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謎の罵倒語「ジンゴキレア」の意味

ジンゴキレア、という言葉がある。

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さくらももこ『ちびまる子ちゃん』2巻,42p

さくらももこの漫画『ちびまる子ちゃん』、2巻のおまけページで紹介された言葉だ。

さて みなさんは『ジンゴキレア』ということばを果たして御存知であろうか。これは私が小学校4年生のときの国語の教科書にでてきた言葉である。
この『ジンゴキレア』とは、『おじいさん』を罵倒した言い方で、たとえば『なんでぇ、このクソジジイ』などという場合には、『なんでぇ このジンゴキレア』という使い方をするのである。
(中略)
それにしても『ジンゴキレア』なんてそれ以来いちども本に出てきたことはないし、辞書にものっていないし、ましてやそんな言葉を使っている人などお目にかかったことはない。
(中略)
この言葉を覚えた時、ためしにうちのじいさんに『ジンゴキレア』とののしってみたのだが『おやおや、この子はむずかしい言葉を使うよこりゃ』などと感心されたものである。

さくらももこ『ちびまる子ちゃん』2巻,42p

さくらももこ曰く、ジンゴキレアとは

・小学4年生のときの国語の教科書に出てきた言葉
・おじいさんを罵倒した言い方
・極めてマイナーな言葉である

らしい。

これを読んだ当初、私も「ジンゴキレア」が何なのか気になり、個人的に辞書をひいて調べてみたりしたのだが、結局よくわからないままだった。

改めてネットで調べても「昔ちびまる子ちゃんで読んだけど正体がわからない」という内容のページがいくつか引っかかるだけで、詳細を教えてくれる人はいなかった。

大ベストセラーの『ちびまる子ちゃん』なのだから、何百万人もの人が読んだはずなのに、ここまで知られていないと思うと不思議だ。

それとも、存在しない言葉なのだろうか?

今回、その詳細をようやく突き止めることができたので報告する。

■「ジンゴキレア」は何語なのか。


そもそも、ジンゴキレアとはどこの国の言葉なのだろうか。

語感的には「jingokilea」のような外国語のようにも感じられるし、日本語のようにも思える。

しかし、よく考えてみればジンゴキレアは「小4の国語の教科書に載っていた」のである。ここにヒントがあるのではないか。

それがたとえば海外の罵倒語だったとして、翻訳せずに原語のまま載せたりするだろうか。そう考えると、ジンゴキレアは日本語のような気がする。

また、教科書に罵倒語が載っている、というのも考えてみれば妙だ。

こういった荒々しい言葉遣いが許されるのは、原典に忠実に掲載される小説だろうか。馴染みのない、古めかしい響きの言葉も加味すると、古典作品かもしれない。

■教科書を特定したい

そもそも、さくらももこが使っていた教科書を特定することができれば解決しそうな問題である。

さくらももこの出身小学校は静岡市立清水入江小学校だが、さすがに50年前の教科書まで記録されているかは怪しいので、直接問い合わせたりするのはちょっとためらう。

さくらももこは1965年(昭和40年)の5月8日生まれ。

小学4年生のときは、1975年である。その頃の国語教科書を総当たりすれば見つかるかもしれない。


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もしかしたら載ってるかも、と思ってネットで手に入る1970年代の国語教科書を購入してみたのだが、載っていなかった。


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確認作業中にジジイが登場すると「これか!?」と眠気がさめる「ジジイ・リーチ」現象が頻発する。教科書には案外ジジイがいっぱい出てくる。

教科書出版社はいくつもあるわけで、その中でさくらももこが使用していた教科書に偶然行き当たる確率は低そうだ。


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そんなときの強い味方が江東区にある「教科書図書館」だ。戦前から現代までの図書館を13万点以上保管されている。

入館してみると、時代別に整然と並ぶ教科書は圧巻だった。国語教科書だけで10社くらいあるため、確認するべき資料も多い。

しかし、数十冊を流し読みしながら確認したが「ジンゴキレア」は見つからなかった。


■検索の方法を変えてみる

ここでふと「ジンゴキレアは『1単語』なのか?」と気づく。

もしかしたら複合語かもしれない。だとしたら辞書に載っていないのも当然だ。

たとえば
ジン・ゴキレア
ジンゴ・キレア
ジンゴキ・レア

とか。この中だとありそうなのは「ジンゴ・キレア」だ。

これまでは検索するときも「ジンゴキレア」でくくっていたが、「"ジンゴ" "キレア"」で分けてみた。


すると、以下のブログがヒットした。

そして、そこに「爺々(ジンゴ)キレア」という表記があった!

爺々(ジンゴ)!? ジンゴが老人を意味していたのか?

このブログでは、佐々木喜善(ささききぜん)が編纂した『聴耳草紙』という民話集を取り上げている。その中に「ジンゴキレア」が登場しているようだ。

~佐々木喜善~
明治から大正にかけて活躍した民俗学者。
岩手県の遠野地方に伝わる民話を生涯で400以上蒐集し、日本民俗学に多大な貢献をした。柳田國男にも影響を与えている。
「日本のグリム」と言われている。

『聴耳草紙』では、喜善が遠野の人から直に聴いて集めた昔話を収録している。

その二十二編目にあたる「黄金(かね)の壺」に、ジンゴキレアが登場している。


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私も本を入手した。

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載っていた。

以下にあらすじを引用する。


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黄金の壺


小友村のあるところに一人のおじいさんがいた。

ある晩、おじいさんは「空から黄金が降り注ぐ」という夢を見た。翌日、庭を掘っていると壺が出てきて、開けてみると黄金が入っていた。

しかしおじいさんは「夢に見たのは空から降る黄金だから、これは自分の授かりものではないな」と言って、壺を元通りに埋めてしまった。

それを覗き見ていた隣の父が興味を持ってこっそり土を掘り返してみると、その中には毒々しいアオダイショウがウニョウニョと入っていた。

隣の父は「あのジンゴキレア」と世迷言を言って怒り、その壺を持っておじいさんの家の屋根に登り、穴を開けて壺の中身を投げつけてやった。

おじいさんが何気なく食事していると、上から何かが降ってきた。それは降り注ぐ黄金だった。

「これだ、これが夢に見た授かりものだ」と喜んだお爺さんは長者になった。


ついに記載された「ジンゴキレア」に出会うことができた。

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おまけページに描かれていたヘビにもちゃんと意味があったのだ! これに気付いたのって自分が最初だったりするんだろうか?


■「ジンゴキレア」はどんな意味か

さて、これでジンゴキレアの出典は明らかになったが、意味まではよくわからない。遠野の方言なのは確かみたいだ。

黄金の壺を知るきっかけになったブログでも、「ジンゴ」は爺さんのことだろうとアタリをつけていたが「キレア」に関しては判然としていないようだった。

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『日本方言大辞典』723p
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伊能嘉矩『遠野方言誌』31p

これについては遠野に焦点をしぼった上で辞書をひいたらすぐわかった。

「キレ」には「卑しめるようなニュアンス」があり、犬を「いぬきれ」なんて言ったりしていたようだ。

総合すると、

ジンゴキレアとは「爺んご切れが!」を勢いよく言って「ジンゴキレァ!」になった遠野の方言、ということではないかと思う。

複合語であることに加えて、語尾音が弱くなっているライブ感によって、単一のことばとして調べている限りは分からなかったわけだ。


■どの教科書に載っていたのか

しかし、さくらももこはこの「黄金の壺」をどこで読んだのだろう。

私が調べる限り、1970年代の小4の国語教科書にはなかったと思う。

しかし、量が多すぎて見落としているのかもしれない。もう一回、教科書図書館に行って調べた。

2度目の探索は楽だった。探すべきタイトルが「黄金の壺」だと確定しているから、目次を見るだけでいい。そして見つけた。

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教育出版株式会社『新版中学国語1』139p

「黄金の壺」だ。日本文化を知ろうという趣旨のチャプターで「民衆の中から」という括りで登場していた。

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教育出版株式会社『新版中学国語1』140p

「じんごキレア」も載っている。

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しっかり脚注もついている。じいさんめが。


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教育出版株式会社『新版中学国語1』

そしてこれが載っていたのは『中学国語1』であった。中学1年生向けの教科書だ。小学生向けの教科書を探しても見つからないわけだ。

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発行時期も、さくらももこの年代と一致している。

ともかく、さくらももこが目にした「ジンゴキレア」が国語教科書に載っていたのは確かである。


■なぜ小学4年生のときの国語教科書で読んだと書いたのか?

それにしても、なぜさくらももこは「小学4年生の国語教科書で読んだ」と書いたのだろうか?

それについては推測するしかないが、いくつか仮説はある。

①単純な勘違い
本当は中学1年のときに読んだのだが、記憶が曖昧で間違えたという単純な理由。ありそう。

②資料に見落としがある
小4国語にも「黄金の壺」が掲載されているのだが、資料を見落とした可能性。これも多いにありそう。

③姉の教科書を読んだ
読んだ時期は小4で確かだが、読んだ本が中1国語だった、という可能性。
そんなことあるか? と思うかもしれないが、

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アニメなどでもおなじみのさくらももこの姉はちょうど学年が3つ上。つまり中1なのだ。
姉伝いに教科書を読んでいたり、姉から教わったりしていても不思議ではない。

ただしこの説の場合は、さくらももこが小学4年生の時点で「黄金の壺」が掲載された教科書が出版されていなければならないので、今回入手した資料の奥付と矛盾が生じてしまう。だが、教科書掲載の教材は年をまたいで同じものを採用することも多いので、ありえなくはないと思って一応残した。


■まとめ:ジンゴキレアは実在の言葉だった

まとめると、

・ジンゴキレアは老人を罵倒する遠野の方言
・佐々木喜善の『聴耳草紙』二十二の「黄金の壺」に登場する
・「黄金の壺」は、昭和53年の『新版中学国語1』に掲載されていて、この年はさくらももこが中学1年生だった

ということになる。

不明な点もあるが、この言葉の正体は長らく謎だったのでスッキリしている。

特にネットでは「さくら先生はエピソードに脚色することも多かったから、これも創作なんじゃないか」というような証言もあったので、かなり記述に忠実な形で実在していたことがうれしい。

これがジンゴキレア研究に寄与できていれば幸いだ。

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コメント

6
もちもち
もちもち

素敵な知識をありがとうございました。動画もとても見やすくて凝っていて面白かったです。” これに気付いたのって自分が最初だったりするんだろうか?” この言葉のように、ウロマガの文章から時々、先生の「一番乗りになりたい」みたいな気持ちを感じることがあります。自分の得ている経験や知識、それによって固まった思考や嗜好の外側に行きたがる姿勢がとても好きです。

豆腐
豆腐

今日の動画素晴らしかったです!
ジンゴキレアはさくら先生の記憶違いが生み出した幻だと自分の中で結論づけていました。
トロイの実在を証明したシュリーマンのようで感動しました

金曜ノネズミ
金曜ノネズミ

岩手県のなまりの強い気仙地域出身の者です。
おばあちゃんのことを、「バーゴ」と言ってたのは聞いたことありますよ。しかも悪口。
「バガバーゴ」←くそばばあ的な意味。

松島恵利子
松島恵利子

圧倒的なリサーチ力。品田さまの力をもってすれば、徳川埋蔵金発見も夢でない気がしました。仲間たちにもこちらの情報を共有したいと思います。ありがとうございました。

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謎の罵倒語「ジンゴキレア」の意味|品田遊(ダ・ヴィンチ・恐山)
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