【完結】強キャラ東雲さん   作:佐遊樹

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73.海に着いたら十三手(オーシャンズ・サーティーン)

 

 

 


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(前回までのあらすじ:白い砂浜に蒼い海が待つIS学園臨海学校。旅館へ向かうネオサイバー・バスに乗り込んだピンクブレイン専用機持ち達は、ブレイコー・タイムを前に胸を高鳴らせる。だがその裏では、オリムラ・イチカ抹殺計画を企てるシルバリオ・ゴスペルの影が蠢いていた……)


 

 

 

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ワン・サマー・ゴー・トゥ・インセスト・シー #1

 

 

 


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<親愛なるアイエスレイヤー読者のみなさんへ>

もう最終章間近とあって、積み重なったオリジナル設定を把握するのは熟練のアイエスヘッズたちも困難になってきたことでしょう。受けておくべきインストラクションはただ一つです。『ジッサイ箒ちゃんはカワイイヤッター!』


 

 


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「ちょっと!アンタずるしてるでしょ!」ネオサイバー・バスに怒号が響き渡る。怒髪天を衝くのは、中国代表候補生ファン・リンインであった。車内にはトランプ・カードが噴水のように舞い散っている。学園謹製の非イカサマトランプ(アンチ・マークド・デック)だ。「イカサマはブッダがお見通しよ!大人しくお縄に──」


 

 


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「イヤーッ!」「グワーッ!」豪雨を浴びる犬が如き遠吠えを上げていたリンが、突如として座席から転がり落ちる!ネオサイバー・バスとはかりそめの姿。ここは世界の果ての学生専用カジノ。弱者の舌先三寸には何の価値もないのだ!「当方は一手(フルハウス)で勝利すると告げたはずだ。イヤーッ!」


 

 


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「アバーッ!」凄まじきカラテを受け、床に転がっていたリンが触覚のような髪ごとのたうち回る。中国四千年の歴史が詰まったツインテールはダイヤモンドが如き美しさであった。しかし美は暴力の前に無力である。勝者の方こそがジッサイキレイ!「当方の勝ちだ。バンリ・チョウジョウに帰るといい」


 

 


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鮮血を煮詰めた深紅眼!濡れ烏の群れと言うべき純黒の髪!平坦なバスト!「当方の勝利に一点の曇りなし。次は誰だ」「アイエエエ……」「シノノメ=サンコワイ!」「ブッダシット!」圧倒的なカラテを前にモータルたちが泡を吹く。それは一人の少女であった。『世界最強の再来』こと、シノノメ・レイ!


 

 


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「居ないのか……」シノノメは周囲を見て残念そうに言った。元より彼女に勝負を挑む気概がある者はそういない。故にリンが真っ向勝負を仕掛けてきたのはグッドラックである。しかし歴戦のソルジャーだったリンすらコンマ数秒でカジノの現代オブジェと化した。もはやシノノメの暴虐を止められる者は居ない!


 

 


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不機嫌そうにシノノメが唇を尖らせる。付随する圧だけでモータルたちはのたうち回った。「グワーッ!」「オボボーッ!」罪なき子羊たちの悲鳴が響く。おおブッダよ寝ているのですか!しかしここはマッポーの賭博バス。望外の幸運は一挙に訪れる!「ドーモ、シノノメ=サン。オリムラ・イチカです」


 

 


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現れたのは黒髪の精悍な男であった。「ドーモ、イチカ=サン。シノノメ・レイです」シノノメはオジギを返す。顔を上げると同時、両者がネオサイバー・バスの座席テーブルにトランプ・カードを叩きつけた。反動に周囲のモータルがひっくり返る。シノノメの手札は『J・J・J・K・K』のフルハウス!


 

 


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「当方の勝利である」ワザマエ!モータルはおろか並大抵の専用機持ちでは敵わぬその手札。しかしイチカは顔色一つ変えず自分のカードを見せつけた。並ぶは『10・J・Q・K・A』のスート!「ロイヤルストレート・フラッシュ」「アイエエエ!?」シノノメは生まれて初めて悲鳴を上げた。


 

 


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イチカはライトノベルのヒーローであり、唯一無二の男である。そんな彼にスコールが如き女神の恩恵が降り注がないはずもない。「キャー!イチカ=サンステキ!」周囲にまき散らされていたモータルらが黄色い悲鳴を上げる。イチカの周囲はあっという間にうら若き乙女たちで埋まった!


 

 


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オイ我が弟子に何してる殺すぞ

「東雲さん、負けるたびにガチの声出すの止めてくれ。他の子が泣く」


 

 


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(第七部「インビクタス・ソルジャー」より:「ワン・サマー・ゴー・トゥ・インセスト・シー」#1 終わり。#2へ続く)


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ何? 何? 今の何?」

「どうしたおりむー」

 

 臨海学校当日。

 旅館まで生徒らを運ぶ最新鋭のバスから下りて、一夏は最速で頬を引きつらせた。

 

「いや……俺の記憶が確かなら、俺たちのバス内トランプ勝負がなんかwikiとか作られてそうな感じになってた気がしてさ」

「……? おりむー、疲れているのか……?」

 

 天然ボケ気味な師匠に真面目な心配を食らい、一夏は無言になった。

 言われてみれば自分の発言は熱に浮かされたうわごとレベルの代物である。

 

「いや、多分気のせいだったわ……」

「そうか。それならいい」

 

 釈然としないものを感じながらも、一夏は頭を振って雑念を追い出した。

 ここから先は、純粋に楽しみ、謳歌するべき時間だ。

 

「絶好の海日より、というやつだろう? 当方は初体験だが、運に恵まれたな」

 

 東雲はバスの停まった駐車場から、海を見渡す。

 慣れない潮風を浴びて目を細めていると──いつの間にか、専用機持ちと一組のクラスメイトらが、東雲を起点に横一列に並んでいた。

 

「よし、アレをやるぞ」

「やりましょうか」

「やるわよ」

「やろっか」

「やるしかあるまい」

「やろう……」

 

 箒、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラ、簪の順であった。

 何が何だか分からず、東雲が訝しげに眉根を寄せる。

 

「……おりむー。『アレ』とは一体……」

「ああ──『アレ』か!」

 

 隣を見れば弟子も目を輝かせウキウキしているではないか。

 何が始まる。まさか暴走した最新鋭のISでも強襲してくるのか、と東雲が身構えていると。

 一組生徒らは鞄を振り上げ、両足をバネにして、全員同時に飛び上がった。

 

 

 

『海だああああああああああああ!!』

 

 

 

「…………は?」

 

 珍しく、東雲が目を丸くして、ぽかんと口を開く。

 

(何、だ──何だ? 『海だ』……その通りだ。うむ。海だな。何故叫ぶ? 通過儀礼的なものなのか? どこにそんな必要性が?)

 

 一人乗り遅れた少女を捨て置いて、着地した生徒らはワイワイと騒いでいた。

 後ろでは呆れた表情の千冬と苦笑する山田先生が、仕方ないと言わんばかりに見守っている。つまるところ、今の奇行を許容しているのだ。

 何よりも──愛弟子が楽しそうに笑顔を浮かべている。

 ならば。

 

「……うみだー」

 

 片手を小さく掲げて、ほとんど呟きに近い声量で東雲も乗っかってみた。

 

「オッ! 東雲さんもはしゃいでる感じか!?」

「……其方程では、ないな……」

 

 愛弟子の問いに対して、『世界最強の再来』は困惑の声を返す。

 

「でも海に来るのは初めてだったっけ。準備とか、大丈夫か? 東雲さんは持ってないだろうと思って、日焼け止めとか日傘とか、サングラスとか、ビーチパラソルとか浮き輪とか酸素ボンベとか持ってきたんだけど……」

 

 足下の旅行用鞄から一夏がひょいひょいと師匠用の海装備を取り出す。

 周囲に居た生徒ら全員が、思わず真顔になった──弟子っていうかお母さんだろこれ。

 

「舐めるなよ、鬼剣使い。当方とて海の心得はあるぞ、見ろ──」

「……ッ!?」

 

 だが世話を焼かれっぱなしで、東雲が引き下がるはずもない。

 彼女もまた旅行用鞄を開き、その中から持ち込んだ装備を引っ張り出した。

 

「──竹とセラミックで作られたニードルガンだ。武装勢力に旅館が制圧された際、金属探知を潜り抜ける必要がある」

「初手でゼロ点を叩き出してきたな……」

 

 臨海学校は戦場じゃないんだぞ、と一夏は頬を引きつらせる。

 だが東雲は軽くニードルガンをガンスピンさせ脚の付け根のホルスターに収納すると(スカートがめくれ上がり、白い太ももが露出して一夏は顔を背けた。その挙動を見た箒は思いっきり彼の耳をつねった)、次なるブツを出していく。

 

「これは板ガムに見せかけたC-4だ。こっちの口紅型の雷管を用いて起爆させる」

「何を? 何を爆破するんだ?」

「次は防弾性素材を編み込んだバスタオル。この特殊素材のサバイバルナイフで裂けば捕縛術にも使えるぞ」

「なんで常に誰かと戦ってるんだよ。海に何しに来たんだ」

「あと、ネットでサメ避けの軟膏も買ってきた」

「サメすらも考慮してるのか……ていうか効くのかなそれ……」

 

 出てくるわ出てくるわ、間違いなくこの臨海学校で使われないであろう装備群。

 一流のIS乗りであるからこそ、ISを使えない状態も想定しているのだろう。確かに人質を取られ解除を要求されては、超兵器といえども意味がない。

 

「というわけで、ご覧の通り、万全だ」

「どっちかっつーと、ご覧の有様よ……」

 

 広げられた東雲印のグッズ類を見て鈴が苦言を呈する。

 

「令。水着や替えの下着類はちゃんと持ってきたんだろうな」

 

 さすがに心配になったのか、箒はサメ避けの軟膏ケースをつまみ上げながら問うた。

 これだけ無駄な物を持ってきていれば最悪、本当に必要な物を持ってきていない可能性すらある。

 

「ちゃんと持ってきたぞ。何せ、箒ちゃんが選んでくれた水着だからな」

「……む。そ、そうか……なら、いい」

 

 ストレートな言葉に、箒はやや頬を赤く染めながら、目をそらした。

 東雲が想起するはレゾナンスでの買い物。

 

『ふむ。令ならば何でも似合うだろうと思っていたが──訂正が必要だな』

『……やはり、当方にこのような華美な衣装は似合わないだろう?』

『違う、間違っているぞ。()()()()()()()()()んだ』

 

 親友からの言葉を聞いて。

 東雲がどれほど喜んでいたのか、箒は知らない。

 今まで縁のなかった世界を見せてくれ、手を引いてくれたこと。それにどれほど感謝しているのか、知らないのだ。

 

『……そうか。当方に、似合うのか』

『ああ。令はスレンダーな体型だから水着のデザインがよく映える』

『同意見ですわ。その無駄のない洗練された身体つきは、IS乗りとしてだけでなく、女としても羨ましく感じます』

『いいなあ……そのデザインの水着、僕だとちょうどいいサイズがないんだよね……

 

 同時に、悪意のない言葉に、どれほどメンタルを痛めつけられたかも、知らないだろう。

 遠巻きに鈴とラウラと簪が『うわぁ……』みたいな顔をしていたのがやけに印象強い。自分じゃなくて良かったと、心の底から彼女たちは安堵していた。

 控えめに言って生き地獄である。

 

「五年後だ。見ていろ……五カ年計画だ……覚えていろ……!」

「……?」

 

 何やらブツブツと呟いている東雲を見て、箒とセシリアとシャルロットは首を傾げた。

 一方で、彼女の言葉に何やら別の反応を示したのは一夏である。

 

「五カ年計画……なんか聞いたことあるな」

「当然だろう。歴史の授業で習ったはずだ」

「ああ、ラウラ。いや、違う……そうだ。中学に入学したての頃、鈴が言ってたんだよ」

 

 思い出せそうで思い出せないモノが出てきて、一夏は手を打つ。

 東雲は真顔になって鈴を見た。

 サッと中華娘が顔を逸らす。絶対同じ計画を立てていた。そして……三年経ち、成果は……得られたようには見えない……

 

「…………」

 

 未来は不定形だから。

 現在という何物にも代えがたい刹那の積み重ねが明日を紡ぐから。

 誰も人の未来を奪うことはできないから。

 言い訳に言い訳を重ね、東雲は何も聞かなかったことにした。

 

 

 それはそれとして。

 

 

「──で、替えの下着とは何だ?」

「えっ」

「えっ」

 

 

 東雲は普通に忘れ物もしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(え? 下着って支給されねえの?)

 

 この女、基本的に衣類は支給品と捉えていやがる──!

 

(それにしても海だからといって、みんなはしゃいでいるな。いや……当方も人のことは言えまい)

 

 チラリと、自分の旅行用鞄を見た。

 諸々を取り出したのは先制攻撃である。本当に秘匿するべきモノは鞄の二重底に仕込んであった。

 

(おりむーと、海。おりむーと、夏。ストライプスにも『夏は勝負の季節!』と書いてあった)

 

 その深紅眼に意志の焔を宿し。

 少女は真正面から、自分の恋人を見据えて拳を握った。

 

 

(──()()()()ッ!)

 

 

 えっ、なに、それは……

 

 

 

(当方は──一夜(ワンナイト)で勝利する。ゴールインしてみせる……この、レゾナンスのドラッグストアで購入した避妊具(コンドーム)で!)

 

 

 

 夏の旅行イベントにゴム持ち込むメインヒロインがいるってマジ??

 

 

 

 

 









コメディパートが楽しくなっちゃって
三分割しました

は?



次回
74.臨海学校バトルフィールド


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