“赤ちゃんポスト”とは別の選択肢も…予期せぬ妊娠に苦しむ女性と赤ちゃんも救う神戸の団体の活動
何らかの事情で育てられない赤ちゃんを匿名で病院に託す仕組みが熊本に続き、東京都内でも始まりましたが、その背景には、妊娠や出産を誰にも言えず、孤立する女性の存在があります。
こうした予期せぬ妊娠などの相談を24時間体制で受け付け、生活を支援し、自立までをサポートする活動を日本で最初に始めた団体が兵庫・神戸市にあります。
出産前から出産後まで母親や小さな命と向き合う支援の実情と思いを取材しました。
■東京都内の病院“いのちのバスケット”がスタートも国は…
こども家庭庁によりますと、2022年度、児童虐待で亡くなった子どものうち最も多いのが0歳児。そのうち、0歳0か月だったのは15人。つまり生後1か月未満の赤ちゃんが、1か月に1人以上亡くなっているのです。
こうした中、東京・墨田区の賛育会病院が開始したのは、様々な事情で育てることができない赤ちゃんを親が匿名で託す「いのちのバスケット」と妊娠・出産を知られたくない女性が、身元を一部の病院職員にのみ明かして出産する「内密出産」で、医療機関の取り組みとしては熊本についで2か所目です。
匿名で赤ちゃんを託す制度について、国が定めた法律はなく、国は「保護者が子どもを置き去りにする行為は、本来あってはならない行為である」という姿勢です。
一方、国には、様々な理由で孤立した母子の出産前、出産後を支援する制度があります。この「妊産婦等生活援助事業」の先駆けとなった活動を、日本で初めて立ち上げたのは兵庫・神戸市にある公益社団法人「小さないのちのドア」です。
この団体は、いわゆる「赤ちゃんポスト」をつくることも考えたものの、最終的には、出産前からも女性たちを支援する形をとりました。思いがけない妊娠や出産・育児で追い詰められた女性が24時間いつでも相談できる窓口のほか、マタニティーホームもあり、生活支援や自立へのサポートもおこなっています。
これまで、来所、電話、LINEなどで7万件ほどの相談を受けてきた小さないのちのドアの永原郁子代表理事は、「本当にドアで良かったな、女性に関われてよかったな」と感じているといいます。
■「自分では育てられない…」と苦しむ女性の問題を1つ1つ解決 4割は自分で赤ちゃんを育てる選択に
熊本の慈恵病院の「こうのとりのゆりかご」について永原さんは、「本当に命を守るとりで」「18年間命を守り続けたことを尊敬する」とした上で、誰にも会うことなく病院に設置されたベッドに赤ちゃんを預ける形のため、赤ちゃんの命は守ることができるが、女性と関われないことが大きなマイナスだと考えているといいます。
「小さないのちのドア」には、ほとんどの人が自分で育てることはできないという状況で相談に来ますが、問題が解決していく中で結果的に40パーセントほどの人が自分で赤ちゃんを育て、自分の力で生活することにつながってきたということです。
「最初は、本当に匿名でというふうにここに来られている。ほとんどの方がそうですね。知られたくないとおっしゃるんですが、話をしていく中で、自分が身元を明かすことによって子どもの後の人生がずいぶん変わっていくことが分かったり、自分が望む戸籍の問題とかね、ご家族の問題とか、どのように自立するかという問題、借金の問題とかいろんな問題が解決してくると、普通の妊娠・出産の道に乗ることができる、そういう方が多かったです」
そして永原さんが大切にしていることの1つが女性の傷ついた心を癒やすこと。
「ほとんどの方は表情硬いですし、冬なのに夏服で来られたり、大変な状況。成育歴の中で非常につらい経験をされた方も、ここに来られる方に多いんですね。もちろん、パートナーに裏切られている方も多い」
さらに、マタニティーホームに入居する女性は、経済的に住むところもなく、頼る人もいないといった状況です。妊娠したことで仕事もできなくなり、人生で味わったことのないほどのどん底の状態にいると感じているといいます。
「うまくいっていない状態で相談に来られる中で、やっぱり温かさっていうのは大事なんだろうなと。温かい状況を感じてくださった時にちょっと心がゆるんでくるのでちゃんとお話してくださる」
「無償で生活支援をするところで、生活、衣食住だけをまかなったらいいという問題ではない。やはり、傷ついた心、少し癒やされて、新しく生きる力をここで蓄えて、本当の意味で自立をしていただく、そしてその中には就職支援などもあります。そういうことをしていくことが大切かなと」
傷ついた心を癒やし、自分が大切にされたことや温かく接してもらった経験をその後の生きる力につなげてほしいといいます。
「傷を癒やすというのはなかなか難しいことだけれども、でも本当にあなたの傷に寄り添いたいんだという思いで私たちもそばにいますし、『おなかの中の命は気になるけども、でも、私が今まで傷ついてきたことに寄り添ってほしい』『その傷を分かって。ここまで来なければいけなかった状況をわかってほしい』という思いがきっとあると思う」
■“上流”の部分での予防も大事 男性には逃げるというモデルしかない
永原さんは「小さないのちのドア」の相談・支援は、「川で例えると下流のところで、『もうこれ以上命を落とさないぞ』という働き」であると説明し、上流の部分で予防するために性教育の取り組みも行っているということです。
「例えば、(女性が)妊娠したときに男性っていうのは逃げるんですよ。逃げ得かと思うほど本当に逃げる。(男性には)逃げるというモデルしかないんだと思うんですよ。でもそうじゃない生き方もあるよって。自分の命を継ぐ、命の話ですよっていう話もその予防の部分で言っている」
「本当にかけがえのない命、宿った命を大切にするという土壌を作っていきたいなという思いもあって、話をし続けています」
「小さな命を守ることもとっても大切ですけども、悲しい女性が増えていく世の中はつらい。女性が笑顔になるような支援が必要だなと思う。そして本当に命の尊厳、命の大切さが社会で共通の認識とされるような、そういう社会になるにはやはり女性と赤ちゃんの支援がもっともっと広がっていくことが必要」
「本当に笑顔の女性が1人この世の中で増えるっていうことはどれだけの大きな社会の意味があるかというところに、社会は目を向けていただきたいと思う」
●小さないのちのドア
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