【完結】強キャラ東雲さん   作:佐遊樹

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狂ったように逆シャア観てました

いきなり本編再開するのもアレなのでちょっとしたIF話挟みます
東雲エンドアフターのR18とバッドエンドアフターの師弟殺し愛で悩んだんですけど
木の棒が倒れたので後者にしました
木の棒が悪いよ






異聞深度A+
『都市の盟主』『人類生存不可領域』『反転した救世主』『過剰情報制御状態(ディサイデッド・メサイヤ)』『バスターコール』『打ち棄てられた魔剣』『白黒斑模様の男』『壊れた/破壊の刃(ブレイクブレイド)


偽装蒼穹都市 旧■■学園
天剣の担い手


IF BAD END After:Alternative Future
東雲令【オルタ】/スパークスライナーハイ(前編)


 

 

 穏やかな明日を夢見るために多くの代償が求められた。

 おぞましい瀆神の根底に沈み、誰かの安らぎとなる祈りは朽ち果てた。

 幼子に聞かせるようなおとぎ話には、幕が引かれた。

 

 これはその後のおはなし。

 

 終わってしまったおとぎ話にしがみつく、死に場所を逃した男の物語。

 

 

 

 

 

IF BAD END After:Alternative Future

 

 

 

 

 

 外界と隔離された楽園は、外から見れば牢獄だった。

 

 

 四方を幾重にも城壁が囲み、空気を浄化する不可視のフィルターが蒼い蒼い空を投影している。

 城壁は警邏兵が巡回し、入る者も出る者も厳重にチェック。外界との接触は個人では行えず、これを破れば都市の主にその首を切り落とされることとなる。

 陸上の孤島――そもそも人々が海を知らない今、この世界の異質さを知る者は限られた人間のみだった。

 

 かつてはここが■■学■と呼ばれる海の上に浮かぶ島だったと。

 そしてその海は砂漠に呑まれて、防壁に囲まれたこの街だけが残ったと。

 その経緯を知る者もほとんどいない。

 

 都市管理者にしてWCU(=world capital union)盟主の織斑千冬が『都市内自由宣言』を発して以来続くディストピアは、偽りの空に見下ろされながら、今日も旧世界の残滓にしがみついて空虚に繁栄していた。

 

 

 

 

 

 

 人でごった返すメインストリートを、一人の男が歩いていた。

 全身を覆うローブに隠され顔は窺えない。

 都市は絶えず更新される。建物を潰し、建物を建て、壁を壊し、壁を造り、そうして日々新しくなっていく。

 担い手である人々もまたゆるやかに死んで、生まれて、入れ替わっていく。

 だがそのサイクルに異物が入り込めば、それは明瞭に浮き上がる。

 

「あら、見慣れない人ですね」

 

 織斑千冬が統治する都市にて、五反田ミライはふと首を傾げた。

 先祖代々続く飲食店、五反田食堂の看板娘である。

 器量の良さから都市労働者の憩いの場として名をはせるそこに、顔を隠した男が現れれば誰もが警戒する。

 席に座って合成米をかきこんでいた男たちは一斉に入り口を見た。

 

「…………」

「えっと、あの……お客様、ですよね……?」

「…………」

 

 無言のまま、男が一つ頷いた。

 ミライは愛想笑いを浮かべて男を空いている席に案内する。

 不思議なほどに足音のないまま、男は席に着いた。

 

「ええと、ご注文は……?」

「業火野菜炒め大盛り」

 

 即答だった。

 思わずミライは目を丸くした。他の都市内セクション──織斑千冬の治める都市は十三のセクションで構成されている──からの来客だと思っていたのだ。しかし彼は迷わず看板メニューを選択した。

 

「ゴウカ大一丁!」

「あいよ」

 

 厨房の料理人にメモを渡してから、ミライはカウンター席に座る男をよくよく観察した。

 フードを下ろして露わになった白黒(まだら)模様の、短い髪。

 紅く、紅く、地獄を煮詰めたような深紅の瞳。

 

「……あの、どのセクションから……?」

「…………」

 

 試しに問うてみれば、男はお冷やに口を付けないまま店の外を指さした。

 

「外だ」

「あ、はい」

 

 そりゃ屋内だからな、とミライは半眼になる。

 外ってなんだ外って。範囲を指定しろ。

 視線に込められた意図を察したのか、男はお冷やの水面を見つめながらゆっくりと口を開く。

 

「……まあそうだな、当方は、ここではよそ者だな」

 

 食堂を見渡す。向けられる視線に好意的なものはない。

 随分個性的な一人称だな、とミライは首を傾げてから、慌てて咳払いをする。

 

「あはは……まあ、気にしなくて良いですよ。五反田食堂は来る者拒まずですから!」

 

 むん、と力こぶを見せながらミライが笑う。

 快活さと負けん気の強さは祖父の妹譲りだった。

 そんな様子を見て、男はふと口を開く。

 

「綺麗な髪だな」

「えっ!? あ、えへへ……よく言われるんですよ~」

 

 うまいこと言っちゃって、とミライは男の肩をばしばし叩いた。

 そうこうしている内に鉄板に敷き詰められた野菜が香ばしい匂いを含む白い煙を上げ始める。

 無口な店主が手早く火を通し、皿に盛り付けた。

 

「おまちどうさま!」

 

 西暦という概念の消し飛んだ世界でも変わることなく。

 庶民の腹を満たすために、五反田の血筋は安く旨い料理を提供していた。

 合成された米と培養された野菜であっても根本に歪みはない。

 

「いただきます」

 

 男は丁寧に手を合わせてから、料理を箸で一口放り込んだ。

 思わず他の客達までもが固唾を呑んで反応を待つ。

 

「……うまい」

「でしょ!」

 

 ミライが笑顔で言えば、男は仏頂面のままだが頷いた。

 それから顔を上げ、厨房でしかめっ面のまま手を動かす、赤髪の男性を見る。

 

「……店主か」

「はい! 私のお父さんで三代目です! ちなみにお爺ちゃん……二代目はあそこにいますよ」

 

 そう言ってミライが指さした先では、厨房を真横から見ることのできる場所──恐らく生活空間への入り口──で、段差に腰を下ろす老人がいた。

 紅髪はくすんでおり、目も線のように細められている。

 だが筋肉の浮き上がった両腕、包丁の音に合わせてタンタンとリズムを刻む指が、彼がかつてこの城の主であったことを容易に推測させた。

 

 だが、二代目店主こと、五反田弾は。

 ミライが「よそからのお客さんだよ!」と手で指し示した男を見て、カッと両眼を開いた。

 

「お爺ちゃん?」

 

 彼がその目を見開くなど、ミライの記憶では久しい。

 弾は腰を浮かそうとして転びそうになり、すぐそばの常連客に慌てて支えられた。

 咳き込みながらも顔を上げ、真正面からよそ者の男を見つめる。

 

「…………いち、か?」

「……ごちそうさま」

 

 ミライはその声を聞いて慌てて振り向いた。

 席に男はいなかった。店のドアがぴしゃりと閉められた。

 机の上にはお代と、キレイに平らげられた大皿と。

 

 ──『地下に避難しろ』という置き手紙だけが残っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 超兵器インフィニット・ストラトス。

 文明崩壊以前に存在した国家という枠組みで運用されていたそれらは今、都市ごとの管轄に置かれている。

 織斑千冬が統治するこの都市には30のISが残っていた。これは都市単位では破格の数だ。

 

「織斑千冬様」

「なんだ」

 

 都市中枢部にそびえ立つ支配者の塔、その最上階。

 窓から一望できる都市のうち──あるセクションの内部で、散発的な爆音が響いていた。

 

「ISによる破壊行為が行われています」

「そうか」

 

 都市の主は豪奢なベッドに横たわりながら、力なく頷く。

 よく見れば都市の盟主として君臨する女に、右腕と右足が欠如していることが窺えるだろう。

 

「放置した場合には4000秒後に都市中枢へ深刻なダメージが発生すると予測されます」

「そうか」

 

 無機質な機械音声だった。

 かつての親友の声紋を模した女の声だった。

 

「都市防衛部隊の投下は70%完了。いずれも状況の不可逆的な解決には至りません」

「そうか」

 

 数秒の沈黙が挟まれた。

 終わってしまった世界で、なおも生き続けようとする人々。

 

 本来は継続できないはずの繁栄を無理に引き延ばそうとするならば。

 それには代償が必要となる。

 

「如何されますか?」

「──()()()()()()()だ」

 

 また一つ。

 人類の歴史に、余りにも愚かな破壊の爪痕が刻まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 成層圏を無数の影が飛翔する。

 WCU盟主、織斑千冬が発動したバスターコールに呼応し、地上の人類生存圏各地からISが飛んで来ているのだ。

 ステルスモードで飛翔する彼女らが到着した頃には、既に戦火は都市の外部に及んでいた。

 

「こいつら、ISを使ってる!?」

「『亡国機業』の残党か!」

 

 都市は違えど任務は変わらない。

 外壁を破壊して数台のトラックが砂漠に飛び出た。荷台には都市で簒奪した物資が載せられている。

 IS部隊は即座に散開、銃口を突き付けてトラックを包囲する。

 

「そこをどけ──!」

 

 併走していたISが銃を起こした。

 都市外部、本来生命体の存在しないフィールド。誰もがステルス機能を行使しており、有視界戦闘(ドッグファイト)しか行えない。

 つまりは乗り手の技量が最も反映される戦場だ。

 

「WCUの犬共が……!」

「残った人類同士で殺し合ってどうする!? お前達、自分のしていることが何か、分かっているのか!?」

 

 互いに銃口を突き付けたまま叫ぶ。

 本来は居てはならない場所。

 ステルスモードとはいえ、いつ看破されるか分かったものではない。だから一刻も早く離れたいのだ。

 

「このまま緩やかに、地上の全員で絶滅していくつもりか!」

「そうじゃない……!」

 

 トラックを守るテロリストの叫びに、都市軍所属の女は頭を振る。

 

「地球が保たない時が来ている! 物資が必要だ! 宇宙(ソラ)へ上がり新たなフロンティアを切り拓かなければ、本当に絶滅するしかないじゃないか!」

 

 かつての亡国機業は主要人物の大半を第三次世界大戦で喪い、生き残った唯一の幹部の下で再編成、今は地上の都市を襲撃しつつ、独自の基地から宇宙へ脱出する計画を進める秘密組織へと転じていた。

 

「だからといって略奪を認められるものかよ!」

「ならば、なんとする!」

「未来を願うのは間違いじゃない! だけど、今を生きている人々を守ることだって……!」

 

 押し問答に交錯の余地はない。

 一辺倒な平行線を描き、両者はそれぞれの意志を叫ぶ。

 最早銃火を交わすほかにないと、誰もが諦めそうになったとき。

 

 

【CAUTION!】【CAUTION!】【CAUTION!】

【CAUTION!】【CAUTION!】【CAUTION!】

 

 

『…………ッ!?』

 

 突如として立ち上がる緊急警告表示(レッドアラートウィンドウ)

 

「なん、だ、何に対しての……!?」

 

 慌てて表示を確認するが、機体はひたすらに警告を発するだけ。

 元よりこの世界において、ISはコアがブラックボックスである以前に、ひたすらに未知だった。

 どうして飛べるのか。動力源は何なのか。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 第三次世界大戦に伴う形で起きた、全世界に及ぶ同時多発データテロ。

 それまで築き上げられた全人類の蓄積情報は消し飛ばされ、文明崩壊以前の暮らしを知る者は極めて少ない。

 口頭で語られるそれらは絵空事だった。

 

「隊長、こいつが上だって……!」

 

 織斑千冬に招集されたISの内一機が、アラート先として上空を指し示していた。

 機体名すら分からぬ鋼鉄機構に指示されるがまま、その乗り手は真上を注視して。

 

 世界が数度爆砕した。

 高高度より一気に舞い降りた機体が着地し、余波が砂漠地帯を舐めるようにして疾走。砂煙が上がるだけでは済まず、地面そのものがめくれ上がる。

 スキンバリヤーの存在など知るよしもなく、全員が思わず眼を庇った。

 

「何だ!? 何が──」

 

 招集されたメンバーのうち一人が、手に持った巨槌(メイス)を振り回して煙を晴らす。

 水平線まで続く砂色一色。

 

 

 その中に。

 

 

 ぽつんと、"茜色"があった。

 

 

「………………ぁ」

 

 死神と視線が合った。それが彼女の見る最期の光景だった。

 間合いが死んだ。遙か彼方にいたハズの()()は刹那で距離を詰めて、刃を振るっていた。

 

 ズぱっ、と。

 不可視のエネルギーバリヤーと人間の肉体が、まとめて断ち切られる音がした。

 

 ISを展開したままにもかかわらず、女の首がすっ飛んでいく。

 非現実的な光景に全員の思考が止まった。

 

 ぽす、と軽い音を立てて、首が砂の上に落ちる。

 ぐしゃり、と踏み潰され、飛び散った液体が砂漠を濡らした。

 

「……そ、んな」

 

 深紅の装甲があった/視線を集めるのはそれではない。

 不透明の結晶体があちこちを覆い、翼のように展開された背部バインダー群もまた結晶体に埋め尽くされている。それらは不規則に発光しながら、有機的に時折膨らんでいた/誰もそれは観ていない。

 ISごと首を叩き切った大剣から、一滴、血がしたたり落ちる/誰もそれに気づきもしない。

 

 

 

「人類は滅びなければならない」

 

 

 

 ずんと腹の底に響く声。

 全員が視ているのはそれだった。

 その装甲を身に纏い、その剣を手に持つ、女の顔だった。

 

 

 

「人類は罪を償い、地上から抹消されなければならない」

 

 

 

 戦乙女の如き美貌。

 金色に発光している両眼。

 絶対零度の声色。

 他者の生存を許さぬ絶対の死の権化。

 

 

 

 彼女は現れる。

 戦場の匂いを嗅ぎつけ、どこからともなく現れる。

 

 

 平時は砂漠地帯の無人兵器を破壊し続けているという。

 或いは空の上で休んでいるという。

 

 

 

「解決策はもうない。神の意志は眠りについた。人類は選ばれなかった」

 

 

 

 ただ一つ確かなのは。

 都市の外に出てきた生命体総てを、彼女は蹂躙する。

 

 

 

「──故に、救済を享受せよ」

 

 

 

 人々はそれを【厄災】と呼んだ。

 

 

 

 

 

 ──ああそうだ。救済の宿る剣を振るうがいい。

 

 ──貴様は既に魔剣使いにあらず。

 

 ──貴様はまさしく、()()()()()()

 

 

 ──救世主と呼ぶに相応しいだろう。

 

 

 

 

 

 ぞわりと鳥肌が立つ。

 天剣。【厄災】がそう呼ぶ、彼女の唯一の武器。

 人間の身の丈はあろうかという巨大にして不動の剣だ。

 

(ま、ずい……ッ!)

 

 都市外部に居たくなかった理由はこれだ。

 運が良ければステルス機能を看破されることなく、都市から都市への移動も可能となる。

 しかしそれだって運任せ。見つかれば、命はない。

 

「ふざけるなよ【厄災】──!」

 

 亡国機業の面々が一斉に砲火を上げる。

 浴びせられる銃撃に対して、【厄災】は気だるげに視線を向けた。

 

()鹿()()

 

 背部バインダー群の結晶体が発光。

 そこから半透明の触手が伸び、銃弾の一切を弾く。

 

「……ッ!?」

 

 金色の瞳に射すくめられ、身体が凍り付く。

 

()()()は天剣の担い手。()()()は神の意志の預言者。この地上において、()()()に逆らうことは許されない」

 

 【厄災】が大剣を一閃した。

 斬撃が飛翔、亡国機業メンバー達の首に狙い過たず直撃。

 だが血飛沫は舞わず、首を触り目を白黒させることしかできない。

 

「……な、んだ?」

「貴様らは地上の()()だ。故に、滅びろと言っている」

 

 答えは数秒後だった。

 ずるり、と視界が斜めにズレた。

 

 天剣による空間断絶作用。

 物理的な切断ではなく、因果ごと、首と身体が断ち切られた。その反映には時間を要する。

 

 数秒経った後、十数名の亡国機業メンバーの首が音もなく砂漠に落ちた。

 血の一滴すら零れないその有様に、招集された面々の背筋を怖気が走る。

 

「わたしは全てを破壊する。わたしは万物を殺戮し、地上を薙ぎ払う。だからここでわたしに殺されろ」

 

 次の標的が自分たちだと理解して。

 なのに、身体はぴくりとも動かなくて。

 

(ぁ)

 

 【厄災】と視線が重なった。

 無機質な金色の瞳。だがそこには果てのない、憤怒の焔が宿っていた。

 そして距離が詰められるのには刹那もかからない。

 

(し、ぬ──?)

 

 現実を理解出来ないまま。

 ただその剣が眼前に迫るのを、眺めていることしかできなくて。

 

 

 

 

「──お久しぶりです、()()()

 

 白銀の閃きが、世界を両断した。

 

 













次回
東雲令【オルタ】/スパークスライナーハイ(後編)
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