アイズ・クラネルになるのは間違っているだろうか


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作:Roots〆ルーツ
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その姑、【静寂】につき


 数万──いや、十万に届こうかという屈強な兵士たちが足並みを揃え、進軍している。

 鎧を装着された馬に跨る騎兵達の姿は、『古代』の光景を連想させた。

 ──ラキア王国軍、出兵。

 その報せは近隣諸国に瞬く間に伝わった。

 彼らが向かう先は、大陸西部から更に西へ進んだ、大陸の片隅。

 世界中の悲願であった『三大冒険者依頼(クエスト)』。

 その最後の一つ、『黒龍』の討伐を成し遂げた、『世界の中心』──迷宮都市、オラリオである。

 巨大な市壁と()の都市の象徴(シンボル)と言える白亜の巨塔を目指す超大軍の行軍は、紅の軍旗に彩られる。

 重厚な鎧に身を包んだ豪傑のエンブレムは、国家系【ファミリア】、【アレス・ファミリア】のものだ。

 主神である軍神、アレスの戦欲(ワガママ)によって前触れなく興った大軍。その大行軍を察知した冒険者の街の様子といえば──。

 

「寄ってらっしゃい見てらっしゃい!この大剣、掘り出し物だよー!」

「念願の【ランクアップ】キタぁぁぁーー!」

「歓楽街にド偉い別嬪(べっぴん)が入ったってよ!」

「マジか!どこの店だ⁉︎」

「さあみんな一緒に……レッツ〜☆」

『『『アオハルぅーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!』』』 

 

 ──まったくといっていいほど、いつも通りだった。

 民の心の声は次の一言に集約されるのである。

『またか、王国(アホ)ども』

 そんな平穏な都市を囲う市壁の外では、正反対の地獄のような光景──勿論、王国(ラキア)側にとっての——が、広がっていた。

 オラリオの誇る第一級冒険者達に怖気付いた兵士達が、開戦して間も無く壊走を始めたのだ。

 

「──脆い。弱過ぎるぞラキアぁ!」

 

 まさに、あっという間の出来事であった。

 

「ぼ、【暴喰】だぁぁーーー⁉︎」

「ひっ、ひぃーーーーっ」

 ──敵軍の軟弱さを嘆く者。

 

「──散れ」

「お、【猛者(おうじゃ)】……」

「に、逃げろぉぉぉ!」

 ──淡々と、とある街娘の命に従う者。

 

「フフーン!美しい私の、美しい剣技にひれ伏すといいわ!」

「アリーゼッ、一人で突っ込まないで下さい!」

「平気よリオン!なんてったって私達、第一級冒険者なんだもの!」

「アリーゼ‼︎」

「……まったく。騒がしいこと、この上ないな」

 ──戦場には似つかわしくない、活発な声で騒ぐ者。

 

「ベル……」

「はい!」

 ──馬より速く平原を駆け抜けていく、少年と少女は。

 槍衾のごとく突撃してくる無数の騎兵に怯むことなく、たった二人で特攻した。

 縦断。

 隊列の組まれた軍団に風穴を開けた二人の冒険者の後を追うように、夥しい数の悲鳴が木霊する。

 洗練された体躯がただ近くを駆けるだけで、面白いように人が吹き飛んでいった。

 圧倒的な実力差を見せつけるその姿を目にしたラキアの兵士達は、声を揃えて叫ぶ。

 

「「「【最後の英雄(ラストヒーロー)】⁉︎」」」

 

「ベル・クラネルだ!」

「すげぇ、本物だ……ぐはぁッ」

「俺、ファンです!サインくださ……ぶおはぁッ!」

 

「えっ、ええっ!?」

 

 もはや戦のことなど忘れて感激する王国(ラキア)の兵隊達を、急な制動などできない『英雄』はそのまま吹き飛ばしてしまう。

 

「ベル、無視して、大丈夫……」 

 慌てる少年の様子を見て、落ち着いてと声を掛けるのは、金髪金眼の美しい少女。

 

「【剣姫】、【剣姫】だっ!」

「美しい……ごべっ!」

「【最後の英雄(ラストヒーロー)】に【剣姫】だなんて、大当たりだな!俺、もう死んでも……グフォッ!」

 女神にも劣らない美貌に銘々の反応を示す彼らを、『戦姫』とも呼ばれるアイズは容赦なく切り伏せていく。

 死者が出ないよう峰打ちしているとはいえ、都市最高戦力、第一級冒険者の中でも別格の存在──Lv.8である彼女の一撃に耐えられる者などいる筈がなく、(あまね)く仲良く一発気絶(KO)である。

 もはや戦場というより、ベルとアイズの冒険(ファン)者交流(ミーティング)会場と化した平原には、歓喜と悲鳴が交互に渦巻いていった。

 

『量』で勝る王国(ラキア)軍をオラリオの冒険者達が『質』で叩き潰していく異様な()は、まさに『神時代』──『量より質』の時代を象徴していると言える。

 そして、そんな冒険者達の中にあって、最もそれを体現してみせたのは──。

 

 

「【福音(ゴスペル)】」

 

 

 地を震わせ響き渡る重低音は、決河の勢いで吹き飛んでいく王国(ラキア)兵の悲鳴を掻き消し、【静寂】をもたらす。

 迷宮都市オラリオの『頂点』にして、数々の『偉業』を成し遂げた『英雄』──『才禍の怪物』、アルフィアである。

 黒龍の討伐によりその身を侵していた不治の病のみならず【才禍代償(ギフ・ブレッシング)】までを克服し、十数年振りに再会した主神(ヘラ)の手によって【ステイタス】更新を施された彼女は、前代未聞の『三連続昇華(ランクアップ)』で世界中を驚かせた。

 現在、彼女の階位(レベル)は、10。

 恐らく、『神時代』の冒険者において最も『神』に近づいた存在であろう灰の髪の魔女は、超短文詠唱一つで数多の兵士を一掃する。

 

 

「……やはり、五月蝿いな」

 

 

 彼女がそう呟いた次の瞬間、一度目の波動を運良く逃れた王国(ラキア)兵達は、己の目を疑う光景に硬直する。

 

「と、飛んだッ⁉︎」

 

 ──否、()()()。艶やかな灰の髪を風で翻し、文字通り魔女のように宙に浮く姿は、見上げる者を等しく見惚(みほ)れさせた。

 【福音(ゴスペル)】、再び。

 魔女が平原に舞い戻った時には、両の足を地につける者など、彼女をおいて他にいなかった。

 新しく発現した『スキル』、【浮遊】は、その名の通り『浮遊』を可能にする『レアスキル』である。

 以前、色々あり酔っ払って愛義息(ベル)を押し倒した際に、「お義母さん、重いよ……」と言われ衝撃(ショック)を受けたことが影響しているその『スキル』は、雑音から遠ざかれるため重宝していた。

 ──ちなみに、ベルの言葉はマズイ体勢をなんとかしようと愛の鞭(ゴスペル)覚悟で咄嗟に吐いた大嘘であることを、アルフィアは知らない。

 

 こうして、近隣諸国の侵攻を重ねて力をつけたラキア王国が起こした、有史以来、最も大規模な『第七次オラリオ侵攻』は。

 これまた有史以来、最も短い期間をもって終戦を迎えたのであった。

  

    

 

    *

 

 

 

 迷宮都市オラリオ、西のメインストリート付近の、とある路地裏にて。

 

「あの、アルフィアさん……」

「なんだ、小娘」

「……私、どうやったら認めてもらえますか?」

「まあ、少しは学習できる女だということは認めてやる。また私の事を『お義母さん』などと呼んだら、問答無用で福音(ゴスペル)するところだったからな」

 その言葉に、アイズは静かに汗を流して戦慄する。

「だが、結婚は駄目だ。お前はまだ、あの子の嫁になるには未熟すぎる」

「えっと……例えば、どういうところが、ですか?」

「まず、私より弱い」

 それを言われると、さすがの【剣姫】も沈黙するしかない。目の前の淑女よりも強い冒険者は、この世界に存在しないのだから。

 ただ、そんなことで諦める程、アイズにとって少年への想いは軽いものではなかった。

「じゃあ、あなたより強くなったら、許してくれますか……?」

「……お前は、料理ができるのか?」

「え……?」

「あの子が健やかに過ごせるような料理が作れるのかと聞いているんだ」

 アルフィアの問いを聞いて、アイズは激しく動揺する。

(どうしよう……できない)

 幼い頃から強くなること以外に関心を持たず育ってきた弊害で、箱入り娘ならぬ迷宮(ダンジョン)入り娘のアイズは、正直に言ってそういったことはさっぱりなのだ。心の中では、幼いアイズがわたわたと目を回して慌てている。

「掃除や洗濯はどうだ?」

 心中とは反対に人形のような表情で押し黙っているアイズに、アルフィアがさらに追い討ちをかけてくる。

「うっ」

 ──しまった、うっかり声に出てしまった。

「その様子だと、無理そうだな」

 落ち込んで身を縮めるアイズに、最恐の姑は嘆息する。

 彼女とて、アイズをまったく認めていないわけではない。自分より弱いと言っても【剣姫】が冒険者の中で最上位であることは間違いなく、極度の口下手故に物静かなアイズはアルフィアにとってむしろ好ましい存在だ。

 そういった理由から、二人の交際自体は渋々ながらも承諾しているのだから。

 だが、この娘は絶望的なまでに世間を知らな過ぎる。

 アルフィアとしては、もう暫く少女の成長を見守っていくつもりなのだ。

「私、頑張りますから……」

「そう言われてもな……」

 懊悩しながらも少女が絞り出した言葉に、灰の髪の魔女は珍しく困り果ててしまう。

 嫁の作法を教えようにも、今の彼女には掃除の習得がやっとだろう。

 何か、それ以外のところで少女を試せる──丁度いい試練があればいいのだが。

 と、そんなことを考えていると。

「アイズさーーーーん!」

 どこからか、双方にとって大切な少年の声が聞こえてきて。

 はっとした二人が後ろを振り返ると、喜色満面の白兎が小径を忙しなく駆けてくるところだった。

「あれ、お義母さん?」

 二人の側で立ち止まったベルが、小首を傾げて不思議そうにする。

「ベル。お前、どうしてここが分かった?」

「えっ?えっと、それは……」

 途端、ベルの目が泳ぎ始め、頬が染まり出した。アルフィアが横を見れば、アイズもまた俯いた顔を赤らめている。

 実は、最近二人に発現した『スキル』に秘密があるのだが、義母(アルフィア)はそんなことは露知らず、訝しげな顔をするだけだった。

「そっ、そんなことより、アイズさん!」

「な、なに?」

 わざとらしく話題を変えるベルに光明を見出したのか、アイズは嬉しそうに反応する。

「その……一緒に、青春祭(アオハルフィリア)に出ませんか?」

 たじたじと、恥ずかしそうに切り出すベルに、アイズはきょとんとしてしまう。

青春祭(アオハルフィリア)って……?」

「あっ、そうですよね。えっと、今年初めて開催する祭典らしくて……」

 なんでも、青春祭(アオハルフィリア)は少し前の『神会(デナトゥス)』で採用された、新しい催しだという。

「冒険者も、レッツアオハル☆」

 と、よく分からないことを言ってこの案を持ち込んだ女神に、神達の圧倒的な支持が集まったらしい。

「冒険者としての強さは勿論、色々なことを競ってオラリオのNo.1冒険者番(ベストカップル)を決めるんだとか……」

 慣れない神達の言葉を使いながら、ベルが一生懸命説明してくれる。

「それで、優勝商品がジャガ丸くん一年分らしいんです!」

 ビビーン!と。アイズの脳天に衝撃が走り抜けた。

「じゃ、ジャガ丸くん一年分……」

 大好物であるジャガ丸くん一年分という信じられない情報に、じゅるり、とよだれが出てきてしまいそうだった。

 そんなアイズの様子に、アルフィアは呆れたような眼差しを向ける。

「お前ら、完全に神々に遊ばれているな……」

 何かを悟ったように長嘆する灰の髪の魔女は、これが神々による、二人を誘き寄せるための餌であることを見抜いていた。

 都市公認(カップル)である二人には、何かと厄介(オタク)が多い。

 日々妄想を働かせる品の無い神々は、初々しい二人を目に焼き付けようと躍起になっているのだ。

 無論、道化神(ロキ)処女神(ヘスティア)──都市最大派閥の主神同士による見苦しい争いを煽りたい(もの)など理由は様々だろうが。

「決めたぞ」

「え?」

「?」

 アルフィアの言葉に、彼女の胸の内など存じない呑気な兎姫は似たような反応を示す。

「私も、その青春祭(アオハルフィリア)とやらに出ることにした」

「えーーーーー⁉︎」

「五月蝿い」

 ベルの絶叫に、すかさず炸裂する福音拳骨(ゴスペル・パンチ)

 仮借のない一撃にプルプル震えるベルを慰めるように、さすさす。と、アイズが頭をさする。

「大丈夫……?」

「は、はい……」

 そんな二人をどこか微笑ましそうに見つめるアルフィアは、静かに告げる。

青春祭(アオハルフィリア)で私達に勝ったら、お前たちの結婚を認めてやる」

「私たち…?」

「私とザルドだ」

「…………!」

 そう。青春祭(アオハルフィリア)は、二人を試すのに丁度いい舞台なのだ。ついでに、妙なことを企む馬鹿神がいれば始末する。

 過保護にも思えるアルフィアの親心が、ベルとアイズの前に凄まじい障害として立ち塞がった。

 みるみる青ざめていく、二人の表情。

 

「む、無理だよぉぉーーーーーっ!」

 

「五月蝿い」

 

「イタイ゙ッ⁉︎」

 

 さすさす。

 

「五月蝿い」

 

「イ゙ダイッ⁉︎」

 

 さすさす。

 

 姑とその義子(こども)達の餅つきのような一幕が、今日もオラリオの空に響き渡る。

 

 

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