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「おむすび」制作統括、主演・橋本環奈と脚本・根本ノンジを語る。「橋本さんは腹の決まった人」

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
写真提供:NHK

主人公不在の時期をどうやって構成するか、作り手が工夫をする作業がいつもよりはあった

朝ドラこと連続テレビ小説「おむすび」(NHK)が3月28日(金)に最終回を迎える。放送開始からずっと、制作統括の真鍋斎さんと宇佐川隆史さんは毎週のように取材会を催し、視聴者の理解促進に努めてきた。筆者も取材会に何度も参加した。今回は、取材会を離れ、単独でインタビューを申し込んだ。3回にわたり、掲載する「おむすび」総括。その2

その1はこちら 「おむすび」制作統括に取材しながら反省した。我々記者もドラマで書かれない裏話を記事にしすぎではないか

――橋本環奈さんは途中で2週間、ほかのお仕事のために出演されないときがありました。これまでは、朝ドラのヒロインーー特に大阪制作は大阪に住んでまで、1年間、朝ドラ1本に集中するヒロインを視聴者が応援するという習慣があったかなと思います。そういう伝統をある種壊したのも新しい働き方改革の一種なのかと。実際、橋本さんは大変だったのでしょうか。

真鍋「スケジュールはいつもの朝ドラに比べれば大変でした。とはいえ、当初からこの日からこの日までは撮影に参加できないと決まっていて、途中で急に欠席したわけではありません。主人公不在の時期をどうやって構成するか、作り手が工夫をする作業がいつもよりはあったということです。その点でいえば、過去にもヒロインのスケジュールが十分でない作品もありました。朝ドラに集中する新人女優の登竜門みたいなことも大事なことだと思いますが、すでに人気の俳優が多忙なスケジュールを縫いながら主演をする場合など、いろいろなケースがあっていいんじゃないかなというふうに思っています」

――ちなみに、スピンオフドラマが最近ないですけれど、あれを撮っている間は主人公がお休みできるという配慮の企画なのでしょうか(本編終了後、番外編的なスペシャルドラマが放送されることがある。最近は本編のなかにスピンオフを入れることもある。例えば「エール」や「スカーレット」など。「おむすび」の結不在回もそれに近かった)


真鍋「大体は、本編が終わった後に撮っているので、ヒロインが休めるわけではないんです。そういえば最近、スピンオフドラマが作られていないですね」

連続テレビ小説「おむすび」毎週月~土曜 午前 8時00分(総合)※土曜は一週間を振り返ります/ 毎週月~金曜 午前 7時30分(NHKBS・BSP4K) 写真提供:NHK
連続テレビ小説「おむすび」毎週月~土曜 午前 8時00分(総合)※土曜は一週間を振り返ります/ 毎週月~金曜 午前 7時30分(NHKBS・BSP4K) 写真提供:NHK

橋本さんは、周りのスタッフたちがいろいろな意見を気にすることが心配だと言っていた

――お二人から見た橋本さんってどういう人でしたか。

真鍋「この前も別の媒体で聞かれて答えたのですが、『プロフェッショナル仕事の流儀』で橋本さんが『プロとは何か』と聞かれて『職人です』と答えていました。橋本さんの意図としては、どこまで時間をかけられるか、打ち込めるかが大事なのではないかというようなことだったと思いますが、『職人』という言葉が出てきたことに僕はすごく感銘を受けました。年を取ってくると、単純に勢いだけでは持続しないことがわかってくるもので。技術や仕事に臨む姿勢みたいなものも必要になってきます。けれど、若い頃は勢いや自分の感性みたいなことだけでできるような気になってしまいがちなところを、彼女はそうならず、しっかり自覚しているということは立派なプロだと、心からそう思いました」

宇佐川「最初は『どうせ全部なくなってしまうから』と自暴自棄だった結が最終回の前に、NSTの存続をかけて語る場面があります。それはとても主人公らしい見せ場ですが、私としては、あの結がここまで来てくれた、本当にお疲れ様と、親や兄弟のような心境で見守りました。そういう感動をもたらしてくれた橋本さんにも本当に感謝して、私はその撮影の時、恥ずかしながら自然と涙を流していました。もともとこの物語は、現代もの、ギャル、震災等という題材が視聴者からいろいろな反響を生むであろうと、橋本さんご本人もわかったうえで臨んでくれていました。放送前の9月に『私はこのチャレンジに対してはすごく誇りに思っているから頑張る』と、むしろ周りのスタッフたちがいろいろな意見を気にすることが心配だと言っていたくらいで。腹が決まっている人なんです。エンタメ業界の第一戦でやっているんだという毅然とした姿が、時として強すぎるようにも見えて誤解を生むこともあるのだろうと思います。でも私は目の前でその姿を見ている。そこで感じたのは“尊敬の念”でした。その一方で、芝居では決して無理をし過ぎず、等身大の芝居をしている。そこが結らしいところでもあると思います」

なぜ、天神乙女会の大河内明日香と星河電機野球部の大河内勇樹は苗字が同じなのか


――ヒロイン不在のスケジュールを、根本さんがうまくパズルしながら脚本を書かれたのですね。

真鍋「間違いなくそうですね。むしろ、そういう状況を楽しんでくれていたように思います。ある種の制限があるなかで作家がどういう面白いチャンレンジができるのかということを考えるかたでした。しかも、現代ものは、資料がたくさんありますから、取材して抑えておかなくてはいけない要素が膨大なんです。時代劇だと資料がないとか、万が一間違っていても、指摘できる人が少ないのですが、現代ものはそういうわけにはいきません。管理栄養士、震災、コロナ禍、さらに、終盤は児童相談所、未成年後見人など、ものすごい情報量なんです。従来の朝ドラの、多分5倍ぐらい情報量があるんじゃないかと思います。根本さんにはそれをまとめきる腕力があった。最後の詩のエピソードを、終盤に来て入れるのは大変なんじゃないかという話もしましたけれど、やりきる粘り強さがありました」

――割と早めに脚本も上がったわけですよね。

真鍋「早めというか、このぐらいだったら遅くないというスケジュールでした。なかにはもっと遅いことがあります。根本さんは締切を守ってくれました」

――ひとつ、ささやかな質問をしたいのですが、今だから聞きたいささやかな疑問で、天神乙女会の大河内明日香と星河電機野球部の大河内勇樹はなぜ苗字が同じなのでしょうか。いつかその答えが出てくるのかなと思って見ていたのですが。

宇佐川「実は私も気になって、根本さんに聞いたんですよ。そうしたら、現実社会とはそういうもんでしょうというような話になって。苗字が被ることって現実にはありますよね。今回、できるだけ、登場人物に名まえをつけていて。名も無き人なんていないということなんです。だからかぶる人だっていてもいいのではないかと。ドラマの都合で同じ苗字の人がいないということをしなかったんです。そういえば、おむすびでは“ドラマだからこうしよう”という言葉をほとんど使わなかったですね」

真鍋「笑い話的になりましたけれど、僕もプロのクリエイターの端くれとしてわかりますが、根本さんがやっていることは非常に高度なんですよ」

児童支援センターのスタッフも出番は少ないが田村頼子(中道裕子)、磯部守(安藤嗣海)とフルネームついている。写真提供:NHK
児童支援センターのスタッフも出番は少ないが田村頼子(中道裕子)、磯部守(安藤嗣海)とフルネームついている。写真提供:NHK

第3回に続く

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ありがとうございます。
フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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