらを向いた。

 

魔眼である。

 

「----ぐぁっ!?」

 

その目を見た瞬間に今までの人生の走馬灯が流れる。

 

あの目にもう一度自身を映したいと思うほどに恋い焦がれていく。

 

だが、それでも彼は一歩進んだ。

 

目がチカチカするほどの衝撃と錯覚。

 

それでも、それでも彼は一歩進んだ。

 

あと、20歩。

 

「『--どうして』」

 

彼女の声が聴こえた。

 

呪言である。

 

「-------ぐぁあああああっ!!!!!!!!」

 

鼓膜から脳が震える。

 

全身を支配するような甘美な言葉と感情。

 

肉体の細胞一つが雪のようにどさっと解け堕ちるような感覚。

 

膝から崩れ、今すぐにでも彼女の影に接吻したいと思わせる支配力。

 

ーーそれでも、少年は止まらない。

 

「ぐ、ぁ、ぁぁっ!!!」

 

鼻血が出る。

 

人間の限界を超えた、力みが原因だった。

 

そう、今でさえ既に限界だ。

 

腕を動かすのでさえ必死だし、足を前に進めるのも億劫だ。

 

でも。

 

それでも。

 

泣いている彼女を、見過ごせなかった。

 

「ぎ、んごぉ、ざぁ、んっ……」

 

「『っ、近寄るな童ぇっ!!!! 坊や!!!! 喰われて死にたいか!!!! いいからもう逃げて!!!! 何故倒れぬ!!!! なぜ屈さぬ!!!! お願いだからぁ……殺させないでよぉ!!!!』」

 

「うる、さぃ……ッ!!!!!!!」

 

「『!?』」

 

バチッ、と、神経が焼き切れる音が聞こえた。

 

残り15歩。

 

目から出血が始まった。

 

血の涙と、口からも血がダラダラと流れ始める。

 

舌を噛んだのだ。

 

正気を保つために。

 

相対する銀子も、口から血を流していた。いや、語弊がある。

 

正気を保つために、腕を深く噛み千切らんとして、口の中からじゃばじゃばと血が流れていたのだ。

 

それは、最悪手であったのに。

 

「-----~~~~~~~~~ッッッ!?!?!?!??」

 

少年の鼻に、彼女の血の匂いが混ざった空気が入る。

 

肉体が悲鳴を上げた。

 

【屈しろ】【屈してしまえ】と脳がスパークしていく。

 

【此の屈強な兵士のように】【此の偉大な大王のように】

 

【此の醜い豚を演じる貴族のように】【此の威張り散らした民衆を束ねる平民のように】

 

【此の着飾ることしか能がない聖女のように】【此の蝶よ花よと箱に閉じ込めて肥やした生娘のように】

 

【此のひもじくもやせ細り怠惰な奴隷のように】【此の生きるだけで無様とされた罪びとのように】

 

【屈しろ】【屈してしまえ】

 

声が聴こえる。

 

脳がその指令に答えようとする。

 

ーーそこで少年は、ふと思いついた。

 

そうだ。脳みその言うことなんか聞くから前に進めないんだ。

 

思い切り、彼は、

 

 

 

 

自分の顔面を殴って、また一歩進んだ。

 

「--あぁ、さいしょからこうすればよかったんだ」

 

一歩進んだ。もう一回思いっきり自分の顔面を殴った。

 

鼻がつぶれた。

 

「よけいなことを、かんがえるから」

 

耳に掌底を思い切り当てる。

 

鼓膜が弾け飛んだ。

 

「まえに、すすめないんだ」

 

一歩進んで、こめかみを殴った。

 

ズレて、目の上が切れてしまって、片目が開かなくなった。

 

「『え、え?

 

「ーーぎん、こ、さん……」

 

思いっきり太ももを叩いて、馬に鞭をやるように、前に進んだ。

 

思いっきり腕を殴って、正気を何度も取り戻した。

 

あと7歩まで進んで、目の前の誰かが、泣き叫んでいるような気がした。

 

「『何をしている!? なんで、もうやめて! 私にそこまでする価値があったとでも!?ただ慰めていただけの間柄であろうに! そんなことしなくていい!もう私の事はいいから! よ、寄るな人間!私は偉大なる、九尾の狐であるぞ……っ!!理性を保ったまま、私に近づく人間なぞ……!! これ以上やめてよぉ!!!あ、あぁあ、ぁあああああああ』

 

目の前が霞んで、声もよく聞こえなくて、ボーっとしてしまって、よくわからない。

 

あぁよくわからないことは良いことだ。

 

だってそのおかげで、一歩前に進めるんだから。

 

あと、6歩。

 

九尾の狐が、陰陽術を展開する。

 

「『何をするつもりだ人間!!寄るな、嫌、寄らないで!怖い、怖い!人間なんか嫌い!怖い!!いつもそうだ、いつも人間は私の事を好き勝手しようとする!嫌だ、もう私は人間なんか怖くない!支配できるんだ!自由に殺せるんだ!!もう誰も私を恐れない!!私を道具みたいに使わない!!力が、力があるんだ!そうだ、だから、でも、あぁああああああ来るなぁああああああああああああああああああああ!!!!!人間風情がああああああああ!!!!!!!!』」

 

木、火、水、土、金、五行の陰陽術がフル回転する。

 

それは宝石のような輝きを持って、ガトリング砲のような射出で須藤与一に向かって飛んでいく。

 

術式が発射される寸前、突き出した右手を抑えるように、左手が射出方向を突き飛ばして変えた。

 

しかし遅かった。

 

土の術式の一部が、彼の腕の肉を削いで、火が彼の髪を焦がし、木は彼の鎖骨を粉砕した。

 

「--ぁぁ、つ、ごうが、いいや。これで……もう、いっぽ……」

 

残り、5歩。

 

「『寄るな、寄るなよぉ……、いつもそうだ……お父様はあの帝に殺されて、お母様はそいつに私を売って……っ、宮中ではみんなに弄ばれて、外のやつらは、ひっ、ひや……そうだ、そうだ、みんな、みんな私が悪いって言って、違うもん、違う、私は悪くない、悪くなかったのに、そう、そうだ。だから蘇ったんだ私は、人間は、人間というだけで悪いやつなんだ、みんな、みんながわたしのこといじめてくるの! みんなわたしのこときらいなんだ! わたしわるくないもん! そうだよ! あいつらがさきに、さきにやったからやりかえしただけだもん! わたしがやりかえさなかったら、みんなわらってくるんだもん! だれもたすけてくれなかった! じゃあわたしがやるしかなかったの!!! お、お前も、お前もそうだ、きっとそうだ、だってそうだ!!! 人間のくせに、人間の癖に私に逆らいおって!! 私の事を、なんだと思ってる!! 千年狐狸精たる私を、九尾の狐を!!!!!』」

 

無理やり右手が再び彼に照準を向ける。

 

須藤与一は、一言だけ呟いた。

 

「--九尾の狐は、知らない。でも、銀子さんなら、知ってる」

 

その言葉に、陰陽術が止まって。

 

意識を半分飛ばした少年は、彼女の眼を見ながら、答えた。

 

「俺、よくわかんない。でも、銀子さんが今大変なのは、なんとなぁく分かる……。俺ね、いつも訓練でさ。……っ、泣いちゃうんだよぉ……。だってさぁ……幼馴染ちゃんがさぁ……っ、強くて……、俺ぇ……才能なくてぇ……っ……だけどさぁっ!!!!」

 

「『!?』」

 

「そんな俺をさぁ……ずっと、声、掛けてくれたじゃんかぁ……っ、俺さぁ……ひっく、ほんと、つらかったんだけどさぁ……ぐす……それうれしくてさぁ……。だから……俺もさぁ……がんばってさぁ……銀子さん助けるからぁ……っ。じ、実は今めっちゃ痛くてさぁ……ほんとうはぁ……もう、たちたくないんだけどさぁ……でも、こうしないと、銀子さんのとこに、行けないからぁ……っ」

 

残り、4歩。

 

「ぐす、だって、俺もがんばって、ひっく、あのへんなおじさん、たおしたんだよ!! なのに、倒したのにさぁ!! これで銀子さんが苦しそうなの、嫌なんだよぉ!!! なんでそんなことになっちゃってるんだよぉ!!! っ、ぶああかぁああ!!! ばかああ!! 」

 

「『!? ……ぬ、ぬらりひょんが……」』

 

そこでようやく、彼女はぬらりひょんが倒れていることを認識した。

 

残り、3歩。

 

そして。

 

 

須藤与一はそこで足を止めた。

 

「……ひっく、……ぐす……っ。あ、あれ……? ぐすん、ずずっ、……なんで?」

 

頑張らないと動かない腕を必死に持ち上げ、鼻水をぬぐい、ポカンとした顔で、彼は彼女を見た。

 

「……名前、憶えられるようになったの?」

 

「『……ぁ』」

 

「……っ、よかった、ねぇ……よかったねぇ、ぎん、こ、さ」

 

ふらっと、彼は膝を着いた。

 

「『坊やッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』」

 

残り3歩、彼女が地面を蹴った。

 

頭が地面につく前に、狐が地を這うように駆けて、彼を抱きかかえた。

 

「『坊や……』」

 

「……ぅ、ぁ……」

 

「『坊や!』」

 

「……ぁ、の、ね……あの、ね……」

 

「『喋るでない! 今治療を……』」

 

 

 

 

 

「おれね、須藤与一って、言うんだよ、なまえ、須藤与一、須藤与一なんだぁ……へへ……」

 

 

 

 

 

「『ぉぉ、ぉおお……、あぁ。あぁ……、よい、ち……すどう、よいち…………、良い名だ、良い名だねぇ、須藤、与一』」

 

 

はらはらと涙をこぼして、彼女は、初めて……。

 

人間に救われた。

 

悪しき心は、既に銀子の体を蝕んでいる。

 

しかし。

 

ーー悪しき心が、須藤与一という人間を認めた。

 

須藤与一という人間という自己犠牲もいとわず、自らの意思で、屈さず、打算なく自らのために動いてくれた。

 

それだけで、彼女は良かったのだ。

 

本当に、それだけで良かったのだ。

 

初めて彼女は、真心で人間を抱きしめたのであった。

 

 

ーー須藤与一、七歳。

 

前人未踏の、ぬらりひょん及び九尾の狐 討伐完了。

 

 

 

 

その後の話は、須藤与一だけが知らないのであった。

 

気付いたら彼女は正式に須藤家の使用人になっていたのだから。

 

 

ーーーー未だに少年は、老人をぬらりひょんと認識していない。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

一回戦第6試合

 

●【聖伐執行】犬鳴 響

 

vs

 

〇【トゥス-クル】松前 鈴鹿

 

 

≪試合概略≫

開始早々 犬鳴が日本刀を振り回しリードを広げる展開かと思いきや、突如犬鳴の側面から鹿が出現し激突。

それから松前は鉈を取り出し犬鳴の武器をへし折り、隙をついてバックドロップ。

犬鳴は何もできずに倒れ、松前は鉈を掲げ勝利宣言を行う。

その後、鹿はすっと姿を消した。見事なまでの精霊召喚であると評判を高めたのであった。

 

 

 

 

一回戦第7試合

 

〇【夢幻現の如し】伏見 遊星

 

vs

 

●【六波羅警邏 3番隊副長】常盤 夢人

 

 

≪試合概略≫

同校対決で試合は唯一30分間続くという大台になった。

伏見は九尾の狐直伝の六千もの符術を扱うという評判に恥じない千変万化の技を多用した。

しかし常盤は特殊警棒に呪力をまとわせて全ての技を叩き落とすという荒業で無効化していく。

途中から伏見が距離を取り、常盤がひたすら追いかけるという展開に。

試合開始30分が経ち、常盤が立ち止まる。

「すまない。そろそろ警備交代の時間だ。仕事は休めない。リタイアする」

と片手をあげて宣告。

「はぁ? なんでお前この日にも仕事入れとん!?」

と伏見のツッコミが会場に響き渡った。

六波羅警邏。その正体は学生をこき使うブラック企業だったのか。

陰陽庁の判断が楽しみなところである。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

Side 須藤与一

 

 

俺とひとみ、いろは、幼馴染ちゃんで廊下を歩いている。

 

ふと俺は思い立ったように幼馴染ちゃんに声をかけた。

 

「そういえば幼馴染ちゃん、今までの事あいつに伝えようぜ」

 

「あいつってー?」

 

「メスガキママだよ。あいつの力も必要になるかもしれないだろ? あいついればマジで百人力なんだけど……」

 

「んー。あー。まさかここで褒めが入るとはー」

 

「ん?」

 

がたんと後ろで音が鳴った。

 

なんだろう。廊下の曲がり角の方から音鳴ったっぽいから何も見えないけど……まぁ大したことはないだろう。

 

「いや、本音だぞ。あいつやっぱ普通に特級呪言の使い手だし。正直今回のトーナメントにいたら普通に俺もどうなるか予想できないし。ただなぁ。あいつずっと俺に会ってくれないじゃんか。「おご、ほぉぉお♡」されても困るけど。親父さんも反省を促すとか言って解呪しないんだろ? 今回は解呪してもらってさ。本気で動いてもらった方がいいんじゃないか? というか普通に接したいそろそろ。「おご、ほぉぉお♡」の出会い方は嫌なんだけど。てかあいつまた美人になってたよなー。すげーよなあれ。テレビの女の子よりかわいいぞびっくりしたわ」

 

「んー」

 

ちらっと後ろを見て、幼馴染ちゃんは鼻で笑った。

 

「まぁ。拗れてるからねぇ」

 

「そっか……そんなにも呪詛が……」

 

「まぁ、呪詛かなー」

 

「くそ、戦力が欲しいぜ……ん?」

 

向かい側から、一人の男が歩いてくる。

 

あれは、開会式の時にめっちゃ絡んできたメスガキママの代理で出ることになった土蜘蛛の弟子】土御門 松陽(つちみかど しょうよう)だ。

 

「……ん? ……ち、お気楽ハーレムか」

 

「すーごい斬新な煽りされるぅ……あ? お前羨ましいか? 代わっても良いんだぞ? ん?」

 

「嫌に決まってるだろ呪いの塊みたいなやつと天才と……、まぁその子くらいだわな良いと思えるの」

 

「ちゅん?」

 

そう言って須藤いろはに目を向ける土御門ニキ。

 

残念なことに見る目は無いようだ。

 

「ーー与一さん。後でお話があるんですけれど」

 

バレた。

 

「ち、だからお気楽って言ってんだよ。勝ったやつは気楽でいいよな。……まさか、あの安倍時晴を倒すなんてな……」

 

どこか遠い目でボーっとしている土御門ニキ。

 

「なんだよ。初見殺しなんだから別にそういうこともあるだろ」

 

「ーー舐めんなよ。あいつはすげぇやつだ。明晴学園のトップクラスで、天才だ。本物だ。すげぇやつなんだよ。……俺と、違ってな」

 

「ん?」

 

「分かるか? そこの蘆屋にはウチのやつらボコボコにされて、時晴超えを目標にやってきたはずなのに一瞬で潰され……、凡人だってことをずっと自覚させられたままトーナメントにおこぼれで参加させられる気持ちが。土御門の人間として、……いや、俺個人としてめちゃくちゃ屈辱だぜ。お前とは決勝で会うことができる。でも、……お前も、俺が決勝に上がると露にも思ってない。そうだろ?」

 

「むっ」

 

……言い訳がしようがない。俺はさっきまで幼馴染ちゃんが上がると思っていた。

 

あまり言いたくはないが、彼が決勝に行くビジョンは持っていなかった。

 

「はっ。だろうな。俺もそう思う。だが、舐めるなよ。凡人には凡人の意地とプライドがあるんだわ。蘆屋にも、お前にも、絶対負けない。宣戦布告ってやつだ。分かったか。逃げんなよ」

 

「--あぁ。分かった。俺も決勝、頑張るよ」

 

「--ひでぇやつだ」

 

そういって土御門 松陽は俺と反対の方向に向かった。

 

「……俺、あぁいうやつには頑張ってほしいなって思っちまうなぁ」

 

そういうと幼馴染ちゃんが肩を小突いた。

 

「なーにー。私と戦いたくないのー? ぷんぷん」

 

しまったぷんぷんモードだ。

 

ひとみ以外にも使い手がいたか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side  メスガキママ

 

 

「ちっ。余計なこと言い過ぎたな……。……ん?」

 

廊下の曲がり角、膝を震わせながら座り込んでいる女性がいた。

 

名前を、賀茂モニカという。

 

「あ? 賀茂のモニカじゃねぇか。何してんだお前」

 

「ひぃ♡ひぃ♡悔しい♡不意打ちされた♡」

 

「……あぁ。呪詛返しか。なんか有名なあれ。相手もしやあのお気楽ハーレムの主か」

 

「くっ♡そんなことない♡って言っても……通用しないんでしょうけど♡私のざぁこ♡」

 

「……ちっ。本当におこぼれじゃねぇか。面倒くせぇ」

 

「……言うてさ♡貴方強いほうでしょ♡なんで凡人とか言うの♡」

 

「お前が、……お前らと同じ世代ってだけで、生き地獄だろうが……。ちっ。まぁいい。いいか、この大会が終わったら次お前だからな。覚悟しろ」

 

「はいはい♡」

 

そう言って土御門 松陽は戦いに向かう。

 

……もはや、周囲に棘をぶつけなければ勝てないと思う程度に気持ちがすさんでいるのだろう。

 

普段学園で兄貴分として活躍している彼を知っている分思うこともある。

 

土御門一門の頼りになる存在。

 

血族のバランサーとしてのセンスは、彼が一際うまい。

 

でも、トーナメントでそれは評価されない。

 

そこだけが残念だ。

 

「あらぁ~~♪ もう行った? 気持ちいいねぇ~~♪ 須藤ちゃんの褒めでこんなにかわいくなっちゃって~~」

 

ボンッと煙を立てて賀茂モニカの目の前に、角と羽としっぽを生やして、露出の多い服を着た女性が出てくる。

 

サキュバスである。

 

かつて賀茂モニカが最上級好き好きビーム(正式名称:禁忌術式第3号言紡ぎ橋姫の縛)にオリジナル術式を足してサキュバス召喚でサキュバスに力を借りたことがあった。

 

その時のサキュバスである。

 

呪詛返しの影響でずっと賀茂モニカの中で生きていたのだ。

 

宙に浮いた彼女を見て、モニカはため息を吐いた。

 

「……なに? 貴方が出るなんて。呪詛返しを食らった時以来じゃない。ずっと頭の中でしゃべってただけの癖に……って、呪詛が」

 

「あ~~ん♪ そりゃ呪詛の塊みたいな? サキュバスの私が出たら一時的に呪詛も抜けちゃうわよね~♪ で? で? どうする? 私が出たら呪詛が抜けるのよ? ラブ? ラブっちゃう? 須藤ちゃんとくんずほぐれつラブっちゃうルート入っちゃう??? きゃ~~~~乙女回路フルバースト!」

 

「やめて」

 

ズバッと切り替えし、スカートについた埃を叩いて落とし立ち上がる。

 

「あのね、余計なことしないで。呪詛を言い訳にして、わざわざ与一くんから離れてるんだから。そうしないといけないんだよ。緋恋に迷惑かけたくない」

 

「んー。あのねモニカちゃん? ずっと貴女の心に潜んでたから分かるけど、それ健全じゃないのよ~。というか、貴女もう実力的に呪詛を取り出すこともできるのに! 蘆屋ちゃんの恋を応援するためにわざわざずっと呪詛返しを受け入れていたの?」

 

「当たり前でしょ。私は緋恋の悪口言ったり、与一くんを倒すために呪詛を掛けたり、最低なことをし続けた。だからもう迷惑かけたくないの。でもね、呪詛返しも悪くないよ。ーーあのあまりに強力な恋心は、ほんのちょっと文通するだけで心が満たされるんだから。それでいいの。与一くんと私の距離は、それで満足だから。彼の声を聞いて満足だし、彼の姿を見るだけでもう三日は寝れなくなるの。そんな些細な幸せで私は生きていけるから。ほら、早く戻って。私は絶対与一くんに会わないから」

 

一呼吸でその言葉を言った賀茂モニカに向かって、サキュバス(本名:アーニャ)は白目をむいた。

 

「げ、激重~~♪」

 

「誰が重いっていうのよ」

 

「ん~~。須藤ちゃんって生きる脳焼きマシーンなのかしら~。サキュバス的にも普通に会話したいんだけど~♪」

 

「は? 絶対会わせないから。どうせ貴女も会ったらあいつの良さに気付いて堕ちるんだから。黙ってて」

 

「え? あ、あの~。え?え~?」

 

サキュバス、アーニャ。

 

自身を召喚した主について、見誤っていたことに今気付く。

 

「ふふ、大丈夫だよ与一くん。こっちには幼馴染ちゃんっていう盗聴器があるから話全部分かってるからね。ありがとう幼馴染ちゃん。一緒にシェアハピ(意味深)しようね。でもまずはニャルラトホテプの陰謀を何とかすればいいんだよね。待っててね与一くん。私頑張るから。ほら、さっさと戻れサキュバス。仕事よ仕事。あれでしょ。【五星附属術浄学園】についてまず調べて、その後出場選手について詳細なデータを出す。学園に電話かけて片っ端から呪うよ。Hurry!」

 

「激重~」

 

本当に見誤っていたことに気付く。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

side須藤 与一

 

 

 

 

 

貴賓室前で待っていると、親父と銀子さんが出てきた。

 

「親父、緊急なんだけど」

 

「うん、それで何が起きるの?」

 

親父は話が早くて助かる。いや、もしかしたら俺の発言について過度な期待を持っている可能性はあるけれど。

 

「実はかくかくしかじかふにゅふにゅほにゃほにゃで」

 

「なるほど。ニャルラトホテプとぬらりひょん、【五星附属術浄学園】が怪しいってことだね」

 

流石、親父は話が早くて助かる。

 

「……なるほど。じゃあ【五星附属術浄学園】の教師、若流 夏(ニャル サマー)は……偽名」

 

「うんクソみたいな偽名ぃ~」

 

なんやねんその偽名。おちょくってんのか。

 

いやおちょくってんだおるけど。

 

「でもね、与一。ぬらりひょんはともかく、【五星附属術浄学園】が怪しいっていうのは、若干疑問があるよ。だって、生徒3名既に脱落済みだ。そこまで期待できる生徒はいないと思うんだ」

 

「そこなんだよ。あのニャルラトホテプのことだから、絶対なにか仕込んでいるとは思うんだ」

 

原作ヒロインを、あんな風に使っているのだ。絶対、間違いなく何かある。でも証拠も具体的な行動もない。どうしたら……。

 

「【五星附属術浄学園】の対策が無理でも、とりあえずぬらりひょんの対策とかできないかな」

 

「分かった。とりあえず今連絡を取ってみるよ」

 

そう言って親父は電話をする。

 

しかし、10コール以上鳴らしても繋がらない。

 

「緊急事態かもしれない。もう既にぬらりひょんは脱出済みって考えた方がいいかも」

 

「え?」

 

まさか、一緒に訓練を手伝ってくれた親父の部下の皆さんが……やられた?

 

「くっ、警備を抜けなきゃ。ちょっと待ってて。今話をして……」

 

貴賓室の扉を親父が開けた。

 

その瞬間だった。

 

「「「「「ぎゃああああああああああああああああああああ!!!!!」」」」」

 

悲鳴が、会場全体を叩きつけていたことを知った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

side ぬらりひょん

 

 

 

明晴学園

 

地下 ぬらりひょん封印場所

 

 

『あの~、儂のことないがしろにしすぎじゃないかのう? そのぉ、いつまでやっとんのじゃ』

 

 

「「「うぉい! うぉい! うぉい!!」」」

 

「頼重隊長が来るまでお前たちはスクワットを止めるな!! 筋トレ以外に陰陽無し! 筋トレ以外に陰陽無し!! 筋トレ以外に陰陽無し!!」

 

「「「筋トレ以外に陰陽無し! 筋トレ以外に陰陽無し!! 筋トレ以外に陰陽無し!!!!」」」

 

『誰か聞かぬかぁ~もう。仕方ないのう。……じゃあ、勝手に出るぞい』

 

「!? 馬鹿め、誰が出れられると思うてか! 全員戦形組め!! 無意識に受け入れるな!! 扉が動いた瞬間、或いは出口に誰かが向かった瞬間殺せ!!!」

 

『ーーあぁ、よくまとまってくれたのう。何年も、何年も、同じ戦形で。あぁーーご苦労』

 

「ーーッ!!!!? なんだこの妖気!? いや、あまりに、これはっ!? やばい、全員伏せろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 

 

 

 

世界が切

 

    断された。

 

 

 

 

「ほぉ~、ほぉ~。さぁ……て。ひ、ひ、ひ。儂の出番だなんて。ニャルラトホテプ様も人が悪い。ぬらりひょんを、解き放つとは」

 

頼重の隊は、全員が出血し倒れている。

 

まるでひたすら遊ばれるように、切り刻まれて。

 

しかし。

 

奇跡的に、全員生存しているのは……須藤頼重の術のお陰としか言いようがない。

 

「でぇ、はぁ。儂ことぬらりひょんも……動くしかあるまいて……ひ、ひ、ひ。あぁ、斬りたいのぉ。斬りたいのぉ、斬りたいのぉ、斬りたいのぉっ!!! 全てを、目に映る命を、--あの時の狐と、少年を!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

その場の影が揺らぐように、長い日本刀を揺らしながら、【ぬらりひょん】は学園から逃亡した。

 

ーー電話が鳴り響く。誰も取れる状態ではない電話が、無情にも。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

side 土御門 松陽

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何が起こった。

 

土御門 松陽は尻もちをつくように結界を背に座るように倒れていた。

 

顔を上げる。

 

額から血が流れている。よく見えない。

 

【流星の魔法少女】如月 桐火。

 

あいつだ。

 

あいつが、ヤバすぎる。

 

 

 

 

最初こそ問題なかった。

 

いつものように戦えたのだ。

 

土蜘蛛の弟子として、プライドを持って、陰陽術に絡め手を混ぜながら上手く戦えていたのだ。

 

相手は中学生くらいの年齢だ。戦いの場で怯えるばかりだった。結界を張って、震えて自分を守るだけだったのだ。

 

「う~! 怖いよプリズム!」

 

『安心してキリカ! 君は僕が選んだ魔法少女なんだ! 負けることはないよ! ネ!』

 

悪ふざけのような声が彼女のステッキから聞こえる。

 

使わなければただのおもちゃ、そう思っていた。

 

「分かったよプリズム! え~い、変身~~~!」

 

そう言った途端、彼女が光に包まれ、変身していた。

 

これも許容範囲内。

 

赤と白を基調にフリルがたくさんついたドレスを身にまとい、彼女は決めポーズを取った。

 

「闇夜を切り裂く尾を引く彗星、煌めく生きた流れ星! 百万の恵まれた素敵な命! 魔法少女キリカ! ビシッとバシッと、戦うんだから!」

 

「学芸会は、ヨソでやんなぁ!!!!!」

 

土御門松陽の右腕には陰陽装甲のガントレットがある。

 

これを使うことでパイルバンカーのように術式を相手の体内にぶち込むことができる優れものだ。

 

彼女の腹に、一撃を食らわせる。

 

「--獲った!!!」

 

まずは一撃。この調子なら勝てる。そう思ってた。

 

 

本当に、そう思っていたのだ。

 

 

 

「うぅ、痛い。もう、許せないんだから!」

 

『キリカ! あの技を使おう!』

 

「えぇ!? あの技を!? で、でも使ったことないし……ここで使っていいの?」

 

『いいよいいよ! だって。もう、”負けちゃった”んだから。使っていいんだよ!』

 

「そっか! そうだよね! 分かった! 【式神召喚】!」

 

そう言って、彼女は式符を投げた。

 

二人の女が、現れた。

 

 

 

 

 

 

「う、うぅー。ごめんよぉ桐火ー。ふがいないー」

 

【宴夜航路】迫野 小登里。

 

「くぅ……すまない、桐火……貴方に全て委ねてしまうなんて」

 

【聖伐執行】犬鳴 響。

 

二人が、何故か、ステージに立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?」

 

間抜けな声が、ステージに響いた。

 

「な。え、は? おい。おい、審査員。これは、これはどういうことだ!!! 増援だと? 明らかに不正じゃねぇか!!!!!!」

 

「いいえぇ? 不正じゃないんですよ。ネ?」

 

教師が、ステージに立つ人間たちに声をかけた。

 

「先生!」

 

桐火が嬉しそうに叫ぶ。

 

「ふふふ、良いですねぇ土御門松陽サン。その顔。良いことを教えて差し上げましょう。これはズルではありません。ルールに則った、正しい戦法です」

 

「ふざけ倒すんじゃねぇぞドグサレネズミが!」

 

土御門松陽は怒鳴り散らす。

 

「これは歴史あるトーナメントだ、こんなルールが周知されていない時点で、いや、そもそも1対1で戦うんだよ!! 味方をぞろぞろ増やして戦うイベントじゃねぇ!!!」

 

「いいえ? だってほら。前例あるでしょ?」

 

「は? 前例?」

 

「えぇ」

 

若流 夏(ニャル サマー)がにっこりと、人差し指を天に刺した。

 

「須藤与一さんがやってたじゃないですか。味方をぞろぞろ増やして戦ってた戦法」

 

「ふざけるな!!!!! あれは式神を召喚したんだ!! 式神は人間判定じゃ……。は? おい、ちょっと待て。……は?」

 

「気付きましたか。ではSAN値チェックです。----別に、出場選手が負けたので調伏して式神(どれい)にしてしまっても、問題ないですよね?」

 

「正気かテメェぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

若流 夏(ニャル サマー)はにっこりと、狂気的な微笑みで状況を混沌に落としていく。

 

「本人たちは喜んでその身を捧げましたよ? 本人たちは承認しているのですから問題ありません」

 

「そんな非人道的な行為が認められるわけーー」

 

「隙アリです!」

 

「がッ!?!?!?」

 

背中から術をぶつけられる。

 

試合は、止まってなんかいない。

 

誰も待ったをかけていない。

 

「--あぁそうかよ。この、畜生どもが、全員土くれに還してやる」

 

 

 

怒涛のラッシュをかけ、土御門松陽は健闘した。

 

大健闘だった。

 

それこそ、審判もその様子を見て試合を止めなかった。

 

 

なんでもあり。

 

 

それで死ぬなら死ね。

 

 

妖怪退治や、怪異の撃退に手段はいらない。

 

 

死んだら終わり。死なない備えをした者だけが勝ち。

 

 

その理念と、不正者の殺意の無さが決定づけた。

 

 

 

 

「くっ、私の剣も通用しない」

 

「私の技も上手く決まらないよー」

 

【聖伐執行】犬鳴 響。

 

【宴夜航路】迫野 小登里。

 

二人が弱音を吐いて、【流星の魔法少女】如月 桐火が覚悟を決めた。

 

「……もう、あの技しかないかも」

 

「そうだな。やるしかない」

 

「やったるでのー!」

 

「うん、やろう! 合体だ!」

 

魔法少女、キリカが叫んだ。

 

「合体!」

 

 

 

犬鳴 響

迫野 小登里

 

 

 

 

二人の命を捧げ、魔法陣が拡大する。

 

魔法の杖に、二人の命が装着される。

 

魔法の杖が、巨大な砲台に代わっていく。

 

美しい光景だった。

 

まるで天使に祝福された、芸術品へと、杖が変わっていくのだから。

 

 

 

「は?」

 

土御門松陽は動けなかった。

 

無理もない。

 

式神というのは、致命的なダメージを負っても様々な方法で回復することができる。

 

時間はかかるかもしれないが、それこそ蘇生だって出来るのだ。

 

だからと言って。

 

ただの陰陽師を式神にして、命を捧げて、力を得る。

 

明らかに、邪法だった。

 

「お前、イカレてんのか」

 

「違います! これはみんなの力を借りて戦う、友情のパワーなんです」

 

「--狂ってる」

 

「--我が名は●●●●・●●●、貴方を撃ち抜く、流星の如く! 星よ産まれろ、【潰える腕、訣別の大地、アーカムの名の下に(アトザ・メーテオブ・マドネス)】

 

 

 

流星が、光の速さで土御門松陽に突撃した。

 

その瞬間、記憶が飛んだ。

 

 

 

 

何が起こった。

 

土御門 松陽は尻もちをつくように結界を背に座るように倒れていた。

 

顔を上げる。

 

額から血が流れている。よく見えない。

 

【流星の魔法少女】如月 桐火。

 

あいつだ。

 

あいつが、ヤバすぎる。

 

「嘘、気絶もしてないなんて!?」

 

少女が悲鳴を上げる。

 

気絶もしてない?

 

ふざけるな。

 

ふざけるなよ不正者(チーター)。

 

「--この程度、で……俺が立てないと思ったかよ、クソ野郎がぁっっっ!!」

 

「ひっ」

 

土御門松陽は血の気の多いタイプである。

 

それこそ安倍時晴に喧嘩も売るし、賀茂モニカにも喧嘩を売るし、蘆屋緋恋にも喧嘩を売る。

 

須藤与一だって、倒したい人間の一人にカウントしている程度に、血の気が多い。

 

だが、悪の道は進んだ覚えは一つもない。

 

彼は陰陽師だ。陰陽師なのだ。

 

土御門松陽は、土御門家の人間としての役割を果たそうと、必死なだけの陰陽師なのだ。

 

だからこそ許せない。

 

目の前の狂人を、彼は決して許さない。

 

「ぶっ殺してやる、外道」

 

「ひ、ひぁ」

 

まだだ、まだ戦える。

 

何より、まだ残っている切り札がーーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝負あり!」

 

 

 

 

 

 

審判が、試合を止めた。

 

「お、おい、ふざけるな、まだ俺は戦えっ」

 

「ダメだ! 穴空いてる!!! 内臓零れてる! もう終わりだ!」

 

「ふざけるんじゃねぇ!!! ここまで来たら俺の命よりもあいつを殺す方が先だろうが!!!!」

 

「ダメだ!! 殺しはダメ! 分かるけど! 分かるけどまず君の命!!!」

 

「離せ!!!! クソが、おい、止めるな、止めるんじゃねぇ!!! やめろ!!! 止めるな!!! 畜生ぉおおおおおお!!!! ぶっ殺してやる!!!! 逃げるな!!!! 戦わせろ!!!! 戦わせてくれよぉ!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

「えぇ、と。私たちの勝ち、なんでしょうか?」

 

【流星の魔法少女】如月 桐火が教師に問いかける。

 

「えぇ! 勝ちましたネ」

 

狂人は笑顔で答えた。

 

「えへへ、やった♪ あ、でも二人が死んじゃって……」

 

「大丈夫ですよ。何度でも生き返らせますから。何度でも、何度でも、ネ」

 

 

 

 

 

狂気、二回戦進出。

 

その様子を、須藤与一は貴賓室で見ていた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

二回戦 トーナメント 確定

 

 

 

 

【スケベハーレム】須藤与一

 

vs

 

【永弓凍土】小笠原雹香

 

 

 

【寺生まれのG】東 呉十郎

 

vs

 

【現代魔女】シルク・ストロベリ―

 

 

 

【今毘沙門天】 蘆屋 緋恋

 

vs

 

【トゥス-クル】松前 鈴鹿

 

 

 

【夢幻現の如し】伏見 遊星

 

vs

 

【流星の魔法少女】如月 桐火

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

side 須藤与一

 

 

 

「失礼いたします! 須藤与一殿、二回戦第1試合の招集がかかっているであります! 準備完了次第移動をお願いいたします! また、須藤頼重殿からご報告を受け、六波羅警邏が警備を引き継ぎます! 引継ぎを!」

 

未だに喧噪が絶えない会場。

 

化け物だ、とか。

 

新手の怪異だ、と散々騒がれている。

 

無理もない。【流星の魔法少女】如月 桐火、あいつだ。

 

あいつが本命だったのだ。

 

原作では、平和の証拠、原作主人公が守りたかった笑顔の素敵なヒロイン。

 

でも、あれは、なんだ?

 

まるでそれは、絶望の化身のようだった。

 

「須藤頼重です。引継ぎご苦労様です。君たちにお願いする僕の不出来を恨んでください」

 

「ご謙遜を! 申し遅れました。私は【六波羅警邏 3番隊副長】常盤 夢人(ときわ むうと)と申します! 偉大なる先達の頼重様に頼られることは喜びです。如何様にもお使いください」

 

「じゃあここでのルールだけ言っておくよ。日輪様に話しかけられたら話す。それ以外は話せと言われたら話す。余計なことは一切言わない。OK?」

 

「了解であります! 六波羅警邏3番隊から6番隊、此れより警備に入る! フォーメーションEXA!」

 

「「「「「「「はっ」」」」」」」

 

影のように警備員たちが消えていく。

 

洗練された手練れだ。貴賓室に親父がいなくてもこれなら時間は稼げる程度に守れるだろう。

 

「さぁ須藤与一殿! 及び式神の小笠原ひとみ殿、須藤いろは殿、ご移動を!」

 

「ん、あぁ。ありがとう……。あの、試合出てた……」

 

「はっ! 時間切れという結果ではありましたが、勝たなくて良かったです! 警備のシフト変更をする羽目になりかねませんので!」

 

「お、おぉ」

 

「それに……」

 

「?」

 

「いえ! なんでもありません! またお会いしましょう。後で時間は取れますので」

 

「……? あ、あぁ。分かった。ありがとう……。行くか」

 

ひとみといろはが、俺の横に来た。

「はい」

「はい!」

 

勝たなくちゃいけない。

 

勝たなければ、あの魔法少女がやばい。

 

ーー幼馴染ちゃんは、あいつに勝てるのだろうか。

 

それすらもう、分からなくなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

side 常盤 夢人

 

 

 

 

常盤が貴賓室の扉を閉めた途端、殺気に晒される。

 

全員が、胡乱な目でこちらを見ているのだ。

 

【陰陽庁 戦闘部 部長】安倍 邑楽(あべの おうら)が常盤に話しかける。

 

「ところで【六波羅警邏 3番隊副長】常盤 夢人、警備は君で大丈夫か?」

 

「---」

 

「ち、頼重の入れ知恵か。いい、発言を許可する。警備は、本当にお前らで大丈夫なのか、回答しろ」

 

「はっ! 仰る意味に窮しておりました。我々の懸念点をお伝えいただければ改善いたします!」

 

「一回戦負けの坊主が仕切ってる警備が、客賓を守れるのかと聞いている」

 

「はっ! 本業は守ることでございますので! こちら今回の警備概要となっております。資料3ページが基本のフォーメーション、4からは特殊事例における緊急避難誘導経路となります。こちらの指示に従っていただければ幸いです」

 

「(やだこの子ウチの子よりしっかりしてる……時晴も見習ってくれないかしら……)」

 

「? 何か不備がありましたでしょうか?」

 

「いや、ない。しかし、一つ懸念があると言える」

 

「なんでしょうか」

 

「……例えば、あの魔法少女とか、ぬらりひょ、のような怪異認定 階位 甲クラスが来た場合……どうする?」

 

その言葉を聞いて、常盤は目を瞑った。

 

「なるほど。そういうことか。【獅子強攻】安倍怜音の狙いはこちらだったか。彼が動くほどの案件、ぬらりひょんか」

 

「え。怜音ちゃん?」

 

安倍 邑楽が思わず素になった。

 

首を振って常盤が答える。

 

「いえ、失言でした。忘れてください」

 

「えぇ……言ってよぉ」

 

宮内庁代表 小笠原 遊里が思わずつぶやいた。

 

何度か思索を繰り返し、常盤は発言した。

 

「【獅子強攻】安倍怜音が自分の学園には一切触れず他校の生徒に声をかけていることをご存じでしょうか。内容は、--須藤与一殿についてです」

 

「また須藤の倅か!」

 

土御門グレゴールがわめいた。

 

常盤は姿勢を一切崩さず胸を張って説明をする。

 

「理由は分かりませんが、彼は須藤与一殿の為に動いている様子でした。しかし、ぬらりひょん、その情報さえあれば分かることもあります。--ぬらりひょん攻略のためには、今の彼では不足だということが」

 

「……分からん!」

 

土御門グレゴールが信念をもって答える。

 

「悪いがよく分からん! 我々も貴賓室にこそいる。観客も益荒男どもがひしめいておる。なぜだ? なぜ攻略のカギが須藤の倅なのだ? そも先ほどの報告もそうだ。須藤の倅は何故そんな厄介ごとに巻き込まれる? まるで、ん、……」

 

「まるで神に愛されているようじゃな。のう、グレゴール」

 

「!? ひ、日輪様!?」

 

日輪がてとてと歩いてグレゴールの前に立つ。

 

「じゃが妾は須藤の息子殿については一旦捨て置いておる。そもそも一般市民になっているのに餓者髑髏の花嫁の調伏とかよくわからんことしとるしな。それに……、あ、これは言ってはいけないやつなのじゃ。ともかく! 今は頼重が先ほど耳打ちしてくれた邪神とかいう不届き者と、ぬらりひょん、そして……【五星附属術浄学園】の情報を集めよ。あれ程の邪法を、学園が許容しているとも思えぬ。何かの思惑があるはずじゃ。じぃじ!」

 

「かしこまりました。はたして、此れは根拠ある暴論であるのか、それともーー」

 

じぃじが本を開き、動きを止める。

 

それは、たった一枚の絵。

 

たった一枚の絵のみで、小さく手紙のように文章が書いてある。内容は、ジョークのような内容だった。

 

 

 

 

 

 

やあ (´・ω・`)

ようこそ、ニャルサマーハウスへ。

この自画像はこの私、ニャルサマーの真の姿だよ。サービスだから、まずしっかり眺めて落ち着いて欲しい。

 

うん、「そう」なんだ。済まない。

SAN値直葬って言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない。

 

でも、この事件の真相を調べようとしたとき、君は、きっと言葉では言い表せない

「はいよる混☆沌」みたいなものを感じてくれたと思う。

殺伐とした世の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しい

そう思って、このページを用意したんだ。

 

じゃあ、SAN値チェックどうぞ!

 

邪魔しちゃ、ダーメ。ネ?

 

by ニャルラトホテプ

 

 

 

 

 

 

「お、おじょ、お、zy、あ、じょ、さ、おじょ、さ、ま、あ、も、もう死、申しわけ、ござ、いません、しょ、少々、お暇を……」

 

がたん、と本を落とし、目と鼻から血をどろどろと流し、老人は倒れた。

 

「じぃじ?」

 

「かぺ、か、かぺ、け、こかか、き、ひひひひひ、ご、がひ、ふは」

 

「じぃじ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

side 須藤与一

 

 

 

 

 

 

「さて、本日快晴、風速そこそこ地場安定。絶好の陰陽対決日和となりました明晴学園フィールド。実況は明晴学園放送部、青葉土筆(あおばつくし)が行わせていただきます! 二回戦第1試合を飾るのは、小笠原家の天才。氷結の呪いに特化したさせた最前線の陰陽師。一回戦を瞬殺劇で終わらせた彼女の無双が、再び始まるのか! まさにノブレスオブリージュ、まさに天才、まさに最強格! 偉大なる【永弓凍土】小笠原 雹香!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

フィールド内。

 

 

 

30m×30mという限られた、或いは広い空間。

 

 

 

結界は既に覆われ、逃げることはかなわない。

 

 

 

10m、程度だろうか。俺と離れた彼女は静かにスカートをつまんで礼をした。

 

そこに型は感じ取れない。

 

いや、型なぞ無くても構わないのだろう。

 

瞬殺劇が可能ということは、無形で、無呼吸で一瞬で術式を展開、発動することができるのだ。

 

どのような立ち振る舞いだろうが、関係ない。

 

ーー早撃ちの天才。そう言ってもいいのかもしれない。

 

この10mという距離ですら、既にキルゾーン!

 

「さぁ既に風評からの下克上は成った【スケベハーレム】須藤与一! 使用式神はやはり【餓者髑髏の花嫁】! 【陰陽王子】をはっ倒した実力は本物! 構図としてはそう、陰陽師と怪獣使い! 挑む側なのは小笠原なのか。会場が観たいのは、血統に寄らないジャイアントキリングか!!!!!」

 

 

実況も好き勝手言ってくれる。

 

それでもテンションがやけに上がってしまうのは、彼女の才能なのだろう。

 

視線を小笠原 ひとみに向ける。

 

それに気づいたように、彼女は3歩、前に出た。

 

「待っていてくださいね、与一さん。一瞬ではっ倒してきますので」

 

 

 

 

その言葉を聞いた瞬間、嫌な予感がした。

 

「与一さん」

 

いろはの声が聴こえた。

 

「--構えてください」

 

俺は弾かれるように、全力で3歩下がった。

 

 

 

 

「待っていてくださいね、与一さん。一瞬ではっ倒してきますので」

 

そう言ったひとみを、鼻で笑って、視線を下げたのは、小笠原 雹香だった。

 

彼女には作戦があった。

 

たった一言。

 

たった一言を言うという使命感のような作戦が。

 

「小笠原 ひとみ」

 

ケンカを売る様に目を細めて、天才が呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴女が 4歳の頃殺した 五星局の職員 小笠原 夢美は 私の姉でしてよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラッシュバック

 

 

 

 

【小笠原ひとみ】が4歳の頃、管理にあたっていた職員1名が首から餓者髑髏に食われている。

 

「そして、五星局に彼女はきた。最初はうまく育ててきたが、最悪の事件が起きた。彼女の教育係を、彼女の血統、本家筋の『小笠原』に頼んでしまったことよ。エリートコースを進む女じゃった。しかし五星省に来て小笠原ひとみという差別の出来る娘子を育てる為にここに来たんじゃないと、彼女に対し嫌がらせを行った。――そして、彼女は言った。当時4歳の子に「両親を食い殺した小笠原の恥知らず」と」

 

 

「幼い彼女はそのことを受け入れられず、暴走して、頭蓋から喰ってしまった。殺した後、気が鎮まり、次に目覚めたときには都合のいい記憶改竄で全て忘れておったわい」

 

「両親を食い殺した小笠原の恥知らずめ!!!小笠原の名を拝命した挙句、妖怪憑きになり、私の足を引っ張るというのか! 何故私がこのガキを教育しなければならない、私は陰陽庁の人間だったのだぞ! く、っくっく。そうだ、餓者髑髏……こいつを支配すれば、きっと返り咲ける……実験を繰り返し制御していけば。餓者髑髏、これだけが必要だ!!! この女は、いずれ……」

 

「おぞましい、骨の怪物だ。…… 餓者髑髏のせいで、職員が死んだんだぞ! なんで許さなきゃいけないんですか!!!」

 

わたしね、わるくないの。だって、そうしないと、しんじゃうとおもったんだもん。

 

なんでひていするの? どうしてごめんなさいっていわないといけないの?

 

わたしわるくない! わるいのはっ、わるいのは。

 

 

 

 

 

 

 

「お、前」

 

小笠原ひとみが、狂気的な瞳で、片手で顔を抑えながら、呪詛の籠った視線を送る。

 

対する小笠原 雹香は、肩を伸ばして息を吐いた。

 

「ん! んー。ふぅ。これで私個人の弔いは終わりですわね。でも」

 

右手が光る。

 

その光が消えた後、氷でできたレイピアが現れる。

 

「都合のいい記憶改ざんをしているらしいではありませんか。許しません。許せません。罪を償えない妖怪など、鬼畜と何が変わるのでしょう」

 

蒼と白を基調にした制服の少女の衣装に、氷が加わり、冬の女王の威厳が増していく。

 

白く長い髪、すらっとしたスタイル。

 

しかしその正体は、断罪者ーー。

 

「小笠原を名乗る不届き者よ。その血が穢れているのならば、私が禊ましょう」

 

「--お前、は」

 

白い骨が、剥き出しになっていく。

 

過呼吸に近い症状が、ひとみを襲う。

 

じわ、じわ。

 

じく、じくと現実が侵食され彼岸花が咲いていく。

 

「その技。呪力で構成されていますのね。良かった。安心しましたわ」

 

【浄土穢れ地獄渡り彼岸花咲きし丘】が、雹香を巻き込むその前に。

 

 

 

 

 

 

 

「教えて差し上げましょう。私の二つ名のその意味を。【永弓凍土/懺氷の処女(ニブルヘイム)】」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合はまだ開始されていない。

 

しかし須藤与一は既に後ろにとんだ。

 

小笠原ひとみは、その瘴気とも言える呪いを漏れ出してしまった。

 

それは、好手である。

 

たった今、この瞬間。

 

結界内は、凍土へと変貌した。

 

吹雪だ。霰だ。冬だ。

 

冬がやってきた。

 

「この術式を発動する私の縛りがあります。1つ、結界内で発動し、この術式展開がこれ以上広がらないことが保証されているとき」

 

小笠原ひとみが地面を見る。

 

彼岸花が咲いている。

 

でも、漏れ出た程度の呪力では……本気とは言えず。

 

一部の彼岸花が、既に凍り付いて砕け散った。

 

「2つ、敵が明確に格上で、これを発動しなければ死んでしまうとき。そして最後、3つ目」

 

彼女はレイピアを構えた。

 

「敵が気に食わないとき」

 

彼岸花が砕け散る、通常ではあり得ないことだ。

 

一瞬で小笠原ひとみは答えを出した。

 

「--陰陽、呪力そのものの凍結!?」

 

「はい。では、ごきげんよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

二回戦第1試合

 

 

 

 

 

改め。

 

 

 

 

 

【餓者髑髏の花嫁】小笠原 ひとみ

 

vs

 

【永弓凍土】小笠原 雹香

 

 

 

 

此度の断罪劇、幕開けは無し。

 

 

試合、開始。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

side 小笠原 雹香

 

 

 

雪崩が小笠原 雹香を襲う!

 

それは突如顕現した【餓者髑髏の花嫁】の仕業だ。

 

地表を割る様に登場し、白い骨の群衆と、餓者髑髏が雹香を押しつぶすようにその身を全員が投げだしたのだ。

 

「--ふっ」

 

雹香が息を吹き替えると、骨は波をそのまま凍らせた。化石のようなオブジェの出来上がり。

 

「ーー、氷雨返り、雪花散し!(コントルアタック、トゥシュ)」

 

全身を地面から弾かれるように飛び出し、レイピアを真っ直ぐ突き出す。

 

餓者髑髏の喉、首と背骨の継ぎ目のラインに刺さる。

 

が、先に折れたのはレイピアだった。

 

「--ダイヤモンドよりは硬いはずなんですけれど」

 

人差し指を宙にフリックするように動かすと、吹雪の風が彼女を運び、射程県外に逃げることに成功する。

 

「『ーー嫌なことを、わ、私は人なんか……』」

 

言葉、全て呪言の言葉が耳に入る。

 

しかし、雹香には効かない。彼女の耳に言葉が届くその前に、この環境が呪詛を凍結させ、機能不全にさせている。

 

敵の呪力を完全に停止させ、凍らせ。

 

「その呪いすらも、私の力」

 

ーー再利用する。

 

「【氷柱三重奏(トリオ)】」

 

その言葉と共に、上空から巨大な氷柱が3本、餓者髑髏の動きを阻害する形で大地に突き刺さる。

 

「【阻害雪槍(バッテマン)】」

 

彼女が手を振るだけで氷の槍が形成され、超加速で餓者髑髏の腕を弾く。

 

「【女王の鉄槌(ファント)】」

 

トン、と音を鳴らして立った一歩で間合いを潰し、高速で作成したレイピアと巨大な氷の塊で、彼女の頭上から鉄槌を下そうとする。

 

ーーしかし、あまりにも距離が近すぎた。

 

「『ーー不快よ。あまりにも!』」

 

呪言が、凍結する前に氷の塊に届き、標的が雹香に変わる。

 

「まぁ! 浮気性な氷ですこと」

 

「『破ッーーー!!!』」

 

餓者髑髏の肩の骨がグルンと周り、人体ではあり得ない動きで頭上に向かって拳を全力で振るう。

 

氷の塊と拳が、雹香を上下で囲む。

 

「【氷離一帯(リポスト)】」

 

彼女はそっと、加速する拳に触れて、撫でるように滑り、水のようにあるがままに流れるように、躱して、ひとみに向かっていき、自身の前面に術式を展開し、氷の槍を降らせる。

 

「『っ!?』」

 

がきん!!!! ごきっ!!! ばきっ!!!!

 

彼女の骨が削れるものの、それでも鉄壁の牙城は動かない。

 

それなのに、雹香は嗤った。

 

「--接近戦はお好き? アン!」

 

突き、まずは顔面に向かって。

 

顔の半分に被っている骨の仮面でかろうじて防ぐ。

 

「ドゥー!」

 

ガシャンと音を立てて潰れた剣先を再形成し、喉元を突く。

 

ひとみは白骨化した左手で喉を守る。

 

「トロワ! 【氷上の薔薇はかく咲かれり(クー・ド・ジュターズ)】」

 

全身をガードしようと動くひとみ。

 

しかしーー。

 

「『がっ!?!?』」

 

ぶしゃり、と背中から音が聞こえる。

 

そう、雹香の技だ。

 

雹香は間違いなく正面から真っ直ぐの突きを仕掛けた、という錯覚がある。

 

しかし、彼女の技術は、フェンシング仕込み。

 

敵正面から刀身をしならせ、背中を突く技を。フェンシングにしか存在しない技を、雹香は行ったのだ。

 

名の通り、ひとみは餓者髑髏の上に立っていたが

 

餓者髑髏の骨は今、ひとみの血で一部が赤く染まっている。

 

ーーひとみの着飾る骨で出来た花嫁装束の、僅かな隙間をピンポイントで狙われたことの衝撃が、ひとみの動揺を加速させる。

 

「『くっ。こうなったらーー』」

 

何かしようとするひとみの動きを察知して、雹香は。

 

「--良いんですの? そのまま私を倒して、ハイ終わりで済みますの?」

 

「『っ!?』」

 

「ごめんあそばせ」

 

「『しまっ!? きゃっ!!!!』」

 

一瞬で装着した氷のブーツでひとみを吹き飛ばす雹香。

 

ひとみは吹き飛ばされながら、真っ黒な雲を見た。

 

憂鬱な空模様だ。

 

ーーまるで私の心のようだ、とひとみは独りごちた。

 

 

 

雹香は勝利を確信する。

 

「よし、これでーー、!?」

 

餓者髑髏が、独自に稼働するまでは。

 

「ち、こっちもきちんと自我があるですね!」

 

長引けばこちらが不利、雹香はそう判断していた。

 

 

 

 

 

 

 

一回戦第1試合を見たとき、雹香は動揺していた。

 

あの【陰陽王子】安倍時晴を瞬殺する人間が、蘆屋の天才以外にもいるのかと。

 

それも、小笠原家の歴史の中で汚点とされている人間が。

 

ーーいや、分かっている。分かっているのだ。

 

みんな分かっている。

 

五星局の職員 小笠原 夢美の死は彼女の不手際だった。

 

そして、彼女の死は小笠原ひとみが原因ではなく、その両親の悪意が原因だということも、知っているのだ。

 

感情はあるだろう。だが、頭ではみんな分かっている。

 

小笠原ひとみは何も悪くないと。

 

だが。

 

だが、だ。

 

 

 

 

 

 

ーーーなんだ。お前か。

 

自分が4歳の頃、ふてくされた様子の女が私に絡んできた。

 

ーーーはぁ。才能があっていいな、お前は。ほれ、飴ちゃんだ。くれてやる。飲むなよ。

 

ありがとう、そう声をかけると、あぁ、と言ってそのまま帰ってしまった、女を知っている。

 

それが雹香の知る、小笠原夢美。

 

才能が無くて、不貞腐れて、コネで入れた陰陽庁。人望も才覚もなく降格して五星局。

 

凡人だったし、性根は腐っていたと評判だった。

 

だが、4歳の頃の雹香には、あの飴をくれたお姉さんだった。

 

血のつながりもあったらしい。けれど、もう会えない。

 

死んでしまい、あまつさえ死体は保管されている。

 

ーーだから、トーナメントに出ると知った時は、なんとなく寝付けなかった。

 

寝付けなくて、腹が立った。

 

上手く眠れないから、試合でぶつかる前に言いたいことを言ってやろうと思った。

 

それが雹香個人の感情。

 

そして、ここからは「小笠原」の感情。

 

 

 

 

 

 

「勝手に殺して、勝手に忘れて。--ごめんなさいの一言もない。ダメでしょう。それは決して許されません。貴女の周りが赦しても、「小笠原」は許しませんことよ」

 

餓者髑髏を封殺し、小笠原 雹香は「小笠原」ひとみを追い詰めに行く。

 

それはまるで死神のように。

 

ーーしかし。

 

「--、なんと。その戦闘パターンは想定しておりませんでした」

 

死神も、動揺することがある。

 

 

 

 

 

 

「なんだよ。文句あんのか?」

 

 

 

式神使いが、前に出てくることは彼女の思考に入ってなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は遡る。

 

 

 

「ひとみ! 大丈夫か!」

 

雪上に倒れるひとみに向かって俺は走る。

 

まさかの展開だ。

 

試合開始の合図前に始まるのも想定外だったけれども、なにより、彼岸花が咲かないこと。

 

いつものように赤い液体がぶわーっと広がって、彼岸花が咲いて、めっちゃ怖い全身から噴き出る呪詛が全然ない。

 

この空間の性だろうか。

 

全部凍っちまって、なんならその氷とか雪も全部相手の術式に変換されて打ち出されている。

 

あ、相性ゲーだぁ!!!

 

そんなことある? めっちゃ強いひとみでさえ相性差で負けるとかあるのかよ!!!

 

ーーいや、違う。

 

そうだ。簡単なことだった。

 

”対策された”らこんなもんなのだ。それこそ評判の【陰陽王子】だって、対策さえできていたらこれくらいで来ていたかもしれない。

 

ひとみが対策された結果、一瞬でこっちも窮地に陥ったのだ。

 

「『ーーだんなさま』」

 

「なんだ、どうした? 大丈夫か?」

 

「『ーーわたし、4歳の頃、もしかして……』」

 

涙を浮かべて、彼女は俺を見た。

 

「『だれか、ころしてしまったんですか……?』」

 

「あっ」

 

あ、それ親父言ってたな。

 

ひとみが暴走してた時、今までの事情とか情報整理しているときに。

 

しまった。

 

本当に失念していた。

 

相手は小笠原なのだから、その話が出るのは当然だったのだ。

 

これは俺のミスだ。事前に伝えておけば……。

 

いや。

 

伝え、られなかったかもしれない。だって……。言ったら、何か変わってしまいそうだから。

 

「--あぁ。そうだよ。憶えてないかもしれないけれど、ひとみは、……人を殺してる」

 

「『ーーぁぁ……』」

 

ぽろぽろと涙をこぼしているのに、彼女は歯を食いしばって、空を見上げている。

 

泣き声一つ、上げやしない。

 

「『ーーあぁ、もしかして、あぁ、そうなんですね。……たまに、本当に、たまに、夢を見ていたことがあるんです』」

 

「……」

 

「『みんなが、私の事を、餓者髑髏の事を嫌いって言って。それで、もう、分かんなくなって、イライラして、言葉が出なくて、どうしようもなくて、誰かに噛みついてしまう、ゆめ』」

 

「……」

 

「『ーーころ、してたん、ですね……わたし……』」

 

 

 

 

 

 

ひとみにその情報を伝えなかった理由が、明確に一つあった。

 

それは、”情緒が完成していなかった”ということ。

 

俺と出会う前、五星局にいたころの彼女は、心が虚ろな状態で生きていた。

 

言われるがままに動いて、聞かれるがままに答えて、他責的に自分は悪くないと内側に閉じこもり続けた。

 

五星局の人間は、それでも見守っていた。

 

 

「--いつか、その罪を自覚できるまで」

 

「えっ」

 

何故か、いろはが先に反応した。

 

「人を殺してしまったことを、受け入れること。人を殺してしまったことを、自覚して、どうすればいいかを考えること。それが今まで出来なかったから、誰も言わなかったんだよ」

 

神妙な顔をした二人。

 

「ーーいやさぁ。俺その辺全然考えてなかったわ。……いつもの日常が楽しすぎて、なーんも考えてなかった。でもそうだよな。……正面切ってそういう人も、そりゃいるわな」

 

「『わ、私は……。私は、私が、悪く……』」

 

「まぁ4歳だったしさぁ。きっとそれで誰も言わなかっただけだと思うしな。でも……そうだな。一つだけ言えるとするなら」

 

「『……』」

 

「話を聞くに、餓者髑髏がお前の心を守る為に殺したんじゃねぇの? そいつなりに、反射的に反応して」

 

「『っ』」

 

今もなお、餓者髑髏が雹香とタイマンを張っている。

 

ーーそう、小笠原ひとみと同一人物になった、餓者髑髏が。

 

「なぁ。お前は餓者髑髏なんだろ? じゃあ、餓者髑髏がやっちまったことは、他人事かい?」

 

ぎゅ、と彼女は倒れたまま雪を掴んだ。

 

色んな言いたいことがあったんだと思う。

 

でも、彼女の信念が。彼女の生き方が。

 

ーー餓者髑髏と自分がイコールだという自負が。

 

「『----餓者髑髏は、私です……っ!』」

 

だから、その罪も自分のものだと、ようやく彼女は至った。

 

「おう。じゃあ、試合が終わった後にでもそのこと伝えようぜ。だーいじょうぶだよ。ひとみ。俺も一緒にあやまっからさ」

 

「『っ……なんで……』」

 

「そりゃお前。……。ふふ、やっぱさ。お前も、いろはも、ずっと一緒なんだろ? 式神さん。じゃ、一蓮托生だろ? 良いんだよ。一緒に人生歩くんだ。……重い荷物は、たまに背負ってやるよ」

 

「『……ばかなひと。……ばかな、ひと』」

 

彼女の頬に雪が付く。その上に、温かなしずくが塗りつぶした。

 

「よし。じゃあまず勝つぞ。俺の思うに、ひとみのあの、異界、異界だ。あれとこの術式はめっちゃ相性が悪い。これは呪力を凍結させた挙句、そのまま再利用してくる。先に異界を出していたらわかんなかったかもだけど、赤い液体全部凍らされて使われるから結局最悪だろうな。だから相手は呪力切れを起こさないし、こっちは一方的に攻撃できない状況だ。どうすりゃいい?」

 

「『ーー、難しいですね。かといって私が異界を展開しないと一方的に敗北します。異界を閉ざすと元の姿に戻ってしまう。そうするともう成すすべは』

 

「一個だけありますよ」

 

「なぁにぃぴよちゃん。参謀キャラ目覚めた?」

 

「ふふ、戦ってないので周りが良く見えるだけです。ちゅんちゅん」

 

「『ーーあほどり……』」

 

「ひとみお姉さま!!?」

 

「んで、なんだよその作戦って」

 

「えぇとですね。相手はこの空間の維持に滅茶苦茶手間取ってると思うんですよね。実はお姉さまと戦わないと、呪力が補給されず永遠に削られ続けていずれ体力切れを起こすと思うんです。なので、ひとみお姉さまは餓者髑髏を逃がした後、最低限のサポートで遠距離で嫌がらせするだけで良いんです」

 

「ほう。それで? じゃあ誰が小笠原 雹香と戦うんだ?」

 

「……」

 

「『……あっ。そうか。呪力も陰陽術も一切才能無いから……』」

 

「ん?」

 

「そうですお姉さま! 与一さんと雹香さんでチャンバラバトルですよチャンバラバトル! そうすれば相手はお腹が空いたまま戦わされてすぐ体力切れです!」

 

「……。え? 嫌なんだけど!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「--、なんと。その戦闘パターンは想定しておりませんでした」

 

「なんだよ。文句あんのか?」

 

小笠原 雹香は怪訝な顔で俺を見る。

 

俺だって嫌なんだって。

 

なんで幼馴染ちゃんとの鬼ごっこもどきを、ここいらで再現しなくてはいけないのか。

 

寒いししんどいし、もう疲れてるんだよこっちは。

 

「……、あの子は? 逃げましたか?」

 

「あぁ。逃げた逃げた。そりゃあもう逃げたさ。今頃結界の外かもな」

 

「……私、嘘つきは嫌いですことよ?」

 

「エイプリルフールでよくぶちぎれてる空気読めない人みたいなこと言うなよ~。こんな寒いんだ。揶揄いの一つくらい許してくれって」

 

「はぁ。……えぇと。失礼。私の記憶が正しければ、貴方は陰陽師の才能がないはずですわよね。なのにコネでトーナメントに入り、あまつさえ女を誑かすスケコマシ」

 

「いかん。何も否定できない」

 

「そして、フィジカルギフテッド。身体能力だけはやたら高いと。……それで? 私の【永弓凍土/懺氷の処女(ニブルヘイム)】は攻略できるとでも? 舐めないでくださいまし。弱い者いじめなど、小笠原の名に恥じる行為ですわ」

 

「あー。じゃあちょっとだけでいいから手を抜いてくれよ。……うっぷ、過去の幼馴染ちゃんとの鬼ごっこが走馬灯のように……」

 

「--無駄な時間でしたわね。術者の貴方を倒せば、試合は即終了。効率的に、--潰しますわ」

 

右手を、くいっと上に向ける。

 

俺は瞬時に右に跳ねる。

 

一回戦第2試合の時のあれだ。

 

一瞬で相手を氷漬けにする術。

 

ノーモーションだときついが、でも右手を上に上げる癖があるんだ。

 

なら、躱せる。

 

「ーーまさか。躱すなんて。お待ちなさいお邪魔虫さん」

 

右手を俺にかざす。即座に氷の弾丸が俺に飛ばされる。ハンドガンのように、一発一発、えぐいやつが。

 

「--」

 

なら、走ればいい。雪に埋まる足を、もっと速く動かせばいい。ウサギのように、飛び跳ねるように。

 

吹雪の風を切り裂くように、俺の体は加速する。

 

弾が、後ろに、前に、体をかすめそうになる距離になったらズラして、彼女を中心に円を描くように、走る。

 

走る!

 

「なっ!?」

 

バキッ!

 

鞘に収めたままの刀と、彼女のレイピアが衝突する。

 

「おいおいおい、なんでそんなほっそい剣でこの衝撃が耐えられるんですかねぇ!?」

 

「くっ、猪武者……ッ、品性の欠片もないッ!!!」

 

剣を払って俺を突きにかかる女騎士。

 

それを、更に弾く。

 

「!? アン、ドゥー、トローー」

 

「シャァッ!!!!!!!」

 

1つ目の突きを薙ぎ、2つ目の突きを払い、

 

3つ目の突きが出る前に、持ち手の右手を叩く!!!

 

「きゃっ!?」

 

当たった瞬間剣ではなく術式で防御される。

 

ちっ、流石にそこまで優しくないか。

 

「くっ、刃も出さない臆病者の癖に」

 

「ひゅー、コォォォォォッ!!!!!」

 

彼女の言葉はすべて無視。

 

突かれる前に次は叩く。

 

まず、油断しきってる前足を鞘で殴りっ、ひるんだ瞬間をアッパーの要領で下から顎を狙って突く!!!

 

「がっ!?!?」

 

一瞬意識が飛んだ瞬間に右手を掴み、合気道の要領で腕関節を、極めーー。

 

「【氷上天使(ベラ・ドンナ)】!」

 

俺は飛び退き雪まみれになりながら地面を転がる。

 

地面から、花弁のような鋭利な氷が咲き誇る。

 

茨のようなものが出てきて、俺を狙ってくる!

 

「厄介だな、陰陽術ってさぁ!」

 

茨を弾きながら再び走る。茨を飛びぬけ、弾き、砕き、再度接近する。

 

「--刀を抜きなさい! ”須藤与一”! どうしました! 斬れぬなまくらを持ってきたわけでもあるまいし!」

 

「--馬鹿。違うんだよ。抜いたらさ、お前も幼馴染ちゃんみたいに……」

 

 

 

刀身を、僅かに見せるように、抜いた。

 

「ガチっちゃうだろ?」

 

 

小笠原雹香の表情が、一瞬で青ざめた。

 

「--それは、ダメでしょう」

 

小笠原雹香が即座に陣地を構築、誰も近寄れない氷の城が完成する。

 

そして氷の城から、彼に向けて絶え間なく砲撃が開始される。

 

 

「あ、あは、あはははは!!! ほぉれみろ! そういうことする! 結局鬼ごっこかよちくしょー!!」

 

「ふざけてる! なんですの貴方!! --今ので100回殺されるイメージが湧きましたわよ!」

 

「すまんなぁ! 刀が良いんだ刀が!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは、親馬鹿が試合前日にしでかしたエピソードである。

 

「与一これ……」

 

「え、なにこれ? うおー刀だ! ありがとう親父! まぁ刀一本あっても大したことはできないんだk」

 

刀身をわずかに抜いた瞬間、須藤与一はがちりと刀を瞬時に収め、息を荒くした。

 

「な、なん、お、親父? なんだこれ?」

 

「うん……あの、国宝は、無理だったからさ……その……」

 

「……」

 

「ぐすん、準国宝で許して……」

 

「馬鹿野郎!!!?」

 

こうして、小笠原雹香はその最初の犠牲者になってしまったのである。

 

準国宝、つまりは重要文化財クラスの日本刀を、馬鹿が持ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「--あいさつ代わりに、斬らせてもらうぜ。右によけろ、じゃなきゃ死ぬぞ!!!」

 

刀を、縦に持ち、抜いて、振りぬいた。

 

「【獅子王】」

 

 

 

 

凍土と城が真っ二つに割れた。

 

轟轟音を鳴らし、城が崩れる。

 

ぴきり、と結界に亀裂が入った。

 

「--うそ、学生のバトルに、重要文化財クラスの刀を持ってくる馬鹿がいるなんて聞いてない」

 

小笠原雹香が呆然としたまま俺を見る。

 

攻撃の手は、一切緩んでいない。

 

むしろ苛烈になっていく。

 

分かったのだ。

 

この男を無視することは、--即ち自身の死であると。

 

そのタイミングで、氷山の一角が真っ赤に染まり、彼岸花が咲いていく!!!

 

「『同時ですわ。同時に波状攻撃をすると、脳がパニックになるそうでしてよ。小笠原、雹香さん?』」

 

「--小笠原、ひとみぃっ」

 

憎々し気に睨むもむなしく、異界が彼女の世界を塗りつぶす。

 

上手く凍らせられない。なぜ? と彼女が疑問に思うのも束の間。

 

再び男が接近する。

 

「っ! 厄介すぎる!!!」

 

氷の城を再形成、再び牙城を固める。

 

その瞬間、右ひざがすとんと地面に落ちた。

 

「--ッ、このタイミングで、ガス欠ッ!!?」

 

小笠原雹香の呪力管理は、小笠原ひとみとの戦いまでは完ぺきだった。

 

しかし、やはり想定外だったのだ。

 

フィジカルギフテッドと言えど、身体強化の術を使った術師レベルで動かれて、訳の分からない刀に動揺させられて。

 

挙句異界という力が本領発揮してきたら、もう止められない。

 

ここで見誤ったのは、やはり須藤与一の実力。

 

身体強化の術をわずかにでも使っていれば、それを凍結し再利用できたのだ。

 

ただの人間が、ただの脚力と技術、すごくつよい刀だけで、自信の冷静さを奪い取った。

 

「ちく、しょ……」

 

 

 

 

 

凍土と城が消える。結界の中は、俺と、餓者髑髏の花嫁と、いろはと、遠くに倒れた小笠原雹香だけだった。

 

「やったか……」

 

俺の声が響く。

 

「『やりましたね』」

 

徐々に彼岸花が咲いていく。もう止められるものは無い。

 

「や、やった。やったぞ! 勝った、俺たちの、勝ちだ!」

 

俺は、すごくうれしかった。

 

ずっと負け続けてた人生だった。

 

幼馴染ちゃんに、ずっと負けて、悔しかった。

 

でも、もしかしたら、本当にもしかしたら。

 

こいつらとならーー、そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この瞬間を、待っていましたわ」

 

たん、と軽快な足さばき。

 

何か聞こえた、そう思って振り返ったら。

 

遠くにいたはずの小笠原雹香が、一足で、距離を詰めていた。

 

「永弓(ボン・アヴァン)」

 

それは、小笠原雹香を矢に見立て、一瞬で敵を屠る為に作られた奥義。

 

俺が刀を握った時には、既に、懐の中にいた。

 

ーーまにあわない。

 

「私の、勝ちだ、須藤与一ッ!!!」

 

やばい。この女の執念を見誤った。

 

たった一手。たった一手で逆転される。

 

そのレイピアの行く先は、俺のはらわた。

 

ダメだ、振れない、動けないっ!

 

うごけ、なーー、いーーッ!!!

 

刺さっ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちゅんちゅん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ」

 

「なっ」

 

一歩分、たった一歩分足りない。

 

彼女が、距離を見誤ったとは思えない。

 

俺も、刺さったと思い込んだ。

 

でも、刺さっていない。

 

たった一歩分の距離が、小笠原雹香の一発逆転に足りない!

 

 

 

 

 

 

 

 

小笠原ひとみだけは、理解した。

 

彼女の足元、彼岸花の花畑。

 

その中に、こっそり、陰に隠れるようにーー。

 

一輪の、極楽鳥花(ストレリチア・レギナエ)が。

 

 

「……これは、与一さんとお姉さましか認識できない花。バレなきゃいいんですよ。バレなきゃ。今日だけですよお姉さま。決着を」

 

「『--馬鹿な妹よ! 貴女は!!!』」

 

 

彼女の極楽鳥花の花粉は、幻覚効果がある。

 

たった一歩分、されど一歩分、誰にも知られない彼女の献身が刺さる!!!

 

 

「『小笠原、雹香ぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!』」

 

彼女の腕が、振られると同時に、顕現した餓者髑髏が彼女の体を掴む!!!

 

「うぐぁっ!? お、小笠原……ひとみぃぃ!!!!! 貴女がッ!!!」

 

「『うわあああああああああああああああああああああ!!!!!!!』」

 

罪を、自覚した。

 

罪を、認めた。

 

餓者髑髏の罪は、自分の罪であると心に落とし込んだ。

 

だから小笠原雹香の事は理解できる。

 

一言いいたくなる気持ちもわかる。

 

でも、それでも。

 

わがままだと分かっているけれど。

 

「『その男の命だけは、誰にも奪わせないッ!!!!!』」

 

握った勢いで餓者髑髏が体をそらせる。

 

小笠原雹香の体が空中へ浮く。

 

「-----すべて理解した上で?」

 

「『ーー、はい』」

 

「……はぁ。じゃあ。是非も無しですわ」

 

「『うらあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!』」

 

 

必殺の、餓者髑髏バックドロップ。

 

頭から地面にたたきつけられた小笠原雹香は、無常にも倒れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決着。

 

勝者、【餓者髑髏の花嫁】小笠原ひとみ

 

及び

 

【スケベハーレム】須藤与一。

 

誰にも知られぬ立役者。

 

【ヒトコイシニンシキノトリ】須藤いろは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「良い勝負でしたわね」

 

20秒も経たないうちに復帰してきた小笠原雹香。

 

こいつ無敵か?

 

「まぁ。心外ですわね。小笠原の修行を乗り越えればこの程度お茶の子さいさいですわ」

 

「嘘だろ小笠原」

 

なにそれ俺も修行したいんだけど。

 

「それよりも」

 

小笠原雹香が、ひとみの手を握る。

 

「--え、あの」

 

「私に言いたいことはありますか?」

 

それは姉のように優しく、諭すような言い方だった。

 

ひとみは戸惑って、悩んで、最後は、うつむいて、告解した。

 

「--ごめんなさい。私は4歳の頃、……貴女のお姉さまを、……害してしまった」

 

「はい」

 

「許されることではありません。ですが、……今まで、自分の事を認めなかった不義理も含め、償いたいと考えています」

 

「--、貴女は、善き人に恵まれましたね」

 

「えっ」

 

「貴女の謝罪、正しく小笠原が聞き遂げました。貴女の罪を、許しましょう。ただ、一人の人生を奪ったその咎を忘れ、私欲で人を殺すならば、私があなたを殺しましょう。貴女が、彼女の分まで生きて、善き人生を送れることを、末永く願っています。--それが、小笠原の決定です。生きなさい。生きて生きて、頑張ってください。それが、小笠原の願いなのですから」

 

「--はい、……はい……っ」

 

「よくぞ今まで、耐え忍んで生きましたね。ご苦労様です。大丈夫、困ったら私が助けましょう。貴女も、小笠原なのですから」

 

「はいっ……」

 

二人は抱き合って、ひとみは涙を流し、雹香は頭をなでて、親愛を示した。

 

 

 

 

 

「与一さん」

 

いろはが、その光景を見て呟いた。

 

「良いですね。許されるって。--許してもらえないなら、どうすればいいんでしょうか」

 

「え? あー。まぁ、許してくれる相手を探すしかないんじゃないか?」

 

「……与一さんは、許してくれますか? 私のこと」

 

「え、何を?」

 

「……何を、許してほしいんでしょうね。私は」

 

いろはは空を見上げて、深く息を吸った。

 

「それを知りたいです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【神話生物】事件 中編  完

 

 

 

 

 

次回。

 

【神話生物】事件 後編

 

そのシナリオは、神のみぞ知る。

 

誰も生き残れはしない。

 

少なくとも、神はそう仰せである。

 

ーーそれを超えられるのは、或いは。

 

 

 

 

 

 

 

 




えっほ

えっほ

(2日で3万文字)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

テンプレラノベみたいな世界に生きている(作者:赤雑魚)(オリジナル現代/冒険・バトル)

神様に特典貰って転生したのに、問答無用で世界が俺を殺しに来るやつ。▼魔剣使い、魔法少女、巨大機動兵器、超能力者とかとか、転生先にヤバい奴しかいない。▼何千番煎じのテンプレラノベ×異世界転生モノ。▼カクヨムでもマルチ投稿中です。


総合評価:15712/評価:8.44/連載:24話/更新日時:2025年04月01日(火) 07:00 小説情報

ランペイジ・バレット ~ソシャゲみたいな世界に転生した俺が必死で生き抜いていく話~(作者:捻れ骨子)(オリジナルその他/冒険・バトル)

多分前世でお亡くなりになった俺は、よくあるゲーム的な世界に転生したようだ。この近未来荒廃サイバーパンク異能力バトルエロ服装多めの属性過多な世界で、どうやって生き延びる!? ……と言った話。▼OPイメージ、雅-miyavi-で【 WHAT'S MY NAME?】▼連載にして題名を変更しました。なお誤字脱字は多めになると思いますので先に謝っておきます申し…


総合評価:3821/評価:8.32/連載:60話/更新日時:2025年04月04日(金) 21:00 小説情報

プレイスピリット〜精霊がいるカードゲーム世界で普通のバトルがしたかった男〜(作者:匿名S)(オリジナル現代/日常)

『プレイスピリット』略してプレスピというカードゲームがある世界。▼ そこはカードに精霊が宿るタイプのカードゲーム世界。▼ この世界では精霊の気まぐれや精霊との絆でご都合主義的な試合展開が起こることがある。▼ これは、そんな世界で精霊に頼らず精霊に左右されない普通のバトルがしたかった主人公がやさぐれたり巻き込まれたりしながらも頑張った話。


総合評価:2991/評価:7.92/連載:54話/更新日時:2025年03月23日(日) 08:26 小説情報

NTRゲーに転生したはずなのに寝取られる気配がない件について(作者:THE TOWER XVI)(オリジナルファンタジー/恋愛)

▼ NTR大好きで脳破壊を体験したい主人公がNTRゲーに転生し、幼馴染NTRを体験できると歓喜する話。▼ もちろん、主人公の夢(NTR)を叶えるつもりはないし、ギスギスハーレムを作って果てさせます(決意)無事果てさせました(完結)▼ ギスギス修羅場ハーレム物もっと増えて♡▼※NTR要素は主人公の妄想のみになります。▼※そもそも寝てはいませんが、逆NTR(WS…


総合評価:8882/評価:8.56/完結:15話/更新日時:2024年10月04日(金) 19:19 小説情報

CLOCK  〜時間停止ヒーローが引退を決意したけど周りが放っておいてくれない件〜(作者:雨 唐衣)(オリジナル現代/冒険・バトル)

▼現実はフィクションに染め上げられた。▼フィクションはリアリティに歪められた。▼世界は一変した。▼人々はハッピーエンドを望んでいる。▼物語がそうでなくとも――▼これはただ人を救って、その心臓に価値があると証明し続けたいヒーローの物語▼だから時間停止AV(一割)みてえな能力なんて言わないで▼2023/05/26▼キャラクターデザインの設定イラストを頂きました▼…


総合評価:15183/評価:8.67/連載:29話/更新日時:2025年04月05日(土) 21:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>