心付けは「作業前」「一人ずつに手渡し」が鉄則
気分が高揚するほど楽しい引っ越しをするためには、「良きプロを見つけて信頼関係を築く」がポイントになることがわかってきた。魚心あれば水心。こちらの期待と気持ちをダイレクトに伝えて現場を活性化するには心付け、すなわちチップも有効だ。髙倉さんによれば、「作業前に一人ずつに手渡し」が鉄則である。
「名刺をくれるリーダーに、心付けをまとめて渡してはいけません。大手引っ越し業者の場合、たいていはリーダーが社員で、他は日雇いのアルバイト。『後でみんなで分けてね』というつもりで渡した5000円札をリーダーが独り占めしてしまうことが多いからです。1000円で十分なので、引っ越しが始まる前に作業員一人ずつに手渡ししてあげてください。作業のやる気がまったく変わってきます」
当然ながら人件費は引っ越し費用の中に含まれている。髙倉さんたちも期待しているわけではない。もらえなくてもやるべきことは淡々とやる。ただし、目の前のお客さんから心付けをもらえたら、「ちょっと頑張っちゃおうかな!」と思うのが人情というものだ。
心付けをエンターテインメントにするツワモノもいる。髙倉さんが今でも覚えているのは「500円おばちゃん」だ。
「割烹着のポケットに500円玉をたくさん入れて、僕たちの引っ越し作業を見守ってくれるんです。段ボールを3個同時に運んだら、『すごい! 力持ちね~』と500円くれる。通路をふさがないように工夫して家具を置いたら『便利ね~』とまた500円。現場はめちゃくちゃ盛り上がり、作業も大いにはかどりました」
いい引っ越しは、前向きに働く社員が不可欠
引っ越し業者は社名ではなく人名で選ぶ、荷造りは1日1部屋ずつ(作業がストレスに感じるならオプション活用)、心付けは作業前に一人ずつ手渡しする、引っ越し作業はあえて手伝わない。以上が気分を高揚させる引っ越しのコツだが、引っ越し業者のほうも前向きに働いていることが前提となる。2012年の設立以来、離職率ゼロだというTMCはどんな社員が集まっているのだろうか。
「ありきたりな言い方ですが、明るくて元気な人、一緒にいて気持ちいい人、ですね。10人の社員全員が他の引っ越し会社での勤務経験があり、リーダー業務ができるレベルの人ばかりです。その日の現場のドライバー担当もじゃんけんで決められます。うちは芸能人の引っ越しを請け負うことも多いので、秘密保持の観点からもアルバイトはほとんど使いません。手伝ってもらうとしても、社員の奥さんなど信用できる人くらい。経験者を他社から引き抜いているわけではありません。僕が一緒に働きたいな、と思う人が自然と来てくれています」
ホントかな~と思いながら髙倉さんの話を聞いていたら、TMCの事務所のチャイムが鳴った。近くに住む大家さんが和菓子を差し入れしてくれたらしい。事務スタッフの安藤さんが玄関先でおしゃべりをしながらお礼を言っているのが聞こえてくる。
「安藤も大家さんのスマホ設定などを手伝ってあげています。そのお返しですね。『ありがとう』と言われるのが大好きな僕たちは、基本的に頼まれたことは断われません(笑)。NOと言えない日本人の集団です」
会社の自慢をしつつも最後はきっちり笑わせてくれる髙倉さん。さすがは芸人にして経営者だ。TMCのような朗らかなプロたちが手伝ってくれるのであれば、引っ越しも面白くなる気がした。



