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治療室の扉を突然開けて入り、脇目も振らずベルくぅぅぅぅぅん、サポーターくぅぅぅぅんとしきりに泣く謎の人物。
何と声を掛けるべきか迷っていたゼクスは小声で隣に浮いているアーディに相談する。
「(こういう時、なんて声を掛ければいいんだ?)」
『こんにちは〜って普通に挨拶すればいいんじゃないかな?』
何を当たり前のことを聞いているんだろうと少し困惑してる様子を見せるアーディに、聞く相手を完全に間違えたゼクスは大人しくこちらに気付くのを待つ。
「あぁ〜っ!!君は!!!!」
叫び声にゼクスが顔を上げるとどこかの店舗の制服を着た見覚えのある低身長の女神が失礼なことに指を指し叫んでいる。
「お前は確か………」
「いっつも
「───いつも謎の紐をくっつけてる駄女神!!」
『あはははは…………』
確かに全くもってその通りの事実なのだが、仮にも超越存在に対してあんまりな言い方にさすがのアーディも苦笑をもらすしかなかった。
◆◆◆
「治療室ではお静かにお願いしまぁす♡」
少し額がぴくぴくと動きながらも、にこやかな笑みを崩さず扉を閉めて去っていく回復役を仲良く大きなタンコブを作った2人は正座して見守る。
ゼクスの『耐久』をも貫通する謎の一撃を喰らったヘスティアはよろよろと立ち上がりながら、奥の寝具で気絶したように眠っているベルの側による。
「ほんとによかったよぉ……ベルくんとサポーターくんが大怪我して運ばれて来たーって知らせが届いてね、居てもいられなくなってバイト中に飛び出してきちゃったんだ」
「ありがとう!!君はベルくんたちの命の恩人だ!!」
『うんうん。本当に無事でよかったね……!!』
涙を流す幼い女神に居心地の悪さを感じる。
純粋にこうして冒険者を救助したことに感謝されたのはいつ振りだろうか。
「俺は何もしていない。こいつが自分で冒険して、自分で打ち勝っただけだ。【ロキ・ファミリア】も俺もそこには一切関与していない」
「そっか……ベルくんはちゃんと自分で乗り越えられたんだね……」
優しくベルの傷だらけの手をそっと握りしめるその様は子を想う確かな愛が垣間見える。
「名前、聞いてもいいかい?」
「【ハデス・ファミリア】のゼクス・バーンだ。二つ名は【
「え!?あの仕事ばっかのハデスも下界に降りて来てたのかい!?ま、まぁそれはいいとして……」
「君はベルくんたちを迷宮からここまで運んできてくれたんだ。代わりと言ってはなんだけど何か恩返しできないかな?」
真っ直ぐこちらを見つめる青い瞳からは確かな感謝が伝わってくる。
とはいえ、俺がしたことは【ロキ・ファミリア】からこの2人を受け取っただけ。礼をされるような事はしていない。
さらに言えば未だ団員が2名のファミリアに重荷を背負わせるのは僅かな良心が痛む。
「そうだな……なら少しでも恩義を感じているなら、お前たちのホームの教会部分をたまにでもいいから、掃除してやってくれ。邪魔になると思って人が増えてからは掃除に行けてないからな」
「そんなことでいいのかい……???」
「あぁ……その方が恐らくあの人も喜ぶだろう」
◆◆◆
『よかったの?あの子そろそろ起きそうだったのに』
「単純に俺があの場に居たくなかっただけだ。上からの舐め回すような視線が鬱陶しくてたまらん」
あの痴女紛いの女神はいつになれば男に手を出すのをやめるのだろうか。ベルと言ったあの少年に同情を禁じ得ない。
だが厄介ごとに巻き込まれない為にも早々に離れておくに越したことはない。
もっとお話したかったなぁ……と残念がるアーディを連れて急いで治療室を後にした。
大人しく
かつてを知る古参の冒険者たちはゼクスの存在に気づくと親の仇の如く睨み付け、通り過ぎた後に聞こえないよう小声でヒソヒソと話す。
【葬儀屋】
死体に群がる蝿。
など好意的な意見からほど遠い認識がされている。
反対に冒険者の存在を疎むことが多い民衆はゼクスの存在に気づくと皆、笑顔を浮かべながら時折挨拶をしたり、直接話掛ける。
軽く言葉を返し、ゆっくりと去っていくその背中には確かな感謝と尊敬の念を向けられていた。
『やっぱり悲しいな。未だにゼクスがこんなに冒険者には嫌われちゃってるなんて』
「冒険者たちからすれば昔の俺は首突っ込んで獲物を横取りするゴミだからな。当然のことだろう」
よくある冒険者たちの結末。
救助要請でもなければ、誰かに頼まれた訳でもない。
生き残ればもしかしたら偉業を達成することもできていたかもしれない。
そんな時、横槍をいつも突っ込んできた。
恨まれて当然だ。
『ゴミなんかじゃないよ。それで救われた命だって確かに此処にあったから……』
「そうだな……確かに