第3回フジ幹部が会合に「喜び組呼べ」 全社で蔓延していたセクハラ被害

伊木緑 黒田早織

 フジテレビの問題をめぐる第三者委員会が3月31日に公表した報告書は、性暴力を生んだ企業風土として、全社的にハラスメント被害が蔓延(まんえん)していたと指摘した。元となったのは、第三者委が2月にフジの役職員1263人を対象に実施したアンケートやホットラインなどだった。

 「一般常識からかけ離れた実態にショックを受けられた方は少なくないかもしれないが、書いてあったことは我々にすると『日常』。驚くような内容ではない」

 フジのある元アナウンサーは、報告書を読んで、そう思った。

 自身も現役時代、フジの営業担当者からスポンサーへの接待の場に呼ばれることが何度かあり、出席者の体を触らされるといったセクハラ被害にあったという。

 「盛り上げることについてはこちらはプロ。セクハラもかわして、笑いに変えてこそアナウンサーだった」

 「これが当たり前」と思ってきたが、自分たちがそうやって耐えてきたことが、ハラスメントを容認する社風が続いてしまった要因になったかもしれないと感じ、「若い人たちに申し訳ないという思いがある」。

タレントとのパイプ、社内競争の「武器」に

 第三者委のアンケートで、番組出演者や制作会社、スポンサーといった取引先との会合に「他の役職員から指示を受け、自分の意思に反して参加を強要された」ことがあるかの問いに、「ある」と回答したのは有効回答の9.7%。アナウンス室の女性は24.1%と、突出して高かった。

 自由回答には、番組出演者などとの会合に女性社員や女性アナウンサーを連れて行ったのを見聞きした、という声が多数あった。

 「喜び組でも呼んどけ」。部長クラスの社員が若手女性社員を芸能プロダクションのトップとの会合に連れて行くという意味でそう言っていた、との声も寄せられた。「女性は男性の隣に座り、お酌をするのが仕事。それがスマートにできない女性は仕事を評価されないという文化、人事権を有する者に絶対服従しないといけない風潮がある」という記述も。

 会合におけるセクハラ被害の報告は118件にのぼった。「番組出演者から身体を触られた、ホテルに誘われた」「スポンサーから肉体関係を求められた」といった声のほか、被害を受けたあとも「役員、上司などの同席者が守ってくれなかった」「上司に相談しても自分で対処しろ、お前が悪いと言われた」といった訴えがあった。

 報告書は「セクハラ行為を伴う飲み会」について「特にバラエティ制作局において顕著であった」とした。さらに、反町理元取締役の後輩女性2人に対するハラスメントや、石原正人元常務の関連会社の女性へのセクハラも認定。フジはハラスメントを把握した後も反町氏を懲戒処分にせずに昇進させており、第三者委は、フジに相談しても無駄と思わせる結果になっているといった意見が寄せられたことを踏まえ、「フジの対応が社員に与えた負の影響は大きい」と批判した。

 フジはテレビ局の中でも、タレントや芸能プロダクションを重視する風潮が強いとされる。報告書は、港浩一・前社長やフジ専務だった大多亮・関西テレビ社長が、芸能プロダクションや男性の番組出演者との会合に女性アナウンサーを同席させることが常態化していた、とも指摘している。

 長年バラエティー番組を中心にフジとの関係が深い制作会社の社長は、「テレビ局で制作や編成に携われるのは一握り。そこに残るには『あいつはあのタレントとパイプがある』みたいなことが競争の武器になる。有名人と仲良くできて楽しいという浮かれ心もある。ビジネスとミーハー心、合わさると、タレントを満足させたいと過剰なことをしてしまうのだろう」と話す。

 1990年代にフジテレビに勤務していたドキュメンタリー監督の大島新さんは同社を4年ほどで退職した。理由の一つは「ノリや明るさが合わなかったから」だ。「ノリの良さを身につけていないとうまく立ち回れないのかな、と思った」

 フジのバラエティー番組を見ていると「こんなこと、今の時代に言っていいの?」というような発言がよくある、という。「本人の人権意識が低いのはもちろん、起用している制作側の問題も大きい。『ノリ』以前に、今の価値観に追いついていない」

 さらに、「大物MC(司会者)を特別視する、腫れ物に触るように扱うという雰囲気」があったと指摘する。「大物タレントに権力があるというより、まずは視聴率に権力があり、そしてその視聴率を担保できると思われている人に権力が集まるという構造がある」と話す。

バラエティ制作局に顕著だった「不適切な会合」

 報告書は「全社的にハラスメント被害が蔓延していた」理由として、こう結論づけた。「(フジにおいて)培われた誤った認識、対応が被害者によるハラスメント被害申告をためらわせ、ハラスメントの適切な対処がなされず、結果としてさらに被害が生じるという負の連鎖が繰り返されてきたからだと考えられる」

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この記事を書いた人
伊木緑
東京社会部
専門・関心分野
ジェンダー、メディア、スポーツ
黒田早織
東京社会部|東京地裁・高裁担当
専門・関心分野
司法、在日外国人、ジェンダー、精神医療・ケア
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    松谷創一郎
    (ジャーナリスト)
    2025年4月4日23時14分 投稿
    【解説】

    1980年代前半に「女子アナ」を芸能人かのように積極的にプッシュし、局の大きな魅力として位置づけたのはフジテレビでした。今回の一連の問題から明らかになったのは、そうした女性アナウンサーの扱いのひどさです。 ただ私が考えるのは、本当にこの問題はフジテレビだけに限定されるものなのかということです。 たとえば、フジテレビに倣って「女子アナ」をアイドル的にプッシュし、90年代前半にアイドルグループ・DORAまで結成して売り出したのは日本テレビでした。メンバーのひとりだった永井美奈子さんは、5年前のインタビューで「下積みを経てやっと情報番組やレギュラー番組も持てたのに、なぜミニスカ穿いて歌って踊らないといけないのかと初めて部長に抗議した」と話しています(『NEWSポストセブン』2020年7月8日)。 その日本テレビは、2014年に翌年度にアナウンサーとして入社予定だった大学生がホステスのアルバイトをしていたことを理由に内定を取り消したことがありました。大学生は提訴し、最終的には日テレと和解して女性は入社しました。 またテレビ朝日では、1999年に女性アナウンサーが学生時代に風俗の仕事をしていたと週刊誌に報じられ、女性が名誉毀損で提訴して2001年にその記事が完全な事実無根と認定されたことがあります。しかし彼女はその後社会部に異動となりました。これが本人の本意だったかどうかはわかりません。 なんにせよ、民放における女性アナウンサーの扱いに不自然さを感じることが少なくありません。 先日の会見でフジテレビの清水社長も話していたとおり、アナウンサーは特殊な立場にあるのかもしれません。しかし、そのときに重要なのは、社員のアナウンサーであろうが、外部のアナウンサーであろうが、アイドルであろうが、その人権はちゃんと守られなければならないということです。 ただし本当に特殊な立場であるならば、そもそも待遇も特別であるべきではないでしょうか。社員とタレントの両方の側面を持っていることに、これまでのテレビ業界はあまりにも無頓着であったように思えます。

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    安田峰俊
    (ルポライター)
    2025年4月5日3時2分 投稿
    【視点】

    朝日新聞のフジテレビ関連報道、「本気」が伝わってきて、非常に興味深く拝読しています。 近年、電通や宝塚のパワハラ問題、統一教会問題、ジャニーズ性加害問題、フジテレビ問題と、平成中期までの時代では絶対に表沙汰にならなかったタブーの蓋が次々と開いていて、時代の変化を感じています。個人的には、これらの件はいずれも根の性質が同じものと感じるので「平成大人の事情タブー」と総称しましょう。 一方、(これは"朝日新聞が"ではなく特に民放報道に顕著ですが)マスメディアの「大人の事情」報道には、かえって人々のメディア不審を強めるものも少なくないと感じています。 ・統一教会と安倍晋三氏&自民党がズブズブなんて、2ちゃんねらーや『やや日刊カルト新聞』読者は2010年ごろから知っていた話です。 ・アイドル事務所の経営者によるタレントへの性暴力や民放テレビ局等の桃色接待の横行も、もはや何十年も前から、芸能界と一切無関係な一般人でも普通に噂レベルで知っている「影の常識」だったはずです。 ・大手広告会社のパワハラ気質なんて、もはや常識以前の話でしょう これらについて、特にテレビのワイドショーなどが、さも初めて知った話のように報じたり、今回表沙汰になったのは他局だからと断罪口調で論評したりしているのを見ると、「どの口が言ってるねん」という感想が先に立ちます。 いい大人が「えーっ、パチンコって実質的に賭博なんですか⁉︎」「ソープラ⚪︎ドって内部で性交する施設なんですか⁉︎」などとわざわざ驚いてみせるような、白々しいカマトト感を覚えざるを得ません。ことここに至って、そういうことを言ってるから報道(テレビ)がいっそう信用されなくなるんやぞと。 やや話が飛躍しますが、ちかごろNHK党が躍進していたり、陰謀論系&暴露系YouTuberが流行ったりするのも、既存のマスメディアで常態化したカマトト感に対する社会の不信感のゆがんだ発露の面もあるのではないか。そんなことも思えてなりません。 この手の「大人の事情」事件に関して、追跡報道と深掘りがなされるのは非常に良いことだと思います。ただ、マスメディアに本来もう一つ求められる姿勢は、令和の現代に現在進行形でまだ存在する「大人の事情」を新規発掘して切り込むことでしょう。 たとえば、 ・本邦治安当局とあちこち(マスメディア含む)との癒着やら揉み消し圧力やらもろもろとか、 ・司法取り調べの不透明性とか、 ・国民の多くが使用する官公庁や大手JTCのウェブサービスが明らかに低クオリティで異常に操作感が悪いものばかりであることとか(投入された巨額の予算は誰がもらってるんでしょうねえ?)、 ・公的事業に食い込む変な会社(大企業多数含む)の変な商売とか、 ・国立大学が異常に貧乏になっていて世界レベルの教授が意味不明な雑務ばかりやらされていることとか、 ・凄惨な犯罪の被害者になると自分の卒業アルバムと卒業文集(個人情報)をマスメディアからアウティングされる刑に処される人権侵害がなぜ平気で横行しているのか、 とかですね。 すなわち、マスコミ関係者なら割とみんな知っているけれどあえて問題を提起・告発しないムードが強い「令和大人の事情タブー」もまた、世間にいっぱいあるわけです。 いずれも、かつての平成の時代における、電通やジャニーズやフジテレビや統一教会と同様の性質を持つ「触っちゃいけないことになってるパンドラの箱」や、「明らかに道理としておかしいが不文律的に放置されている矛盾」の数々です。 パンドラの箱は開けて、矛盾は突きましょう。すでに開いた箱をもっと調べるだけでなく、新しい箱も開けていくことが大事なはずです。

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