ピントを合わせるための診断名

世の中の解像度と、僕のピントが合ったというのは、こういうことなのだと思います。

十二歳で小児科に通院を始めてから今に至るまで、僕にはたくさんの診断名がつきました。性同一性障害、解離性(同一性)障害、注意欠如多動性障害(ADHD)の三つが僕の生きづらさの所以であると知ったのは、もう七年も前の話です。僕はずっとそれらを抱える当事者として生きていくつもりでした。

今の薬の組み合わせに辿り着いたのは一年前です。副作用で増加していた体重を元に戻し(最近リバウンドしつつあり節制できていないが)、自分の体調変化のサインを見落とさない、それが今年のささやかな目標でした。これを書いている僕は約三十八度の熱を出して会社を早退して発熱外来の扉を叩いたわけですが。

先日、主治医と僕の診断名について話をする機会がありました。情緒が安定して穏やかに過ごせる日が多くなっていくのに対し、それでも解決することができない問題があったからです。世の中にはありとあらゆる情報が溢れています。自分が知りたい(問題を解決するための)情報の探し方を聞いた矢先のことで、主治医は何の構えもなく僕の診断名を告げました。

自閉スペクトラム障害(ASD)、注意欠如多動性障害(ADHD)、双極性障害(気分循環障害)、それが主治医が「当初から」僕につけていた診断名でした。

疑問に思われる方がいることでしょう。性同一性障害と解離性障害はどうなったのかと。自閉スペクトラム障害が出てきたのは何故かと。

まず、性同一性障害について。僕はそもそも性同一性障害を主訴として通院をしていたわけではありませんでした。ホルモン投与などの外科的な治療は別の病院で受けており、それは今も続いています。戸籍上の性別を変更したことで、僕にとってはあまりにも負荷がかかりすぎる人生のハンデが大きく取り除かれました。常に抱えていた性への嫌悪が減り、ホルモンバランスによる周期的な感情の起伏も、徐々に安定してきました。おそらくこれが一般人のスタートラインなのかもしれません。羨ましい限りです。

次に、解離性障害について。僕の主治医は解離について「気分が落ちたときに起こる」という見立てをしています。つまり、何でもかんでも任意のタイミングで解離するのではなくて、何かのトリガーをきっかけに気分が落ちて解離するということです。言い換えると、気分が安定すれば解離はなくなるはずだということを意味します。そりゃそうです。haruのイメージとしては人格交代が先行してしまいがちですが、知らない間に知らない場所にいるとか、いわゆる解離による遁走や健忘の方が危険で深刻な問題だったわけです。最悪の場合は行方不明者になります。人格交代にしても遁走にしても健忘にしても、根本的な解離の発生確率を下げること、これが治療方針なのだと思います。結局のところ、解離を引き起こす気分の不安定さがそもそもの原因なのであって、主治医は僕のその症状を気分循環障害と診断しています。これは双極性障害の仲間だそうで、僕が毎日欠かさず薬を飲む目的の半分はこれです。何故か知らないけれど、気分が簡単に乱高下してしまうのです。

過去の主治医の診断や治療が間違っていたと言いたいのではありません。もっと言ってしまえば、多重人格は嘘だったと言われても困ります。実際に僕を解離性(同一性)障害と診断し、僕にトラウマがあるという事実を伝えてくれた主治医がいなければ、僕は自分に解離が起こるということすらも認識できなかったはずです。想像を絶します。ただ、今の主治医の診断名に解離性障害は含まれていないという話です。

正直なところ、医師によって診断が変わるのも事実なのだと思います。今の主治医も「うちでは(こうだと)診断します」という言い方をしているので、おそらく他の医師が僕を見たら診断名が変わるのかもしれません。血液検査のように数値があるわけじゃないですからね。でも大事なのは診断名よりも「今の生活に支障を来たしていないかどうか」であって、そういう観点でいうと今が一番穏やかに過ごせている気がします。

そして、発達障害について。最初にADHDと診断したのは今の病院の一つ前の主治医でした。初めて知能検査を受け、絶望的に耳からの情報を記憶できないことを知りました。ASDの傾向も多少はあると言われましたが、診断されるほどでもないといったニュアンスだったように記憶しています。故に長らく僕のXのプロフィールには「(ASD傾向)」と書かれていたわけですが。二年前に今の病院で知能検査を受けて、大幅に数値が向上していることが分かりました。得てして知能検査は二回目以降の数値は上昇する傾向にありますが、受けた知能検査の種類が全く一緒ではない上、そうだとしても比にならんくらいの上昇率でした。最初に知能検査を受けたときのコンディションが悪すぎたとも言えます。

今の主治医は当初からADHDよりもASDが強いと見ているようなので、ほぼ単独ADHDと言われていた僕としては、ここの医師による見方というのは本当によく分からないなと思っています。生育歴や知能検査の結果だけでなく、チェックリストや診察時の様子や内容など、色々と総合的に見るのでしょう。当たり前の話なんですけどね。よくよく考えれば診断名を話す機会なんて早々ないんです。だからこそ、僕はずっと自分が診断されるほどのASDであるとは知らなかったわけです。

三十八度の発熱をしでかして発熱外来にかかった僕ですが、めでたくインフルエンザA型の診断を受けました。インフルエンザは今年二回目、ワクチンを打ったのに「ウイルスに…負けちゃったんだね…」という同情の色が映る医師の眼差し。何故なのか。

性別に対する悩みのほとんどが解決しても(すべては解決しない)、薬のよって気分が安定して人格交代や遁走や健忘が減っても(0にはならない)、薬によって不注意や多動性や衝動性が減っても(0にはならない)、解決しそうにない問題もあったわけです。それがASDであるという診断を受ける所以にもなりました。いわゆる社会性にまつわる問題を僕はいくつも抱えています。

周りからは「そんな風には見えない」とよく言われますが、そう思われるまでにどれほどの苦労があったのか、想像すらもしてもらえないでしょう。主治医にも「社会に適応できているから、あまり気にしすぎないで大丈夫だよ」と言われているわけですが、きっと僕は社会に適応するための試行錯誤を、自分でできる人間なのだと思います。もちろん周りの人の理解や配慮もあってこそですが、何が良くて何がダメであったか、その事実から学んだことを生かすというのが、僕にとっては人よりも得意なことなのだということです。

僕はIQの高さだけでいえば知的ギフテッドである一方、発達障害という診断があることから2Eと呼ばれる分類なのだそうです。僕の強みである言語の力や学習能力の高さは、生きづらい日常生活を生きるにあたってのかなりの困難を克服するのに相当役立ったのでしょう。だからこそ、学校生活(学業面)で大きな問題がなかったが故に、幼少期に適切な支援を受けられず、今でも色々な困難を抱えているのだと思います。

性別の違和感が落ち着き、ホルモンバランスが安定し、合う薬の組み合わせが見つかり、理解が得られる環境で過ごせている、やっとここまで来て、僕は元々のASDとADHDという特性というどうしようもない元々の脳機能の障害に向き合うことができたのだと思います。気分の不安定さは発達障害の二次障害としても挙げられることもあるため、これは僕の元々のものなのか分かりませんが、治療対象であることは確かです。ここが安定しないと僕はまたいとも簡単に解離をしてしまうでしょう。生きづらさは十分にあるけれど、それでもだいぶ死にたいと思うことは少なくなったはずです。

ここまで来るのに十五年かかりました。そしてこれで完全に何もかもが解決したわけでもありません。今後も新しい何かが見つかることもあるかもしれません。それでも僕は、ひとまず自分の特性と生き続けて、来年も頑張ろうと思います。

今年二回目のインフルエンザ罹患中、ベッドの上にて。

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