【完結】強キャラ東雲さん   作:佐遊樹

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実際問題「織斑計画を知った束が半ギレで『こんな愚かで醜いことしてまで人類をアップデートしたいならやってやろうじゃねえかこの野郎』つって人体改造に対するカウンターとしてIS造った」解釈は結構前から自分の中で温めていて
今作で凄くハマってメチャクチャ笑顔です
まあ原作12巻の束さんの物言い的にあり得ないんですけどね
俺はあと何度イズルに殺されればいい?ゼロは何も言ってくれない……教えてくれ五飛!


参 その境界線を踏み越えて(オーバー・ザ・レッド・ライン)

 

 

 胸騒ぎを覚えたのに、理由はなかった。

 

「…………」

 

 浴衣姿から制服に着替えて、部屋を出る。

 何度か他の生徒とすれ違い不思議そうな顔をされたが、構っている暇はなかった。

 外に飛び出せば声がより強くなる。

 

『こちらには来るな』

「……ナノマシンが散布されてるのか」

 

 瞳を蒼く光らせれば、無意識下で人間の思考を制限するようナノマシンが空中に滞空していた。

 それは逆説的に、指向性を読み取れば道案内になる。

 遠ざけようとする方向へ進むほどに、声が聞こえてきた。

 

 篠ノ之流。

 東雲計画。

 直接脳へと伝達される情報。

 言葉は意味を成さず、ただ女達が自己の在り方を賭けて、生命を削り合っている。

 

 そのうち歩くのではなく駆け出した。

 絶対に、絶対に、認めてはいけないと思ったから。

 

(違う。それは違うよ束さん)

 

 ボロボロの身体を引きずるようにして、走る。

 そして────

 

 

 

 

 

 

 

「──貴女を、篠ノ之束を倒します」

 

 少年は史上最悪の天災の前に佇み、啖呵を切っていた。

 倒す。篠ノ之束を、倒す。

 言葉の意味が分からず数秒、束は黙り込み。

 

「……は、はは」

「?」

「ハハハハハハハハハハハハッ!」

 

 哄笑だった。

 束は腹を抱えて、声を上げて笑っていた。

 

「ひーっ、ははふふふ……はーっ……いっくんってば、束さんを笑い死にさせるつもり?」

「うわあ、この人泣くほど笑ってるじゃん……俺、そんなに抜群のジョーク言いましたかね」

「うん、最高のジョークだったよ。人生で一番笑ったかもしれない」

 

 さすがに一夏としても、馬鹿にされているということだけは分かる。

 

「あのね、いっくん。世の中には──見ていい夢と、そうじゃない夢があるんだよ」

「……そうですかね。見てはいけない夢って、ピンと来ませんけど」

「そんなこと言ってたら、その蝋の翼が太陽に溶かされちゃうよ?」

 

 言外に伝えられている──お前がたどり着ける場所じゃない。お前がいるべき場所じゃない。

 

「この場の異常性に気づけない時点で、君には資格も資質も足りてない。君は舞台装置に徹するだけでいいんだよ。それだけを考えて、それだけを実行すれば、君の存在意義は証明されるんだから──」

 

 異常性。

 一夏は周囲を見渡した。切り捨てられた千冬はともかく、平時からは考えられないほど弱々しい姿を見せている東雲。

 

(情報量が異様に少ない……意図的に一帯の情報を消去した。いいや、情報を隠蔽してるのか? ……そうか! 『情報が無い』っていうテクスチャを貼り付けたのか! だから俺がこうして接近できた──)

 

 周囲を分析し、読み取り、碧眼から残光を零して一夏は頷く。

 

(なら、俺のやるべきことは単純だな)

「おり、むー……」

 

 か細い声で名を呼ばれた。

 視線を下げれば、東雲が一夏のズボンの裾を握りしめている。

 

「にげ、ろ……ここに、いてはいけない……其方には、未来があるから。だから……! だから当方が、ここで、死んででも──!」

「……やっぱり、そうだったんだな。俺たちに何も言わず、束さんと戦ってて……死ぬ気、だったんだな」

 

 少女の決意表明を聞いて、一夏は悲しげに眉を下げる。

 だが悲しんでいるだけでは、ない。

 もう未来を目指すための翼を手に入れて、意志の焔を宿らせているのだから。

 一夏はしゃがみこみ、彼女の手を取ると。

 

「悲しいこと言うなよ、東雲さん。()()()()()()()()()()()()()

 

 さらりと言い放たれて、東雲は絶句した。

 ああそうだ。彼と共にいる未来をずっと描いていた。だがそのためには──織斑一夏が笑顔で暮らせる未来のためには、障害が多すぎて。

 自分の生命を投げ打っていいと、彼のためなら死んでもいいと、判断したのに。

 

 

 

「俺は、君がいなきゃ嫌だ」

「…………ッ!?」

「諦めるな、って言い続けてくれただろ。だから俺は諦めないよ。()()──()()()()()()

 

 

 

 東雲は軽くイッ──違う。

 東雲は軽くぜっちょ──これも違う。適切な表現が全て不適切ってどういうことだ。

 

(ドラマ、CD……? いつ発売された……? いつ購入した……? しかもバイノーラル……ッ!? DLsiteか!? FANZAか!? どっちで買った!?)

 

 想い人の決意表明をR-18扱いするのはやめて差し上げろ。

 

 

 

「だから見ていてくれ、東雲さん。俺が今から──未来を、切り拓いてみせるから」

 

 東雲の手をぎゅっと握ってから胸元まで戻し。

 一夏は立ち上がり、右手に『雪片弐型』を展開。

 制服姿のまま愛刀を天高く掲げた。

 

「『白式』」

【……いいんだね、一夏?】

「ああ。きっと──今の俺とお前なら、大丈夫だから」

【わかった……うん、やろう! 一夏!】

 

 握った『雪片弐型』に『白式』から信号が伝達される。

 その光景を見て束は嘲笑を浮かべた。

 

「ふふっ、なァにができるっていうのさ! 決戦形態(フォルティシモ)はおろか第三形態(セラフィム)すら破棄したのに! もう君と『白式』は致命的に、()()()()()()()! ここで一度リセットしてあげるよ。きちんと世界を救えるように。今度こそ、世界を守る救世装置の役割を果たせるように──」

「要らない。俺が救うのは世界じゃなくて、ただ一人だけでいいから」

 

 真っ向からの否定と同時。

 

 

 

 刀身に蒼いラインが走り──()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「…………………………は?」

 

 思わず束は呆けたように、口をぽかんと開けた。

 無数の戦場を共に駆け抜けた、唯一にして最大の武器。それが武器としての能力を放棄して、()()()()()()()()()()

 

 本当はもっともっと前に、こうなるはずだった。

 だけどそうはならなかった。ほかでもない『白式』が、ずっと制限していたから。

 

 だけど。

 今この瞬間に。

 絶無の蒼い光が──解き放たれる。

 

 蒼穹色の両眼の中心で、幾何学的な文様が光を持つ。

 願いの光。

 祈りの光。

 つながれてきた想いを守るための──覚悟の光。

 

 もう、起動言語(ランワード)を紡ぐのに、止まる要素はない。

 

 

 

 

 

 

 

刃が閃く(スタンバイ)雫が穿つ(スタンバイ)龍が啼く(スタンバイ)

 

 君がいた。君がいた。君がいた。

 

華が咲く(スタンバイ)雨が降る(スタンバイ)鉄が鳴る(スタンバイ)

 

 君がいた。君がいた。君がいた。

 

蜘蛛の眼球よ(スタンバイ)唯一の家族よ(スタンバイ)一に至る零よ(スタンバイ)

 

 貴女がいた。貴女がいた。そして──君が、いてくれた。

 

 

 

「──()()()()

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()と。

 一夏は全身でそう叫んでいた。

 

「これは浄土への否定。これは快楽への拒絶。夢幻を殺傷せしめる未来の至光」

 

 世界を守るための、暴走する善意とは対にあたる関係。

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

「その秩序に穢れはなく、だが人々は明日を願っている……!」

 

 どんなに幸福が最大化された世界であっても。

 どんなに犠牲が最小化された結果であっても。

 

「不公平は叫んでいる、不条理も啼いている」

 

 認めない。

 織斑一夏は純粋なエゴを以て、それを認めない。

 

「地に不幸が満ち、空に理外の幸福が存する──それでも!」

 

 大人の理屈だと分かっている。

 真理に近しいのがどちらなのかも理解している。

 だが、それでも──それでも!

 

(ひとびと)に遍く嘆きこそを、この翼は包み込む──!!」

 

 今まで戦い続けてきた理由を忘れるな。

 今の自分を象っている過去を裏切るな。

 

「転回しろ──天開しろ──転開しろ──展回しろ」

 

 織斑一夏は舞台装置に非ず。

 織斑一夏はもう、救世装置のパーツに非ず。

 

「壱番装填。弐番統合。参番解凍ッ!」

 

 世界を救うはずだった刃が。

 世界を滅ぼす救世主に抗うためだった刃が。

 

「善性よ、君を高らかに謳い上げよう」

 

 今ここにある世界を守るために、輝きを持つ。

 

 

 

 

 

「正統発現──『零落白夜』ッ!!」

 

 

 

 

 

 全員の視界が蒼く染め上げられた。

 他者一切を廃滅する絶無の蒼色が『雪片弐型』から伸び、天へと昇る。

 

 刹那の出来事だった。

 情報消去フィールドが蒸発した。

 

 圧倒的だった。

 理不尽だった。

 非現実だった。

 

 それは『()()()()()()()()()()、絶対零度の蒼。

 放出される極光は巨大な柱となって天を衝く。単純な出力の比較などおこがましい、アンチ・エネルギービームの奔流。

 

 世界最強となった女が振るった最強の必殺技。

 ISバトルにおいて未だ最大の知名度を誇り最大の破壊力を有する無二の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)

 

 

 ──『零落白夜』。

 

 

()()……! 私が使っていたそれとは、似て非なる別物! 何だ、何なんだこれはッ!?)

 

 だがほかでもない、かつての使用者であった千冬は驚愕に言葉を失っていた。

 確かに蒼の光に見覚えはある。しかしそれ以外は違う。何もかもが違う。

 

 他者を認めない単色、ではなかった。

 一夏が今掲げている光には、誰かを受け入れるような、優しい温かさがあったのだ。

 

「な――なんで零落白夜が、よりにもよって今発現してるのさ!?」

 

 動揺に束は声を震わせている。

 それに答えたのは一夏ではなく──『白式』。

 

【我が創造主。私は織斑一夏という存在を、零落白夜を成長させるための素体として認識していました。そしてそれを、彼と触れ合うことで変更いたしました】

 

 冷たい機械音声が響く。

 極限の感情を載せて、無感情に言葉が紡がれる。

 

【彼は戦士だ。彼は唯一無二の、我が主だ】

 

 これ以上ない主への信頼を抱いて。

 感情を持たないはずのAIが、創造主に牙を剥いていた。

 

【ゆえに、貴女の思い通りに使い潰させはしない。そして貴女が、我が創造主が我が主を害するのなら】

 

 これは宣誓だ。

 進化したのは彼だけではない。むしろ彼と共にずっと一緒に進化し続けていたのだ。

 だからこれは──純白の鎧が、ただ一人の少年のために、自分の在り方を根底からひっくり返すという──反逆だ。

 

 

【私は我が主のためにこそ、絶無の刃を顕現させる――!】

 

 

 そんなことはあり得ないと、束は苦悶の声を上げそうになった。

 何故だ、何故なのだ。

 ここにきて、この最終局面にきてどうして全てが自分を裏切るのだ。

 

「何を、言ってるのさ、被造物の分際でっ」

【被造物には被造物なりの意地があります】

 

 ガントレットに刻まれた蒼い幾何学的なライン。

 創造主が定めたレールより逸脱し、主と共に自分の未来を見つけた証明。

 

【ああそうだ、そうだよ。作られた口調(プログラム)も埋め込まれた使命(コード)も関係ない】

 

 絶句する束に対して、白いガントレットが声を張り上げる。

 

 

 

【お前の考えた最強の『白式(アイエス)』なんかより、一夏と一緒に強くなる『白式(わたし)』の方がずっと強くてカッコいいって言ってんだよッ!! バ────────カ!!!】

 

 

 

 ここにいたって、束の混乱は頂点に達していた。

 暴走する『暮桜』に対抗するため、手札を完璧に揃えた。

 エネルギー総てを抹消する『零落白夜』に対抗するためには、同じ『零落白夜』が必要だった。

 だから一度、『白騎士』のコアをリセットし、そして『暮桜』と同じ成長数値を打ち込んで『零落白夜』を発現、発展させるつもりだった。

 

(なの、に、今ここで『零落白夜』が私に向けられてる──? なん、で。何が、どうなって……!?)

「束さん。貴女、東雲さんを泣かせただろ」

 

 声に込められた意志に、束は何度目かも分からぬ絶句へと至った。

 

「……は? 待って、いっくん。今はそういう話はしてないの。世界を救うために……人類を守るために、何をするべきかっていう話をしてて。ここにいる三人はね、そういう話をできるような領域に至ってて──」

「世界を救う? 人類を守る? ()()()()()()()!!」

 

 大切な少女を苦しめるフィールドを一瞬で蒸発させて。

 織斑一夏はその蒼い切っ先を、姉の親友に突き付けて。

 

「うるせーーーー!! 知らねーーーーーー!!!! 東雲さんを傷つけて泣かしたんだから、ぶっ飛ばす!! そのために俺はここにいるッ!!」

 

 大人の理屈など知ったことではない。

 だって織斑一夏は──少年だ。

 少年は、彼の世界を守るためにこそ戦ってきた。

 

 ならば、自分を導いてくれた少女を傷つける存在が、敵でなくてなんだというのか!

 

「…………おり、むー」

 

 その時。

 情報消去フィールドの消滅に伴い身体が復旧し、東雲がゆらりと立ち上がる。

 

「……『零落白夜』、それは……」

「大丈夫。これは誰かを消し飛ばすための剣じゃない」

 

 右手に剣を握り。

 一夏は、その左手を東雲に差し出した。

 

「君と共に戦うための。誰かと共に居るための剣だから──」

「──ッ!」

「だから俺と一緒に戦ってくれ、東雲さん!」

 

 剣を握っていたとしても。

 誰かを抱きしめることが、今の一夏ならできる。

 その光景に東雲は未来を見た。

 

「ああ、そうか」

 

 こんな男だったからこそ、自分は命をなげうつ価値があると思えた。

 思わず笑い出しそうになった──誰よりも未来を信じているのは、彼だったのだ。

 そんな彼に何も言わず差し違えようだなどと。随分と、傲慢な考えだったではないか。

 

「当方が守らずとも。当方が祈らずとも。既に其方は、翼を持っていたのだな」

「いいや違う。君が俺にくれたんだ。君がいたから、今、俺は翔べる」

「フッ……師匠冥利に尽きるというものだ」

 

 ひとりで何でもできる素晴らしき天才と。

 ひとりじゃ何もできない哀れな片翼の少女。

 両者の決戦は、前者の勝利に終わった。

 前者の優位性はこれ以上なく明瞭だった。

 

「……篠ノ之博士」

「……ッ!」

「先ほどの台詞。強者は孤独でいいという言葉。それに、当方なりに返答いたします」

 

 だけど。

 そこに同じく、片翼の少年がいれば。

 片翼の少女と、片翼の少年。

 二人は、ふたりだからこそ。

 何でもできる。

 どこまででも行ける。

 

「当方は、織斑一夏と二人で強くなります。二人なら、孤独にも耐えられるから──!」

 

 

 

 翼はもう、ここにあった。

 

 

 

「さあいこうぜ、東雲さん」

「ああ。往くぞ、おりむー」

 

 運命が覆る。

 宿命が砕かれる。

 

 二人は今、その境界線の上に立ち(シン・レッド・ライン)

 

 

 ──()()()

 

 

 

 その境界線を踏み越えて(オーバー・ザ・レッド・ライン)

 

 

 

 東雲令と織斑一夏が。

 

 (ぜろ)一夏(いち)が、手を取り合う。

 

 

 

 

 

 

 

『──()()()()!』

 

 

 

 

 

 

 

 変化は劇的だった。

 東雲の背後に『茜星』用特注装備、浮遊可動式多武装戦術兵器『澄祓(すみはら)』──深紅のバインダー群が展開。

 それら一つ一つの装甲がスライド。鋭い切っ先を描いて、『()()()()()()()()()()()

 一夏の全身を覆う鎧が展開され、反動に軋みを上げる。

 絶えず発せられる衝撃波が大地を打ち、遙かな海面すら割った。

 

「えっなにそれ」

 

 他のISの装備と合体して肥大化した『雪片弐型』。

 外装としてバインダーが吸着する度に金属同士が結合、硬質な音を奏でる。最早太刀というよりは、巨人の振るう大剣と呼ぶべき代物。

 そしてそこから放出される『零落白夜』のエネルギーセイバーが、蒼一色から、白に近い薄い色へと変わっていく。

 

「いや、まって、まってまって」

 

 色素が抜け落ち、蒼が薄くなっていく。

 本来在るべき『零落白夜』とは最早別物。

 エネルギー消滅性質はそのままに、だが、にもかかわらず、他者の存在を前提とする──()()()()()()()()()()()

 

「待ったちょっと待った、なんだよそれ、そんなの知らない、そんなの束さんはデザインした覚えはない」

 

 それから、その白に紅が混じっていく。

 姿を現すのは優しい夕焼け色。

 陽と夜の共存する、どこまでも続く安寧の色。

 

「既存の組み合わせなら分かる。既知の寄せ集めなら頷ける。『疾風鬼焔(バーストモード)』だって展開装甲のデッドコピーだった。『零羅』だって決戦形態の劣化版だった──()()()()()()()?」

 

 眼前で展開されたプロセスに理解が及ばない。

 天災、篠ノ之束にとってあってはならない、理解不能という結論。

 

「ありえない、ありえないでしょ何なんだよそれッ。『雪片弐型』がそんな風になるなんてありえない無理だよ意味分かんない可能性ゼロパーセントなんだよそんなのッ!!」

 

 髪をかきむしって束は絶叫した。

 だが師弟はフッと笑みを浮かべて、鮮やかに答える。

 

「分かってないな束さん」

「分かっていませんね篠ノ之博士」

 

 放たれたエネルギーの余波が天を衝き、雲を散らした。

 そこに顔を出すのは──星が煌めく、美しい夜空。

 

「可能性っていうのは限界だ。つまり!」

「即ち――踏み越えるものだ!」

 

 そして。

 ただ出力のままに迸っていた光の柱が、凝縮されていく。

 二人で構えるに相応しい、二人の色が混じり合ったツルギとして。

 

「意味分かんないんだってッッ! 質問に答えろ!! 何なんだよそれはァッ!」

「分からないのか?」

 

 東雲は不憫そうに束を見やってから、息を吸い。

 

「これはおりむーが当方色に──」

「──俺が東雲さん色に染められてるんだよ」

 

 インターセプト──じゃない! 言ってることは同じだ!

 台詞を横取りされて東雲が勢いよく真横に顔を振る。

 一夏はなんか頬を少し紅潮させ、引きつった笑みを浮かべていた。

 

「いや……ごめん。なんか言葉遣いが最悪だった。こう、なんていうか。このモードになってから、身体が熱くて、気分が高揚して──多分なんかの副作用なんだろうな。今みたいな恥ずかしいコト言っちまった」

【一夏、それって多分この女の影響だよ】

「東雲さんのォ? ははっ。面白いジョークだな」

 

 事実である。

 

「い、いや。問題ない。当方も同じことを言おうとしていた」

「ああいや、そんなフォローしなくていいってば」

 

 事実である。

 

「……まあ、いい。とにもかくにも、見せてやろう。これが当方とおりむーの──」

「──これが俺と東雲さんの、初の共同作業だ」

「…………ッ!?」

【一夏落ち着いて。このままだと思い出す度に悶死する思い出になっちゃうよ】

「ああああああああああもうやだああああああああああああ」

「だ、大丈夫だ。落ち着け。気持ちは同じだぞ」

「やめてくれそのフォローが心に痛い!」

 

 事 実 で あ る。

 

「さっきから何してんのさ君らっ!?」

「うるさいですよ束さん! 俺と東雲さんの逢瀬を邪魔しないでくださいッ! ────はい。すみません。うるさいのは俺ですね。もう死にます……」

 

 温かく、それでいて熾烈な光を放つ剣を持ちながら。

 一夏は人生で一番の希死念慮にとらわれつつあった。

 

「……顔を上げろ、おりむー」

「東雲さん……?」

「未来を途絶えさせはしない。そのためにこそ、今ここにある世界を守らなくてはならない。誰かの指定したシナリオではなく。当方たちの世界は──当方たちが守る。それが道理だろう?」

「……ッ!」

「ならば往くぞ。海沿いの家に白い犬。子供は十八人だ────!!」

「し、しののめさん……!」

 

 キリッとした顔で東雲が束を見据える。

 もう迷いはない。瞳には戦士としての焔が宿っている。

 

【ねえ一夏から影響受けてちょっとマトモになったのかと思ったら全然なってないよねえこれ!! どんだけコイツの私欲デカいの? 一方的に一夏を歪めてんのに自分は影響なしってどうなってんのッ!?】

 

 『白式』だけが冷静に事実を把握できていたが、いっそ知らない方が良かったかもしれない。

 完全に弟子補正が入っているのか、一夏は一世帯で野球チーム2つ分という東雲の狂った願望を聞いて深く頷く。

 

「……ッ! 理解不能が連続したところで……! 分からないから、強いってワケじゃない!」

 

 鋼鉄の翼だけでなく、巨大な鉄塊を召喚しながら束が吠えた。

 紫電を散らして展開されるのは、パワードスーツと呼ぶには巨大すぎる装甲。

 一回りを超えて二回り、否それ以上にと翼が拡張され、また大地を踏みしめる四つ足が伸びる。窮屈そうに身体を縮こめなければ、頭部に該当するマルチセンサー集積群は雲を呑んでしまうかもしれない。

 

 既存のISと比較するのも馬鹿馬鹿しい。

 たった今、各国のセンサーがそれをキャッチ。福音事件の終息直後だというのに慌ただしくスクランブル警報が鳴り響く。

 全長2000メートルに届こうかという、想像を絶するスケールの──()()()()()

 

 

「『安眠姫(スーサイド)悪竜真王(ファフニール)』……ッ!!」

 

 

 人の身を超え、極めて精密な演算により制御される──鋼鉄の竜。

 しかし。

 

「束さん……それでも、俺たちは負けない」

「────!」

 

 二人で互いを支え合い。

 二人でツルギの切っ先を突き付けて。

 

「束さん。俺たちは負けない。俺たちは生きて帰って、みんなで笑い合うから。だから──」

「撃滅戦術を中断。真・決戦戦術を解放、開始する。故に──」

 

 身を寄せ合うようにして。

 ほとんど抱きしめ合うような姿勢で、彼と彼女は刃を掲げる。

 

「俺たちは!」

「当方たちは!」

 

 

 

 

 

 

 

『──十三手で結婚するッ!!』

 

 

 

 

 

 

 

「今俺たちなんつった?」

「十三手で勝利するッ!!」

「う~ん……?」

「十三手で勝利するッ!!」

「まあいいか、ヨシ!(現場猫)」

 

 ヨシじゃねーよ。

 

 

 

 












シャルロット「は?(全ギレ)」




次回
肆 絶剣/BEAUTIFUL SKY

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