【完結】強キャラ東雲さん   作:佐遊樹

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玖 ブレイジング・メモリー(後編)

 本物の織斑一夏が消去された仮想の世界で。

 東雲は目をつむり、意識を集中させていた。

 何人たりとも近寄らせない鋭利な空気に、織斑一夏たちも思わず口をつぐむ。

 

 東雲が何をやっているかというと。

 

『いやだ。そいつじゃない、今は俺だけを見てくれ』

『欠けているものがあるのなら俺が埋めてやる!』

『俺がここにいる! 俺が君の傍にいる! だから、だから──こんなところに居続けることを、選ばないでくれ……ッ!』

みんなと一緒の場所に帰ろう、東雲さん……ッ! いっぱい愛して、いっぱい愛されるのは、夢だけじゃないんだ……! みんなが(俺は)君を愛してる! 俺だってそうだ! そして、君も……俺たちを、愛してくれてたはずだろ……!?』

『俺は()に、欲しいものを与えられていたんだ。寂しくない場所を。つなげる手を。どこまでも続くようなつながりを。だから今度は、俺が東雲さんに与える番だ!』

『君は俺の翼だ! だから、だから──独りで、どこかに行かないでくれよ……!!』

 

 

んほぉーーーーーー!!!!

 

 

 ブラクラかな?

 

 びくびくと跳ねながら、東雲は記憶の改竄にせっせといそしんでいた。

 最終局面も最終局面なのだが、先ほど一夏が放ったセリフは彼女の脳をバグらせてしまったらしい。ただでさえ使い物にならなかった頭が完全に終わっている。

 

んほぉ~独占欲バチバチおりむーたまんね~!

 

 御覧のありさまだよ。

 

(あーでもなんか違和感あるな……いや……あれ? これもしかして…………)

 

 一転して何やら思案し始めた東雲は、不意に唸ると、何やら考え込み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 月面、最終局面。

 原初にして最後の救世主──暮桜。

 相対するは、一夏たちIS学園部隊。

 

 零落白夜に対抗できるのは零落白夜だけ。その基本原則に変わりはない。

 だが先ほど、セシリアは狙撃用ライフルから零落白夜を放っている。

 

(リンクして共有している……それだけでは説明がつかない。あれほどまでに、本家と同様に行使できる道理はない。いいや原理はどうでもいい! 全員が『零落白夜』を使ってくる可能性がある、ということを前提にすれば──)

 

 黄金色の両眼が戦場を滑らかに切り裂いた。

 新たに前提を組み込み、戦力差を比較し、戦術シミュレーションを回して。

 

「……問題ない。君たちの勝率は0%だ」

 

 酷薄な言葉と同時。

 暮桜が即座に漆黒の光で薙ぎ払う。

 全員散開して攻撃をかいくぐりながら、間合いを測る。直撃が死に至るのは今までと同じだ。

 最速での回避──に、一人遅れた。

 

【……ッ! 一夏、しっかりして!】

「わりぃ……!」

 

 かすりかけた攻撃を、『白式』が自動補佐でかろうじて捌いていく。

 負っているダメージは甚大。意識がいつ飛んでしまってもおかしくない状態だ。

 

「一夏……!」

 

 真っ先に気づいたのはシャルロットだった。

 精彩を欠いた動きを見せる一夏の前に割って入り、臨海学校で試験運用予定だった防御用の換装装備(パッケージ)『ガーデン・カーテン』を展開する。

 実体シールドとエネルギーシールドを組み合わせたとはいえ、『零落白夜』相手では紙切れに等しい。

 しかし。

 

「セシリアにできたのなら、僕にだって──!」

 

 展開されたシールド群が、主の叫びと共に()()()()を放つ。

 放たれた漆黒の『零落白夜』相手にシャルロットがシールドを叩きつけた。

 蒼と黒がせめぎ合う。しかしコンマ数秒を置いて押され始める。

 

(────とど、かない)

 

 拮抗すらない。一方的に蹂躙されるだけ。

 揺れた金髪の毛先が嫌な音を立てて蒸発する。

 鋼鉄の軋む音。踏ん張って耐えることしかしていないのに、それが耐えがたい苦痛になる。

 

(届くはずがない。何もかも足りない。存在の位階からして違うような感じだ。ああそうだ、言うとおりだ。僕なんてこの場に立つ資格を持ってはいないんだ)

 

 そんなことは分かっている。分かっているのだ。

 

(──それでも)

 

 セシリアが言ってのけた。ステージの違いなど問題ではないと。

 好敵手だからこそ言えたのかもしれない。

 だけど。だけど!

 一夏を背後に庇い、シャルロットが──その瞳に、チリと火花を散らした。

 

「譲れない! 譲るもんか! 僕の人生を守るためには、一夏を守りたいッ!」

 

 その時だった。

 居合わせた誰もが、あるいはモニター越しに見た地上の人間全員までもが目を見開き絶句した。

 

 ──かつて聖剣なる必殺技術を発現させたように。

 

 絶対にありえない現象を、シャルロットが引き起こす。

 単なる偶然ではない。散りばめられた微かな希望を拾い集め、か細いつながりを信じ、己の手で手繰り寄せたのだ。

 

 引き起こされた変化はいたって単純。

 

 

 ()()()()()()()

 

 

 破滅の蒼い光が、()()()()()()()()()()()()()

 

 

「な──これ、は……ッ!?」

【そんな──『零落白夜』が変質してるッ!? リンク先で……いいや、リンク先と一緒に、こっちのプログラムまで書き換えられた!?】

 

 一切を破却する滅びの蒼ではなく。

 父親と母親の愛を知り。

 自分の中に宿った恋慕を知り。

 幸せになりたいと叫び、自分の人生を進むことを決めた少女の色合い。

 

(僕がここにいられる理由。そして僕が()()()()()()()()()()()()。それはいつも──!)

 

 真後ろにいる少年を一瞥して。

 それからシャルロットは裂帛の気合いを以て叫んだ。

 

()()()()ァァ────ッ!!」

 

 意志に呼応して、コスモスの華が月面に咲き誇った。

 シールドが放つオレンジ色の輝きが最大限に猛る。

 黒を迎え撃ち、押しのけ、跳ね飛ばして──最後には弾ききった。

 

「…………シャル、お前……」

 

 自分の命を投げ出すような行いだった。

 相手の攻撃を弾けたことの方が理解不能なのだ。まさしく捨て身の防御。

 だというのに、シャルロットは最初から生き残るつもりだったといわんばかりに振り向いて。

 

「一夏! ()()!」

 

 その右手を真っ直ぐに差し伸べた。

 

「あの時のお返しだよ……ううん。本当はね、一夏。ラウラを止めようとしたとき。そして、エクスカリバーが暴走したとき。二回とも、僕の借りなんだ。だからお返しするよ」

「……ッ!」

「今この瞬間、僕が君の力になる! 怖いなら横を飛ぶ! 力が足りないなら背中を押す! だから──僕と一緒に戦おう、一夏ッ!」

 

 微塵の揺るぎもない宣言。

 迷うことはなかった。一夏は大きく頷くと、彼女の手を取った。

 直後。

 

【……!? ()()()()()()()!? これは──そうか、私が今まで蓄積してきた戦闘データの……! 一夏、行くよ!】

「えっ?」

 

 光が散った──『白式』が、その姿を作り変えていく。

 ウィングスラスターが二段階加速(ダブルイグニッション)用に複合・大型化。

 さらに左腕が射撃・格闘・防御全てをカバーする多機能武装腕(マルチアームド・アーム)『雪羅』に変化した。

 

【Another Second Shift──第二形態『白式・雪羅(せつら)』アアアッ!】

 

 この世界において顕現した『白式・零羅(れいら)』とは異なる分岐、異なる世界において発現したであろう、シャルロットから強い影響を受けた第二形態。

 突如現れたその姿に、暮桜が瞠目する。

 

「なッ……なん、だ、それはッ!?」

「……俺も知らねえ。微塵もわかんねーやこれ。だけど、確かなのは──今俺は、身体の奥底から力が湧いてくるってことだ!」

 

 多段階加速をかけて、一夏は稲妻の如き軌道で暮桜に迫る。その横にシャルロットが並んだ。

 とっさにバックブーストをかけつつ暮桜が距離を置こうとするが、もう遅い。

 

「悪いけど一夏と初めて共同作業したのは僕なんだよ! 令とはいえ、そこはちゃんとわきまえてほしいかな!」

「お前──お前何言ってんの??」

 

 先ほどの呼びかけからずっと、全員の装甲から紫電が散っている。

 過負荷、ではない。それは仲間たちとの深いリンクがもたらすエネルギー放出現象。

 

「なんでだろう、今なら僕、何でも言えるよ! 一夏! もう一回ケーキ入刀しよう! いいや何度でもやろう!」

「えぇ……? いや、別にいいけどさ……」

【過剰リンクが七機の間で常時行使されてる──理由は不明だけど、これならいけるよ一夏! あとそういう安請け合いは後々地獄見る羽目になるから本当にやめたほうがいいと思う

 

 後ろへ下がった敵に向けて、一夏が右手を、シャルロットが左手を同時に突き出す。

 それぞれの手には『雪片弐型』と近接戦闘用ブレードが握られている。

 次の瞬間には、二振りの剣がそろって()()()()()の雷を纏った。

 

「な……ッ!?」

「これが僕と一夏の共同作業だ──()()()()ッ!

 

 変質した『零落白夜』。

 オレンジ色の光が月面を駆け抜ける。

 

「いくぜシャル!」

「うん、やろう!」

 

 二人は顔を見合わせて頷くと、キッと正面の暮桜を見据えて。

 

「「『浄化の尊き光よ、世界中に遍く咲き誇れ(エクスカリバー・プレーヌ・フロウレイゾン)』──ッッ!!」」

 

 雷が刀身を起点に炸裂した。

 爆発的に威力を増した光の剣が、真横一閃にあたりを薙ぎ払う。

 暮桜は漆黒の『零落白夜』を前面に展開し、ガードしようとするが。

 放たれた橙色の輝きが黒と接触。表面を削り取られながらも、黒を押し込んでいく。

 

(……ッ!? 馬鹿な、出力負けしている!?)

 

 コンマ数秒を置いて暮桜が弾き飛ばされた。

 直撃こそ免れたが、軽減しきれなかったダメージがエネルギーを削っている。

 

(なん、だ? 他の機体とリンクして……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? だが、それがどうして強化につながるッ!?)

 

 混乱のままに暮桜は刃を振りかざす。

 大上段から漆黒の光が落ちてくる刹那。

 

「一夏ッ!」

 

 シャルロットと入れ替わりにラウラが飛び込んできた。

 言葉もなしにシャルロットは切り替わり(スイッチ)を理解、リンク先が彼女からラウラに変更される。

 

「つながりを求めているのなら、そのつながりごと消えてなくなれッ!」

 

 光を飲み込む闇が、洪水となって落ちてきた。

 一夏とラウラがその濁流の中に飲み込まれる。『零落白夜』による破壊が月面を砕いた。

 地面が数メートル単位でめくり上がり、粉塵が空間を埋め尽くした。

 

 全部消えてなくなれという呪いにも似た濁流。

 それに押し流され、飲み込まれ、青い光なんて見えやしない。

 

 だけど。

 その光は、決して消えていない。

 

 濛々と立ち込める灰色のヴェール。

 それを、一振りのナイフが切り裂いた。

 

【Another Second Shift──第二形態『白式・羅刹』】

 

 粉塵の幕が取り払われた先には、無傷の二人が佇んでいた。

 ナイフを振るったラウラの隣に並び立つは、再度新生した装甲。

 白黒斑模様になった『白式・羅刹』は、ウィングスラスターを極端に縮小し、代わりに両肩に巨大なレールカノンを二門構えている。

 両腕の装甲が肥大化、牽制用マシンキャノンを内蔵しつつ、同時に近距離においてアドバンテージを稼ぐためのワイヤーブレードも射出した。

 

 遠い遠い平行世界で、もしかしたらあったかもしれない第二形態。

 ラウラ・ボーデヴィッヒと『シュヴァルツェア・レーゲン』に強い影響を受けた白式の姿。

 

「俺にまだこの名前は早いと思うけど、今だけは借りるぜ──魔剣領域、構築!」

「さあ、魔剣の錆となるがいい」

 

 レールカノンが()()()()をため込み、一気に放出。

 またも色彩を変えた『零落白夜』が暮桜に迫る。

 

(……ッ! 防御、できない──!)

 

 対応の再計算には刹那も置かない。

 一方的に打ち消すことができないという前提は、理不尽であっても受け入れるしかない。暮桜は最適な回避先を選択し、そちらに飛びのこうとし。

 

 ()()()()()()()()()()()()()が、彼女の身体をがくんと縫い留めた。

 

「な……ッ!?」

「今度は逃がさねえッ!」

 

 レールカノンから放たれた黒い雷が、暮桜の胴体を穿った。

 とっさに展開した『零落白夜』同士が相殺し、ダメージを最小限に抑える。

 しかし。

 

「言ったはずだぞ。逃がさないとな」

 

 目と鼻の先で、黄金の輝きが閃いた。

 眼帯を解き放ったラウラが、左目の『ヴォーダン・オージェ』をフル稼働させている。

 そこで暮桜は気づいた。回避先として考え得るポイントを、ラウラの4本、一夏の2本、合わせて6本のワイヤーブレードが潰している。

 レールカノンの発射からはコンマ数秒ほどしか置かれていないというのに、完璧な、完璧すぎる攻撃配置。

 

「貴様の逃げ場などない。()()()()()()()()()()()、当然だろう?」

 

 すぐ隣に並ぶ男を誇るように、ラウラは唇を吊り上げる。

 極端なまでの深度でリンクした。もはや思考が直結しているにも等しい。かすかな身じろぎを介して戦闘理論を共有し、一夏はラウラを、ラウラは一夏を前提において戦術構築を壮絶な勢いで上書きしあったのだ。

 

「馬鹿な──貴様ら、コンピュータか!?」

「違うな。魔剣使いと、別の魔剣使いの弟子だぁッ!」

 

 裂帛の叫びとともに一夏が雪片弐型を振り下ろす。

 それと鏡合わせのように、ラウラもまた超振動ナイフをコンパクトな動きで振り上げていた。

 竜の咢が獲物を噛み潰すような光景。暮桜は後には退けず左右にも逃げられず、ただ迎撃するしかない。

 出力にものを言わせた、雪片を突き出す一点突破のカウンター。

 

「一人だから、そんな破れかぶれしかできない!」

 

 だが──魔剣使いと、唯一の男性操縦者を相手取っているにしては、あまりにも安易な選択肢。

 即座に軌道を変えた雪片弐型が漆黒の雷を纏い、暮桜のカウンターを叩き落す。

 がら空きになった正面からラウラが飛び込み、深々と腰から肩にかけての装甲を切り裂いた。

 

「────っぅあ、この、塵共が……ッッ!!」

 

 忌々しそうに両眼に怒りの炎を宿し、暮桜が呻く。

 答えることなく一夏はラウラの首根っこをつかんで飛びずさった。同時、暮桜の全身から漆黒の『零落白夜』が無秩序に放たれる。

 

(近づけさせない魂胆か! なら、次に打つべき手は──)

「乗れ、一夏!」

 

 声が聞こえると同時、一夏とラウラは同時に頷いて散開する。

 一夏はそのまま飛び上がり、月面を滑るように飛翔してきた箒の上に着地した。

 二人の機体がリンクし、同時にスラスターと展開装甲を花開かせる。

 

「迂回している余裕はない。迎撃を貫通(パス)して超高速でぶつかりにいく! やれるな!」

「ああ、わかってるさ──!」

 

 まっすぐに飛ぶだけで、余波に月面が割れていく。

 よく見れば『紅椿』には急造のばらまかれた展開装甲がいくつか付着し、突貫用の増設装甲として機能しているではないか。唯一の第四世代機を自在に操り、箒は絶死の戦場を駆け抜けていた。

 

「なぜだ、なぜ抵抗する! 君が求めたんだ。君がいてほしいと願ったから、私はここにいるのに……ッ!」

「ああ、そうだな。かつての俺は望んだんだ、彼女の存在を」

 

 単騎での加速を大幅に上回り、箒が一夏と『白式・羅刹』を乗せて加速する。

 放たれる砲撃を、展開装甲によるブーストをかけて紙一重で避けていく。箒は頭の中がゆだつような集中を発揮し、ジグザグにターンを繰り返していく。

 その中で、一夏は唇を強くかんだ。

 

「一夏、お前は──」

「事実だ。彼女を求めたのは、過去の俺だ。俺は、過去の俺は裏切れない。事実だよ、箒。俺はいてほしいと願った。願っちまった。救ってくれる人を。こんな悲劇や憎悪を、俺ごと薙ぎ払ってくれる誰かを──」

 

 青い瞳を閉じて。

 一夏はこれまでの日々を、IS学園に来る前の無気力で破滅的で、すべてに投げやりになっていた自分を思い返した。

 

(ああ、そうだ。あの時俺は、諦めてしまった。自分の生存すら投げ出したんだ)

 

 彼の願いに呼応して、光一切を通さぬ暗黒の雷霆は顕現した。

 悲しみや苦しみを、喜びや楽しさや愛しさを犠牲にしてでも抹消すると。

 単一の目的のために、暮桜は純粋な救世行為を確定させようとしている。

 

 

「だが今は違うだろうッ、織斑一夏ッ!」

 

 

 幼馴染に名を呼ばれて。

 一夏は静かに、その瞳を開いた。

 

「……箒」

「知っているさ。ああ知っているとも。お前は意外と打たれ弱くて、そのくせ負けず嫌いで、どうでもいいことばかりにこだわる変なところがある、いわゆる厄介系男子だ」

「これ、まあまあな悪口じゃないか?」

 

 しかもあんまり言い返せなくて一夏は渋面を作った。いやというほどに心当たりがある。

 だが箒は回避機動を取りながらも、キッと一夏を見上げて叫ぶ。

 

「だけど今ならわかる。もうわかってるはずだろう、一夏──お前のしたいことはなんだ! 今のお前は、世界の滅びを見ているだけでいいのかッ!? 私の信じる幼馴染は、果たしてそんな奴だったのか!?」

「……ッ」

「何度でも言うぞ。私はお前を信じる。お前がしたいことが、私の願いでもある。お前の喜びが私の喜びだ。故に聞くぞ──お前のしたいことはなんだ!?」

 

 思わず一夏は息をのんだ。

 自分自身の願い。

 世界の存亡をかけた場面だというのに、彼女の問いは状況とはかけ離れたものだった。

 

「だけど、箒、さすがに今は──」

「義務感なんかで戦うな! お前はいつだって、お前自身が望むお前であるために戦い続けてきたはずだ! 私はその背中をずっと見て、隣に追いつきたいと希って、そしてここにいるッ!」

「──ッ!」

「もう一度聞くぞ! お前のしたいことはなんだ、織斑一夏ッ!」

 

 一夏は周囲を見渡した。

 漆黒の砲撃をさばきながら、信頼する仲間たちがこちらを見ている。

 何度も剣を交え、高め合い、競い合ってきた戦友達。

 果たしてそれは何のためだったのか。

 

「……ハッ。そんなの決まってる、俺は、お前らライバルを全員ぶっ飛ばしてえ! それで世界最強になって、憧れてる人たちと同じステージに並びてえ!」

「ああ、そうだ。負けず嫌いなお前なら、そう言うと思ったさ!」

「あと東雲さんにご飯食ってもらいてえ!」

「それは諦めろ」

 

 箒は真顔だった。

 突然はしごを外され、一夏は数秒黙り込む。それから、聞かなかったことにした。

 

「要するには、俺には俺のやりたいことがある! そのためには、あの自称救世主が死ぬほど邪魔だ──ぶっ飛ばしに行くぞ、箒ッ!」

「相分かった。ならばお前の願いをかなえるために、私は一振りの刃となろう──!」

 

 真紅の流星と化して猛然と迫る中、バチリと音を立てて赤い稲妻が二人から放たれる。

 同時、再び『白式』の装甲が変質していった。

 四肢に赤いラインが走り、レールカノンがスラスターも兼ねたウィングバインダーに再構成される。

 全身の装甲からは厚みが抜け、薄く、それでいて鋭い形状に変貌した。

 

【Another Second Shift──第二形態『白式・紅蓮』!】

 

 三度目の第二形態移行(セカンド・シフト)

 篠ノ之箒と『紅椿』に強い影響を受けた、白式の異なる第二形態。

 

『また姿を変えた……!? どうなってんのさこれッ!?』

「もうこれで三つ目。第二形態って本当は貴重なはずなのに、完全にバーゲンセールだよ……」

 

 束の驚愕と簪の嘆息をはるかに置き去りにして。

 紅い稲妻が月面を駆け抜けて、ついに暮桜との間合いをゼロにした。

 

「真正面からなど……ッ!?」」

「行けよ、()()()()()()ッ!!」

 

 正面衝突。突撃と迎撃は同時。

 暮桜が放った零落白夜の砲撃を、分離浮遊・射出された『白式・紅蓮』のウイングバインダーの一部が防いでいる。

 

「それはソードビットじゃなくてシールドビットだろう!?」

「違ぇよ箒! こいつは攻撃を防ぐんじゃなくて()()()()()()んだ!」

「成程ならばソードビットだ──!」

 

 滑らかな掛け合いをしながら、一夏と箒が同時に抜刀した。

 振るう刃すべてが()()()を巻き付けている。当然それはアンチエネルギー・ビームだ。

 

()()()()──秩序を穢し、貶め、反転させろ」

「何もないから綺麗な秩序なんて、ハナから間違ってるんだよ! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 暮桜の主張に異を唱えながら、一夏と箒が飛び込んだ。

 振るわれた雪片弐型が漆黒の装甲を食い破り、それを後ろから飛んできた箒の太刀が押し込む。

 拮抗するはずもない、暮桜が一方的に打ち勝つはずの、『零落白夜』同士の激突──だが結果は裏返る。

 展開された黒を、深紅が貫く。貫通した斬撃が暮桜の装甲を砕いた。

 

(なん、だ?)

 

 ノックバックに黒髪が揺れ、東雲の身体が大きく後ろへ弾かれる。

 

(馬鹿な。あり得ない。『零落白夜』同士の衝突で、私が後れを取るはずがないのに──)

 

 単一の能力を発展させ、磨きをかけて。

 エネルギー体を消滅させるという性質において、唯一無二の領域へ至ったというのに。

 

「一夏……!」

「──簪か!」

 

 一撃当てたままに後ろへ抜けていき、一夏はそのまま箒の上から飛び立った。

 ターンをかけて再度暮桜を正面に捉えるころには、全身の紅いラインが色を失い、装甲が今までの中で最も厚みを増し、重装甲型へと変貌する。

 隣に並んでいるのは更識簪。

 

【Another Second Shift──第二形態『白式・鳴鋼(みょうこう)』……ッ!】

 

 更識簪と『打鉄弐式』に強い影響を受けた、互いを補完し合うようなコンセプトの第二形態。

 四度目の第二形態移行を果たし、『白式・鳴鋼』と『打鉄弐式』がそろって鈍色の粒子を放出する。

 

「大丈夫だよ、一夏。諦めなければって、一夏が信じ続けるなら……私も、諦めないから……!」

「ああ──そうだな」

 

 一度は諦めそうになってしまった二人。

 だけど砕かれた心を拾い集め、つなぎ合わせて、そして今ここにいる。

 

「……それだ。それだよ、私が我慢ならないのは」

 

 そんな二人を指差し、暮桜は苛立ちも露わに告げる。

 

「なぜ、諦めない。苦しくて、悲しくて、つらいのに──無根拠に『いつかは報われる』など! 積もったマイナスを一掃できる目途などないのに! 都合の良い未来ばかり見て、陰惨な過去からは目を背ける! 自分には関係ないからと、報われなかった人々の絶望は取り合わない!」

「確かにそうだ。そうだよ、暮桜。俺たちがいくら希望を謳ったところで、今の生きる人々の絶望を払えたりなんかしない」

 

 それはよくわかる。

 一夏もまた、過去の自分を切り捨てられたことなどない。

 

「だけどな。希望と絶望は、別に共存しないわけじゃない。今死にたくても、今生きたいと思うことだってある。片方だけ取り上げて、そっちを受信し続ければ──お前に見える世界はきっと、どうして破滅しないのかが不思議なんだろうな」

 

 静かに一夏が息を吐いた。それが合図だった。

 ソードビットたちが鋭い軌道で一夏のもとに帰投し、そのまま『雪片弐型』の刀身に覆いかぶさっていく。

 剣と呼ぶには余りにも巨大。

 刃と呼ぶには余りにも極厚。

 光と呼ぶには余りにも鈍重。

 

「だけど違うんだよ、暮桜。お前は……人間のことを、理解しすぎたんだ。人間ですらわかってない、人間の奥底まで見ちまった。だからこうして()()()()()をしてしまった」

「……ッ!? 正しいと、認めるつもりか!? ならばどうして、私の前に立ちふさがる──ッ!?」

 

 問いに対して。

 一夏よりも早く口を開いたのは、隣に並ぶ簪だった。

 

「決まってる……! 正しさが人を救うとは限らないから! 私たちに必要なのは、最初に正解を選ぶことじゃない! 間違えてもやり直す──最後の最後に、正しいんじゃなくて、納得できる答えにたどり着くことだから……ッ!!」

「な────」

「だから、私たちに、貴女の正解を押し付けないで!」

 

 救済に対して真っ向からNOを叩きつけ。

 簪がディスプレイグラスに閃光をほとばしらせる。刹那で行われる演算が、直後に背部ミサイルラックのハッチを開かせた。

 

全弾発射(フルバースト)──!!」

 

 放たれるは48発の誘導ミサイル。

 そんなもの、と一掃しようとして、暮桜がギョッと顔をひきつらせた。

 

(48発の誘導ミサイル全てから『零落白夜』の反応!?)

 

 馬鹿な。あり得ない。

 それはそれだけはあり得ない本質をすべて無視しているそんなこと出来るはずがない。

 

 ──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(い、や──さっきも、そうだった。セシリア・オルコットがライフルから撃ったのは分かる。だが、シャルロット・デュノアは専用でないシールドから『零落白夜』を発動していた!)

 

 違いは明瞭だった。

 何せ、()()()()()()()()()

 

「その光……! 『零落白夜』のはずだ! 私と打ち合えている以上、それは『零落白夜』だ、なのに……ッ! なんだ!? それは一体何なんだ!?」

 

 色合いを変えてから、何かが切り替わった。根本的な個所から性質が変化した。

 迫りくるミサイル群に漆黒のレーザービームを放つ。だが、蒸発するのではなく貫通しての爆破にとどまった。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

 撃墜を免れたミサイルを率いるようにして、一夏が大剣を振り上げ突撃した。

 元より簪の広範囲攻撃に巻き込まれても問題なく行動するための重装甲。ためらう理由はない。

 まっすぐに飛び込んだ一夏が一刀唐竹割に巨剣を叩きつけると同時、ミサイルが周囲に着弾し周囲を破壊する。

 地層がめくれ上がり、視界が塞がる中──

 

「……ッ、一夏!?」

 

 鈴が叫ぶと同時、砂煙を突き破り、鉄塊が高速で疾走した。

 もつれあいながら、一夏と暮桜が互いをつかみ合い、入れ替わりに機体を月面へ押し付けながら加速しているのだ。鋼鉄装甲が地面をこする嫌な音を響かせて、両者は死の荒野をまっすぐに駆け抜けていく。

 

「認めない……! 私は認めない! 正しくないものを続けるなど! そんなのは非合理的だ!」

「あんたに認めてもらう必要性は感じないな!」

 

 重装甲にものを言わせ、一夏が強引に回転して暮桜を弾き飛ばした。

 余波に空間が爆砕する中、最速で反応した鈴が最速で一夏の元に駆け付ける。

 

「って距離取ってどうすんのよあんた!? 今のは密着したまま一気に決めなきゃいけなかったとこでしょ!?」

「うっせーな結局消耗戦になったら負けんだよこっちが! 密着したままじゃ一気に決めきれねえ!」

「あー……理解したわ」

 

 頭の回転は、戦闘中という条件さえあれば鈴が同期でもトップクラスだ。

 戦闘そのものに関しての天才。一夏としても、共に戦う仲間としてこんなに心強い相手はいない。

 だから──簡単に無茶ぶりを繰り出せる。

 

「あれやってくれ! さっきラウラにやってたやつ!」

「さっきやってたやつ、って──エネルギー再転換型の瞬時加速(イグニッション・ブースト)!? あんた普通に瞬時加速もできないでしょうが却下よ却下!」

【大丈夫! 私ができるよ! 一夏とは違って! 一夏とは違って!】

「あんた愛機にマウント取られてるんだけど大丈夫?」

 

 一夏は無言で唇を噛み、首を横に振った。

 大丈夫ではないらしい。

 

「……じゃ、じゃあ行くわよ!」

 

 短距離のブーストを吹かして、鈴が一夏の背後に回り込んだ。

 ウィングバインダーに衝撃砲の狙いを定める。

 

【そんなに拗ねないでよ一夏! 一夏にできないことを、私がやるだけだから!】

「……まあ、はい。そうですね。いや本当に、たかが瞬時加速もできなくてすみません。生まれてきてすみませんでした」

【あっ思ったよりブチギレてるねこれ!?】

 

 つい先刻に東雲と『君にできないことは俺がやる!』した男の発言とは思えない。

 

「ああもういいから! そこで喧嘩しないでよね! ほらちゃっちゃと行くわよ──!」

 

 両肩のユニットから不可視の砲撃が放たれた。

 狙い過たず『白式・鳴鋼』のウィングスラスターに吸い込まれたそれを、『白式』が加速用エネルギーに再転換する。

 同時、純白の機体がまたも変化する。

 重装甲が解除され、今度は元の『白式』に近い軽量型の装甲に書き換わった。

 だが『白式・零羅』の実に四倍近い箇所が開閉用の展開フレームとなっていた。ウィングスラスターに注ぎ込まれるエネルギーを即座に転換し、『疾風鬼焔』の蒼い炎が全身から噴き上がる。

 

【Another Second Shift──第二形態『白式・不知火』、顕現ッ!】

 

 愛機が第五の第二形態移行を宣言する、と同時。

 『雪片弐型』を覆っていたソードビット群がパッと散り、ウィングスラスター周囲に翼のように展開。それらもまたエネルギーを放ち、実に視界横一杯を占めるような、巨大な炎翼を顕現させる。

 

「何度目、だ……ふざけるな……!」

 

 弾かれ月面を転がり、体勢を立て直していた暮桜は低い声で呻いた。

 本来は一度きりであるはずの第二形態移行を何度も繰り返し、そのたびにまったく別の機体となって襲い掛かってくる。もはや悪夢に等しい。

 その狼狽に対して、鼻で笑いながら鈴が言葉を返す。

 

「何度目って──あんたをぶっ倒すまで何度でもよ。何度も試行して、何度も修正するわよ? だってそうでもしないと、倒れてくれないでしょあんた」

「当たり前だッ! 必ず私は世界を救う。そのためには──!」

「──()()()()()()()()()()()()、ってわけね」

 

 続く言葉を言い当てられ、暮桜がギシリと動きを止めた。

 

「そうやって、自分以外の全部を一緒くたにして! 一つ一つの悲鳴を拾い上げる? 全然逆じゃないの! あんた、人間一人一人なんてロクに見てない! そんな奴に世界が救えるわけないでしょーがッ!!」

 

 そう、鈴は知っている。

 誰かの悲しみや嘆きを拾い上げるためには、人間一人の腕はあまりにも短いのだと。

 だからこそ、()()()()()()()()()()は、救世主なんてお題目を掲げたりはしない。名乗らずとも、そう見えてしまうから。

 そして。

 鈴だけの救世主ならば、もうここにいる。

 

「行きなさい一夏! あたしはあんたの理想に賭けるから! あんたなら、この世界がどんなに悪くなったって、最後まであがくって信じるから──!」

「────ああ。任されたぜ」

 

 また一つ、背負う意思が増えて。

 一夏が距離を殺すのに刹那も要らない。

 

「堕ちろ──!」

 

 眼前に迫った一夏が、()()()()()を纏った刃を叩きつける。

 正面からの迎撃。反射的に振るった『雪片』が空間を断つ。激突。

 だが──足りない。打ち負かされる。

 

 パリン、と。

 あっけない音を立てて。

 かつて世界の頂点に輝いた唯一無二の刀が、半ばから砕け散った。

 

「────」

「────」

 

 言葉を発する間隙もないまま。

 至近距離。互いに腕を振りぬいた姿勢。

 

(まだだ──『零落白夜』の本質は物質的な刀身ではない!)

 

 即座に刀身を根元から破棄、同時に柄から直接漆黒の『零落白夜・無間涅槃(ミレニアム)』を放出、刃として存在を固定する。

 体勢のリカバリーは暮桜の方が遥かに疾かった。一夏が切り返すよりも遥かに。

 

(────獲った!)

 

 勝利の確信に黄金色の瞳を滾らせ。

 他に何も見ないまま。

 ただ仇敵だけを見据えて。

 暮桜は姿勢の崩れたままの一夏めがけて最後の剣を振るおうとし。

 

 

 

()()()?」

「──()()()()()

 

 

 

 その間隙を『天眼』が見逃すはずもない。

 突き刺さるレーザービーム。右腕への直撃が、致命打となるはずだった斬撃を弾き、空ぶらせる。

 コンマ数秒遅れで一夏が振り向く。だが手に『雪片弐型』はない。

 いつの間にか展開されていた蒼い二丁拳銃の銃口が、至近距離で暮桜に突き付けられていた。

 

「────は?」

 

 最も無駄なく。

 最も意思を連結し。

 最も互いを理解(わか)り合っている。

 だから彼と彼女の連理は、今までの中で一番シームレスに行われた。

 

【え!? ちょっマジで!? あ、Another Second Shift──第二形態『白式・蒼穹』……ッ!?】

 

 変化を実行した『白式』ですらもが、その移行に完了した後に気づく。

 気づけば暮桜の眼前には、全身の装甲に蒼いラインを走らせた新たなる姿の一夏がいた。

 

「な────」

 

 零距離。

 両手に構えた二丁のハンドガンが同時に火を噴いた。

 当然すべての弾丸が『零落白夜』仕様。青い弾丸が炸裂し、装甲を破砕し、エネルギーを削り取り、ノックバックに暮桜の身体を大きく吹き飛ばす。

 

【な、に? 何? 何この適合率ッ!? なんか零羅より高いんだけど!?】

「当然だ。アイツの力は、俺にとって一番鮮烈で、一番乗り越えるべきものだからなッ!」

 

 一夏は両手の拳銃をガンスピンさせると太もものホルスターに収め、背中に引っ提げていた『雪片弐型』を抜刀した。

 蒼い雷が音を立てて放出され、彼と、その後ろでライフルを構える金髪の淑女の顔を照らし上げる。

 

「最早言葉は不要ですわね──理解っているのでしょう?」

「ああ。そっちもそうなんだろう、俺の最高のライバル」

 

 視線を交わすことすらないまま、両者同時に動く。

 まっすぐ距離を詰めてくる一夏と、その真後ろで銃口をこちらに向けるセシリア。

 単純かつ劣悪極まりない陣形であり、誤射の可能性が極めて高い。

 だというのに暮桜の全身を最大の悪寒が舐めた。

 

(────は? 『()()()()』?)

 

 戦術予測が吐き出した未来視。それは暮桜に打つ手がないことを知らせていた。

 防御を固める。一点突破に切り替えた一夏がこじ開け、そこを狙撃される。

 避けようとする。一夏の斬撃を避ければセシリアに撃たれる。

 迎え撃つ。セシリアの狙撃が防御を砕き、そこを一夏に食い破られる。

 一旦退く。振り向いた瞬間に波状攻撃が押し寄せ、撃ち落される。

 

(なんだこれは。なにを、どうしろと)

 

 明瞭極まりなく突き付けられる『詰み』の事実。

 最適解を選び取れず、直感任せに刃を振るう。防御と迎撃の中間地点。

 

「なんだその生半可な対応はァッ──!?」

「わたくしたちを舐めているのですか!?」

 

 二人のせいで行動がとれなくなったところ、二人がブチギレてきた。

 振るった剣が一夏に叩き落され、返す刀で一閃。腰から肩にかけての逆袈裟斬りが直撃し、エネルギーが大幅に減損。さらに後ろへ一夏が抜けていった直後、よろめく暮桜の胸部に三発狙撃が撃ち込まれる。装甲が砕け、推力を失った暮桜はそのまま月面に叩きつけられ、数十メートルを転がっていった。

 

「……なんかあたしたちの時とキレが違くない?」

「言うな。正直めちゃくちゃ凹んでいるんだ」

 

 あと余波で味方のメンタルがズタボロになったりしていたが、ペアでの初戦闘にテンションの上がり切った一夏とセシリアが気づくはずもない。

 

【……ッ! 暮桜のエネルギー反応が低下!】

「了解した。一気に決めるぞ『白式』!」

【はいよぉ!】

 

 一夏たちがそろって月面に着陸した直後。

 『白式』が、最後の輝きを放つ。

 

【Last Shift──第二形態『白式・零羅』ッ!!】

 

 敬愛する師から強い影響を受けた、現在の基本形態。

 だが、度重なる第二形態移行を経て、その装甲からは色とりどりの雷が放出されていた。

 

【全員からの影響をフル増幅! さらに緊急用エネルギーも回して『零落白夜』効率最大限! これが私たちの……この世界を生きてきた私と一夏の最強形態(クライマックスフォーム)ッ! 名付けて『零羅・(きわみ)』だ──ッ!】

「えぇ……まだフォーム増えるんかお前……」

「佐藤健なのか佐野岳なのかハッキリした方がいいと思うよ……」

 

 一夏の呆れたような声と簪の指摘を受けて、『白式』は沈黙した。

 どうやらだんまりを決め込む腹積もりらしい。

 だが強化されているのは事実だと一夏は実感した。極彩色の火花が散るたびに力が湧いてくる。

 

「そもそも、展開装甲による特殊なフィールドを提案したのはわたくしですが……ここまで影響があるものなのですか?」

【ああいや……それは違うかな。元々特殊な条件を満たしていて、今はフィールドの条件を満たした。だからこうして過剰リンクをデフォルトにできて、なおかつ特殊能力を拡張出来てるんだと思う】

「特殊な条件?」

 

 簪の問いに対して、『白式』は一拍挟むと。

 

【解析結果なんだけどね。私以外の専用機……『紅椿』『ブルー・ティアーズ』『甲龍』『ラファール・リヴァイヴ・デュアルカスタム』『シュヴァルツェア・レーゲン』『打鉄弐式』の6機には、()()()()()()()()()が感知されたよ】

「……ッ!?」

【あ、汚染って言っても悪い影響は特にないっていうか! 元々、束博士が『零落白夜』が発現するよう私に埋め込んでいた因子が、なんか流れていったっていうか……】

「いや言葉だけだとやっぱり悪い感じだよそれ!?」

 

 シャルロットの悲鳴に対して、『白式』は唸りながら言葉を探す。

 

【ええとなんていうか……一夏とみんなってさ、何度も共闘して、何度も、()()()()()()()()()()()()をしてたんだよね。そのつながりっていうかさ……あーもー、とりあえず因子があるだけで、『零落白夜』が発現するほどじゃない! だけど私とリンクしていれば因子が活性化して、使えるようにもなれるって感じ!】

 

 やけくそ気味な叫びだったが、一同はそれを聞いておおむねの事情を理解した。

 同時、得心がいったこともある。

 

「成程な。福音が私たちを最終的に敵として見定めたのは、滅ぼすべき『零落白夜』の因子を私たちに感じ取ったからか」

「ああ……そういうことだったのか」

 

 ラウラの言葉に箒は頷く。

 

「今までの日常の、積み重ね。その証明みたいなもんかしら」

「おいおい鈴、いつの間にかポエマーになったじゃないか」

「フン。こちとらキャラソン自作経験者よ。ナメないでちょうだい」

「その発言内容でよく胸張れるなお前……」

 

 軽口をたたき合いながらも、全員が想起する。

 多くの修羅場を乗り越えた。

 多くの日常を謳歌した。

 繰り返される時間を積み重ね、築き上げ、今の自分たちがいる。

 

「そんな、ものが……ッ!」

 

 吹き荒れていた砂煙が、一閃のもとに蒸発する。

 立ち上がった暮桜は、全身から漆黒の電をまき散らしながら、正面の一夏たちを睨みつけている。

 

「無価値なものだ! 多くの犠牲を踏みつけて、多くの悲嘆を代償にして! 天秤のつり合いは取れたと嘯いて! そうして得られる笑顔など、そんなもの!」

「いいや。無価値なんかじゃない」

 

 唯一の男性操縦者が、一歩前に進み出た。

 ずっと絆を紡いできた。誰かに託し、誰かに託されてきた。

 誰かをつながって。

 誰かを愛して。

 

「お前が無価値だと断じるものを、俺たちは守りたい。同じ理由だ──お前だってそうだ。無価値だと断じられた声を拾い上げたいんだろう。なら、俺たちは今、対等なフィールドで争うしかない」

「…………ッ!」

「世界が真っ暗になっても、俺はそれでもと叫び続けたい。それを。最後まであきらめないことを──()()()()()()()()()()!」

 

 最後の語りは暮桜に向けられたものではなかった。

 絆は一つじゃない。多くの人々とつながって、多くの人々と支え合って。

 その中には東雲令もいた。

 

「聞こえるか、東雲さん。この身体は君との絆で出来ている。この心臓は君への愛で動いている。だから今こそ、君を返してもらう──」

 

 チリ、と。

 空間全体に紫電が伝播していく。

 赤青橙と様々な色彩で、プラズマが広がっていく。

 

「一夏、いまの物言いは本当に最悪だったから改めろ」

「え? あっ……あーああぁぁあぁぁ………………」

 

 自分の発言内容を思い出して一夏は死にたくなったが、まあ恋愛的な意味ではなく博愛的な意味の愛なのは全員ちゃんとわかっていたのでなんとか命拾いした。

 

「なんだ──これは、展開装甲のフィールドが……共鳴、いいやオーバーロードしている……?」

 

 戸惑う暮桜を前に、一夏は頭を振って気を取り直すと、不敵な笑みを浮かべた。

 

「今『白式』が言ってくれただろ。今までの積み重ねが、『零落白夜』因子の伝染って形で俺たちのつながりになった。そしてそれを介して、俺たちは力を貸し合ったり、呼び合ったりできた」

「……ッ!!」

「当然の帰結だ──()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 やめろ、と叫ぶ暇も制止する暇もなかった。

 一夏から発せられるエネルギーが最大限に猛り、爆発じみた極光を放出する。

 

 

「目を覚ませ、東雲令──ッッ!!」

 

 

 一番弟子の絶叫とともに。

 全員の視界が真っ白に塗りつぶされて。

 

 

 

 

 

 

 

 光景が移り変わる。

 真っ白な部屋。モノクロの世界。

 ベッドに横たわり、苦悶の声を上げる少女。

 

「……これ、は」

 

 一夏たちはその空間の中で、周囲を見渡した。

 

「……多分、令の精神世界に入ったんだと、思う」

 

 自信なさげに簪が指さすのは、確かに東雲令の面影がある少女だった。

 一人ぼっちで、ずっと苦しそうにしている少女。

 

 光景が移り変わる。

 剣を振るう少女。幾分か成長していた。

 未だ世界は白黒で、ただ彼女の両眼だけが鮮烈な赤色に染まっている。

 剣筋は彼女を知る人間からすれば、驚くほどに甘い。

 

「かつての、令か」

「これは……彼女の記憶をなぞっている……?

 

 箒とセシリアの言葉の直後。

 光景が移り変わる。

 代表候補生として選ばれた東雲。

 同世代と切磋琢磨する東雲。

 

「……もう、モノにしているな」

 

 ラウラの指摘通り、既にこの段階で、彼女は『世界最強の再来』と呼ばれていた。

 並いる強豪を寄せ付けず、いつしか競い合う機会はなくなった。

 ただ、見上げられるだけの存在になった。

 空間に彩はなく。

 無味無臭の世界の中で、東雲は機械的に敵を切り伏せ続けていた。

 

 光景が移り変わる。

 地面に這いつくばり、息も絶え絶えに顔を上げる東雲。

 正面に相対するは、木刀を力なく下げた──織斑千冬。

 彼女の黒髪が風に流れた。汗一つかかないまま、千冬はこちらに手を差し伸べた。

 

 光景が移り変わる。

 一層訓練に打ち込んだ。自分こそが最強であると証明するために。それ以外の存在価値を見つけることはできず、ただふと降りてきた理由にしがみついて、がむしゃらに強くなろうとした。

 

「…………東雲さん」

 

 光景が移り変わる。

 敵を倒す。

 

 光景が移り変わる。

 敵を倒す。

 

 光景が移り変わる。

 敵を倒す。

 

 

 

 光景が移り変わる。

 

 

 

『茶請けとかはないけど、大丈夫か?』

 

 

 

 あ、と誰かが声を漏らした。

 織斑一夏が、やや引きつった顔で、東雲に話しかけていた。

 

 光景が移り変わる。

 アリーナで一夏を指導する東雲。

 食堂で一夏とともに食事をする東雲。

 世界が少し、色づいていく。

 

 光景が移り変わる。

 人間が増えていく。

 つながりが増えていく。

 友人ができた。過去戦った相手が友となった。隣のクラスの少女と仲良くなった。転校生たちと苦難を乗り越えた。同期の代表候補生に見せる顔が増えた。

 世界に色彩が満ちていく。

 

「……そうだ。僕たちが、令にたくさんの教えを受けていたように」

「あいつもまた、私たちから、多くのものを受け取っていたのか」

 

 光景が移り変わる。

 いつしか世界は色を取り戻していた。

 アリーナで戦友らを指導する東雲。

 食堂で友人と得がたい時間を共にする東雲。

 難敵を相手取り、それでも決して負けない東雲。

 

 そして、早朝の浜辺で一夏に背後から抱きしめられる東雲。

 

『一夏?』

「ち、ちがッ──! 待て待て今はそれどころじゃないだろ!? 武器を俺に向けるんじゃない!」

 

 銃口やら切っ先やらを向けられて一夏は泣きそうになった。

 不意打ちはさすがにだめだろ、とうめき声をあげる。

 憮然とした表情で少女らは得物を下した。精神世界で普通に武器を顕現させているのには誰も違和感を抱いていない。

 

「……あ、また、変わる」

 

 簪の言葉の直後。

 光景ではなく──次々と、『誰か』の顔が流れてきた。

 

 切り替わっていく人物。

 笑顔でこちらを見る、唯一無二の愛弟子。

 背中を追いかけ、共に競い合う世界最強。

 面倒をよく見てもらった、少し強気な黒髪の乙女。

 プライドの高さと誇り高さを併せ持つ英国の淑女。

 気安さから、容易く心の壁を破った、ツインテールの友人。

 いつも笑顔で気遣いを振りまく心優しい少女。

 同じ魔剣使いである、自分などを目指してくれた眼帯の戦友。

 最も長い付き合いの、変化も、変化でないものも見守っていてくれた、親友。

 

 無人島で遭遇したクソデカい熊。

 

『グルルゥ』

「なんだこのクマ!?(驚愕)」

 

 一夏は絶叫した。

 

『グルルゥ(そうさ、お嬢ちゃんの王子様。この世界にはよ、誰かと手を取り合う強さってモンが確かにある! お前さんが諦めちまったらそこまでだ。誰もが忘れて、無かったことにして、きっと消え失せちまうだろうが──諦めなけりゃァ、必ず手は届く!)』

「え、あ──お、おうッ!」

 

 なんかすごく含蓄に満ちた言葉を投げかけられ、一夏はとりあえず返事をする。

 クソデカい熊は満足げに息を漏らすと、光の粒子に還っていった。

 

「……え? 何? 今の何?」

「全然……分からん……」

 

 釈然としない様子の鈴と箒だったが、もう熊はいない。なんなら幻覚だったことにしたいなと一夏は思った。

 そうして記憶をめぐり、つながりを想起して。

 

「──これが、俺たちと君が、成層圏の下で積み重ね、築き上げてきたものたちだ」

 

 正面。

 こちらに背中を向け、三角座りでぼうっと天を見上げている少女に、一夏は呼びかけた。

 

「いろいろ、あったよな。いろいろ、してきたよな。俺たちは……思い出っていうには新しすぎて、正直全部昨日のことみたいに思い出せるよ」

 

 箒たちもそれに頷く。

 時間としては短いのに、あまりにも濃密で、あまりにも重大な出来事ばかりで。

 

「今ここに俺たちがいるのは、君がいてくれたからだ」

 

 目を閉じた。

 すべての日常を、一瞬で巡ることすらできる。

 それほどに鮮烈で。

 どれもが愛おしく、輝いていて。

 

 

 ────抱きしめたくなるような思い出たち(ブレイジング・メモリー)

 

 

「さあ」

 

 右手に『雪片弐型』を顕現させた。

 極彩色の稲妻を巻き付けて、愛刀が輝きを放つ。

 

「理想の秩序は訪れない。今を生きるっている苦しみは、切り離せない」

 

 天高くに振りかぶった。

 

「それでも生きていく。この世界を生きて、生きて、存在の意味を実感する」

 

 そのためには。

 

 

「だから──おはようございます! モーニングコールの時間だぜ、()()()────ッ!!」

 

 

 最後には純白の光となった『零落白夜』を。

 一夏は、天を引き裂くようにして振りぬいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「むむっ! なんかおりむーに呼ばれた気がする!」

 

 いやもう呼ばれたとかそういう次元じゃないんですけど……

 ソファーから飛び上がり、東雲はいそいそと靴下をはき始めた。

 ノリが散歩じゃねえか。

 

「令?」

「……どうした?」

「令ねーちゃん、どっか行くの?」

 

 多様な織斑一夏たちが、心配そうに東雲を見やる。

 それを受けて苦笑し、彼女は鏡を見ながらネクタイを締めなおした。

 

「肯定。当方は今から帰宅しなければならない」

「帰宅、って……ここが令の家だぞ?」

()()

 

 東雲は家の中を見た。

 織斑一夏がたくさん居る──彼女が求めてやまなかった存在が、自分の欠落を埋めてくれる人が、ここには沢山居た。

 

「最初からわかってはいた。こんなに理想的で、こんなにも満たされている。ならばそれは()()()()()()

 

 さらりと言い放たれて、一夏たちは沈黙せざるを得なかった。

 

 東雲令の生まれは、幸福なる概念とは程遠い場所にあった。

 だからこそ、与えられるたびに驚嘆があった。

 これが幸せなのかと、教えてもらっていた。

 

 以前なら。

 命の使い切り方を考えていた頃なら、満足だった。

 こんな自分にも生まれてきた意味はあるのだと。

 世界最強という証を立てられなくとも、生命を投げ打つ意味があるのだと。

 そう納得できた。

 だが。

 

「だが、嫌だ。当方はまだ……まだ、やりたいことがたくさんあるんだ」

 

 独白を聞いて、仮想世界の織斑一夏たちはへらりと笑う。

 

「令、それは」

「俺たちの方が、できると思うが?」

「令ねーちゃんがいなくなったら寂しいし……」

 

 かつてなら心を揺さぶられたかもしれない。

 一夏と過ごした時間の価値を真に理解していない頃なら、留まったかもしれない。

 

「いいや、此方では駄目だ」

「だけど──」

「此方には()()()()()()

 

 沈黙。

 は? と一夏たちが口をポカンと開けた。

 

「先ほどのおりむー……独占欲を発露しながらも、今にも泣きだしそうなアンバランスさを秘めていた。正直興奮した。滅茶苦茶興奮した。滴る涙を舌で受けたさ過ぎた。あれは当方の脳では思いつかない。自分の非力さを痛感するばかりだ……現実のおりむーは当方には思いつかないようなセックスアピールをしてくる。完全に敗北だ」

「? ? ?? …………?」

「というわけだ」

 

 サラリーマンが出勤のためにカバンを持つように。

 東雲令は、帰還するために真紅の太刀を抜き放った。

 

「え、いや、ちょっ待っ、それならそういう織斑一夏を呼ぶから──」

「何度も言わせるな。当方に思いつかないようなおりむーが、まだ見ぬSSRおりむーが当方を待っている! そこをどけ、邪魔をするな──!!」

 

 乾坤一擲。

 唐竹割一閃。

 天から地にかけてを真っ二つにする、その魔剣。

 文字通りに世界が割れる。無数の織斑一夏がこちらに手を伸ばし、何かを叫びながら泥と崩れていく。

 

 だけど、不安はない。

 無数の黒い腕たち。

 壁にも等しい密度で迫るそれらを──貫いて、一本の腕がまっすぐこちらに伸ばされた。

 

 

「東雲さん、手を──!」

 

 

 差し伸べられた手。

 東雲はふと自分の手を見た。ただ剣を握ることさえ出来ればいいと思っていたその手。

 フッと笑みを浮かべる。

 

(手があってよかった、だなんて──)

 

 こうして彼の手を取ることができるから、なんて。

 少し乙女すぎるかもしれないと自嘲して。

 

 

「来ると思っていたぞ、我が弟子──!」

 

 

 東雲は迷わずその手を取った。

 

 視界が開け、ぐいと引き寄せられる。

 

 ごちゃごちゃの腕たちが霧散して、大きな青い星と、星々のきらめく宇宙が飛び込んでくる。

 

 宇宙空間。

 

 織斑一夏の腕の中で、東雲は力いっぱいに抱きしめられていた。

 

 

「やっと……! やっと、取り戻せた……ッ!!」

 

 二人の背後で、主を失った暮桜が力なく落ちていく。

 そんなものどうでもいいといわんばかりに。

 両腕で、全霊で、一夏は東雲の存在を感じ取っていた。

 

【……!? こいつ私の生命維持機能勝手にパクってんの!? おいWi-Fiじゃねえんだぞクソ女ぁッ!!】

「おりむーの酸素の味がする……」

【キッッッッッッモ】

 

 無酸素空間の中。東雲は『白式』の庇護下に入ることで呼吸を可能にしていた。

 真紅の瞳は、ISコアに対する干渉すら可能だ。

 

「だけど、よく支配を打ち破ってくれたよ、東雲さん……!」

「ああ──単純な話だ。欲が出たのだ」

「欲?」

 

 東雲は神妙な顔で頷いてから。

 

「……ルーブル美術館、まだ行っていなかったからな」

「…………ぷっ、は、はははははっ! なんだそれ!」

 

 この場には余りにもそぐわない内容だった。

 だけど誰よりも何よりも、彼女らしかった。

 ひとしきり笑い終わってから、一夏は咳払いすると。

 

 鼻と鼻がこすれ合うような密着状態で。

 こつんと額同士をぶつけ、真紅の瞳に自分の顔を写し込み。

 

 

 

「……お帰りなさい、東雲さん」

「ああ──ただいまだ、おりむー」

 

 

 

 ここに、『世界最強の再来』は帰還した。

 

 

 

 

 

 

 

「ごほんごほん」

 

 ふと、やけに冷え切った咳払いが聞こえた。

 見れば箒たちが絶対零度の視線でこちらを見つめている。シャルロットにいたっては目が完全に据わっていた。

 

「えっと、みんな……?」

「どうしたのだ」

 

 問いかけがどうやら苛立ちを加速させたらしい。

 セシリアが必死にハンドサインを送っている。『体勢』『やばい』『やばいですわよ』『いやマジやべーですわよ』と超高速でサインを送ってくる。全然意味を伴ってない。

 

「令、いつまでひっついているつもりだ」

「あっ」

 

 直接言われて、慌てて一夏は東雲を引きはがそうとした。

 だがあろうことか東雲がしがみつき抵抗するではないか。

 

「ちょっ、東雲さん……ッ!? ちか、近いって! なんか柔らかいしマジ勘弁して……!」

「離れたら当方は死ぬんだが」

 

 あんまりな言い分に鈴が嘆息した。

 

「いや、あのねえ……あんた仮にも国家代表候補でしょ。IS起動しなさいよ」

「忘れた」

「…………」

 

 全員真顔になった。

 東雲は一夏の腕の中から、無人となった暮桜を指さす。

 

「ほら、あそこに……茜色のマイクロチップがあるだろう。普段は体表に埋め込んでいるのだが、外れたっぽい」

「外れたっぽい??」

 

 致命的な場面で致命的なガバを晒したにも関わらず、東雲は心なしか満足げに一夏の首へ腕を回した。

 

「あの、東雲さん。なんか言うことない?」

「……?」

「マジで言うことなさそうだなあこの人!」

 

 その時。

 

 

 

『────()()()

 

 

 

 東雲令の声帯ではなく。

 れっきとした機械音声。

 慌てて全員が見れば、暮桜の空席となったパイロットシートに、黒い泥がにじみ出ていた。

 それは人をかたどっていき、装甲内部に四肢を通し、最後には頭部と黄金の瞳を顕現させ──切れ目の美貌を誇る美女の姿となった。

 

「暮、桜……ッ!?」

『主を失った程度で──その程度で、私は止まらない。止まるわけには、いかない……ッ!!』

 

 全身から紫電が散っている。

 エネルギー反応の増大を『白式』が叫んだ。

 

 だけど。

 

 

「おりむー……いいや、我が弟子。できるな?」

「……当然ですよ、我が師……ッ!」

 

 

 腕の中のぬくもりをもう一度だけ確かめて。

 一夏はカッと目を見開いた。

 

「暮桜、もう……終わりにしよう。東雲さんは返してもらった。あとは──あんたの執念にケリをつける! 行くぞみんな!」

「おい待てお前そのお姫様抱っこ維持したままラストバトル始めるつもりか」

「これが俺たちの、最後の戦いだ────!!」

「話を聞けえええええええええええええッ!!」

 

 箒の絶叫をBGMに。

 師弟は文字通りの一体となって、一体? 二人羽織? いやもう何なのか分からんが。

 

 宇宙に純白と蒼穹の残影を残し、流星となって飛び込んでいった──!

 

 

 

 

 

 







こんな終わり方でいいのか悩みましたが
本作のカラーというか自分の中での扱いに忠実にいきました
へけっ(許しを請うハム太郎bot)




エピローグが最終回なんですかねエピローグって最終回の後にやるものなんですかね
わからんな
エピローグが最終回なんかな
エピローグは最終回の後にやるものかもしれんな
そのどっちかです
まあ最終回の次がエピローグやろ
ということで


次回
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