【完結】強キャラ東雲さん   作:佐遊樹

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空落ちてきてない説はあります


36.空が落ちてくる

『君が、彼女の子供か』

 

 最初にやって来たとき、父は自分を見てそう言った。

 彼女の子供──自分の子供でもあるはずなのに、そう言った。

 

 思えば常に、父は、母を通して自分を見ていた気がする。

 

『今日からはここに住みなさい。彼女が回復すれば、彼女の望み通りにする。彼女が望むなら、また二人で暮らせるように手配する』

 

 最初は、今に比べて優しかった。

 敏腕で強面だけれど、どこかに優しさがあった。

 

 でも母は目覚めなかった。一向に、目覚めなかった。

 

 医者が『意識回復の見込みはない』と説明したとき──頭の中が真っ白になった。自分は動けなかった。父は医者を殴り飛ばし、藪だと怒鳴りつけた。でも、どんな医者でも、治せなかった。

 

 父にとっての地獄が始まった。

 それはほとんど、()にとっても地獄だった。

 

 父はあらゆる方法を模索していた。

 僕は存在していなかった。

 

 父はあらゆる方法を模索していた。

 僕は存在していなかった。

 

 父は──何かに狂った。

 僕は、ただ母の言いつけ通り、学友にとって助けとなる存在として、振る舞っていた。

 

 でもどこにも僕はいなかった。

 

 父は僕にIS学園への転入を命じた。男装し、織斑一夏の友人となって、彼の保持する第四世代機に()()()()()()()()()()()()()のデータを取るよう言われた。

 

 僕は薄汚い人間だ。

 母がいなくなって──そう、本当に、父の中から母がいなくなれば。

 その時は僕の番じゃないのかな、と思っていた。

 

 母の次に父が愛したのは、新型の攻撃衛星だった。

 

 僕は母にとっての父も、父にとっての母も知らないまま、ハイスクールの生徒となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういうことだァッ!!」

 

 机をひっくり返して、アルベールは怒号を放った。

 

「『エクスカリバー』の制御系統を全て乗っ取られただと!? 防衛プログラムはどうしたッ!」

『い、一瞬で、全てのファイアウォールを突破されたんです』

 

 ありえない、と歯噛みした。

 冷酷無比、常に粛然とした態度を崩さない男が、狼狽も露わに肩を震わせている。

 

(クソッ、クソッ、クソッ……! 何が起きている! どうする、どうすればいい!)

 

 思考は上滑りし、解決策を見いだせない。

 

『……社長!』

 

 通信。思わずアルベールはのけぞった。

 立ち上がったウィンドウに表示されていたのは、シャルル・デュノアの顔だった。

 

『衛星軌道上への武力攻撃を進言します! 攻撃対象に本社が指定されているのなら、撃破するしかない……!』

「武力、攻撃──」

 

 その言葉を思いつかなかったわけではない。

 むしろ冷静な思考回路は真っ先に弾き出していた。

 しかし。

 

「……貴様は」

『……社長?』

()()()()()()()()()……いつも、そうだ。何も知らず、平然と……ッ!」

『え?』

 

 場違いな憤怒だった。

 まっとうな提案をし、いつも通りに誰かの助けになろうとして。

 けれどシャルルに返ってきたのは、想像を絶した怒りだった。

 

「あれが何なのか、何も知らないまま、お前がっ、お前が破壊しろと言うのか! ふざけるなッ!!」

 

 ──それはシャルルの記憶では、恐らく初めての。

 自分自身に向けられた、アルベールの感情。

 

「破壊は、できない……ッ! 軌道上にIS部隊を送り込み、一度機能を停止させる……! 各国の責任者に連絡を!」

 

 何かを振り払うようにして、アルベールはシャルルから視線を逸らして指示を飛ばし始める。

 結局二人の会話は、そこで途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一体何がどうなってるんだよ……」

 

 サイレンが鳴り響く中で、一夏は観客の中に紛れて避難経路を歩いていた。

 巻紙は何か非常に慌てた様子でどこかへと走り去っていき、残されたのは一般観客に過ぎない一夏と箒だけである。

 要人の避難が優先され、まだアリーナを出ることもできていない。広大なアリーナは、しかし関連施設の多さから、一般観客の避難経路に乏しかった。

 今もごった返す群衆は、急かすようなサイレンとは対照的にのろのろと歩かされ続けている。

 

「分からん。何かが起きたのだろうが……襲撃のような音はしなかった。予告、あるいはもっと……」

「──遠い場所」

 

 あの時。

 一夏は──否。()()()()()()()()、上に何かを感じ取った。空ではない。何かもっと、もっと上。

 

『一夏、箒、無事?』

 

 その時、不意に通信が立ち上がった。

 見れば鈴が真剣な表情で、セシリア、ラウラ、そして東雲と共に──全員ISスーツ姿で映っている。

 

「鈴!? それに、東雲さん……ッ!? なんでそれに着替えてんだよ!?」

『端的に言うわ。代表候補生に特殊任務の指令が下されたの。あたしと令も例外じゃない』

 

 特殊任務。

 決して日常で聞き慣れた言葉ではない。

 それによく知る級友らが参加する、という事実は、どこか一夏の思考を上滑りしていった。

 

「特殊任務とは一体?」

 

 箒の問いに、鈴は首を横に振る。

 部外者は知ることはできない──そう、この件に関して、一夏と箒は部外者だった。

 

「だ、だけど。こういう場なら、色んな人がいるはずだ。なんで代表候補生が……ッ」

『色々な人がいるからこそ、ですわ』

『人が増えれば、この場に集う勢力の種類も増えていく。故に必要なのはバランスだ……我々は代表候補生であり、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そこまで言われたなら、一夏でも分かる。

 

「各国の勢力争いとは無縁、っつー名目に、IS学園生徒の肩書きを使ったってことかよ……!」

 

 頭の中が沸騰するような感覚だった。

 ふざけるな。学園の生徒というのは、決して争いに戦力として投下するための存在ではない。

 共に日常を過ごし、共に笑い合って、共に競い合って。

 それを戦力のごまかしに使われることに、一夏は腹の底から叫びたくなる忌避感を抱いていた。

 

『そんな顔をするな、おりむー』

「東雲さん……! だけど……!」

 

 ISスーツ姿の東雲は無表情を崩さず、一夏に語りかける。

 

『当方たちは決して死なない。()()()()()()()()()()

「──────」

 

 それは反則だろ、と一夏は呻いた。

 説得力の塊だった。セシリアとラウラ、鈴も苦笑している。

 

『故に、迅速に済ませよう。ルーブル美術館が当方たちを待っている』

「……はは。確かに、な」

 

 露骨に、場を和ませるための冗談だと分かった。

 唯一箒だけは『いやこいつ本気でルーブル美術館諦めてないんじゃないか?』と疑ったが──その前に。

 

『で、通信はそれを知らせるためっていうのと……シャルル、知らない?』

「え?」

『どこにもいないのですわ……作戦の実行部隊には組み込まれているはずですのに』

 

 思わず、一夏と箒は顔を見合わせた。

 

「いや、さすがに知らないな……」

『シャルル・デュノアが怖じ気づいて逃げ出すとは考えにくい。そう噂している輩もいるが、私でも分かる。あいつはよっぽどのことがなければ、簡単に逃げたりはしないはずだ』

 

 ラウラの言葉には、全員が頷けた。

 ならば今どこで何をしているのか。

 

 いや。

 

「なあ、一夏」

「…………」

()()()()()()()が起きたとしたら、どうだ」

「……お前も、そう思うか」

 

 ファースト幼馴染は苦い表情で首肯する。

 

「分かった。シャルルのこと、ちょっと探してみる」

『無理のない範囲でお願いします。まずは避難が先決でしてよ』

『まあ、一夏はIS持ってるからさ。何かあったとしてもぶった切って進めば良いんじゃない?』

「お前なあ……それ、本社が襲撃されてないか? さすがにそこまで悪い状況にはなってほしくないぜ」

 

 鈴のあんまりな想定に、思わず一夏は苦笑した。

 

 

 

 

 

 十秒後。

 爆音と爆炎が本社ビルから吹き上がり、()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、クソッ……本気で始めやがったな、スコールッ!」

 

 巻紙礼子としての変装を捨てて、オータムはアリーナから本社ビルへの道を疾走しながら叫んだ。

 

『ええ。先に始めさせてもらってるわよ』

「いいかよく聞けよ。『エクスカリバー』の制御系統がデュノア社を多分離れてる。束博士がハッキングしたんだ! だから襲撃の必要性がなくなった!」

『……それ、制御系統、私たちにくれるのかしら?』

 

 ぐっ、とオータムはうなった。

 博士の反応や会話を楽しむ余裕こそあれど、天災の思考など読めたためしがない。このまま、代わりにやっておいたよーと制御系統を渡してくれるとは到底考えられない。

 

『だから私たちで、デュノア社のコントロールを奪い、第二次強奪作戦をより盤石のものにする。代表候補生らも適度に数を減らせると嬉しいんだけど──』

「──ッッ!」

 

 想起した。

 アリーナでズタボロになり、圧倒されながらも立ち上がる少女たちの瞳。

 過去と、リンクする。

 本来は守るべきものだった。本来は育てていくものだった。

 

「──わたし、が」

『……オータム?』

「──私、が、先行する……ッ!」

 

 IS展開。スーツを上書きするように、毒々しい彩色の装甲が顕現し、背部に八本脚が花開く。

 

(だから──負けてもいいが、死ぬんじゃねえぞクソガキ共……ッ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、オータムは遅すぎた。

 投下されたのは『モノクローム・アバター』構成員、だけではなかった。

 

 襲撃を受けたのは本社ビルと、隣接するアリーナ。

 実に十機を超える謎のIS部隊。

 代表候補生らは既に散らばって、襲撃してきた謎のISたちと各個で戦闘を始めている。

 

「……該当データなし、だと?」

 

 そして自衛のため、代表候補生や会場を警護するため来ていたフランス軍のIS部隊もまた、狭い廊下の中、装備を展開して敵を待ち構えていた。

 彼女たちはビル中層部にて、社長室のある高層部へ続く道を守っている。

 

 だが、目の前に現れたのは、頭部を天井に引っかけながら進んで来る黒い異形だった。

 

 本社ビルに真横から突撃し、突如として廊下を塞ぐように顕現した未確認IS。

 黒い機体──それはかつてクラス対抗戦を襲撃した、ユグドラシルシリーズの一機『ゴーレムⅠ(ヨートゥン)』に酷似していた。

 しかし直接見た人間ならば、即座に分かるだろう。全身が肥大化し、両腕に内蔵された火器が大幅に増えている。

 

 より高火力・高機動仕様に発展、改良された無人機。

 スコールがオータムを介してあらかじめ借り受けていた、束博士謹製IS。

 ユグドラシルシリーズの第二世代──『ゴーレムⅡ(ベルグリシ)』である。

 

「何だコレは……!?」

「IS学園を襲撃した未確認機の同型か!?」

 

 正確な情報を得ていない軍人らは、しかし推測を元に対応を組み立てていく。

 確か織斑一夏は、青竜刀による破壊力でそのガードを破壊していたはず。

 

「衝撃を与えて内部機構を破壊しろ! 弾丸を徹甲榴弾に変更!」

 

 指令が飛び、部隊隊員らは即座にマガジンを交換した。

 狙いを定める瞬間、ゴーレムⅡが両腕を突き出して防御態勢を取る。

 

「撃て!」

 

 直後、銃声が空間を拉がせ、マズルファイアが視界を灼いた。

 放たれた弾丸は正確にターゲットへ飛翔し、莫大な威力を対象へぶつける。

 この衝撃なら防御ごと──と、予想して。

 

 硝煙の向こう側。

 ゴーレムⅡがキズ一つなく、微動だにせず佇んでいるのを見て、全員の顔から血の気が引いた。

 

「これ、は……ッ!?」

「見ろ! 腕部にエネルギーシールドが展開されている!」

「馬鹿な……第四世代相当だとでも!?」

 

 一瞬でその場は恐慌状態に陥った。

 残弾が尽きるまで、ひたすら撃つ。だが相手はまるで意に介さず、一歩一歩進んでくる。ペースの淀みはない。

 

 ついに、銃声がやんだ。

 

「隊長……」

「……ッ、ラインを後退させ、援軍を待つ……!」

 

 その会話を、無人機はしっかり聞き取っている。

 愚かな選択肢だった。ゴーレムⅡは単騎による敵軍制圧を主眼に据えた、強行突破型高機動ISである。

 本来の持ち味を活かすには狭すぎる場所だが、攻撃力と防御力があれば問題ない。強引に突っ切れる。

 

 もしも無人機に感情があれば、ほくそ笑んでいただろう。

 しかし──不意に、フランス軍IS部隊は動きを止めた。

 

 迎え撃つ覚悟を決めたのか。違う。

 彼女たちは後ろを見て、何故か顔をこわばらせた。

 それから──全員が左右に退いた。ゴーレムⅡが直進する上での障害物は、なくなった。

 

 

 

 ──ただ一人、最奥にて深紅の鎧を纏う、東雲令を除けば。

 

 

 

 ゴーレムⅡは困惑する。これはどういう状況なのか。

 戦闘論理に則って考えればあり得ない、あり得ないほどゴーレムⅡによって有利なシチュエーションである。道は開かれた。ただ一人の少女だけがそこを塞いでいる。

 だが見ろ。今まで自分に豆鉄砲を撃ち続けていた連中は、畏怖しているではないか。

 

 恐れの余り逃げ出すのか。しかし違う。

 彼女たちは確かに恐れていた。何を?

 

 東雲令を、だ。

 

 

「当方の道を塞ぐつもりか」

 

 

 声色は壮絶だった。鋼鉄の鎧を身に纏う女傑たちは、それだけで失神しそうになった。

 ゴーレムⅡは状況を理解できぬまま、ただプログラムされた通りに迎撃姿勢を取る。絶対防御にも等しい鉄壁。それを突破するには、並大抵の出力では相手にならないだろう。

 

「そうか。回答を受諾した」

 

 無人機が退くはずもない。だから東雲は迅速に対応する。

 敵の特性を把握する。防御力は目を見張るものがある。だが無人機である。やるべきことは決まっていた。

 

 

「──此れなるは唾棄すべき悪の殺人刀」

 

 

 切っ先を相手に向けつつ、顔の横に柄を保持する。

 腰を落とし、即座に飛び出せる体勢。

 

 

「これより粛清戦術を開始する」

 

 

 ゴーレムⅡは意味を理解できなかった。さして脅威度の高い装備はない。

 敵は攻撃態勢に入っていた。ならば、ただ防げば良い。

 理論的に最適解を弾き出すと同時、ゴーレムⅡはエネルギーシールドの出力を高めて、

 

 

 

「──()()()()

 

 

 

 刹那だった。

 音を置き去りにして飛び込んだ東雲はフランス軍IS部隊の間を疾風のように駆け抜け、瞬きする暇もなくゴーレムの後ろへと抜けていく。

 保持していた刀身は瞬時に粉砕され、柄だけが残っていた。

 

 折れた、にしては不自然な砕け方。

 まるで先端から真っ直ぐ衝撃を何度も与えたような、特殊合金の刃としてはあり得ない、()()()()()()()()()()()()()()()()()()が空間に舞う。

 状況を見守っていた軍人らは、鈴を鳴らすような硬質な音が、一度響いたのを聞いた。

 

 

 

「──秘剣:現世滅相(うつしよめっそう)

 

 

 

 それが最後だった──ゴーレムⅡは何も理解できないまま機能を停止させ、倒れ込む。胴体内部の機器はメチャクチャに破壊されていた。体内をタイフーンが駆け抜けていった、と言われれば信じるような有様。

 音は、一度だけ響いていた。

 しかしゴーレムⅡの表面を見れば分かる。刹那の内に、六つの丸いへこみができていた。

 

(……ッ! ()()()()()()()()()……ッ!? そんな、目では何一つ捉えられなかった。音も一度しか聞こえなかった! 一瞬の間に、六度の刺突を詰め込んだというのか……!?)

 

 一人の軍人は、事態を正確に理解した。

 かつて『アラクネ』相手に振るわれた秘剣──の、()()()

 効率よく相手の内部を破壊するため、より鋭く、より疾く磨き上げられた悪の殺人刀!

 

(これが……世界最強の再来……ッ!)

 

 国防のため腕を磨いているという自負があった。誇りもあった。それら全てが、根底から破壊されるような──そんな、理不尽極まりない、暴力の化身。

 柄だけになった太刀を廊下に放り捨て、東雲は背中越しにちらりとゴーレムⅡの残骸を見た。

 ゴーレムは外見こそ完璧に保たれていたが、中身は惨殺と呼んで差し支えない。

 

「六銭だ。渡し賃に取っておけ」

 

 それだけ告げて、彼女は脇目も振らず、デュノア社の廊下を疾走していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお今度はちゃんと最後まで言い切れた! めっちゃキマったぁ!! Foo↑キモチイ~)

 

 これが……世界最強の再来……ッ!

 

(にしてもカスみたいな敵しかいないのに道のりが長いな……ん? ……ッ!? 当方コレ知ってる! 雑魚を蹴散らしてお姫様(おりむー)を助けるやつ! これが噂の、スーパーマリオブラザーズ……! マンマミーア(なんてこった)!)

 

 あの配管工は秘剣とか使わないんですけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおおっ!!」

 

 振るわれた刀身が火花を散らす。狭い廊下の中でも、その切れ味に曇りはない。

 一夏が振るった『雪片弐型』が、狭い本社ビルの廊下の壁を両断した。一切の抵抗なく溶断され、隣のスペースへと直接通路がつながる。

 

「こっちです! 早く避難を!」

 

 叫びは『白式』が自動で英語に翻訳してくれていた。

 彼が拓いた道を、一般の観客が走って行く。すれ違いざま、一夏へは多くの感謝の言葉が飛んできた。

 だがそれを聞いている余裕はない。

 

「箒!」

「私で最後だ!」

 

 幼馴染が走ってくる──が、その背後。

 箒が通り抜けた廊下に、天井を突き破ってISが落下してきた。

 頭部をバイザーで多い、夜闇に溶け込むように紺色のペイントを施された、イギリス製第二世代『メイルシュトローム』型。

 

(……有人機!? 照合は──取れない!)

 

 ならば、敵!

 迷わず腕を振るった。着地した直後の相手に、箒の頭上を通過し投擲された『雪片弐型』が飛翔する。

 

「……ッ!? 織斑一夏か!」

 

 だが敵のIS乗りは素早く右手のナイフで、刀を弾いた。

 

(素晴らしい反応速度だな、織斑一夏! しかし得物を手放すとは、場慣れしてないと見える!)

 

 硬質な音と共に火花が散って、純白の刀が吹き飛ばされ、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「な──」

 

 亡国機業実働部隊『モノクローム・アバター』の一員として、決して油断はしていなかった。

 だが──投擲された武器を弾いた。腕が広がった。その刹那に、もう一夏は()()()()()()()()()()()()()()()

 

「どけぇぇぇぇぇっ!!」

 

 すくい上げるような、フルスイングの逆袈裟斬り。

 顎にクリティカルヒットして、視界が揺れた。

 初手を取られた。意識が明滅する中、バックブーストして距離を取り直す。

 

「……一夏……!」

 

 一夏と交錯した箒は、一度彼を振り返って。

 戦場に身を置く、幼馴染の背中を見て。

 強く強く唇をかんでから、避難経路を進んでいった。

 この場からいなくなることこそが、最も彼のためになると、分かっていたから。

 

「……ッ、やってくれるな。学生レベルではない……!」

「褒めてくれてありがとよ。あんたの上司、オータムも意外と俺を高く買ってくれてたりするのかな?」

 

 かまをかけた。

 だが謎のIS乗りは口元を歪め、腰を落とすだけだった。

 

(確定は、できない。だけどここまでISを運用してる反社会勢力が複数あるとは考えにくい。やっぱりオータムと同じ……)

 

 思考を並列させつつも、一夏は迎撃の姿勢を取った。

 相手の機体は旧式とはいえ、間違いなく乗り手は格上。気を抜けば瞬殺されかねない。

 

 そう考えた、刹那。

 

 

「──おい、駄目だな。そいつは私の獲物だぜ」

 

 

 聞き慣れた声だった。

 

「オータムさん……!?」

 

 一夏から見て、真横。

 まったく感知できなかった。IS──『アラクネ』を身に纏う、蜂蜜色のロングヘアの女が、冷酷な表情で佇んでいた。

 

「……!」

「Bブロックの制圧が遅れてる。どうやらイギリスの抵抗が激しいらしい。ドイツと中国もかなり強ぇ。だが、肝心のフランスは楽勝だ。お前はイギリスの援護に行け。あと少しで目的は達成だ」

「──了解しました!」

 

 返答にはこれ以上ない信頼が込められていた。

 メイルシュトローム型のISがスラスターを噴かして廊下を疾走していく。

 その背中を追いかけるわけにはいかない。そんなことをしている余裕はない。

 

「…………」

「…………」

 

 青年と美女の視線が交錯した。

 爆音や振動が断続的に発生する戦場の中で、場違いな沈黙が生まれた。

 十秒、三十秒。

 やがて口火を切ったのは、オータムだった。

 

「久しぶりだな、調()()()()()()

「快調さ、()()()()()()()

 

 両者は朗らかに言葉をかけ合った。

 声色は凪いでいた。互いの顔を見れて、どこか安心したような響きすらあった。

 

 一夏はゆっくりと、右手の『雪片弐型』の刀身を肩に乗せた。

 オータムはゆっくりと、腰部から二振りのカタールを引き抜き、両腕を脱力してぶら下げた。

 互いに完全な自然体。

 

 ──ところで、ご存じだろうか。

 ──才覚と努力を併せ持つ武人と相対した際に、最も警戒するタイミングは何時か。

 

 得物を向けられた時? 否。

 腰を落として構えられた時? 否。

 

 自然体の武人と相対することこそが、最大の悪夢に他ならない。

 

「そりゃ重畳。だが出会ったからには、やることは一つだよなあ……」

「そっちも元気そうで良かった。でもお互い、やることは決まってる……」

 

 ああ良かった。

 ここで出会えて良かった。

 

 だって──この場で宿敵を叩き潰せるのだから。

 

 

「「そう思うだろ、テメェもッ!」」

 

 

 刹那、両者の距離がゼロになる。本社廊下の壁を『白式』のウィングスラスターは破砕しながら進み、『アラクネ』の八本脚も壁をひっかきながら前進して。

 

【OPEN COMBAT】

 

 振るわれた刃と刃が激突し、スパークした火花が二人の視界を灼いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




デュノア社「エクスカリバー取り返すぞ」
亡国機業 「エクスカリバー強奪するぞ」
デュノア社「えっお前が強奪したんじゃないの」
亡国機業 「知らんけどお前ボコったら奪いやすくなるやろ」
デュノア社「えっ」

兎博士「^^」
秋姉貴「あああああああああああああああもおやだああああああああああああああ」



次回
37.アルベール・デュノアという男
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