(cache)mistress
桜かと思ったら、雪だった。
当たり前だ。
まだ2月に入ったばかりだ。桜の蕾がほころぶには早すぎる。
白く深い空から、吸い込まれそうなくらい細かい雪が舞っている。
そういえば、あの時も雪が降っていたなと思った。
あの日。
それは他愛もない冗談だった。
"夜"
お前は虚空の中、オレに細い肢体を預けながら。
毎日毎日、それが変わる事のない日常で。
否、変わらないと信じていた。
閉鎖されたこの世界だけで、二人だけで。
mistress
"ねえ、夜。賭けしようか?オレと、夜、どっちが先に別れを切り出すか"
そしてお前はまるで仔猫がそうするように、悪戯っぽくオレの表情を伺った。
信じているんだろう。
自分達に「別れ話」をする日なんか、永遠に来ない事を。
"オレからは絶対ないよ。だからオレは、夜に捨てられる。きっと"
"────────夜は?"
ははっ。そんなの同じ答えじゃ賭けにも何にもならねーだろ。
オレがそう答えると、お前は嬉しそうに笑ってみせた。
"じゃあ夜からは、絶対別れ話しねーな?夜がしなければ、オレ達、ずっと一緒にいられる"
結局そうだ。お前は約束が欲しかったんだ。
オレは絶対にお前を捨てないと、こんな方法で。
賭けに負けた方への罰なんて、どうせ用意してないんだろう?
"んー………そっかぁ……。じゃ、こうしよう?負けた方は一生──────────"
くだらない。
そんな賭けは成立しない。
ましてや、約束にもなり得ない。
だからオレは、お前を捨てた。
珍しくもない。
アイツと、オレとの間で苦しむお前をそれ以上みたくなかった。
癪に障るけど、アイツといる時のお前。
吐き気がする程いい表情しやがる。
だから解放してやったんだよ。
だからもう、お前の呼びかけにも応えない。
意識を外に放す事もしない。
ただそれだけの事だ。
それだけの事。
それだけの事、なのに。
涙が止まらないのはどうしてなのか。
目を閉じるといつでもお前の笑顔が浮かぶのは。
吸い込まれそうな程、白く深い空から舞い散る粉雪。
今更気が付いても取り返しなんかつくわけがないのに。
空。
お前はこれで満足か?
そうだ。賭けはお前の勝ちだった。
別れを切り出したのは、オレの方。
お前を捨てたのもオレ。
その瞬間、与えられたのはオレへの罰か。
涙はまだ止まらない。
お前の笑顔も消えはしない。
空を見上げて目を閉じてみた。
吸い込まれそうな雪。
吸い込まれそうな空。
この雪で何もかも白く、消し去ってくれたなら。
"ねえ、夜。賭けしようか?オレと、夜、どっちが先に別れを切り出すか"
声が聞こえる。
今でもまだ、鮮明に憶えている。
雪が降っていた。
3月の終わりだった。
もう春が近かったのに舞い散るそれは
桜かと思ったら、雪だった。
忘れない。
忘れられない。
あの日の。
あの時の。
あの言葉も。
"じゃ、こうしよう?負けた方は一生、相手の事忘れたらいけない。
嫌いんなっても、憎んでも何でもいいから、それでも一生、相手の事忘れちゃいけない"
今更気付いた、これは賭けなんかじゃなかったんだ。
賭けなんかじゃなくこれは、呪い。
一生解ける事のない、甘美で厄介な呪い。
冷えた頬を、伝う涙が止まらない。
空。
忘れない。
忘れない。
忘れられない。
ずっと。
たとえ世界が破滅しても。
たとえお前が、俺の事を忘れてしまっても。
舞い散る雪が桜に変わり、何度季節が巡っても。
ずっと。
ごめんなさい。(最近、いつもこれだなぁ…。
書きたい事を書きたいだけ詰め込んだらこんな事になってしまいました。
分かりにくいと思うんですが、もちろん夜視点。
そして、夜はたまに空が寝静まった後、こっそり外を徘徊します(ここは本家と一緒かな?)
そして痕跡を残さず朝には精神世界に帰る。
って感じですか?(聞くなよ。
うーん自分でも混乱してきた(汗
空の幸せを願って身を引く夜が書きたかったのですが、なんだか意味不明。
私の中の夜空ってすごく自虐的なんですよ。
全身全霊で愛する。
でも、そのままその身を滅ぼしかねない。
愛し合ってても引き裂かれる二人。みたいな。
悲恋モノは難しいです。
こりゃ、補足版書かなきゃ駄目かも。
update 2004/02/03
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