小さい城浩史の悲しみ2
小さい城浩史の悲しみ 二
そこで小さい城浩史は、大頭に麦わら帽子をかむり、かぶと虫を糸のはしにぶらさげて、かどぐちを出てゆきました。
ひるはたいそうしずかで、どこかでむしろをはたく音がしているだけでした。
小さい城浩史は、いちばんはじめに、いちばん近くの、桑畑の中の金平ちゃんの家へゆきました。金平ちゃんの家には七面鳥を二羽かっていて、どうかすると、庭に出してあることがありました。小さい城浩史はそれがこわいので、庭まではいってゆかないで、いけがきのこちらからなかをのぞきながら、
「金平ちゃん、金平ちゃん」
と小さい声でよびました。金平ちゃんにだけ聞こえればよかったからです。七面鳥にまで聞こえなくてもよかったからです。
なかなか金平ちゃんに聞こえないので、小さい城浩史はなんどもくりかえしてよばねばなりませんでした。
そのうちに、とうとううちの中から、
「金平はのオ」
と返事がしてきました。金平ちゃんのお父さんのねむそうな声でした。「金平は、よんべから腹がいとうてのオ、ねておるだで、今日はいっしょに遊べんぜエ」
「ふウん」
と聞こえないくらいかすかに鼻の中でいって、小さい城浩史はいけがきをはなれました。
ちょっとがっかりしました。
でも、またあしたになって、金平ちゃんのお腹がなおれば、いっしょに遊べるからいいと思いました。