「おむすび」制作統括に取材しながら反省した。我々記者もドラマで書かれない裏話を記事にしすぎではないか
「守るより踏み込んでみた」その結果 「おむすび」制作統括、手応えと反省を語る
朝ドラこと連続テレビ小説「おむすび」(NHK)が3月28日(金)に最終回を迎える。
放送開始からずっと、制作統括の真鍋斎さんと宇佐川隆史さんは毎週のように取材会を催し、視聴者の理解促進に努めてきた。筆者も取材会に何度も参加した。今回は、取材会を離れ、単独でインタビューを申し込んだ。
3回にわたり掲載する「おむすび」総括。
「おむすび」とは
平成元年生まれのヒロインが、栄養士として、人の心と未来を結んでいく“平成青春グラフィティ” (公式サイトより)
歩が詩の未成年後見人になる可能性を描いた理由
――第24、25週で、阪神・淡路大震災で亡くなった真紀(大島美優)に似た詩(大島二役)が登場し、親を捨てた愛子(麻生久美子)と、親のない詩と、血縁のいないふたりに焦点が当たりました。最終的に、愛子が佳代(宮崎美子)の「娘」と呼ばれ、結婚も出産もする気のない歩(仲里依紗)が詩の未成年後見人となる可能性を物語に落とし込んだ意図を教えてください。
真鍋「まずひとつは、根本ノンジさんと脚本を組み立てていく中で、根本さんは、家族とは生まれ育った土地や血縁という関わりだけではない可能性を提示したいのではないかと感じたんです。それを最も実感したのは、永吉(松平健)が結(橋本環奈)とプリクラを撮った時、佑馬(一ノ瀬ワタル)が混ざっていたことでした。彼は歩のビジネスパートナーでしかないけれど、当たり前のように米田家という集合体の中に存在していて、みんなもそれを平然と受け入れていた。こういう形がすごくいいなと思い、そこで、もともと『おむすび』は“人と人とのつながり”が大きなテーマだったので、血のつながらない家族、コミュニティを『おむすび』のテーマのひとつに加えたいと考えました。もう一つは、結と歩の姉妹のお話でもあったので、その決着となるエピソードはないだろうかと探していたとき、根本さんが、身寄りのない子を歩が引きとるエピソードを書きたいと提案されました。しかもその子は真紀に似ているというアイデアで。ただ、真紀の代わりにしてしまっていいのかという議論もあり、そこで結が、歩に対して、真紀の代わりに詩の後見人になるのは安易すぎないかと指摘する流れにしました。この問題を巡って姉妹の葛藤を描くことがドラマの決着になったと思います」
宇佐川「詩という人物は今の日本の不安や、深刻な社会環境を代表していると思っています。米田家を通して、そういう実情に我々はどう対処していくのか考えることにしました。詩が真紀に似ていなくても物語は成立するかもしれないのですが、真紀に似ていることが『おむすび』らしいかなと私は思っています。やはり、真紀がとても大きなものを私たちに残してくれたので」
予想できた効果、予想外のいい反響、そして反省点
――「おむすび」を見て、阪神・淡路大震災から東日本大震災、コロナ禍と、この30年にあったことを振り返ることができて、何によって私たち日本人はどうなっていったのか考えられるものになったのではないかと感じました。当初企画立案したとき、予想された効果でその通りになったこと、予想外のいい反響、そして反省点を教えてください。
真鍋「令和7年の今、そろそろ平成を振り返ってみることは、時期としてはありなのかなと思っていました。もともと、リスクは承知の上で現代物というオーダーもあったのと、根本さんも現代物に挑戦してみたいと思っていたということでした。ただ、ギャルを題材にすることは、僕としては年齢的なこともあって(笑)、正直、半信半疑でしたが、守りに入るのではなく、ちょっと冒険してみるのもいいかなとは思いました。『エール』(20年度前期)から週5日放送になり、その間、コロナ禍を経て、朝ドラの見られ方にも変化が起こっていましたから、これをやれば支持されるであろうというところだけ狙っていくのではなく、踏み込んでいきたいと。だからこそギャルや平成という題材に思いきって乗っかってみようと思いました。結果的に外した部分もあったかとは思いますが、受ける受けないを気にしすぎても、表現が萎縮してしまう。人気は水物ですし、当初からやろうと思ったことをきちんとやりきることが大事だという気持ちは変わりません。良かった点は、若い人たちーーとくに子どもたちが見てくれたことです。朝ドラを初めて見ましたという小学生の声もありました。未来ある子供たちのためのドラマができたのではないかと思っています」
宇佐川「このドラマの視聴者層は、5歳からと強く想定していました。朝ドラは、小学生から大人、そしておじいちゃんおばあちゃん世代までが一緒に見て語れる枠だと思うんです。阪神・淡路大震災、東日本大震災、コロナ禍と難しい題材を扱ったNHKスペシャルや映画などが、今年は数多く作られています。非常に素晴らしい作品ばかりですが、我々は『おむすび』で難しい題材を子どもたちと一緒に語れるものを作りたいと思っていました。根本さんとタッグを組むことで、大人から子どもまでしっかりと伝えることができるエンタメ性のあるドラマになる。それに私たちは託したんです。反響として嬉しかったのは、例えば子供が5、6歳の子供と初めて震災のことを話しましたというご意見や、後期高齢者の方からの『まさかパラパラで泣くと思わなかった』というようなお電話などを沢山いただいたことです。後半の病院編にも関心を持って問い合わせしてくれる方が多かったんですよ。世代によってご意見やお問い合わせの内容は違うのですが、そういった世代間の壁みたいなものが、今回、少し外せたのではないかと思います。反省点としては、やはりどこまでドラマとして伝えていくか、伝えていかないか。その線引きについて、もっと考えていきたいと思いました。私たちは、視聴者の方々を信じていると当初から言ってきましたように、言及されない部分、余白の部分を逆に楽しんでほしいし、あえて突っ込みながら見てもらえればと思っていました。ですが、ドラマのなかで説明されないとわからないというような声も沢山いただきましたし、描かれないことに不満を感じるかたもいるので、その塩梅は今後の課題としたいと思います」
真鍋「作り手としては、ドラマは説明し過ぎたら終わりでしょうというふうに思ったりもしまして。そのさじ加減みたいなのが本当に難しい時代にはなってきたなというのは実感としてあります。SNSを使った見られ方の変化によって、ネガティブな反応が拡散しやすいというのも感じましたが、それは今後、気をつけながら進めていけばいいかと考えています」
記者の反省
――我々記者としても反省で、もともと宇佐川さんは作り手としてはあえて言わないことを多くしているとおっしゃっていたにもかかわらず、私たち記者が取材会であれもこれも教えてくれと裏話を聞いては書いてきました。そのせいで視聴者に考えてほしいと言いながら、作り手が裏話を説明している、だったらドラマで描いてほしいと視聴者が考えるという悪循環を生んだのではと反省しました。
宇佐川「いや、そこは何も問題はないですよ。作り手側からこう見てほしいとあらかじめ語るのではなく、放送後に記事を読んで、そうだったのかと思ってもらえる機会を作ることができたことはよかったと思っています。様々なルートで楽しんで頂くのが今のテレビの見方で、どう見られても私たちはどっしりと構えて受け止める必要があると思っていますので」
――それはよかったです。今回、「おむすび」の最大の功績は、紅白にB’zが出てとても盛り上がったことだと思うのですが、朝ドラの主題歌がきっかけで出演されたと考えてよかったでしょうか。
真鍋「僕も自身も、経緯は本当によくわからないのですが、きっかけのひとつにはなったと思っています」
過去の制作統括への取材記事
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※インタビュー第2回は3月27日(木)公開予定です。