バギーに寝たままホームラン 重度障害者の「ウルトラ・ユニバーサル野球」全国大会 人生を切り拓く経験に #病とともに
体育も運動会も経験したことがない難病や重度障害のある子どもたちが野球選手になって、試合を決める劇的ホームランを打つ――。そんな夢も実現可能な「ウルトラ・ユニバーサル野球」の初の全国大会が開かれた。体を動かすことも話すこともできない子どもが、きょうだいや友達と一緒に、全国の子どもたちと熱戦を繰り広げる。そんなインクルーシブなチーム編成の大会はどのように実現したのか。また、参加した子どもたちはどのような経験を得たのか。詳しく取材した。(文・写真:医療ジャーナリスト・福原麻希/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
視線入力でホームラン
「1番、おおいしみなと」 千葉県のチーム「サウザンドリーフ」の1番打者、小学4年生の大石湊士(みなと)さん(9)の名前が会場内に響きわたった。今年1月、イベント会社のスタジオには両翼約5メートルの「ユニバーサル野球」と呼ばれる球場が設置されたが、選手の姿は見当たらない。サウザンドリーフの選手らは、会場から約50キロ離れた放課後等デイサービス「アースウェル」に集まり、オンラインで遠隔操作する形で参加したからだ。
湊士さんは出産時の事故によりNICU(新生児集中治療室)で新生児仮死から蘇生し、「低酸素性虚血性脳症」と診断された。自分自身では動くことができず、バギーに横になったまま日常生活を送る。話すことは難しく、泣くことで感情を表現する。家族や同級生は目や口元のかすかな動きで、湊士さんの気持ちを読み取る。小学生になってからは、眼球を動かす視線入力のスキルを身につけて、ゲームで遊べるようになった。今大会にも視線入力で参加した。 球場のホームベース上にある回転テーブルに、スタッフが野球ボールを置いた。湊士さんがパソコン画面上のボールをじっと見つめる。20秒以内に、視線入力でバットスイングの信号を送らねばならない。しかし、回転するボールを見ながら、信号を送るボタンにも視線を合わせることは難しい。ようやく、湊士さんの視線がボールをとらえて信号を送ると、瞬時に球場のバッターボックスに固定されたバネ仕掛けのバットが回転し、ボールに当たった。が、惜しくもボールは球場のファウルゾーンへ。そして、ついに、ツーストライクに追い込まれた。 「勝負の3球目、ピッチャー投げました」 元NHKアナウンサーの内多勝康さん(61)がそう口にした数秒後、場内が突如、絶叫の渦に包まれた。