バギーに寝たままホームラン 重度障害者の「ウルトラ・ユニバーサル野球」全国大会 人生を切り拓く経験に #病とともに
練習重ね4安打の成果出す子も 決勝に参加した子どもたちの変化
3月2日、横浜市役所1階アトリウムで決勝戦が開催された。地元・神奈川県のチーム「KANAGAWA STARS」と青森・岩手・宮城県の合同チーム「東北ブルーロック」の対戦だ。実況席のゲストには横浜DeNAベイスターズ前監督のアレックス・ラミレスさん(50)が駆け付けた。 「東北ブルーロック」の選手のひとり、宮城県在住の小学3年生・松本理沙さん(8)は自宅から両親、姉弟の家族4人に見守られながら、試合に出場した。姉がアイドルコンサートでおなじみのうちわを振りながら、「がんばれ」と声をかける。枕元には弟が書いた「がんばれ、東北ブルーロック」のカードが置かれていた。
低酸素脳症によって話すことが難しい理沙さんは、家族や同級生とは「はい」のときにまぶたをパチパチッと閉じてコミュニケーションを取る。学校でリーダー格の理沙さんは打席でも積極的だった。ボールの動きに合わせて、わずかだが上下左右に瞳を揺らす。特に、第4打席ではタイミングよく視線入力で信号を送ると、「キーン」という音とともにボールはセンターのHOMERUNポケットに。家族が一斉に「ワー」「ヤッター!」と声を上げると、理沙さんのほおが赤く染まった。7打数4安打という見事な成績は、「誰でも野球盤3D」で練習に励んだ成果といえるだろう。 「誰でも野球盤3D」は、きょうだいの仲も深めた。1歳上の姉と理沙さんは、小さい頃は一緒に遊んでいたが、姉は成長するにつれて「理沙ちゃんと、どう遊んでいいかわからない」とつぶやくことが多くなった。例えば、人形遊びをしていても、理沙さんは人形を動かすことも洋服を着替えさせることもできない。 ところが、理沙さんが大会に向けて視線入力でボールを打つ練習を始めたところ、姉と2歳下の弟が部屋に集まり、一緒に遊ぶようになった。決勝戦が終わった日、弟は「(来年の大会には)僕も同じチームでやりたい」と話していたという。母親の美香さんは「きょうだいで一緒に楽しめることがうれしいです」と話すとともに、こう振り返る。 「理沙は自分から気持ちを伝える手段がなかったので、ストレスを抱えて円形脱毛症になった時期もありました。しかし、視線入力ができるようになり、毎日が楽しそうです。私たち家族も、次は娘の期待にどう応えようか、いつも考えるようになりました」 「KANAGAWA STARS」の選手で、中学3年の髙橋総悟さん(14)は野球チームに誘われ、初めてパソコンを購入してもらった。脳の奇形により手足に麻痺があり、話すことも難しい。医師から「視力はあるだろうが、どこまで見えているかはわからない」と言われていたが、伊藤さんのアプリで目は見えていることがはっきりとわかったという。