カクレオンの店主ですよ!悪いモンスターじゃありません!


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作:猫ネコねこキャット
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やばい兵器を売り始めた商人と試練待ち受ける少年


 

 

「だいもんじ!」

 

 ワタシがそう叫ぶと同時にリドの口から激しい炎が大文字状に射出され、植物型のモンスターの水分なんて関係ないかのように燃やし尽くし、魔石を残して灰となった。

 

「うたう!」

 

 同様にタイミングを見極めて叫ぶとレイの天使のような美しい歌が聞こえ、目の前の虫型モンスターは戦闘中であるにもかかわらず、突然気絶したかのように意識を落としてしまう。その隙を突いて、リドが剣で首を切り飛ばした。

 

「これがキミが言っていた技マシンというものか」

「そうだよ〜」

 

 あの少年にスカーフをあげてから数日後。製作材料に見当がついたので早速ディスク状に加工して魔石をあれやこれやしてみると見事に技マシンが完成した。

 自分で試して安全性を確かめた後、この世界で自分以外にも効果があるのかの実験をどうするか考えているとゼノス達が声をかけてくれたので彼らに手伝ってもらうことになった。

 結果を言えば大成功。ワタシ以外に使うと昔のポケモンと同じように一回きりという弱点はあったが、彼らにもポケモン世界の技を使えるようになり、今まで以上に強くなった。

 

「まさかオレッちの炎が強くなるなんて…技マシンってやつは凄いな!」

「歌にこのようナ、使い方ガ、あるなんて」

 

 『だいもんじ』を覚えたリドと『うたう』を覚えたレイが驚く。無理もない。ワタシも『かげうち』が使えた時の興奮はよく覚えている。突如力を手にした感覚とは何事にも言い難いのだ。しかし調子に乗らずにその力をどのように活かしていくか話し合っているところを見るに増長からの失敗する心配はないだろう。

 

 彼らに売ったのとは別に余っている昔の技マシンもとい、技レコードを並べる。12個ほど作れたものは彼らに8個。フェルズさんに1個あげたので3個だけ残っている。このうちの一つである『フラッシュ』はワタシが使ったのに壊れなかった。しかし彼らが使えば壊れた。なぜだろうか?やはりワタシはポケモンで彼らがポケモンではないからだろう。つまり人間に売る時も一度で壊れると考えた方がいい。その辺の説明もカタログに付け加えなければいけないな。

 

「あノ、カクレオンさん」

「なんだい〜?」

 

 呼ばれたので振り向くと、どこか不安そうな顔をしたレイがいた。

 何か問題でもあったのだろうか?『うたう』の命中率かな?同じ相手を眠らせる技でも命中率の差で『きのこのほうし』や『ねむりごな』『さいみんじゅつ』に勝てなくて、唯一命中率で勝ってる『ダークホール』は全体技という唯一無二の個性があるせいで眠り状態にさせる技の中で1番弱い『うたう』だから何か不満があるのだろうか?

 

「ふつうニ、歌う時ハ、どうすれば……」

「………」

 

 ワタシの予想は外れる。

 レイが言っていることはもっともだ。アニメのポケモンでもよくプリンは普通に歌っているだけで全員を眠らせてしまっていた。そのことを考えれば、彼女も普通に歌うだけで『うたう』が発動すると考えるべき。それを完全に忘れていた。歌うのが好きな彼女に歌うなと言えるのか?否!言えるわけがない。すなわちワタシが今からすることは。

 

「……すぐに他の技マシン持ってくるね〜」

 

 この世界のシステムに則って、3つ以上技を覚えさせて『うたう』を忘れさせることだった。

 

 

 

 

 

 

「ボクはもう寝ることにするよ。ベル君もそろそろ寝るんだよ」

「はい!わかりました神様。おやすみなさい」

「おやすみ〜」

 

 そう言って暮らしている隠し部屋に戻っていく神様。静かになった夜の廃教会で僕は1人で月を眺めながら考え事をしていた。

 

「どうして僕なんだろう…」

 

 首につけたアクアブルー色のなんの変哲もないスカーフを見る。あの日、僕が自分の弱さと不甲斐なさを自覚して危険なことをしてしまった日に貰った大事なスカーフ。

 あの後ギルドでエイナさんに聞いてみても、謎が多くて手出しは厳禁とギルドでも判断に困っているほど。しかし商人として売ってくれる魔道具の効果はどれも凄まじく、購入して到達階層を更新したファミリアや五体満足で九死に一生を得た冒険者も多くいるらしい。

 そんなモンスター?人?が何かを無償で譲渡したという記録はないらしく、エイナさんはとても驚いていたけど、神様に調べてもらった限り、何の効果もない少し丈夫なだけで普通のスカーフだった。

 でも僕にとっては何の効果もないスカーフでも、つけているだけで自然と勇気が湧いてくる……気がするスカーフなんだ。

 だからこそ気になる。どうして僕にこのスカーフをくれたのか。

 

「わかったら苦労しないよな…」

 

 廃教会の長椅子に座ってため息をつく。あの人は神出鬼没。理由を聞こうにも会える機会がない。僕がリリと一緒に挑んでいるダンジョンの上層には滅多に姿を現さず、僕が見つけたのは本当に偶然。リリが予想するには襲ってきた冒険者をダンジョンの一階に転がしにきた帰りと言っていたけど本当の理由はわからない。

 日頃は中層、下層。たまに深層で商売をしているらしい。まだレベル1の僕には遠い先の話だ。遠征に行くまでの間、アイズさんに修行をつけてもらっている。その休憩中に聞いてみたら持ってきていた2つのリボンは下層と深層で商売している時に買った物だと教えてくれた。

 その効果は噂通りで『俊敏のステータスをプラス20』にする物と『自然回復力を高める』物の2つがあった。アイズさんはそれ以外にもメガネや種を買ったようで、自慢げに話す姿は可愛いと思ってしまった。でも僕に回復力を高めるリボンをつけないでください。

 そんなレベル6の一級冒険者も顧客になってしまうモンスターの商人。あの人が僕に何かを求めているからこのスカーフを渡してくれた。そう考えるのが普通なのにエイナさんやアイズさんから話を聞くたびに理由がわからなくなる。

 

 お金に執着する様子もなく純粋に商売を楽しんでいる。泥棒は絶対に許さず、1人残らず気絶させるけど、魔石やそこでの購入品が無くなる代わりに地上へ五体満足の状態で届けてくれる。実力は不明。しかしレベル5の冒険者を一撃で倒して、レベル6すら反応できない速度で動くらしい。

 そんな人が誰かに何かを求めるのだろうか?全部自分でできてしまいそうだけど。

 

「これも出会いなのかな…」

 

 おじいちゃんはダンジョンに行けば何にでも出会えるって教えてくれた。だから僕はここ、オラリオに来た。そして神様に出会って、アイズさんに出会って、商人さんに出会って、リリに出会った。

 

「そろそろ寝ようかな」

 

 明日はアイズさん達ロキファミリアが遠征に行く日。修行も無くなり、リリと一緒にダンジョンに行く日。寝不足で力が出せないなんてことになったらリリに怒られてしまう。

 

「明日からもよろしく」

 

 そう神様からもらった黒色のナイフと商人さんからもらった青いスカーフに言って僕も寝ることにした。

 

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