【完結】強キャラ東雲さん   作:佐遊樹

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投稿遅れてすみません
メッチャ寝てました


74.臨海学校バトルフィールド

 お世話になる旅館への挨拶を手早く済ませ。

 持参した荷物を各自の部屋(一夏は特例として千冬との二人部屋だった)に置けば、一日目の自由時間が始まった。

 

『ねーねー、せっかくだし織斑君と遊びたくない?』

『それ卍ー! 一回も話さないままとか寂しいしー!』

『てか最近の織斑君マジイケイケだし、アゲぽよじゃないー?』

『それあるー!』

 

 女子更衣室は和気藹々と盛り上がっていた。

 色とりどりの水着を身に纏いながら、少女らが口にしている話題は唯一の男子生徒。

 

「……あいつら、何語喋ってんのよ……ッ!」

「ネオ日本語、的な感じじゃない?」

 

 苛立ちを吐き捨てる鈴の隣で、下着姿のシャルロットが苦笑を浮かべる。

 

「むしろ僕より鈴の方が馴染みありそうだけど?」

「ああいうしゃべり方する連中って、小学生の頃あたしをいじめてた奴らと似てるのよね」

「…………そっかぁ……」

 

 念のため補足しておけば、似ているだけでネオ日本語の使い手が全員元いじめっ子だったわけではない。

 むしろ鈴の低い声に込められたのは完全な私怨である。

 

「それにしても、一夏は人気者だね。こうしている間にも、誰かに声をかけられてるかも」

「はあ? あんた、何を他人事みたいな──」

 

 半眼で隣の少女を見て、鈴は絶句した。

 声はさっきと同じ朗らかさで、気配も何も変わっていない。なのに、シャルロットの目は笑っていなかった。

 

「ふふ。浜辺に着いてさ。一夏が他の女の子と遊んでたら……()()()()()()?」

(何こいつ……怖……)

 

 ハイライトの消えたシャルロットの両眼は本当におぞましい色合いだった。

 静かに数歩後ずされば、反対側の隣で着替えていたセシリアと肩がぶつかる。

 

「あ、ごめんセシリア」

「もう、鈴さん更衣室はあまり広くなくってよ。そりゃあ体積が小さい分、感じにくいかも知れませんが」

「何で初手で最大火力ぶつけてきた? あたし、あんたに何かした?」

 

 まさかの罵倒に鈴は面食らった。

 

「いえ。その、なんというか──自分が少し嫌になりまして」

「?」

「一夏さんが今頃どうしているか……容易に想像がつきますし、多分合っています。なのでその、わたくし、割とあの男の解像度が高いのだな、と……」

 

 本気で歯がゆそうな表情だった。

 それを聞いて、鈴の瞳からもハイライトが抜け落ちた。

 度重なる一騎打ち。常に相手の思考を読み合った。常に相手を意識し、共鳴してきた。

 故にそんじょそこらの女はおろか、幼馴染ですら凌駕するほどに──セシリアは一夏を理解しており、逆もまだ然りなのだと。

 その事実を突きつけられ、セカンド幼馴染は普通に感情を失った。

 鈴の様子には気づかないまま、セシリアは嘆息して告げる。

 

一夏さん(あのおとこ)のことです──どうせ()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

「っしゃああああああああああッッ!! 海だああああああああああああッ!!」

 

 

 まあセシリアの予測通り。

 手早く水着に着替えて、一夏は声をかけようとした他クラスの女子らの横をドップラー効果全開で突っ切ると、そのまま最速で海に突撃した。

 彼が穿いている水着はセシリアとの勝負で最初に選んだ黒のトランクスタイプである。

 

「待ておりむー。きちんとこのサメ避け軟膏を塗らなければ……」

「それ、本気で実用性を見込んでたんだ……」

 

 同じく、着替えをさっさと済ませた東雲と簪が彼の後を追いかけてくる。

 

「っとと、悪い。はしゃぎすぎたな……」

 

 海面を割って五十メートルほどを全力で泳いだ後、一夏は慌てて砂浜に戻った。

 顔を上げれば、二人の日本代表候補生の水着姿が目に映る。

 

「……うおぅ」

 

 思わず朴念仁が感嘆の声を上げてしまう程に、二人の姿は美しかった。

 簪は黒の水着を選んでいた。胸元に誂えられたリボンをアクセントにしつつ、スカートが過度な露出を遮り彼女らしい奥ゆかしさを残す。

 

「ふふ。似合ってる?」

「え、あ、おう。似合ってる……」

「そっか、良かった」

 

 生返事であったが、簪は満足そうに頷く。

 

「……令も、見てもらったら?」

「む……見てもらう、というのは、些か不慣れでな……」

 

 隣に佇む東雲に視線を向けて、それきり、一夏は呼吸を忘れた。

 腰まで伸びる黒髪はこんなにも美しかっただろうか。

 真っ白な肌と、瞳に合わせたルビー色のビキニ。フリルのような飾り気を排したそれは、当人の美貌をこれ以上なく際立たせていた。

 

「それにこれは、当方のスレンダーで無駄のない洗練された身体つきに似合う、シャルロットちゃんでは該当するサイズのない水着だぞ」

「令、相当根に持ってるね……」

「何処かの誰かたちが、助け船を出してくれなかったものでな」

 

 素早く簪が視線を逸らした。

 彼女を、東雲令を知る者が見れば唖然とするほどに、感情を表に出したやりとり。声色や表情が動かずとも、付き合いの深い相手であればそれを読み取れる。

 いいや──その変化を読み取れる者にとっては、むしろ自然か。

 かつての氷が動いているような冷徹さはなく。

 そこには一人の、生きた少女がいた。

 

「………………」

「……それで、だ。その……おりむー、やはり気に召さなかったか?」

 

 未だ何の反応も返さない弟子に対して、東雲は恐る恐る問う。

 だが一夏は無言のまま目を限界まで見開き続け、それから息を吐いた。

 

「────俺、これであと一年は戦えるわ……」

「は? 何と戦うのだ?」

 

 ブーメランそっちいったぞ。

 要領を得ない感想に首を傾げていると、砂浜に影が差した。

 

「海か。水着というのはやはり心許ないな」

「お似合いですわよ箒さん。芯の通った美しさですわ」

「フフン。あたしも今回は奮発したのよ! どーよ!」

「いいんじゃないかな。鈴っぽい、活動的な感じがして」

「そうだな……私はその、本当に似合っているのか分からんが……おいシャルロット、そのやけに慈愛に満ちた表情を止めろ」

 

 わいわいと会話を響かせながらやってくる少女たち。

 つまりは、まあ、いつも通りのメンバーが揃った、ということだった。

 

 

 

 

 

 

 

「スイカ割りをしましょう」

 

 クラスメイトらと一通りビーチバレーやら水のかけ合いをやってから。

 セシリアは青いビキニに包まれた胸を張り告げた。

 

「へえ。スイカなんて持ち込んだのね。やるじゃないセシリア。どれくらいあるのよ」

「はい。150個ほど仕入れてきましたわ

「業者か?」

 

 予想を遙かに超えた数字が飛び出て、箒は眉間を揉んだ。

 セシリアが指さした先では、クラスメイトらが思い思いの場所にスイカを配置している。

 まずお目にかかれない数というか、砂浜がスイカ畑のようになってすらいた。

 

「いーじゃねーか。せっかくだ、セシリア。どっちがより多くのスイカを割れるか勝負といこうぜ」

 

 早速一夏が悪い癖を発揮した。

 セシリアも競うようにして立ち上がり、火花を散らせる。

 

「いい度胸ですわ。ではわたくしは持ち込んだAWSを……」

「行くぞ『白式』。俺に力を貸せ……!」

 

 しれっとセシリアはスーツケースから狙撃銃を取り出し、一夏は『雪片弐型』を顕現させ素振りし始めた。

 山田先生が見れば卒倒しそうな光景である。

 

「ちょっと待ったァーッ!」

 

 そうして二人がいそいそと決闘の準備を始めたところで、待ったをかけたのは鈴だ。

 

「セシリア、ちょっとこっちに来なさい」

「む。なんでしょうか」

 

 サプレッサーを取り付けた狙撃銃を持つビキニ姿の美女に、鈴がこしょこしょと内緒話を始めた。

 話を聞き、セシリアは数秒黙り──それから実に良い笑顔を浮かべて、一夏に振り向く。

 それはソドムとゴモラを焼き尽くした天使のような笑みだった。

 

「名案ですわね!」

(ん? 俺もしかして死ぬ?)

 

 一夏の第六感はしっかりと動作していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いっそ殺してくれ」

 

 唯一の男性操縦者は炎天下の中で低い声を上げた。

 一組生徒ら合同で作ったスイカ畑。

 最後のアクセントに何かが足りないという話になり、結論は全員が賛成した上で実行に移された。

 

「ころしてくれ」

 

 一夏はスイカ畑のど真ん中に埋められていた。

 天晴れ、という言葉が自然と零れるほどに見事な埋められ方だった。

 首から上だけが綺麗に地面から生えている。どう考えても晒し首だ。

 

「あら、こんなところに不思議なオブジェが」

 

 身動きが取れず呻いていると、満面の笑みを浮かべてセシリアがやって来た。

 彼女はしゃがむ込むと、一夏の頭の上に小石を積み始める。

 

「お前、今の俺をどう思う?」

「労働党の議員みたいですわ」

「それ以上はやめろ」

 

 ブリティッシュ・ジョークに対して、一夏は首を横に振った。

 労働党の議員、砂浜に埋められているのだろうか。

 

「何なんだよこれ。お前ら、俺の尊厳をもてあそんで楽しいか……?」

「ええ、とっっっっっても」

 

 優雅な笑みだった。眩い日差しに、白い歯が照る。

 それはそれとして一夏にとっては不愉快極まりない笑みだった。

 

「ナメやがって、覚えてろよ。解放された瞬間、お前ら全員海の藻屑にしてやる」

「まあまあ、怖いこと」

 

 わざとらしく自分の身体を抱きしめ、セシリアが首を横に振る。

 

「縦によくこんだけ穴掘ったよな。執念がすげえよ。ここまですることないだろ」

「箒さんが二刀であっという間に掘りましたわ。篠ノ之流の応用だとか」

「篠ノ之流、凄えなぁ……!」

 

 無論大嘘である。

 脱出の余地がないことを悟り一夏がうなだれている、一方。

 一組生徒らは順に木刀を握ると、タオルで目隠しをしてスイカを次々と叩き割っていた。

 

「じゃあ、次は僕かな」

 

 オレンジ色のビキニを身に纏ったシャルロットが、視界を塞いだ状態で歩いてくる。

 ともすれば倒錯的な光景だが普通に怖い。一夏の頬を暑さとは異なる理由の汗が伝う。

 

「お、おい……大丈夫なんだよな? 間違っても俺には当てないよな?」

「はは。大丈夫だよ。ぐるぐる回ったけど、アレで三半規管に少しでも影響があったらISなんて動かせない」

 

 一応、機体の方から三半規管を保護するアシストは入るものの、空戦機動適応能力はIS乗りの資質が大きく問われるポイントだ。

 フランスの代表候補生にまで上り詰めた少女にとっては片腹痛いだろう。

 

「じゃあ──往くね」

 

 直後、砂浜+素足の悪条件からは想像できないほど滑らかに少女が加速する。

 一夏や箒、あるいは東雲の加速をずっと近くで見てきた。嫌と言うほどに観察し、思い知らされてきた。ならば自分の血肉に変えない道理はない。

 

「ちょっ、待ッ──」

 

 制止の悲鳴には聞く耳持たず。

 シャルロットが可愛らしい声と共に木刀を振り落とす。

 

 

えいっ♥

 

 ズバァァッッッッ

 

 

 砂浜が、割れた。

 舞い上がった砂が数秒滞空し、それから一夏に降りかかる。

 顔中砂まみれになりながらも、彼は真顔だった。

 

「その斬撃放っといて語尾にハートマーク付けるのは無理があるだろ」

 

 砂浜にいた全員の総意だった。

 シャルロットはタオルを外し、自分が作り上げた惨状を見て顔をしかめた。

 

「あれ? ちゃんと加減したつもりだったんだけどな……」

 

 一夏の真横に置いてあったスイカはきっちり両断されている。

 両断──木刀でやれることではない。普通に人が死ぬ。

 

「チェンジ!」

 

 スイカの赤く、綺麗な断面を見て、一夏はすかさず叫びを上げた。

 生命の危機を感じての絶叫に、やれやれとセシリアが首を振る。

 

「まったくその程度で音を上げていてはなりませんわよ……では、次はわたくしが」

 

 淑女が前に一歩出た。

 同時、ジャキッという鋼鉄の稼働音が響く。

 抱えているのは彼女の母国、イギリス軍が正式採用しているボルトアクション式のライフルだった。

 

「は? 銃刀法違反では?」

「きちんと認可を取りましたわ」

 

 ラウラの疑問に対してセシリアが即座に公文書のコピーを投影する。

 一夏の顔から感情が抜け落ちた。

 

「ですのでわたくし、今ここでは、合法的に発砲することが可能でしてよ」

 

 言うや否や、セシリアはライフルの銃身に取り付けた二脚(バイポッド)を開き、伏射の姿勢で構えた。

 一流を超え超一流の域へ至った彼女にとって──銃を構えたとき、既に狙いは定まっている。

 

「まず一つ」

 

 白い指が丁寧にトリガーを絞ると同時、銃口から放たれた7.62mm弾が狙い過たずスイカを粉砕、砂浜に赤い果汁のシミをつくる。

 一夏はそっと、自分の真横にまき散らされたスイカの破片を見た。

 

「……え? 何? これ何のメタファーだよ。一秒後の俺の姿ってことか?」

 

 顔が引きつっているのが自分でも分かった。どう考えても、直撃したら、死ぬ。

 

「あまり馬鹿にしないでいただけますか?」

 

 タンタンタン、とテンポ良く発砲音が響く。

 そのたびに一夏の真横でスイカが砕け散っていき、飛び散る果汁が彼の顔にかかった。

 もののついでといわんばかりに、先ほどセシリア自身が一夏の頭の上に積んだ小石も、正確無比な狙撃を受けて吹き飛ばされていく。

 

「ちょッ、やめ、やめッ……ヤメロォォーーッ!! 何だ!? 俺に苦痛を味わわせたら高ポイントの遊びでもしてるのか!? そういうコーナーじゃねえからこれ!」

 

 入学以来一番の悲鳴である。

 もはや周囲で打ち砕かれ続けているスイカに親愛の情すら抱いていた。この虐殺を乗り越えて、あの金髪の悪魔に一矢報いる。そんな考えすらあった。しかし現実は無情である。無二の戦友らは断末魔の叫びを上げることすら許されず、木っ端微塵になっていく。

 セシリアが狙撃を続行すべく、空になった弾倉を取り外し、次のマガジンを取り付ける。

 だが再び照準(レティクル)を合わせたとき──彼女の真横を一陣の疾風が通り過ぎた。

 

 

「──()()()()

 

 

 砂浜を爆速で駆け抜けるは最も世界最強に近き戦乙女!

 異名に違わぬ、疾風怒濤の茜嵐──東雲令!

 

「なんで?」

 

 弟子は完全に思考を放棄していた。

 刹那、東雲の深紅眼が閃く。

 両手に保持する木刀が、太陽に照り返し艶やかに光った。

 

 

「当方は──二手で勝利する」

「なんで?」

 

 

 直後、砂浜が爆砕され──織斑一夏は地面から十メートルほど上まで吹き飛ばされ、無事地面に着弾した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(みんなが言ってた『おりむーが勝負事を捨ててバカンスで気を休められるように思いっきりふざけよう』というのは、これであってるよな……?)

 

 砕け散った木刀を箒に手渡して──柄しか残らなかった私物を箒はものすごい顔で見ていた──東雲は着弾した一夏に歩み寄りながら首を傾げた。

 残念ながら不正解です。

 

(それにしても滅茶苦茶穴が深くてびっくりした。一手でスイカ割りつつ穴を破壊して二手でスイカ割りつつおりむーを打ち上げる必要があったし、普通にそこらへんのIS乗りの防御より堅牢だったんじゃない?)

 

 なんでそんなド畜生みたいなこと言えるの?

 

 

(とりあえずノルマは達成したし、ここからは二人でイチャイチャデートだ! おりむーもきっと期待に胸を高鳴らせて当方を待ってるだろう! さあ、当方達のラブラブチュッチュはこれからだ──!)

 

 

 まあ織斑君、上半身キレイに砂浜に埋まってて、心肺停止状態なんですけどね。

 

 

 

 

 

 








これがホントの脈なしってな
何でもないです




次回
75.男の戦い
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