令和7年に「震災から17年」のわけ。結たちは「おむすび」第75回を見ていた。制作統括が説く最終回
阪神・淡路大震災が日本にもたらしたものを30年経ったいま、見つめ直す
「ドラマの最終回が令和7年1月17日の設定なので、その日に『おむすび』が放送されていることにしたい」
朝ドラこと連続テレビ小説「おむすび」(NHK)が最終回を迎えた。放送開始からずっと、制作統括の真鍋斎さんと宇佐川隆史さんは毎週のように取材会を催し、視聴者の理解促進に努めてきた。筆者も取材会に何度も参加した。今回は、取材会を離れ、単独でインタビューを申し込んだ。3回にわたり、掲載する「おむすび」総括。その3
「おむすび」最終回のラストシーンは、阪神・淡路大震災のエピソードで登場した三浦雅美(安藤千代子)と結(橋本環奈)が毎年1月17日に会っていたというエピソードで締められた。雅美は、第23回、被災した結たちに、おむすびを作って差し入れてくれた人物である。結が幼さから悪気なく「冷たい、チンして」と言って雅美を涙ぐませてしまうエピソードは視聴者をざわつかせた。
あれから30年、復興した神戸の街が見える場所で、結のつくったあたたかいおむすびを食べる雅美。いつまでもこの平穏な日々が続きますようにというような祈りにも似た終わり方だった。このシーンについて、制作統括の真鍋斎さんと宇佐川隆史さんに聞いた。
「結は神戸に戻ってからは雅美さんを探したんじゃないかと」
真鍋「最初からラストを決めていたわけではないんです。ただ、早い段階――第5週くらいでしょうかーーで、結の人生の原点である避難所での雅美さんとの出会いに立ち戻りたいと思いました。結は、被災当時に『(おむすびが)冷たい、チンして』と言ったことを後悔していました。それで、糸島にいたときはともかく、神戸に戻ってからは雅美さんを探したんじゃないかと。後悔を抱えたまま生きていくのはなかなかしんどいと思いますから、雅美さんの消息を知ってからは、毎年訪ねるようになったというようなことはどうだろうと根本ノンジさんと話して、そこから脚本を固めていきました」
宇佐川「真紀(大島美優)もそうですし、第4、5週の被災のエピソードに登場した雅美さんの存在に視聴者の皆さんの反応も高かったんです。それは実際に震災のことを語り継がれている安藤さんのお芝居に説得力があったからだと思います。私たちの作り手側も、あのシーンが非常に重要だと認識し、常に念頭に入れながら制作してきました。最終回を描くうえで、これまで見ていただいた方々のために最後にできることは何かと考えた結果、真紀に似た詩を最終週前に登場させ、ラストは雅美さんに出てもらうことにしました。もともと、我々や根本さんが『おむすび』というタイトルや、阪神・淡路大震災をどう伝えていくのか考えるきっかけになったVTRがありまして。丹波篠山の方が水とお米でおむすびを作って運んだというリポートだったんですね。その映像を見て我々の心に残るものがあったことと同じように、『おむすび』を見たかたにも、ラストシーンを見て、これまでのこと、そしてこの先のことを考えてほしいと考えました」
ーーメッセージ性のある終わり方でした。面白かったのは、リリー・フランキーさんのナレーションです。実は、テレビ番組の語りという体(てい)だったのでしょうか?
真鍋「一瞬混乱するかもしれないですが、ドラマの最終回が令和7年1月17日の設定なので、その日に『おむすび』が放送されていることにしたいと、チーフ演出の野田雄介が提案しました」
最終回、米田家のテレビに映っているのは、『おむすび』第75話だったのだ。だからテレビの中では「震災から17年」になっていて、語りの声もテレビから出ている音のようになっている。
宇佐川「それは、米田家や結が、今生きている私達と一緒にいる、生きているということを示すことでもあります」
「おはなはん」(66年)から時々、行われている朝ドライン朝ドラの仕掛けであったのだ。朝ドライン朝ドラとは、劇中で登場人物が朝ドラを見ているメタドラマ的手法。「カーネーション」は糸子(夏木マリ)が朝ドラをよく見ていて、自分の人生も朝ドラにしたいと言い、実際夢が叶う。「カムカムエヴリバディ」ではジョー(オダギリジョー)が朝ドラが好きでよく見ていた。
最終週は、野田さんが神戸パートを、小野見知さんが第24週から続けて糸島パートを担当した。糸島で、いちご農園に集う幼稚園児は地元の幼稚園児たちで、赤い帽子がまるでいちごのように見えて、かわいらしかった。
小野さんから、赤を意識していたというコメントをもらった。
「赤白帽はふだんから園児が使用しているもので、いちごみたいでかわいらしいので赤を表にしてご出演いただきました。今をいきいきと楽しんでいることを表現するために、佳代さんと愛子さんも赤を意識したスタイリングを相談していたので、園児たちの赤帽子とマッチしてとてもかわいらしかったです」
ーー糸島と神戸、家族が分かれ、それぞれの道を生きるという落とし所は、当初から考えていたものだったそうですね。
真鍋「永吉(松平健)が途中で亡くなることも考えていて、では、佳代(宮崎美子)はどうなるのかと。最終週では設定的には90歳を超えていますが、まだまだ元気という形にしたいなと思って、だからといって糸島に一人残すのも酷なので、愛子(麻生久美子)が糸島に行って、聖人(北村有起哉)とは別居婚にするというアイデアもありました。仲が悪いからの別居ではなく、それぞれのやりたいことをやりたい場所でやるというスタイルですね。そういうアイデアもありましたが、聖人ががんを患うエピソードが生まれたため、彼を神戸に一人置いておけないし、神戸にこだわりのある聖人をどう説得して糸島に戻るかというのを一つのドラマにしていくことになり、今のような形に収まりました」
宇佐川「『おむすび』は地元や地域を大事にしてきました。ただそれは、地元や地方がいいということだけではなく、そこに人がいること、そこで誰と暮らすかということです。愛子は佳代のいる糸島で暮らしたいのだということに最終的にはなりました。最後、結は神戸と大阪、愛子と聖人は糸島、2つの地域を最後にしっかりと大事にできたことは良かったかなと思います」
ーー真紀に似た詩と雅美の登場で、様々な出来事があったが、当初から語られてきた阪神・淡路大震災から30年、神戸の復興についての物語であることが最終的に示されたように感じました。
宇佐川「すべては阪神・淡路大震災を経験した神戸の方々から見た、東日本大震災であり、コロナ禍です。この物語のなかで取り上げなかった災害や大きな出来事もありますが、阪神・淡路大震災が日本にもたらしたものを30年経ったいま、見つめ直すことに今回は注力しました。福岡県北西沖や熊本地震、能登半島沖地震など『おむすび』で描かれなかった災害も、いつか別の物語が描いてくれると信じています」