バギーに寝たままホームラン 重度障害者の「ウルトラ・ユニバーサル野球」全国大会 人生を切り拓く経験に #病とともに
母親の麻理子さんは、こう言う。 「DVDを見ているときは表情があまり動かないのですが……。ゲームを準備し始めると、息子の目がパッと大きくなって、口も開いてニッコリします。最初は息子にもゲームができるのかと心配していましたが、思っていた以上に楽しんでいます。『他にも挑戦してみよう』と、親も息子も意欲を持てるようになりました」 決勝戦では、2時間45分もの闘いの結果、19対18の僅差で東北ブルーロックが優勝した。その瞬間、最後まで固唾(かたず)をのんで見守った観客から、大きな拍手が上がった。
「いつかはWBC」の夢
「子どもたちの未来を変えたい」という一心で進められたプロジェクトだったが、日増しに大人たちの本気度は上がり、「甲子園のように47都道府県の出場チームが出てくるといいね」と夢も膨らんでいる。オンラインで試合ができる特徴を生かし、「日韓戦とか、日米戦とか、WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)もできるかも」といった声まで上がる。内多さんは「『ウルトラ・ユニバーサル野球』を世界中に発信できたら、と思うとワクワクします。還暦を過ぎてなお、こんな気分になれるのは幸せです」と興奮気味に話す。
技術面で大会を支えた伊藤さんは、チーム発足から大会出場までの過程が大切だと話す。 「お住まいの地域でチームを作るので友達が増えたり、チーム内で練習会をして雑談したりお弁当を食べたり、視線入力やスイッチのスキルが上達したりすることが大会での応援や喜びの土台となります。ゲームや試合を超えたコミュニケーションが生まれることが、人生にとって大事ですね」 これまで重度障害のある子どもたちは、いつも家族や支援者の手を借りて、何かをすることが多かった。しかし、この野球大会では自分の力でバッティングする経験を重ねられる。チームで目標を達成する喜びや重圧を感じたりすることもできた。そして何より「重度の障害がある子どもは一人では何もできない」と思い込んでいる家族や支援者の意識を大きく変えた。テクノロジーが重度障害のある人の可能性を引き出したからだ。これまでは考えられなかった発想の転換が子どもたちの人生を切り拓いていくだろう。 本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。 「#病とともに」はYahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の一つです。人生100年時代となり、病気とともに人生を歩んでいくことが、より身近になりつつあります。また、これまで知られていなかったつらさへの理解が広がるなど、病を巡る環境や価値観は日々変化しています。体験談や解説などを発信することで、前向きに日々を過ごしていくためのヒントを、ユーザーとともに考えます。