【完結】強キャラ東雲さん   作:佐遊樹

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ドン千「(サブタイトルは)我が書きかえたのだ」


66.魔剣・(ひかり)/Phantom Task

 

 見る影もなく破壊され尽くした玉の広間。

 玉座を背に、黄金を身に纏うスコールは呼吸も忘れただ魅入っていた。

 

(これが、東雲令の極地──!)

 

 全身から立ち上る熱気に、空間が歪んでいる。

 蜃気楼の騎士とでも呼ぶべきか。しかしその殺意にはまやかしなど一切介在しない。

 スコールは息を吸って動揺を瞬時に収めると、数瞬で相手の戦力分析を完了した。

 

(まず全身の装甲。局部や身体の末端を覆っているだけ。これは防御を一切捨てたただの加速装置ね。今の東雲令は、()()()()()()()()()()()()()()()()──)

 

 エネルギーは枯渇寸前、絶対防御すらジャミングされている状況では、攻撃が掠めただけで文字通りの致命傷となり得るだろう。

 

(両手の剣は今まで使っていた太刀より少し大きい。同様に紅い刀身、エネルギー砲撃を撃っていたってことは収束装置も兼ねている……攻撃力は底上げされている、と考えるのが当然ね)

 

 一度は底を尽かせたが、やはりというべきか。ここぞという時のために、東雲が予備の武器を用意していないはずもない。

 逆に言えばあれさえ砕けば、スコールの勝利は盤石のものとなるだろう。装甲を砕いて武器にする、あるいは素手で立ち向かう。どれも並大抵の相手なら通用するだろうが、スコール相手には無謀だ。

 

(背部のスラスターは砲撃機能に切り替え可能と見た方が良い。だけどこれは……この炎の翼は、まさしく織斑一夏の『疾風鬼焔(バーストモード)』に類似している……)

 

 そう内心で指摘した途端だった。

 東雲の機体がウィンドウを表示する。彼女自身に名を知らせ、同時にスコールに対しても雄々しく宣言するように。

 

 

 ──『茜星・決戦仕様(ティタノマキア)/烈風波濤(ブラストモード)

 

 

 ややこしい名前だ、と舌打ちする。

 愛弟子からの影響を受けて派生進化した──とは考えにくい。何せ装備自体の変身機能がこの場で発現したとするには無理がある。恐らく東雲が命名していたのだろう。あるいは、東雲ではない第三者か。

 結果としては長ったらしい名前だが、それは弟子との絆、東雲が積み上げてきたものに裏打ちされていた。

 

「随分とお弟子さんに入れ込んでるみたいね。お揃いにしたかったのかしら」

「そうだが?」

 

 亡国機業と多国籍軍の決戦。

 二名の別戦力による内部侵攻。

 慌ただしく、めまぐるしく、命を削るような時間が続いてきた。

 

 だがスコール・ミューゼルが目を丸くして口をぽかんと開けたのは、後にも先にもこの時だけだった。

 

「…………はい?」

「何がおかしい」

「あ、え、何? 付き合ってる、とか」

「そうだぞ。将来の約束もしている」

「しょうらいのやくそく?」

「うむ」

 

 嘘は言っていない。

 オータムが『信じるなよ、そいつの言葉を!』と叫んだ気がしたが、あいにく声が届くはずもない。

 単純に問われたから答えた。自分の世界で生きる東雲は自分にとっての真実を語っただけである。

 

「そ、そう……師弟で恋人なのね。素晴らしいじゃない」

「ああ。恐らくおりむーも将来はIS乗りとして活躍する。当方と二人で双璧扱いされる。間違いない。世界最強の夫婦と言ったところだ。『静』の東雲令と『動』の織斑一夏──最高だな。友人曰く『烈火』と『疾風』もありだとのことだった。しかし当方も炎属性になってしまったからな。ここは一つ、『二人で一つの天駆翔(ハイペリオン)』でどうだろうか」

「なんでテロ組織のボスに将来設計を語り出したの? ていうか私は何を聞かされてるの?」

 

 スコールにSAN値チェックが入った。

 相手が誰であろうとも、東雲は問われれば答える。ついでに妄言もぶちまけていく。東雲に恋愛関係の話題を振ることは、自分から災害に飛び込んでいくのと同義である。学友らがその地雷を踏んでいないのが、今の人間関係を構築してきた上での幸いというか、奇跡だ。

 

「ただし、その未来に──()()()()()()

「……ッ。披露宴にも呼んでくれないなんて、冷たいわね」

「当然である。愛が結実する場所には、敬虔で善良なる者以外立ち入り禁止だ。……貴様は入れない」

 

 しれっと自分を敬虔で善良なる者扱いしながら、東雲は両手の剣を構える。

 砕けたものになりつつあった決戦場の空気が、一転して修羅場の絶対零度に叩き落とされる。

 

「言ってくれるじゃない。自覚してなかったら泣いちゃうところだわ──だけど。結婚式はない。披露宴もない。何故なら」

「いやおりむーは浮気とかしないが」

「そうじゃねえッつってんでしょこの色ボケ! 私が世界を滅ぼすからよ!」

 

 突然はしごを外されて、スコールは青筋を浮かべ怒鳴った。

 

「……そうだな。最期に聞いておきたい」

「何よ」

()()()()()()()()()()?」

 

 互いに得物を突きつけ合い。

 だが東雲の問いは、どんな武器よりも鋭くスコールに突き刺さった。

 

「……別に。最初はそんなつもりじゃなかったわよ」

「最初──亡国機業に入った時、か」

 

 首肯して、スコールは金色の装甲を稼働させた。

 炎熱がばらまかれ、東雲が放出する熱気とぶつかり合う。不可視のフィールド同士が互いをかみ砕こうと猛り、余波で広間が砕けていく。

 

「ええ。私が入った時は名前も違った。本当は私、世界平和が欲しかったの。誰も傷つかずに済む世界が。だけど違った。()()()()()()()()()()()()()()()。首領にまで上り詰めて、やっと、源流のデータを閲覧して……心が折れちゃった、っていうのかしら」

「……理想論を語る者ほど、志が砕けたときの反動が大きい。貴様もか」

「あら失礼。今は新しい理想に向けて頑張ってるところよ。そもそも私のかつての理想──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「何……?」

 

 思わぬところで自分と一夏の名前を出され、東雲は眉根を微かに寄せた。

 だがスコールは両手を打ち、派手に音を立てて話を切る。

 

「はい、ここまで。私に勝って生き残れたら、いずれ知るときが来るでしょう。きっと致命的なタイミングでね──でもとにかく、それも勝たないとできないわ」

「……そうか。委細承知」

 

 今度こそ、二人は口をつぐんだ。

 ぶつかり合っていたフィールドがかき消える。恐ろしいほどの静寂。

 

「始めましょう」

「そうだな」

 

 たった一言だけ、最期に交わして。

 世界最強の再来と亡国機業頭領は、同時に加速した。

 

 

 

 

 

 距離が殺されるのに刹那もかからない。

 振りかぶった剣。東雲は手に持つ太刀を、スコールは召喚したバスターソードを。

 激突。火花がスパークした。

 

 と、同時にスコールの右腕が吹き飛んだ。

 

(…………ぇ?)

 

 鍔迫り合い、を瞬時にキャンセルしての切り返し。だがあり得ないと思考回路が停止する。

 右の剣でバスターソードを受け止め、左の剣で本体を狙った。スコールは当然、左の太刀を熱線で弾いたのだが。

 ()()()()()()()()()()()()──即ち、()()()()()()()()()()()()

 

 単純極まりない帰結。

 東雲の愛機『茜星』を製造する四宮重工にとって最大の課題とは、そこだった。

 即ち、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 今までずっと、武器を使い潰して次の武器を抜いて、また砕けて、また次を使って。

 その繰り返しだった。

 

 実に──非効率的だ。

 もしも砕けずに振るえる武器があれば。もしも全速力で連撃を叩き込めたら。もしも太刀を捨てて背後から抜刀するという過程をスキップできたら。もしももしももしも──

 仮定と現実が反転する。その『もしも』が今、スコールの眼前に顕現する。

 理論上東雲の全力攻撃に()()()()()()()特注の最新近接兵装。それこそが、『破魔矢(はまただし)』の本来の存在意義。

 

(かぶ)くぞ、ついてこれるか」

「────ッッ!!」

 

 先ほどまでいっそ気安いほどの会話をしていた相手に、この上ない殺害意思を叩きつけて。

 東雲令の全身から焔が炸裂する。

 分解された『焔扇』による超加速。

 微かな身じろぎすら音速を超え、一挙一動ごとに地面が爆ぜる。

 今までも東雲は疾かった。誰も追いつけなかった。だがそこには、常人では観測できない無駄があった。

 その無駄が消えたとき。悉く、行動の合間に強制されていた縛りが消失したとき。

 

 進歩でも進化でもない。変化でも変身でもない。

 人はそれを、革新と呼ぶ。

 

(ハイパーセンサーで……追い切れない……ッ!)

 

 左右上下背後、どこから攻撃が飛んでくるのかも分からない。

 コンマ数秒の世界に詰め込まれた絶死の攻撃群を、認識を諦めただ感覚任せに捌き続ける。金髪が肩からばさりと切り落とされる。バスターソードが真っ二つに叩き切られる。攻撃が都合何度目なのかも分からない。

 

(あの剣は何度攻撃に耐えられる? 突然、絶対壊れない剣ができあがるはずもない──彼女の身体にもダメージはある。無理をして短期決戦を仕掛けてきている!)

 

 スコールの読みは正しかった。

 宙を舞う鮮血はスコールのものだけではない。あちこちの傷から鮮血を噴き上げながら、東雲は戦っている。身体の内部はずっと軋んでいた。本来なら立つことすらままならないだろう。

 そこをPICで無理に補強し、動かしている。常人なら発狂するような痛みを無視して繰り出す、最後の攻勢。ここで決めきれなければ──敗死だけが待つ。

 

(なら──私は──)

 

 守れば良い。だが東雲は、その守りを打ち破るためにカードを切った。

 

(わた、しは……ッ)

 

 肩から胸にかけて、刀身が切り裂いた。防御が間に合っていない。

 太刀が限界を迎えるのが先か、スコールが果てるのが先か。

 

(────)

 

 破裂音。動作だけで空気が砕けた証拠。東雲はスコールに一太刀を当ててから急制動をかけた。太刀の自壊が始まっている。それよりも、東雲の方が早い。

 焔は、極まりに極まれば蒼く転じる。

 だが東雲が身に纏う炎熱は突き抜けるような蒼ではなく、音を超える雷の領域へ踏み込んでいた。

 左腕で半壊したバスターソードを構え、スコールははっきりと自分の死を見た。

 

 

「──烈剣:火雷大神(ほのいかづちのおおかみ)

 

 

 強化ハイパーセンサーを追い抜いて。

 東雲はスコールの背後で、左の太刀を矢のように引き絞っていた。

 

 一歩踏み込む。音がかき消えた。

 二歩踏み込む。スコールが振り向いた。今更遅い。

 三歩踏み込んだ、時に、東雲の腹部に熱がこもった。

 

 視線を下げる──折れたバスターソードの荒い穂先が、突き刺さっていた。

 

 

(いいえ、いいえッ! 私は倒れない、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ッ!!)

 

 

 目で追えるはずもない。

 だから運任せだった。

 戦いを司る神が、スコールの味方をしたかのように。

 当てずっぽうのカウンターが、正確無比に東雲の身体を貫いていた。

 

「──っっ」

 

 がくんと身体が落ち、崩れた姿勢から『烈剣』のなり損ないが放たれた。

 首から上を吹き飛ばすはずだった刺突は無様に逸れ、スコールの左肩を穿つ。それきりひび割れ、最後に砕け、東雲の最後の剣は消えてなくなった。

 

「は、はは……」

 

 肩を丸々抉り飛ばされ、腕が千切れかけているのに。

 スコールは一分の狼狽えすら見せない。

 カウンターの刺突──今度こそ、東雲をまともに捉えた。

 

「ハハハハッ…………これ、で」

 

 ぼたりと、何かの反動か、脳の使ってはならない箇所でも使ったのか、スコールの鼻から血が落ちた。

 それも気にならなかった。

 

「私の、勝ちね────」

 

 

 

「──()()()()

 

 

 

「は?」

「すまない。烈剣というのは、嘘だ。存在しない……あとでかんちゃんに怒られるな。ネーミングも微妙だった」

 

 至近距離。

 己を貫くバスターソードを、それを握っているスコールの手を、太刀を放り捨てた左手で掴む。

 同時に閃くは残存する右の太刀。正真正銘の最後の剣。

 

(この、女──!)

 

 ()()()()()()()()()

 この状況を作り出すために、確実に攻撃を当てるため、それだけのために、烈剣などと嘯いたのか。

 

 しかし生み出された戦況は、絶望的だった。

 間にバスターソードを挟んでいる。

 さらには自分自身は半死半生である。

 何が出来る。この状態から何が出来るというのだ。もはや先ほどの高速機動も行えないだろう。

 よしんばスコールに斬撃を当てられたとしても、十二分な力がこもっているとは思わない。

 

 だから何をどうしたって、詰みなのだ──

 

 

 

 

 

(おりむーなら、ここから、かっこよく逆転するのかな)

 

(進化したり、みんなと力を合わせたり)

 

(当方には、無理だな)

 

(あんな風にかっこよくできない。いつも通りに、()()()()()()()しか狙えない)

 

(だけど)

 

(ここは)

 

(ここだけは)

 

(絶対に負けられないから──!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔剣・(ひかり)──:非想非非想天(ひそうひひそうてん)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 残る気力全てを注ぎ込み。

 今ここで死んでも良いと筋繊維や神経を引き千切り。

 刀身に勝利への意志を載せて。

 ゼロ距離で放たれる。

 

 プロセスは単純明快だった。

 必ず当たる距離で、必ず殺せる斬撃を放つ。

 

 その一振りに詰め込まれた莫大な技術と技巧。

 身体捌き全てが、威力を増す。

 フル活動する機体機構が、速度を増す。

 彼女自身の渇望が、斬撃を凝縮する。

 篠ノ之流を改竄し、濡羽姫の斬撃を取り込み、己にとっての戦闘論理として再構築した剣。

 東雲令が絶体絶命の窮地に追い込まれた時のみ刃を見せる、死地に活路を拓く剣。

 

 それは決して重ならない。

 それは決して繋がらない。

 個人戦力としての進化の果て。故に感情と身体は分離して、彼女は唯独りの世界へ加速する。

 

 

 誰も追いつけない──ヒカリとなって。

 

 

 接触したバスターソードの刀身をすぱりと断ち切って。

 最後の魔剣が、ぬらめく血を纏いながら、天高く振り上げられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……東雲、さん?」

 

 オータムに肩を貸して、二人で王の広間まで歩いてきて。

 物音一つしない静寂を目の当たりにして、一夏は呆然と呟いた。

 

「…………スコール……」

 

 一夏から離れて、オータムは倒れ伏すISスーツ姿の女性に歩み寄った。

 広間を見渡せばひどい有様だった。傷のない箇所はない。基地を巻き込んで崩壊していないのは奇跡的である。

 しばし立ち尽くしてから、一夏はゆっくりと、血だまりに沈んでいる少女の傍に歩き出した。

 

「……東雲、さん」

 

 名を呼ぶ。返事はない。

 いつも名を呼べば返ってきた声はない。

 

「……しののめさん」

「────────────────」

「しののめ、さん……ッッ!」

「────────────────……つーん」

「…………は?」

 

 足を止めた。なんか変な声が聞こえた。

 

「えっと、その、東雲さん?」

「……いい加減そろそろ令でいいのではないだろうか」

 

 顎に指を当てて、一夏は沈黙を挟み。

 

「血まみれだしどっちかっていうと霊になるけどよろしいか?」

「それは御免被る」

 

 ガバリと起き上がって、額のてっぺんから爪先まで血みどろの東雲が立ち上がった。

 うわあ、とちょっと引きながら──はっきり言って血の汚れ具合では大差ないのだが──とりあえず制服姿にパーソナライズして、ポケットに入っていたハンカチで血を拭き取る。

 

「勝ったぞ」

「ん、お疲れ様」

 

 東雲はバッと両手を広げた。

 思わず一夏は背後に振り返った。敵の奇襲か──違う。ハグ要求である。

 

「……大丈夫。ほとんど基地の外に出払ってるみたいだから」

「そうか。ハグはまだか?」

 

 ついに言った。

 一夏は勢いよく振り返り、真っ赤な東雲を見た。

 

「……俺の身体で人間魚拓を取りたいのか……?」

「おりむー、馬鹿なのか?」

 

 師弟がどうでもいい会話をしている横で。

 しゃがみこみ、オータムはスコールの顔を覗き込んでいた。

 

「…………スコール」

「あら、オータム……ごめん、なさい……負けちゃったわ……」

「みたい。だな」

「戦闘、だけじゃない……身体も、だめみたい。やっぱり……後天手術は……無茶だったわね」

 

 戦闘中は問題なく動いていた。

 だが敗れた後、過負荷に耐えきれず、ガタが来た。

 スコール・ミューゼルの死は避けられない。

 

「ねえ、私たち……今の世界を肯定するしか、ないのかしら」

「……さあな」

 

 オータムはちらりと、分かった分かった、帰ったらね、と東雲の提案を完全にジョークだと誤解している一夏を見た。

 戦いの最中。彼に光を見た。

 今の世界の歪みを象徴する二人なのに。

 幸せそうに暮らせるのなら、其れはきっと。

 

「でも、さ……私らは頑張りすぎたわ。やり方は違うけど、任せられる相手、私は見つけたぜ」

「…………そう。それは────」

 

 

 ────よかった。

 

 

 

 

 

 

 

 立ち上がったオータムは、一度うんとノビをした。

 晴れやかな気持ちですら在った。あと数分で討伐部隊が到着するだろうというのに、微塵も臆していなかった。

 

「さて。外の攻撃部隊には撤退命令を出した。隠れ家はいくつもあるし、こういう時のために、隊員たちは予備の身分もある。全員捕まえたいなら私を人質に取ることを勧めるぜ」

 

 会話を中断して、一夏と東雲は顔を見合わせ、それからオータムを見た。

 

「……お前」

「フン。情報を吐き出さない限り死刑にしてもらえなさそうなのが難点だな。ただまあ、その前に頼みがある。スコールの身体……これは残しちゃいけねえ。基地のデータベースは今廃棄中だが、()()()()()()()()()()()()。海の底に沈めるのが一番なんだが──」

「その必要はない」

 

 新たな声だった。

 一同勢いよく振り向けば、装甲のあちこちを焦し、だが健在の『サイレント・ゼフィルス』を身に纏った少女が、入り口の壁に背を預けていた。

 

「織斑マドカ──!」

 

 咄嗟に東雲を片腕で庇い、一夏は前に出た。

 その様子に鼻を鳴らして、マドカは唇をつり上げる。

 

「おいおい。ISもない。身体も限界……戦うつもりか?」

「……ッ」

 

 アイコンタクトで東雲に問うが、彼女も戦闘は無理だった。

 会話こそ出来れど、二人とも重傷に他ならない。機体は顕現することすら出来ない、ダメージレベルEだ。

 

「……まあ、戦うつもりはない」

「え?」

 

 今戦闘になれば免れない死。

 それを考慮している時、マドカの表情はすとんと無表情になった。

 

「優先順位の問題だな。因縁も、殺意も、あるのだが……優先したいものがある」

 

 視線が横にすれる。ぽかんと間抜け面を晒している、オータムへと。

 

「ま、マドカお前……撤退って命令したじゃねえか……」

「断る──()()()()()()()()()()()()()()

 

 ふわりと宙に浮き、『サイレント・ゼフィルス』がオータムとスコールの身体をつまみ上げた。ついでにスコールの右腕も回収し、広間に飛び散ったスコールの血をレーザーで焼き払っていく。

 

「あ、ちょテメェ! なんだこの猫みたいな持ち方はよぉ!」

「その言葉、そっくりそのまま返すぞ」

「え? ……あ、あああ! あの時!? お前根に持ってたのかよ!」

 

 のんきな叫びだった。

 マドカは微笑み、されど一瞬で笑みを消すと、一夏に視線を向けた。

 

「受け取れ」

「え?」

 

 同時──『サイレント・ゼフィルス』から『白式』に送られた、データ。

 

「多分だがな。貴様の知らない貴様の秘密は──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。だから、今しかないと思ったんだ」

「お前、何を」

「……私は見つけたんだ。自分が生きたいと思う理由を」

 

 今感じている重み。片方はもう、肉と外道の機密情報の塊になってしまっている。

 だけどもう片方は──確かに、生きている。

 

「私たちは、生きていても……多分、いい。私はそう答えを出した」

「…………」

「お前はどうだ。せいぜい足掻いて見せろ、()()()

「ッ……!?」

 

 言いたいことは言い切った、とばかりに。

 マドカは加速し、壁を破って王の広間から出て行った。最後までオータムは何か叫んでいたが、それも遠くへ行く。

 基地を抜けて、海を走り、逃げていくのだろう。

 

「……どこへ行くつもりなのだろうか」

「……遠いところだよ、きっと」

 

 脱力して、思わず一夏は座り込んだ。

 だだっ広い空間に息を吐く音がこだまする。

 

「今回ばかりは……死ぬかと思った……本当に……」

「ああ。当方もだ。さて、急ぐぞおりむー」

「え? どこに?」

 

 ぽかんと口を開けて問う一夏に対して。

 艶やかな黒髪を流しながら、東雲は振り向いた。

 

 その表情は、穏やかに唇をつり上げて、優しく微笑んでいて。

 

「クラス会──誘ったのは、其方だろう?」

 

 思わず一夏はごしごしと自分の目をこすった。

 その時にはもう、彼女はいつも通りの無表情に戻っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数時間後に、一夏は愕然とする。

 最後にマドカが渡したデータ。

 連綿と続く神への挑戦、その一つの契機となったプロジェクト。

 始祖である××計画の遺伝子データをさらにブラッシュアップし、戦士としての拡張性を主眼に据えていた大元から、より広義の()()を目指した遺伝子実験。

 

 

 ──『織斑計画(プロジェクト・モザイカ)』。

 

 







OPENCOMBAT「正直ぼくのこと忘れてましたよね」




………………




補足:バスタードソードではなくFF7のバスターソードの外見なので表記はバスターソードとしております

次回
EX.おとぎ話の幕は閉じ、そして──


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