選択的夫婦別姓の法制化を提言した経団連の担当者でソーシャル・コミュニケーション本部統括主幹、大山みこ氏との主な一問一答は次の通り。
先方の対応が悪いだけでは?
――旧姓の通称使用でも残るビジネス上のリスクとは
「海外渡航時の身分証明書の確認だ。空港でも民間施設でもチェックが厳しい。日本のパスポートは旧姓を括弧で併記できるが、海外では疑問に思われ足止めされることがある。20、30分通してもらえないと商談の機会を失うかもしれない。私も海外で仲間が引き留められる経験をした」
――パスポートのICチップにデータが入っている
「ICチップは戸籍上の名前しか入らない。航空券の予約や査証(ビザ)の発行も戸籍姓だ」
――すべて同じ戸籍姓なのだから身分証明でトラブルがあるとは思えないが
「いろいろなやり取りが入管とある。実際にそういう事例が寄せられている」
――民間企業なら、事前に相手方に事情を伝えておけばいいのでは
「それはわれわれも嫌というほど経験してきた。事前に『これがリーガルネーム(戸籍名)、こちらがビジネスネーム』と資料を渡して伝えていてもトラブルがある」
――それは先方の対応が悪いだけでは
「いろいろな国がある。そもそも日本の制度が特殊。ほかの国は別姓ですから」
――これが日本のシステムだと伝えればよい
「言いたいことはわかるが、行く先々で対応にばらつきがある。それがリスク。女性役員だけが入るのを止められたら、何のために行ったのかとなる」
――施設に入れないことはないのでは
「相当待たせられる。ホワイトハウスではこの前30分待たせられた」
――ホワイトハウスは日本の記者団でも時間がかかる
「理解にはどこでも時間がかかるという例だ。パスポートもあくまで1つの例で、そこが解決すればいいのではない。最終的にはアイデンティティーや価値観の問題でもある」
経団連が働きかければよいのでは?
――他に弊害は
「アンケートで多かったのが、ビジネスネームで銀行口座やクレジットカードを作れなかったケースだ。セキュリティーの面で厳格な運用があるので、通称使用の拡大で利便性を高めても解決しない」
――令和4年のアンケートでは銀行の約7割、信用金庫の約6割が旧姓による口座開設と既存口座の旧姓名義による取引を認めている。信用組合は1割超だが、経団連が働きかければよいのでは
「不正防止は企業の責任であり、厳格な運用は当然だ。経団連が言って簡単に変わる話ではない。政府が旧姓で大丈夫だと政策として担保すべき。システム改修のコストも必要だ」
――ビジネス上のリスクや不便の解消と、アイデンティティーを守ることのどちらを重視しているのか。経団連の提言ということを踏まえてうかがいたい
「両方必要だ。ビジネス上のトラブルの延長にアイデンティティーの問題が入ってくる」
――例えば
「株主総会の招集通知は戸籍名の下にビジネス使用の姓が括弧書きで書かれる。別の例では、女性役員は取締役候補の名簿に注釈で戸籍姓を記載せねばならない。プライバシーの問題もある。がんばって積み上げてきたキャリアで、名前も大切なものなのに括弧書きにされてしまう。不便さだけでなくアイデンティティーの問題だ。旧姓使用の拡大だけでは解決しない部分と言える」
最近の世論調査をどう考える?
――選択的夫婦別姓にした場合、家族という単位をどう考えるか。個人のアイデンティティーが優先されるべきか
「家族が同じ名字であることを大切にされる方がいるのはわかるし、その考え方はリスペクトする。ただ、少子化の中で家名存続のために事実婚を選ぶこともある。自分の利益のためだけに名字を残したいわけではない」
――子供の姓をどう考えるか
「それぞれの家庭で違う。姓が一緒でなければ子供の利益を守れないとは思わない方もいる。離婚や国際結婚の方が子供の利益を考えていないわけではない。多様な価値観があり意見があって、それを尊重できる、その選択肢を増やすことが重要だ」
――選択をしない人がいてもいい
「もちろん。ただ、日本はマイノリティーの声に応える方向にあるべきだと思う。そういう意味で、夫婦別姓制度は一つの試金石だ。日本が多様な価値観を力にする社会になるのかが問われている。提言のタイトルも『選択肢のある社会の実現を目指して』とした」
――法改正が試金石…
「これから結婚する若い世代とは夫婦別姓がよく話題になる。若い人たちにとっても選択肢を増やす必要があると考えている」
――婚姻後は夫婦は同姓になると定めた民法750条をどう考えるか
「違憲ではないというのが最高裁の判決だが、われわれが重視しているのは、社会のあり方に関わるものは政治が決めると書かれている点だ。平成8年の法制審議会答申から30年近く経つ。早く政治に答えを出してほしいということだ」
――社会的コンセンサスが難しいから30年かかったのではないか。最近の世論調査では、賛成か反対かの二択ではなく、旧姓使用の拡大も入れた三択になったことで旧姓使用拡大が支持されている
「どの回答をみても一定数は選択的夫婦別姓がいいという声がある。この声に真摯に向き合う必要がある」(聞き手 特任編集長 田北真樹子)
大山みこ氏「商機失う恐れ」「ホワイトハウスで30分待たされた」