〈仕事で結果を残したい〉
ただ、報道取材においては素人さながらのディレクターには、それでも一人でこなさなければいけない事情があった。
えりすぐりの人材を集めた調査報道ユニットにおいて、ディレクターはただ一人、番組制作会社に籍を置いていたからだ。おまけに報道番組では実績がなかったため、〈肩身が狭い〉〈仕事で結果を残したい〉といった〈組織内の見えない壁〉を感じていたのではないかという。
そのせいか、当該番組では視聴者受けを狙ったと思える虚偽の情報も流している。
たとえば、A氏が自分の子どもに不必要な契約の申し込みの手続きをするシーンがある。だが、その契約は2ヵ月前にすでに終えているものだった。
さらにA氏が自爆した契約の件数を実際よりも多く報道していた。身バレさせるようなぎりぎりの映像にしたのも、同様の理由だったのではないか。
ただ、だからといって、「情報源の秘匿」という基本的倫理から逸脱していい理由にはならない。それでもっとも手痛い目に遭うのは、いつだって告発者なのだ。