無償化で大学はほろびる? 実現するのは「制度ハック」と「天下りチャンス」だけ 飯田泰之・明治大学政治経済学部教授【時事時評】
◆「理工系人材の育成」という要請に逆行も 大学における学び、研究の多様性と大学無償化は強く対立している。公費による学校運営が教育の多様性を損なうという点は私立高校無償化にも共有される論点だろう。実際に大学無償化事例としてとりあげられる国においても、国立大学に限定しての無償化である国もある。また、中世以来の伝統ある大学システムであることから上記のような政府介入の心配が少ないという国もある。 さらに、派生的な論点として限られた金額までの無償化は日本の高等教育の構成をゆがませる恐れがある。先ほどと同様に年間学費90万円まで無償とのルールができたとしよう。この金額の範囲で経営が成り立つのは基本的には文系学部だけであろう。もともと日本は大学卒業者に占める理系学位取得者の割合が低い。さらに、主要国の多くで理系比率が上昇する中で日本では横ばいか若干の低下傾向にある(科学技術・学術政策研究所「科学技術指標2020」など)。筆者は文系専攻の文系学部教員であるが、現下の状況で事実上の文系学部拡大を指向する政策を推し進める理由は希薄なように感じる。 ◆(逆)再配分の制度設計は正しいのか この他、大学進学家計はそうではない家計よりも相対的に所得が高い傾向がある。これは学費が無償化されても変わらない。学費だけが進路を決める要因ではないためだ。そのため、大学無償化は低所得家計から高所得への(逆)再分配となる。 確かに経済的な理由によって進学を断念する学生がいることは残念でならない。しかし、その改善手段として大学無償化はあまりにも非効率的な手段である。国公立大学の学費引き下げ、公的奨学金の充実、各学校独自奨学生制度の創設など、より効率的な手段はいくらでもある。それにもかかわらず、日本の政治が、有権者の一部の関心が学費無償化に集まる状況は何か別の意図があるのではないかと勘ぐってしまうのである。 ◇ ◇ ◇ 飯田 泰之(いいだ・やすゆき)1975年生まれ。東京大学経済学部卒業。同大学大学院単位取得退学。財務省財務総合政策研究所上席客員研究員、内閣府規制改革推進会議委員などを歴任。専門は経済政策・マクロ経済学、地域政策。近著は、『これからの地域再生』(編著、晶文社)、『財政・金融政策の転換点-日本経済の再生プラン』(中公新書)など。