コロナ緊急事態宣言から5年 “かぜ”患者数の定点調査始まる

世界中に広がった新型コロナウイルスのパンデミック。その始まりからことしで5年になります。
日本では5年前の4月7日に首都圏や大阪、福岡など7つの都道府県に初めての緊急事態宣言が出され、人々の健康、そして暮らしは深刻な影響を受けました。そして今、専門家は未知のウイルスによる新たなパンデミックが再びいつ起きてもおかしくないと警鐘を鳴らしています。

次のパンデミックへの備えはできているのか、コロナ禍を経験した私たちはそこからどのような教訓を得、それを生かすことはできているのでしょうか?新型コロナのパンデミックの始まりから5年の節目に「ネクスト・パンデミック」と題して、コロナ禍を検証し、新たな脅威への備えを考えていきます。

新型コロナ 緊急事態宣言から5年

新型コロナウイルスは、国内では5年前、2020年1月15日に初めて感染者が確認されたあと徐々に感染が拡大し、地域によっては医療体制のひっ迫が問題となりました。

これを受けて4月7日に東京都や大阪府、福岡県など7都府県を対象に緊急事態宣言が出され、その後対象は全都道府県に拡大されました。

政府の基本的対処方針では、「密閉・密集・密接」の「3つの密」を避けるよう呼びかけられたほか、外出自粛の要請を強力に行い、リモートワークやオンライン授業が広がったほか飲食店などの営業時間の短縮なども行われました。

宣言は流行の制御につながったとする評価がある一方で、社会・経済活動への影響も大きく、感染対策の進め方が議論となりました。

また、感染拡大の波のたびに医療機関の病床がひっ迫したり救急搬送が困難になったりするなど医療体制のあり方も課題となりました。

おととし5月に感染症法上の位置づけが「2類相当」から「5類」に変わるまでにおよそ3380万人が新型コロナウイルスに感染し、累積の死者数は去年10月までにおよそ13万7000人となっています。

国は新たな感染症の世界的な流行が起きた場合に備え、おととし感染症対策を一元的に担う司令塔として「内閣感染症危機管理統括庁」を発足させました。

また今月には感染症の基礎研究や治療法の開発を担ってきた国立感染症研究所と国立国際医療研究センターの2つの組織を「国立健康危機管理研究機構」として統合し、感染症対策について科学的な知見に基づいて政府に助言する役割が明確にされました。

社会に深刻な影響を及ぼした新型コロナの経験を踏まえ、次のパンデミックにどう備えるかが課題となっています。

“かぜ”症状の患者数 定点調査スタート

せきや、のどの痛みなどのいわゆる“かぜ”の症状がある患者数の定点調査が7日から始まります。原因となる菌やウイルスを特定して適切な治療につなげることや“かぜ”の患者の動向を幅広く把握することで、未知の感染症の発生を探知することが期待されています。

国立健康危機管理研究機構は7日から全国およそ3000か所の医療機関でせきやのどの痛み、鼻づまりなど“かぜ”の症状がある患者を「急性呼吸器感染症」として定点調査を始めます。

これまで呼吸器の感染症はインフルエンザや新型コロナなど病原体ごとに報告されていましたが、これに加えて▼検査を受けていなかったり▼検査が陰性だったりした“かぜ”の患者の数も報告の対象となります。

また、定点のうち一部の医療機関は検体を地方衛生研究所などに送り病原体を分析して特定することでより適切な治療につなげることができると期待されています。

また、世界的な流行となった新型コロナは当初、原因不明の呼吸器感染症として報告されたことを踏まえ、厚生労働省は“かぜ”の患者の動向を幅広く把握することで未知の感染症の発生を探知し、速やかな対策に結び付けたいとしています。

日本小児科医会の峯眞人理事は「インフルエンザや新型コロナの検査は陰性だが原因が分からないせきや鼻づまりなどの患者は相当多いと感じている。この調査によってこうした患者の数の動向や原因などが分かれば診断や治療に役立てられるのではないか」と話しています。

尾身茂氏「しっかりした過去の検証が必要」

政府の分科会の会長などとして新型コロナウイルス対策にあたった尾身茂氏は、5年前の緊急事態宣言について「100年に一度の危機で、当時、大変な思いをしなかった人はいなかったと思う。専門家の間でも当初から、社会経済への負荷を最小限にしようということは合意していたが、その具体案となると、重症化対策に重点を置くべきだという意見や、ある程度感染を抑えなければいけないという意見があり、簡単な判断ではなかった」と振り返りました。

そして、一連の新型コロナ対策について「対応のどこがよくて、どこが課題だったのか、政治家や官僚に加え、専門家、医療関係者、それにマスコミも含めて、しっかりとした過去の検証が必要だ」と指摘しました。

将来的に再びパンデミックが起きた際の対応については「流行の初期のころには、医療のひっ迫を抑えるため、緊急事態宣言のような強い対策は必要で、これからも求められるだろう。それをどの程度実施するのかは、死亡者や医療のひっ迫をどれだけ許容するかという価値観の問題でもあり、国民的な議論が必要で、意思決定のプロセスを準備しておく必要がある。社会には立場が違ういろいろな人がいる中で、お互いの価値観を理解する双方向のコミュニケーションのあり方をいまから考えるべきだ」と述べました。

また、国際的な感染対策について「アメリカは国際的な感染症対策を世界で最も支援してきた国だと思うが、現在、グローバルヘルスへの取り組みが弱まっている。日本は感染症対策の分野で国際協力を進めてきた実績がある国で、日本が果たすべき役割は大きい」として、日本のリーダーシップに期待を示しました。

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