【第21回】<補適法第6条解説>補助金「交付決定」は契約か処分か?――交付取消しや減額に立ち向かうために知っておくべき法的ポイント
行政訴訟で問われているのは、単なる「取消通知」の正当性だけではありません。
私たち中小企業が国や中小機構に対して「信頼して事業を進めた」その土台である 交付決定の性質 そのものが問われています。
いまや愛読書になっている『補助金適正化法解説 全訂新版(増補第2版) : 小滝敏之』より今回は第6条の「交付決定」の解説をお届けします。
今回は、補助金適正化法における 第6条の「交付決定」 を中心に、
● 補助金の交付決定は本当に契約なのか?
● その取消しや減額はなぜ「行政処分」に当たるのか?
● 実際に訴訟で有効となる反論の切り口は何か?
こうした実務的・戦略的な観点を共有します。
■ 交付決定=準契約的性質をもつが…
補助金の交付決定は、交付申請に対する「承諾」としてなされるため、
一見すると、贈与契約が成立したような私法的構造を取ります。
実際、東京地裁の判例でも「贈与契約」と評価されている例があります(例:令和元年11月7日判決)
しかし、ここで大事なのは「契約的側面」と「行政的側面」が並存しているという点です。
■ なぜ取消・減額が「行政行為」なのか?
補助金交付は、公共性の高い財政支出であるため、
制度の適正な運用と公平性の担保のために 行政行為としての性質 が与えられます。
以下のような構成が、法的には一般的です:
交付決定そのものは“契約”に近い準法律関係
だが、取消・減額・返還命令は一方的な行政処分である
つまり、「契約だから自由に解約できるわけではなく、行政処分だからこそ法的な要件・手続きが必要」とされるのです。
このような構成が妥当とされる理由として、次のような立法政策的背景が挙げられています『補助金適正化法解説 全訂新版(増補第2版) : 小滝敏之』より
補助金の性質上、個別契約での調整よりも統一的な処理が必要
国民の法的救済制度として、行政訴訟の対象とするため
行政の判断に平等原則や透明性を求めるため
■ では「取消処分」が違法になるのはどんな場合か?
補助金適正化法第17条第1項により、取消しが許されるのは以下3要件のすべてを満たす場合です。
補助金の交付決定またはその条件に違反したこと
是正措置が行われたにもかかわらず
目的達成を阻害するような重大な違反があること
したがって、以下のような主張は裁判上で有効です:
是正措置を尽くしたのに、機構は一方的に打ち切った
そもそも条件違反の認定が恣意的だった
減額で済むはずの軽微な事案だったのに、過剰な処分を下した
■ 裁判で争うための実践的ポイント
実際に行政処分性が認められれば、取消しや返還命令は「違法」とされる可能性があります。
このような事実を社会に伝え、声をあげるためには、次のような整理が必要です。
契約的側面:交付決定は申請に対する承諾に基づく
行政的側面:取消や返還命令は一方的な不利益処分(行政処分)
違法性の要件:①条件違反 ②是正措置の有無 ③重大性
手続違反:理由提示や事前通告の不備などの形式的違法
社会的影響:補助金制度の信頼性低下、事業者への過度な萎縮効果
■ 補助金を受ける事業者の皆さんへ
本件のように、「返還命令」や「交付取消」が下された際に、
「これは契約だから仕方ない」「文句を言っても通らない」と諦めてはいけません。
取消し・減額は行政処分であり、法に則らない限り違法であり得ます。
私たちは“処分に理由を求める”正当な権利があるのです。
今後、交付取消しの不当性を訴える他の事業者の方とも連携し、
この「制度のあり方」そのものを問い直すべき段階に来ていると感じます。
引き続き、皆さまの経験や情報をnoteやXで共有いただければと思います。


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