意味深な事ばっかり言ってたら1000年後の未来に跳ぶ100人の英傑に選ばれた男


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作:まだ早い
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2話:序盤の強敵を嬲る系ヒロイン


 

【悲報】

 

 記憶が消されないまま1000年後の新世界に来てしまった件について。

 

「……さて、どうするか……」

 

 僕は1人、森で黄昏れていた。

 

 記憶消去は魔法陣自体に込められた機能ではなく外付け機能だから、呼び起こすために魔法陣に入る前に一定の手順が必要。

 うん。考え事に耽りながら入ったせいで完全にすっぽかしていた。

 

 他の英傑に対してはアリスがそれをするのを横目で見ていたんだけど、何も考えずに眺めているだけだったから、いざ自分となったら忘れてしまったのだ。

 

 ──僕を最後に残したアリスが悪いな! 

 

 こうして今は亡きアリスに責任転嫁をした。

 本人も、自分が死んだ後に誰が何をしようと知った事ではないと言っていたからいいよね(良くない)。

 

 それに考えてみると、僕だけが記憶を持っているという事は……

 存分に意味深ムーブが出来るじゃん! 

 やったね!! 

 

 

 ──それはさておき。

 1000年前の事なんてもう僕以外誰も知らないんだからどうでも良い(良くない)。

 それよりも今は眼前の状況について考えなければならないだろう。

 

 

 森。

 

 

 見渡す限り、森が広がっている。

 僕が居た建物は影も形もなくなっている。

 1000年経っているというのと、僕たちが魔法陣に入ってから暫く後に自壊するように設定していたのが理由だろう。

 

 可能な限り、新世界には旧世界の残骸を持ち込まない。

 それが王様たちが掲げた理念であり『選ばれない』事によって暴動を起こすであろう人々の数を少しでも減らす為の施策だった。

 

 とにかく、こうして何の防護策もなく元気に外に出る事が出来ているというのは感動的な話ではあるが、さりとていつまでも座っていたら倒木さんが泣いてしまう。

 

「とりあえず、アリスを探すか……」

 

 僕が覚醒した時、アリスの姿はなかった。

 英傑は全員同時に起きるように調整されている筈だが、まあ術の効果時間が1000年あるからね。誤差は流石にあって然るべきなのだろう。

 

 僕が早く起きたのか、アリスが早く起きたのか不明だけど、前者ならまた戻れば良いだけだし、これ以上この場にいてもあまり意味はなさそうだし……何より、今は新たな肉体で外を大っぴらに歩けるという素晴らしい状況なのだから。

 

 僕の肉体は3賢者から事前に説明された調整通りに若返っている。

 歳の頃は20前後といった所だろう。瑞々しさを感じ、どこまでも歩いていけるのではという錯覚を覚えるくらいだ。

 神様の呪いも年月によって無事に消滅しているようだし……うん。賢者たちの予測は正しかったらしい。

 

 というわけで。

 

 今の場所にまた戻って来れるようにマーキングしてから少し歩こうとした所。

 

 ドガアァァ! 

 

 ……凄い音がしたので、そちらに向かう事にした。

 何故かというと、僕にはこの自然豊かで美しい新世界で早々にそれを成すような極めて暴力的な非常識人に心当たりがあるからだ。

 そうして。

 

 

「あら? 再生が遅くなってきたわね。もう限界なのかしら? つまらないわね……」

 

 

 予想通り、魔法をぶっ放していたアリスが居た……のは良いんだけど、彼女は何故かとても良い笑顔をしながら、なんか山羊の角と蹄を持ち、背には黒く巨大な羽を付けた凶悪そうな顔をした生物。

 ……つまり悪魔っぽい謎生物をボコボコにしながらめちゃくちゃに煽り散らかしていた。

 

 ええ……何この状況……(ドン引き)。

 

 あの悪魔っぽい生物は一体何なのだろうか? 僕が知る限りあんなのが居たという心当たりはない。

 新世界計画が行われているこの島は世界で一番平和な島──エデンと呼ばれている島だったはずなのだが。

 僕たち100人が寝ている間に生まれた生物なのだろうか? 

 

 というか、あの悪魔(?)やたら強そうじゃないか? 

 アリスは笑いながらボコボコにしているが、僕が1対1で戦ったら普通に負けるかもしれない。

 加えて、どうやら再生能力もあるらしいし……アリスが戦う前に会う事がなくて本当に良かった。

 

『ギ……ギィ……』

 

 苦しそうな声を上げる悪魔(?)。

 可哀想に。

 本来なら新世界最初の強敵としてもっと活躍出来ただろうに、出会ったのが旧世界最高の魔法使いだったせいで、そんな哀れな姿を……

 

「ふん……私に襲いかかって来た時の威勢はどこに行ったのかしら? もう少しこの力を色々と試してみたかったのだけれど……仕方ないか。じゃあ、死になさい」

 

 バチバチバチィ! 

 

『ギャアアァァ……』

 

 アリスが止めの雷魔法を放って悪魔(?)の身体を炭にした。

 あの様子からして、どうやら彼女は記憶をちゃんと失っていそうだけども……それでこの強さ(と暴力性)か。やはり大した奴だ。

 ナチュラルに無詠唱魔法使ってるし。

 

 ──うん。そろそろかな。

 

「相変わらずだな、アリス」

 

 僕は機を見計らって彼女の前に現れる。

 アリスも僕と同様に若返っていて、初めて会った時を思い起こさせるとても綺麗な姿をしていた。

 燻み一つない銀の長髪に薄青色の大きな瞳。均整の取れた顔の各パーツにとても長い足、細身の身体に大きな胸。

 かつて見た目で世界を支配しかけた『銀の暗黒女帝』と瓜二つの正しく傾城傾国の美貌である。

 

「ん? アリス? それ、もしかして私の名前?」

 

 さっき考えた通り、アリスは記憶をきちんと失っているらしい。

 

 ──ならば、今の僕の出方は彼女からすればかなり意味深に見えた筈だ。

 内心でかなり満足しながら。

 

「ああ。君の名前はアリスリーゼ。通称アリスだ」

 

「ふうん……その物言い。どうやらあなたは私が記憶を失っている事を知っているようね?」

 

 理解力と判断力が高すぎる。

 確かに、本来ならば彼女自身が1番知っているはずの名前をこうして僕が教えるというのは、僕が相手に記憶がない事を確信している事が前提になるだろう。

 それにしたって……相変わらず凄い胆力である。

 

 というか、先程は言及しなかったけどどうやらアリスは僕が彼女と悪魔(?)の戦いを見ている事に気付いていたようだ。

 まあ、彼女の実力からすれば当然かもしれないけど……本当に記憶、ないんですよね? 

 

「相変わらず、判断が早いな」

 

「そしてあなたと私は知り合い、と。どうやらそれなりに仲が良かったみたいだけれど……こんなに怪しい人と私は仲良くしていたのかしら?」

 

 いや、昔もそうだったけど本当に頭が良いな。

 記憶を失って混乱しているだろうに、なんでこんなに冷静なの? 

 

 せっかく僕にだけ記憶があるんだから、それを利用して情報を小出しにし、意味深ムーブしようと思っていたんだけど。

 このままだと一瞬で暴かれてしまうじゃないか……! 

 

「フッ……怪しいか。かつての君にも似たような事を言われていた」

 

「いや、だって……見た目と言動が……ううん。とりあえず、あなたの名前は?」

 

「失礼した。私の名はフェルナンドだ」

 

 僕は眼帯をカッコ良く触りながら自分の名前を名乗る。

 名乗っておいてあれだが、旧世界において、僕は基本的に自分の名前で呼ばれていなかった。

 僕にはアリスや他の英傑と同様に異名あるいは二つ名があり、そして大体の場合はそちらで呼ばれていたのである。あの名前は意味深でカッコ良かったから気に入っていた。

 

 そのため旧世界にて僕に対して名前で話しかけてくるのは、アリス含めたごく一部くらいの物だったのだが、さりとて自分であの異名を名乗るのはカッコ悪いからね。

 

「ふーん、わかったわ。よろしくね。それで、これから私は何をすれば良いのかしら?」

 

「……随分と話が早い事だ。悪くない事だが、私が君を騙す可能性は考慮しないのか?」

 

 というか話が早すぎて、アリスの物分かりがあまりにも良すぎて僕の方が付いていけていない。

 普通、もう少し色々聞きたがる物なんじゃないの? 

 或いは、僕に対してお前が黒幕か! みたいに襲いかかったり……はしないか。アリスはそこまで馬鹿ではないと僕は知っている。

 

「仮にそうだとしても、他にやる事もないし。このまま森であても無く亡霊みたいに彷徨うよりはマシよ」

 

「フッ……流石だな。それでこそ旧世界最高の魔法使いだ」

 

「……また意味深な事を……まあ、いいわ。あと、さっきからそこでコソコソしているあなたはどうするの?」

 

 ん? 誰か居るの? 

 全く気付かなかった。

 とはいえ、それを表に出しては意味深さが皆無な男になってしまう。

 僕は如何にも僕も気付いていましたよ感を出しながら、アリスが見つめている方角をゆっくり見てみると。

 

 

「ひ、ひいぃ! こ、殺さないでください!!」

 

 

 めちゃくちゃビビり散らかした様子の、15歳くらいで整った顔をした金髪の少年の姿があった。

 

 ──へぇ……『彼』の全盛期はこれくらいの年齢の時だったのか。

 それは中々……いやかなり面白い話だ。

 

「いや、別に危害を加えて来ない人間は殺さないわよ……」

 

 うん。

 つまり危害を加えてくる人外は殺すという事だね。

 まあ僕でもそうするけど。

 ただ、彼女はそれだけでなく笑いながら嬲ってたから、記憶を失っても流石はアリスという感じだ。

 

「は、発言から醸し出されるバイオレンスな雰囲気……! ──あ、あの!! 実はぼくも記憶を失っていて……!」

 

「へえ……そうなの? ……あなたは彼の事は知っている?」

 

 アリスは記憶を失った少年の言葉を聞き、僕の方を見つめてくる。

 うーん。何か色々考えた上での発言っぽいけど。

 

「ああ、勿論だ。この新世界計画の参加者の名前は全て把握している」

 

「……あなたは意味深な事を言わないと気が済まないのかしら? 退屈しなさそうでいいのだけれど」

 

 ふっふっふ……それが僕の生き甲斐さ。

 どうやら思惑通り、こうして何気なく情報を出す意味深な男ムーブはばっちり成功しているようだ。

 

「新世界計画に旧世界……あ、すみません! お二人の話を盗み聞きする形になってしまって……!!」

 

「別に構わないわ。この人もあなたの存在には気付いていたようだから、敢えて聞かせたのでしょうし……私からしても情報が増えたから」

 

 僕の事をジト目で軽く睨みながら呆れたように言うアリス。

 新世界でも記憶を失っても君はこんな感じなんだね。有難い限りだ。

 ただ。

 

「そうですね……フェルナンドさんの口振りから推測する限り、どうやら僕たち以外にも同じ状況下に何人かは居そうですし……」

 

 はい賢い人増えちゃった。

 まあ彼は旧世界において、かなりの頭脳派で名を馳せていたから仕方ないのかもしれないけど。

 

「つまり、私たちの目下の行動としては、その『参加者』と合流する……でいいのかしら? それとも私たちは何か競い合う関係……いえ、そうだとしたら色々と言わないか」

 

「……アリスさん、さっきから思いましたが、非常に頭が良いですよね。その圧倒的な強さに判断能力。フェルナンドさんもどう見ても只者ではないですし……という事は……」

 

 僕は何も言っていないのに勝手に考察を進めまくる2人。

 まずい! このままだと僕の存在意義がなくなってしまう!! 

 

「フッ……2人とも、相変わらずで何よりだ。ただ、私としては早く先に進む事を推奨するがな。……ここから最も近い参加者は北西の方角に1人居るはずだ。移動していなければ、の話だが」

 

「ああ、そういう事……なら、行きましょうか。どうあれ、人数を増やして不味い事はそうそう無いでしょうし」

 

 繰り返しにはなるけど、本当に物分かりが良すぎてびっくりする。

 参加者がどこか遠くに移動する前に早めに合流しなくていいの? みたいな意図を一瞬で汲んで、人数を増やす方針を即座に実行。

 彼女は昔からこうだったから、僕はアリスと一番長く絡んでいたのだ。

 

 でも、うーん。

 これ、僕が役に立ってしまっているな……

 まあ最初は仕方ないか。情報を持ってるのにアリスの言うようにあてもなく亡霊のように森を彷徨い歩くなんて、そんなのは意味深な男ではなく単なるアホだ。

 

「え、ぼくも一緒に行っていいんですか!?」

 

「構わないわよ。よくわからない生物が居るこの森──いえ『新世界』と言った方がいいかしら? に放置して死なれると目覚めが悪いし」

 

 うん。

 じゃあとりあえず話も済んだようだし。

 

 

「では行こうか。アリス。そして『ダークネス』」

 

 

「うん……うん?」

 

「ちょ、ちょっと待ってください! 今、少し聞き間違えてしまって……いや、まさかそんな筈はないですよね……?」

 

 僕が2人に呼びかけた途端に、怪訝な表情をするアリスと何やら焦った様子を見せるダークネス。

 一体どうしたのだろうか? 

 

「何を聞き逃したと言うのだ? 私は大した事は言っていないが」

 

「……いえ、ごめんなさい。私も聞き間違えたかもしれないから、良ければ先程あなたが言った言葉をそのまま復唱してくれないかしら?」

 

 ふむ。

 アリスもか。僕は別におかしな事は言っていないのだけれども。

 

「……『では行こうか。アリス。そしてダークネス』……で問題ないか?」

 

「嘘だっ!! ぼくがそんなカッコ悪い名前の筈がないっ!!」

 

「……ご、ごめんなさい。笑っちゃいけないわよね、人の名前で。……でも……ふ、ふふっ」

 

「そこは我慢しきってよ! フェルナンドさんも、絶対わざとやってるでしょ!?」

 

 

 ──こうして、僕とアリスとダークネスの3人は他の英傑を求めて新世界を旅立つ事になった。

 

 しかし……ふむ。

 この2人、何のしがらみもない状況ならばこんなにも愉快な性格をしていたのか。

 特に旧世界におけるダークネスは……うん。

 偶然とはいえ、記憶を失わないで本当に良かったよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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