連載小説「転生したら勇者モトヒコだった件」第二話
(前回までのあらすじ)
モトヒコは海辺で目を覚まし、状況を整理した。
モトヒコはかつてヒョウゴ国でチジとして職務を全うしたが、ザイセイ改革で反発を買い、失職。ケンチョウを去る際、階段から転落し、気が付いた時には異国の砂浜に倒れていた。目の前には故郷のスマに似た海が広がるが、記憶は曖昧である。
そこへローブを着た長身の青年が現れるが、モトヒコは再び気を失った。
「おっ、やっと目が覚めましたね。」
再び目が覚めると、先ほどみた空ではなく今度は天井が見える。
木で作られた、どこか観光地のログハウスの家なのだろうか。
「急に起きない方がいいですよ。
医者によれば、あなたは今軽い熱中症に
かかっているそうです。
ゆっくりと身体を起こして、
まずこれをお飲みください。」
声のする方向に目をやると、砂浜であった長身の若者が見える。
ここは彼の家なのだろうか。
私と目が合うと彼はゆっくり歩み寄り、私の背中を優しく補助しながら、身体を起こしてくれた。私は差し出された飲み物をそのまま飲んだ。
少しミルクのような味がする飲み物だった。
「本当に何から何まですみません。
実はここまで来た記憶が全くなくて。
私の名前はモトヒコといいます。
ヒョウゴというところから来ました。」
「モトヒコ、さんですね。
私はケンティーといいます。
ここら一帯の森の管理者です。
昨日は浜辺で倒れているあなたを発見し、
そのまま放っておいては奴らの餌食に
されてしまうので、私の家まで運びました。」
「ケンティーさんですか。
本当にありがとうございます!
ところで、ここはどこでしょうか。
奴らの餌食に、とおっしゃいましたが、
誰のことでしょうか。」
「モトヒコさん、あなたは記憶が
混乱しているようですね。
気になることはいろいろあると思いますが、
昨日から丸一日、そこで寝ていたのです。
よほどそのヒョウゴというところで、
辛い目にあったのでしょう。
まずは、ゆっくりと身体を休めてください。
ここは、ゴヒョウの国で、ミヤニシノ、
という村になります。
私はミヤニシノの森の管理者をしています。
安心して休んでいてください。」
彼はそこまで言うと、少し外で用があるからと言い残し、部屋を出ていった。
確かにまだ疲労がかなり残っているようだ。
彼のご厚意に甘えて、再び横になった。
彼の話によれば、ここはヒョウゴではなく、
ゴヒョウ。
ミヤニシノという村、であるという。
彼が来ていた服装も、故郷のヒョウゴのそれとは大きく異なっており、ログハウス調のこの家も、ヒョウゴにあるものとは大きく異なっている。
ヒョウゴの国においても「ニシノミヤ」という地方がある。
もしやここは、パラレルワールドのような世界なのか。
そうであれば、ここまで来た記憶がないことにも納得がいく。
おそらくケンチョウの階段から落ちた際に、こちらの世界と繋がってしまったのだろう。
別世界とはいえ、先ほどのケンティーさんとの会話に支障がなかったのは幸いだ。
彼からもっとここのことを聞かなければ。
まだ検証が必要ではあるが、これは厄介なことになった。
私はまだヒョウゴですべきことがある。
ヒョウゴの民のため、まだやり残したことが山ほどあるのだ。
気持ちだけが焦るのはよくない。
そうは思いつつも、残してきた民のことを思うと何かせずにはおれなくなり、ベッドから起き上がって彼の後を追った。
部屋を出て、家の外の出た。
彼が言っていた通り、一面木々が生い茂った森の中に私はいるようだ。
特に木々に造詣があるわけではなかったが、確かにここは私がいたヒョウゴではないらしいことがすぐわかった。
木々の葉が、すべて青色だったからだ。
幹も茶色ではなく、薄いブルーをして透明化している。
木々というか、結晶のような作りをしていて、中身が透けて見える。
下部から上部へ、液体のようなものが流れているのがわかる。
根から水のようなものを吸い上げて、葉から蒸散するシステム自体は私がいたヒョウゴの木々と一致しているようだが、このような木はヒョウゴに存在しない。(もはや木と呼べるかどうかも怪しかったが。)
パラレルワールドにおいても、私は息ができていることを考えると、この木々たちが酸素を供給してくれているのだろうか。
私の故郷のヒョウゴでもシンリン事業は重要な施策であり、注力しようとした途端に反発にあって、頓挫してしまったなということを思い出し、早くヒョウゴに戻らなければという思いに駆られながら、森の中で思索にふけっていたら突然目の前に、何かが現れた。
とても大きな目玉を一つだけ持ち、二足歩行をしている生物のようだ。
一匹が現れたと思っていたら、奥からぞろぞろと何匹も集まってきている。
ヒョウゴでも見たことがない生物だったが、本能でわかる。
これは危険な生物だ。
彼らは私に対し、悪意を持っている。
気づいた時には数十匹が集まってきていた。
じりじりと距離を詰めてくる。
知らない土地、しかも森の中を不用意に歩き回るべきではなかった。
大きな目を持つ何かがほんの数メートルにまで近づいたとき、背後で大きな声がした。
「モトヒコさん!離れて!!
そいつらは本当に危険です!」
ケンティーさんだった。
「彼らは一体何者なんですか?」
私は前方に視線を残したまま、彼に尋ねた。
「さっき僕が話してたやつですよ。
砂浜にあのままあなたを放っておいたら
餌食にされるといったでしょう?」
あぁ、確かに彼は言っていた。
その時、餌食にされるようなものが徘徊している危険性を私は認識すべきだったのだ。
「あぁ、もうこれだけ集まってきてる
じゃないですか!
一匹でもたちが悪い奴らなのに!」
彼が相当焦っている様子なのがわかった。
本当に彼には迷惑をかけっぱなしだ。
「この者たちは何者なんですか?」
「こいつらの名前は、センテンスプリン!
単体では弱いやつらですが、数が
多くなると非常に厄介な魔物です!」
まもの?彼はいま魔物と言ったか?
そうかやはりここは元のヒョウゴではなく、やはり別の世界のゴヒョウなのか。
「モトヒコさん、ここまであいつらが
集まってきた以上、もう逃げられない。
戦いましょう!」
「戦う?武器などを持っているのですか?」
ケンティーさんの方を見て尋ねた。
あっ!と叫んだあと、彼は申し訳なさそうに下を向きつつ、
「すみません、私は魔法使いなのですが、
慌ててモトヒコさんを探しにきたので、
魔法の詠唱に必要な杖を小屋に
置いてきてしまいました。。
しかも、やつらの攻撃は特殊で・・・
あっ・・きた!!」
そういうと、ケンティーさんは突然頭を抱えながら、膝から崩れ落ち、苦しみ始めた。
何が起こったのかと驚いてふと、センテンスプリン達をみると、何やら一斉に震えだしてこちらに何か音波のようなものを発しているようだ。
「モトヒコさん、これがあいつらの攻撃なんです。
直接、心に響きかけてくるんです。
お前は弱い人間だ。役に立たない人間だ。
みんながそう言っているぞ。。
そんなことを直接、頭の中に
叩き込んでくるんです。
モトヒコさん、屈してはいけませんよ!
踏ん張ってください・・」
そんな攻撃をしてくるなんて!
私は来るべき攻撃に身構えたが・・何も起こらない。
苦しむケンティーさんをしり目に、私の身には何も変化がない。
なんだか申し訳なくなってきた。
「ケンティーさん、すみません。
ちょっとおっしゃっている意味が
よくわかんないんですけど。。」
「えぇぇぇぇ!!!
モトヒコさん、彼らの精神攻撃、
効かないんですか!」
「はい、今のところ、何ともない、です。。」
どうやら、センテンスプリンの精神攻撃とやらに私は耐性があるようだ。
しかし、苦しみがますますひどくなっているケンティーさんをみるに、これは一刻を争う事態だ。
なんとかセンテンスプリンたちの攻撃を止めなければ!
何か武器をと思い、周囲を見渡すも武器になるようなものは何もない。
ただ、石ころが転がっているのみ。
石ころ・・これだ!!
手ごろな石をつかんだ私は、昔取った杵柄で大きく振りかぶり、センテンスプリンの特徴的な目玉に向けて思い切り石を投げた。
「ギャアアアアアア!!!!」
的が大きかったので、目玉にクリーンヒットした。
かなり効いているようだ。
父や母からは、「決して石などを他の人に投げてはならない」と教わって忠実にそれを守ってきた私は心苦しかったが、今は仕方ない。
ケンティーさんを助けるためだ。
「お願いです!ケンティーさんを攻撃しないで!」
そう叫びながら、もう一投、力の限りセンテンスプリンに向けて石を投げた。
もう一体にもクリーンヒットし、敵が一斉に引き始めた。
大きな目が弱点のようだ。
センテンスプリンの方にも動揺の色が見える。
なぜこの人間には精神攻撃が効かないのか。
予期せぬ反撃を食らったセンテンスプリン達は戸惑っている!
「ケンティーさん、今です!逃げましょう!」
ケンティーさんの肩を抱いて、逃げようとする私をケンティーさんは引き止め、
「モトヒコさん、この数を引き連れて
森に帰るわけにはいかない。
私たちが何とかしないと、森の民が
センテンスプリンの犠牲になるんです!」
「でも、もう投げる石もありませんよ。
このままではだめです!」
そう説得したのだが、ケンティーさんは引き下がろうもしない。
「やられっぱなしだったんです、これまで。
センテンスプリンには!
ここで一矢報いないと・・」
あぁ、これは意固地になっている。
そう感じた私は失礼を承知で、彼に強い口調でこう言った。
「逃げてもいいんです!
辛かったら逃げてもいいんです!
苦しむだけが人生じゃない。
失敗するときだってあるんです!
うまくいかないときもある!
それでも、いつか幸せになれる時が
きっと来るんです!
逃げてもいい!
生きましょう!」
そこまで言い切ると、ケンティーさんはハッとした顔をしたあとで、黙ってうなずいた。
その時だった。
「二人とも、目ぇ閉じて!すぐに!」
どこからともなく聞こえてきた叫び声に、ケンティーさんと私がわけもわからず目を閉じた瞬間、
「サンダ!!」
という叫び声があたりにこだまし、まばゆいばかりの閃光が我々の頭上で炸裂した。
爆発ではなく、閃光弾のようなものだったのだろうか。
「あれは・・魔法です!
でも、いったい誰が?!」
ケンティーさんも動揺している。
目を閉じていた我々には影響はなかったが、目を露出しているセンテンスプリンたちはひとたまりもなかったらしく、地面に転がってのたうち回っている。
「今のうちに!早く!」
何が何だかわからない我々二人に対して、またどこからか叫び声がした。
我に戻った私とケンティーさんは、慌てて小屋の方に走って逃げた。
どうやって戻ったかはよく覚えてないが、センテンスプリンたちは追ってくる様子はなかった。
小屋に着いてから、ケンティーさんの様子を医者に診てもらったが、幸い大事には至ってなかったようだ。
我々を助けてくれたあの人は一体誰だったのか。
ケンティーさんも声に聞き覚えがなく、知らない人のようだった。
小屋に戻って一息ついたが、久しぶりに全力で石を投げたので、肩が痛い。
昔、ナンシキヤキューに精を出したのが、こんなところで役に立つとはな。
そんなことを思いながら、ケンティーさんと無事に戻れたことを喜んだ。
一方、先ほどセンテンスプリンとモトヒコたちが対峙した場所では、二人を助けた男がセンテンスプリンたちを前に佇んでいた。
「ほんま世話のかかるお人やで。
女神さんが選ばはった人とはいえ、
一人で森の中歩き回るとか、
不用心すぎるやろ。苦笑」
謎の人物はひとり愚痴を言っていた。
「ほんま、こんだけようさんの
センテンスプリン呼び寄せるて、
元の世界でもかなり面倒くさいのに、
追っかけまわされとったんやろなぁ。」
のたうち回っているセンテンスプリンたちを蹴飛ばしながら、その男は悪態をついている。
「まぁ、モトヒコはんの成長には
君らも必要やけど、ちょっと数が
多すぎるわな。間引いておこか。」
ひとりブツブツ文句を言いながら、その男はおもむろに詠唱する。
「ゴヒョウ五国における正義の神よ。
ゲンロンの天秤。
ヒョウゲンの刃。
自縄自縛の鎖をもって律せよ。
アーシャ!」
詠唱が終わると、センテンスプリン達が1匹、2匹、3匹、光の彼方へと消えていった。
「ええっと、全部で5匹か。
ま、こいつらも必要悪っちゅうやつや
さかいな。苦笑
完全には消されへん。
それが女神さまのご意思であるってことか。
ま、モトヒコはんにはこれから
がんばってもらわんとあかんし、
ケンティーも強うなってもらわんと
あかんさかいに、せいぜい相手したってや。
あー、疲れた。
甘いもんでも食べたいなぁ。」
センテンスプリンが聞いているのかどうかは気にもとめず、そう呟きながら謎の男は静かに消えていった。
続く
この物語はだいぶフィクションです。
実在の人物や団体などとは関係ありません。
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