コラム:米政権が研究開発予算にも大ナタ、ライフサイエンス業界衰退の危機
医療研究者は世界的なパンデミックの抑制に貢献した。写真は、実験室で研究に取り組む科学者。2016年6月、コネチカット州メリデンで撮影(2025年 ロイター/Mike Segar)
[ニューヨーク 2日 ロイター Breakingviews] - 医療研究者は世界的なパンデミックの抑制に貢献した。しかし、ワシントンから急速に広がる経済的な問題には対応が難しいかもしれない。トランプ政権の大幅な予算削減は、研究資金を提供し新薬を承認する機関も直撃している。これには、ワクチン接種に懐疑的なロバート・ケネディ・ジュニア氏が率いる保健福祉省も含まれる。直近の影響は小さく見えるが、長期的にみて治療法の開発が遅延したり進まないリスクは大きい。
米国は他のどの国よりも多くの資金を研究開発に投入している。国立科学財団によると、2021年のその額は8000億ドル(約120兆円)を超え、これは第2位の中国より約20%多い。米国政府が直接負担したのは約1600億ドルだが、その責任ははるかに大きい。営利を追求する資金提供者は、短期的な見返りが不明瞭な基礎研究や初期段階の研究への投資には消極的だ。米国の納税者はこの支出の40%を負担している。
米国の保健機関で計画されている1万人の解雇には、食品医薬品局(FDA)や疾病対策センター(CDC)のトップ科学者が含まれる。トランプ政権はさらに、研究助成金の承認をほぼ停止したほか、科学的発展を支えるための国立衛生研究所(NIH)の予算の10%にあたる40億ドルの凍結に動いた。州や大学、その他の団体はこの決定を阻止するために訴訟を起こしている。
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初期の犠牲者は実験器具や備品の販売業者だ。遺伝子配列解析機器の専門企業であるイルミナ(ILMN.O), opens new tabは、11月の大統領選挙以来、軟化する実験への需要と貿易戦争の激化による中国の制裁の影響で市場価値の半分を失った。バイオ関連企業サーモフィッシャーサイエンティフィック(TMO.N), opens new tabのような多角化した企業も影響を受けたが、それほどではなかった。医療テクノロジー企業のベクトン・ディッキンソン(BDX.N), opens new tabは、売却しようとしている大規模なバイオサイエンスおよび診断事業の価格を割り引かざるを得ないかもしれない。
しかし、より広範囲にわたる痛みはこれからだ。米国政府の基礎研究支援が枯渇すれば、その多くは補填されないだろう。最近の研究によると、2010年から19年の間に販売が承認された医薬品の99%以上にNIHの資金が投入されていた。
科学界からの警告も厳しい。元FDA長官のロバート・カリフ氏は、FDAは空洞化が進み、「我々が知っていた組織はもはや存在しない」と警告した。ワクチン承認部門を率いたピーター・マークス所長は辞表の中で、ケネディ長官は単に「自身の誤情報と嘘をそのまま受け入れてもらいたいだけ」だと書いた。
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彼の辞任とコメントだけで、メッセンジャーRNA技術の開発を主導するバイオ医薬品会社モデルナ(MRNA.O), opens new tabの市場価値は9%減少した。しかし、より重大なリスクは、資金難が常態化してライフサイエンス業界全体が衰退してしまうということだ。
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筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。