タイピング速度が百分の一ぐらいになってしまいました
エンターキーを押すたびに激痛が走るとか
制裁デュエルよりきついんですけど
というわけで待たせたのに文字数が少なくて
本当に申し訳ない(神映画)
「おい、訓練機借りればいけるんじゃねえか?」
織斑一夏の咆哮を聞いた直後。
客席で様子をうかがっていた学園三年生にしてアメリカ代表候補生ダリル・ケイシーはすぐさま思考を切り替えた。
触発されたという事実に、我知らず苦笑してしまう。
あれほどの決意を見せつけられては――昂ぶってしまうのも仕方ない。
「さすがに見て見ぬふりはできねえだろ。倉庫行って、もうそこから飛行して突っ込んでくればいい。そうすりゃ間に合うはず――」
「
自分としては珍しいほどに甘ちゃんの言葉だった、はずなのに。
恋人にして相棒でもある相手、二年生ギリシャ代表候補生フォルテ・サファイアの声。
(……ッ)
思わず、ダリルは彼女の声色に身動きを止めた。
いつも気だるそうにしている様子は微塵も残っていない。
身を乗り出すようにして、フォルテは相対する白と黒をじっと見つめていた。
「これは……あの男の戦いッス」
「……そうかよ」
自分よりも、よっぽど相棒の方が深く心を揺さぶられている。
それが少し、羨ましくもあり――同時に、めったに見られないフォルテの凜々しい表情に、少し身体が疼き始めていた。
「認めない――私は、それを認めないッ!!」
ラウラは鬼気迫る表情で、そう叫んだ。
認めない。ありえない。そんなことはあってはならないと。
彼女の指先の動き一つですらもが、一夏の言葉を否定しようとしていた。
だって、そんなものを、彼女は知らないのだから。
進化とは
羽化とは蛹を脱ぎ捨てること。ならばそこに過去の肯定など不必要。
「敗北し挫折し絶望していた自分など、虫けら以下の塵芥に過ぎないだろうがッ! そんなものに縋ってどうするというんだ、織斑一夏ッ!!」
「縋るんじゃねえッ! 背負って進むんだよ! だってそれも
白い鎧が主の叫びに呼応して蠢動する。
姿形こそ変わっていないが、意志を持っているかのように熱を持ち、一夏の気迫に連動して猛り狂っている。
「ああそうか、やっと、やっと分かった……! そっちが俺のことが苦手なのと、同じだ。俺は――俺は、あんたが苦手だ……!」
意見は一致した。
苦悩もまた、一致している。
現実の自分と理想の自分の乖離。ああそうだ、それこそまさに今、織斑一夏が直面している懊悩に他ならない。
「俺からも言わせてもらうぜ。あんたは――ラウラ・ボーデヴィッヒは、かつての俺だ……!」
決定的な台詞だった。
強く、強く、ラウラは拳を握る。視線に殺意が装填される。
「言ったな……貴様が、
「ああ言ったさ。言ったとも! 自分の無力さを呪い、闇雲に力を求めて! どうしようもない現実に憤り続ける! 休むことも、他の何かに目を向けることもしない! その果てに虚無と絶望しかないって分かってるくせに! 見ててイライラするんだよ……!」
「それはこちらも同じだっ!」
ラウラは空間そのものを吹き飛ばすような勢いで、右腕を振りかざし、一夏を指さした。
「私は……! 私は……っ! 貴様を見ていると思い出す! 無力だった頃の自分をっ! だから私は貴様を認めない! 認めてたまるものか……!」
「俺もあんたが嫌いだ……! だけど、それを受け止めて、俺は前に進む……ッ!」
互いの姿が互いを映し出す。
誰かの背中に光を見て。
誰かの背中を追いかけて。
だけど自分を変えられなくて。
必死に走って。
必死に足掻いて。
それなのに背中は遠ざかる一方で。
感覚が、
(この男は絶対に全否定しなければならない……!)
(こいつには、こいつにだけは絶対負けられない……!)
だって――目の前の相手は、己の意地にかけて、抗うべき相手なのだから。
織斑一夏はかつて挫折しそうになったラウラ・ボーデヴィッヒで。
ラウラ・ボーデヴィッヒはかつて闇雲にただ走っていた織斑一夏で。
故の、歪みに歪んだ
それが攻撃という形に昇華されるのに、お互い、何の躊躇もなかった。
【OPEN COMBAT】
愛機がそう雄々しく叫ぶと同時、一夏は『雪片弐型』を構え猛然と突撃する。
彼我の距離はISバトルにおける一足一刀の間合い。故に接敵までは刹那。
「一発ぶん殴らせろォォォッ!」
「私の前から消えろォォォッ!」
迎撃の姿勢を取っていたラウラとして、その気迫は負けていない。
激突する純白の刃とプラズマ手刀。両者は互いを食い破らんと火花を散らし、それを挟んで一夏とラウラの視線が交錯する。
(見ただけでこんなにも心が荒れ狂う……ッ!)
(あの時も、今も! 俺の感情をかき乱す……!)
歯を食いしばり、一夏は思い切り刀を押し込んだ。相手の攻撃ごと切り捨てる狙い。
だがラウラは巧みな重心操作でそれを受け流す。かみ合った刃から散る火花が一層激しくなる。
「力任せの攻撃など――!」
力みには
ラウラの観察眼は正確にそれを読み取った。
より強く押し込もうと一夏が力を込める、その刹那。
コンマ数秒間の弛緩を見極め、一気に白い刀身を弾く。
「……ッ!?」
「砕け散れッ!」
体勢の崩れた相手を見逃すはずもない。
ワイヤーブレードが先端部をドリルのように回転させながら一夏に殺到する。
「それがどうしたああああああああッ!」
計4つのワイヤーブレードのうち、攻撃に回されたのは2つ。
瞬時の反応で振るわれた『雪片弐型』は1つを叩き落とし、返す刀でもう1つを弾く。
できれば先端部を切断したかったが、回転によって斬撃は深く通らなかった。ブレード部の表面に切り傷が刻まれただけだ。
(反応が早い! パターン構築ではなくその場での処理能力の高さ――やはり、感覚派!)
激情に呑まれそうな中でも、ラウラは必死に戦闘用の思考回路を回す。
敵の行動パターンを暴き、読み解き、そこから必勝パターンを選択する。
ラウラ・ボーデヴィッヒの強みである、徹底的な理論的戦術。
(他愛ない、この程度ならハメ殺せる!)
高速思考――だが、それは『アンプリファイア』の影響下で、かろうじて残された理性の抵抗。
事実として、ラウラは今もう、セシリアや鈴、シャルルを思考の外に弾きだしていた。
四対一ではなく、一対一の動きを見せて。
それを冷徹な狙撃手が見逃すはずもない。
「……ッ!」
意識がそれた。身体がそれを感知すると同時、本能的にスターライトMK-Ⅲの銃口を向ける。
だが。
「そうだそれでいい俺だけを見ろぉっ!」
喉をからすような勢いの、叫び。
再度突撃する白い機影が――トリガーにかけた指から、力を失わせる。
「オルコットさん、これは……!」
「……ええ」
シャルルも同様、鈴に至っては完全に静観の構えを見せている。
これは――織斑一夏の戦いなのだ。
「全部を俺にぶつけてこいッ! そうじゃなきゃ意味がねえ! 俺はあんたを超えていく! そしてあんたにも分かってもらう――否定するべき自分なんて、本当はいないって!」
「黙れ黙れ黙れェェェェッ!!」
突撃のタイミングに合わせて、完璧な迎撃が襲いかかった。
直線加速のルートをはじき出し、レールカノンの砲塔が動く。
「過去の否定は――いつか現実の自分の否定になる!
「……ッ!?」
それは突飛な予測ではなく、一夏自身の経験に基づいた言葉だった。
刹那のみ動きが静止し、直後、レールカノンの砲口に、投擲された『雪片弐型』が突き刺さる。
小規模な破砕音を響かせながら、砲塔から火花が散り、沈黙した。
「しまっ――」
「自分を否定して! 自分じゃない何かになろうとしてッ! その結果には何も残らないんだ!」
距離を詰めた一夏が『雪片弐型』の柄を掴み、レールカノンを引き裂くようにして振り抜く。
デッドウェイトと化した砲塔をラウラはパージし、バックブースト。
空けられる距離。剣域から抜け出そうとする敵。
「逃がすものかよぉッ!」
スラスターに火を入れる。
白いウィングスラスターが爆発じみた炎を吹き上げ、それに追いすがった、が――
「――そう来るだろうと思ったさ!」
振るわれるプラズマ手刀。連続する斬撃は雨のように降り注ぐ。
それだけではない。4つのワイヤーブレードもこの瞬間、狙いを一夏だけに絞っていた。
正面から左右上下から死角から――"白"を粉砕するために構築された理論的な猛攻。
「一夏……ッ!?」
理論的に導ける。この構築に、瞬時に反応できることはない。
対応が間に合わないと判断して、シャルルが叫びを漏らした瞬間。
「チィィ――!」
一夏は愛刀を回転させて攻撃を巻き込み、逸らし、弾き。
同時に上体を半身にして避け、捌き、受け流す。
そのまま横に回転しつつ攻撃を切り払い、独楽のように回転しながら後退。傷一つ負わず、緻密に計算された連撃の嵐から抜け出して見せた。
「――今のを、無傷、で……!?」
セシリアは愕然とした声を漏らした。
(端から見ていて――あのタイミング、あの位置取りで、あの攻撃を捌くことなんて不可能のはず! ですが一夏さんは無傷! 感覚的に予期していたとでも……!?)
(今、の、どうやって避けた……!? 一夏の動きが読めない! 少なくとも楽に勝てる感覚派とは全然違う!)
思わず言葉を失うセシリア。動揺は同じものを、同じ理論派として見ていたシャルルも共通していた。
しかし。
(――――今の、何?)
一夏と同じ感覚派であり、代表候補生としては屈指であるはずの鈴でさえ、両眼を見開いて驚愕していた。
(感覚派を潰すための攻撃、だった。瞬発的な反応だけじゃ、
全員が表情を凍り付かせる。
今の攻防は、明らかに何かがおかしかった。
そして。
渦中にいるラウラこそが、それを正確に感じていた。
(
ここに来て。
ラウラ・ボーデヴィッヒは間違いなく――眼前の打倒すべき敵に、戦慄を抱いていた。
(間違いなく読み切っていた! 私が待ち構えていることを計算し、波状攻撃を読み取り、読み解き、回避ルートを一瞬で構築し、それを自分の身体に伝達していた!
他愛ない、という評価を改めざるを得ない。
「きさ、まは――」
「どうしたよ……気を抜いてたら、この刃はあんたに届くぞ、ラウラ・ボーデヴィッヒ……ッ!」
一夏の両眼は常に焔を噴き上げている。
ありえないとラウラは頭を振った。自分が負けることなどありえない。過去の自分を肯定するような弱者に、負けるはずがない。負けるわけにはいかない。
プログラムが稼働し、思考回路を純化させる。敵を粉砕しろ。一方的な暴力で相手を殺戮しろ。
ラウラの深紅の瞳に、再度絶対零度の殺意が注ぎ込まれた。
「私は――貴様などに、負けない……殺す、殺す、殺す殺す殺すッ!」
「そうだ、それでいい……俺はあんたを倒す……!」
両者の視線が交錯し。
再度、爆音のような加速音が重なった。
(あーさっき反撃まで組み込めなかったのは減点だなー)
せり出したピットの上から戦場を俯瞰する東雲は、そんな無体なことを考えていた。
どう考えてもルーキーとしては破格の、代表候補生ですら驚嘆する反応だったのだが、師匠としては不服らしい。
(そこはこう……今あったじゃん間隙が。一発……いや、二発はおりむーでも打ち込めたはずでしょー?)
打ち込めねえよ。
(まあ進歩を感じるのは確かだから、いいことだね。あとでいっぱい褒めてあげよう! おりむーが成長していて当方も鼻が高いよ。なでなでしてあげるとかでいいかな……いや……待てよ……これ、なでなでを返してもらえるかもしれないのでは!? ウヒョッグヘヘヘヘ、テンション上がってきた……!)
後方師匠面の東雲令は弟子を褒めるという行為に対価を求めていた。
「……令」
足音が響いた。
更識簪が、自分にも何かできないかとピットに来たのだ。
しかし簪は、一夏を見守る真摯な表情を見て小さく頷く。彼女もまた、東雲の隣で見守ることを選択した。
できればそいつの頭をぶん殴ってほしいところである。
OPEN COMBAT「ご無沙汰しております(悶絶調教師)」
次回
29.唯一の男性操縦者VSドイツ代表候補生(後編)