久々の探索の翌日、目が覚めたら頭上に神様の美しすぎる寝顔が広がっていて、しかももう少しで唇どうしが接触してしまいそうだったことに驚愕した今朝。
ソファで神様に膝枕された状態で一夜を明かしたことに興奮と申し訳なさと罪悪感とで発狂しながら、俺の奇声で目を覚ました神様に謝罪と感謝を伝えた。
神様は俺の行動に動揺していた様子だったが、最終的には穏やかな笑顔で許してくれた。流石神様、優しい好き。は?優しさだけが神様のいい所じゃないが??
なんだかんだと一、二悶着ありつつも朝の準備を終わらせ、ダンジョンへ向かっていた。
「ん?あれは……」
線が細く、小さな体に身の丈を越すほどの大きなバックパック。手持ち無沙汰に噴水で待つ姿は奇妙な儚さがありながらも、場数に裏打ちされた余裕の雰囲気も放っていた。
「やぁ、リリ」
「ズィーヤ様っ!?おはようございます!もう、お怪我は大丈夫なんですか?」
「平気平気。昨日には退院したし探索も再開しているからね」
「無事治ったようで何よりです。今日はおひとりで探索ですか?」
「あぁ、体の調整も兼ねて8階層辺りでアリと戦うつもりだよ」
「そうでしたか。……もし、よろしければなんですけど、私達と共同探索をいたしませんか?もちろん、ベル様と……まぁ、ベル様に許可をいただく必要はありますが、あの方はズィーヤ様が大好きですから、問題ないでしょう。寧ろ、誘わなかったらベル様に怒られてしまいそうです」
「はは、ベル君に好かれているとは光栄だな。今やあの子の方が俺より強いだろうに」
「そうとも限りませんよ?」
「慰めてくれてありがとうね。お世辞でも有難いよ」
レベル1と2では戦闘力に隔絶した差がある。それを抜きにしても、ベル君の成長速度なら少し追いついた程度の俺じゃ直ぐに突き放されるだろう。
いや、俺のスキルがあれば成長速度はトントンになれるか?とするなら、彼以上の場数とランクアップか……捕らぬ狸の何とやらだな。これは。
今は焦らず、堅実に、1歩ずつだ。
さて、共同探索か……昨日と同じようなアリ鍛錬はできないが、普段よりも深い階層へ行けるだろうし、深い階層で俺の力が通用しなくても普段の階層へ早く行ける。安全性もソロより高いだろう。
メリットとデメリットで考えるなら、この提案に乗っておくべきだろう。
ただなぁ……ベル君の戦いを久々に見るからなぁ……。
ダンジョンでの動揺は生存の危険、ひいてはパーティの危険に直結する。そうなると、ベル君への嫉妬で多少なりとも動揺する可能性がある以上断っておくのが無難だが……。
「……因みに、何階層まで行くつもりなんだい?」
「そうですね……11階層まで足を進めるつもりです。他パーティの進行度によっては10階層へ戻ることになるかもしれませんが、11階層以降へ行く予定はありません」
「11階層かぁ……」
悪くない。
前回の共同探索では、ミノタウロスと遭遇したせいで10階層まで行けなかったからな。10階層に加えて11階層まで行けるなら強い魔物とも多く戦えるだろう。
しかし、知識として10階層のことは知っていても、11階層はほとんど知らない。精々が出現する魔物と弱点、10階層と内装はあまり変わらないと思う言うことくらいか。
知識不足でどこまで安全に探索できるか……いくらベル君がレベル2になったとはいえ、どこまで通用するか俺には分からないからな……。
せめてもう1人いてくれたらいいんだが……。
「リリ、ベル君と君以外に誰かパーティに入っていたりしないか?」
「……います」
「そうか、やはりいな……いるのかっ?!」
「えぇ、ベル様が私に相談もなく!臨時で!加入させてしまった!鍛冶師のヴェルフ様という方がいらっしゃいます!」
「おぉ……それはまぁ、なんと言うか……」
ベル君、流石に相談しないのはどうかと思うぞ……。まぁ、リリが許容したということは悪い人ではないんだろうけどな。
何はともあれ、俺含めて4人、サポーターのリリを数に入れなくても3人なら安全マージンは十分か。
「うん、共同探索の誘い受けるよ。ただ、11階層は初見だから色々教えて貰えると嬉しいな」
「ありがとうございます!では、ベル様とヴェルフ様が来るまで、11階層について共有しておきます──」
というわけで、ベル君とヴェルフさんという方が来るまでの間、11階層の情報をリリから教えてもらう。
基本的な情報は10階層と変わらないが、魔物の出現頻度と自然武器、他パーティとのいざこざ等、これまでの上層とは一風変わった問題や状況が広がっている為、これまで以上に周囲の観察が必要らしい。
事前に知れてよかった。特に、魔物が一斉に発生する『
基本的な出現魔物は10階層のものに加えて、背中に硬い外皮を持つハードアーマード、大猿シルバーバック、希少種として小竜インファントドラゴン。
魔物に関しては少し時間を貰って慣れていくしかないな……足を引っ張ることになるが、安全のために割り切ってもらうとしよう。
「おーい、リリ!……と、ズィーヤさんっ?!!?」
一通りの情報を教えて貰い、少しだけ雑談していると元気のいいベル君の声が聞こえてきた。
「やぁ、ベル君。おはよう」
「おはようございます。ベル様」
「う、うん。おはよう……じゃなくて、なんでズィーヤさんがっ!?」
「あぁ、リリと偶然会ってね。それで、共同探索に誘われたんだけど、ベル君さえ良ければ参加させてもらっても」
「もちろん大丈夫ですっ!!」
「お、おぉ……それは、良かった……?」
凄く食い気味に言いきられた上にレベル2の脚力で目の前まで距離詰められてしまった……予想を飛び越える速さに驚くんだけど?
キラキラとした目で俺を見てくるベル君とヤレヤレと頭を振るリリの温度差に若干混乱するが……まぁ、許して貰えるなら良かった。
「お、2人とも来てたのか。……っと、そちらさんは?」
「初めまして、俺は【メガイラ・ファミリア】のズィーヤ・グリスア。2人の友人だよ」
「こりゃご丁寧にどうも。俺は【ヘファイストス・ファミリア】のヴェルフ・クロッゾだ。家名は嫌いなんでな、ヴェルフって呼んでくれ」
ふむ、クロッゾ……確か、ラキアの鍛治貴族だったか?強力な魔剣を作れた事で貴族になったが、突如打てなくなって没落したとか何とか……。
まぁ、彼の反応を見る限りあまりいい思い出はないんだろう。踏み込みすぎないのが無難だろうな。
「おい、大丈夫か?」
「あぁ、すまない。ヴェルフさんだね。よろしくお願いするよ」
「さん付けもしなくていいんだが……まぁ、今はいいか。よろしくなズィーヤ」
気のいい笑みと同時に差し出された手を握る。
硬い皮の感触と豆の柔らかさ、火傷した後だろうか?他と違ったザラザラとした感触がある。
鍛冶師ということだったが……なるほど、この手に触れればどれだけ真摯に向き合っているか、素人でも分かるというものだ。
「……いいね」
「ん?」
「いや、実は今日の探索に急遽参加させてもらう事になってね。ヴェルフもいい人のようで良かったと思ったところだ」
「お?そうだったのか。お眼鏡にかなったようで良かったぜ!今日はよろしくな!」
気安く肩を軽く叩いてくるが、嫌味な様子や馴れ馴れしさを感じない当たり。彼の人となりがある程度わかるというものだ。
「お2人とも!出発しますよ!」
「お、リリスケがお呼びだ。おう、今行く!」
先に進んでいたベル君とリリを追いかけ、急遽作られた4人パーティでの探索へと向かう。
さて、今日も頑張ろうか。
「ふっ!」
ズィーヤの振るった泥の大剣が目の前のオークの頭部を上から叩き切り、灰になる直前のオークを踏み台に空を飛ぶインプを2体両断する。
着地と同時に自然武器である棍棒を振り下ろすもう一体のオークの攻撃を立ち上がりと同時に体を捻ることで避け、捻った勢いのまま振り上げた刃で首に一閃いれる。切り落とされたオークの頭部が、ゴトリと重い音を立てて落ちる。
「『歪め』」
灰に変わるオークに目もくれず、頭上を飛ぶ小さなコウモリ──バッドバットを見据える。一言の詠唱によって大剣は姿を変え、1秒とかからず槍へと姿を変える。
「ふぅっ!」
オークへ振るった一閃の勢いをそのまま槍の投擲に利用し、バッドバットが避けられない速度で長槍がその身を穿つ。
遠く飛んで行った槍も、ズィーヤが握りしめる泥の鎖を引けば手元へ帰ってくる。
そして、ズィーヤを取り囲んだ魔物達は瞬く間に全て灰に変わった。
「すっげ……」
「流石ズィーヤさんですね……!」
「やはり、ズィーヤ様はおかしいと思います」
ダンジョン10階層。
薄霧で満ちた視界の悪い場所で、ズィーヤは初見の魔物と戦い続けていた。
初めこそベル達のサポートが必要だったが、3戦目を超える頃にはベルの殲滅速度に劣らない圧倒的な戦闘力を見せつけた。
「うん、一先ず10階層の戦いには慣れたな」
残心を解き、泥の長槍を肩に担ぐ。
戦闘の終わりを察した3人はズィーヤへと近づく。その表情は驚愕と興奮、呆れと様々だったが、否定的な色は見えなかった。
「凄いですねズィーヤさん!特に、最後のバッドバット!あれ、どうやって気づいたんですか!?」
興奮冷めやらぬといった様子のベルがズィーヤへ掴みかかる勢いで詰め寄る。その勢いに仰け反りながらも、ベルのキラキラとした瞳にズィーヤは苦笑いを浮かべる。
「あれはねぇ……なんとなくとしか言えないな。強いていえば、今練習してる気配察知の鍛錬の賜物、かな?」
「おぉ……!気配察知、カッコイイ……!」
「気配察知って……そんなこと出来るのか?」
「できるよ。実際、上級冒険者は自然と行っている」
疑問を呈するヴェルフに真顔となったズィーヤが答える。急激に変わった雰囲気にヴェルフとリリは喉を鳴らす。
朗らかな少年の見せた冒険者としての高みを目指す鋭い雰囲気は、目に見えない圧力を伴ってヴェルフとリリを気圧する。
「おぉ……!やっぱりアイズさん達って凄いんですねっ!」
もっとも、その雰囲気の中であっても英雄に憧れ、
ベルの緩い雰囲気に3人とも調子を狂わされたのか目を合わせて苦笑いを浮かべる。
「では、ズィーヤ様の実力が10階層で通用することが分かりましたし、そろそろ11階層へ向かいましょうか」
リリの音頭に乗って3人は11階層へ向かう。
道中現れる魔物は小型や素早いモノをベルが、大型をヴェルフが、そしてリリの方へ向かう新規や打ち漏らしなどをズィーヤが対処することで、素早くかつ安全に11階層へと到着した。
「ここが、11階層か」
「えぇ、霧がないため10階層に比べ視界はマシですが、魔物の出現頻度と質、自然武器などが豊富なので油断なさらないよう」
「うん、みんな!気を引き締めていこう」
ベルの声に全員が力強く返事を返し、探索を進める。
道中インプやバッドバットなど空を飛ぶ魔物が多く現れたが、事前にズィーヤが気づき、ベルがレベル2の脚力を持って殲滅するため危機的状況には至らなかった。
「いやしかし、ズィーヤの気配察知ってのはすげぇな!羽音が聞こえねぇのにインプやらコウモリやらに気づけるなんてよ!」
「まだまだ不完全だけどね。それに、これのせいで集中力や体力が持たないから休憩を多く取っちゃって申し訳ないしね」
11階層の大きめの岩付近で4人は休憩を取る。これまでの道中もこまめな休憩は取っていたが、いよいよズィーヤの集中力に限界が見え始めたため軽食も兼ねてまとまった休憩をとることになったのだ。
「いえいえ!ズィーヤさんのおかげで普段よりも安定して魔物も倒せてますし、危険が事前に分かるだけで安心感も違いますから!」
「そうだぞ。魔物との遭遇が事前に分かるなんて、とんでもない利点だ。多少休憩が多かろうと安全には変えられねぇよ」
「そうですよ。特に、空を飛ぶ魔物は気づくのが遅れれば致命傷になりかねませんからね。数十分の休憩で安全性が上がるなら取らない手はないです」
「はは……そんなに信頼されるとは……責任重すぎて吐きそう……」
「わわっ!大丈夫ですかっ!?ズィーヤさん、み、水飲みますか!?」
「落ち着いてくださいベル様……」
ダンジョン内とは思えないほど和気藹々とした雰囲気を作る一団の目の前で、他の冒険者の悲鳴が響く。
「やべぇ!インファント・ドラゴンだっ!」
「全員離れろォ!」
「インファント・ドラゴンっ?!」
「こっちに来るっ!!」
「なんだって希少種と連続してエンカウントするんですかっ!?」
「ふざけろっ!」
複数のパーティの間を猛然と走り抜ける巨大な竜。竜種の中では小竜に分類されるが、その大きさは人に比べて遥かに大きく、その巨躯から放たれる攻撃はレベル2にとっても、油断できるものでは無い。
フロアボスの居ない上層において、事実上のフロアボスとなっている希少種インファント・ドラゴンが、ズィーヤ達に向けて突進を仕掛けてくる。
何とか直撃を回避したが、突進をモロに受けた岩は砕け散り、その破片が冒険者達へ無差別に襲いかかる。
「ベルっ!前みたいに吹き飛ばせないのか!?」
「やってみるけど、溜める時間が必要なんだっ!」
「つまり、溜め時間さえあればアレをどうにかできるんだね!?それじゃあ、やることは簡単だ!」
言うが早いか、ズィーヤは獲物を探すインファント・ドラゴンの死角に回り込み、詠唱を行う。
詠唱が終わると、短槍に泥が纏わりつき、貫き穿つことのみを目的とした鋭利な穂先の長槍に変わる。
「ベル君!何秒だいっ?!」
「……1分あれば確実にいけます!」
「よし、行くぞ、ヴェルフ!」
「!おうっ!」
ベルにヘイトが向かないよう、左右斜め後方からヴェルフとズィーヤが攻め立てる。
「おぉらっ!」
ヴェルフは大太刀を使って腹部に斬り掛かるが、強靭な鱗と自重を支えるため発達した筋肉によって、浅傷をつけるに留まる。
「ちぃっ!
ヴェルフの存在に気づいたのか、体を捻りヴェルフに向けて尻尾を振り払おうとする。
「ふっ!」
意識がヴェルフに向いた瞬間を狙い、ズィーヤは小竜に突貫する。
右後ろ足の膝裏、更に奥に潜む関節部分を狙った精密な一撃は、鱗を穿ち、筋肉をすり抜け、骨を貫くに至った。
「ギャアァァァンッ!!!」
ダンジョンに発生してから現在に至るまで、1度たりとも味わったことの無い激痛と、自重を支えることができない不安定さに小竜を悲鳴をあげる。
「冒険者共っ!隙ができたぞっ!突っ込めぇぇ!」
「「「うおぉぉぉ!!」」」
小竜の悲鳴をかき消す程に、ズィーヤは声を張り上げて周囲の冒険者を焚き付ける。
ズィーヤの作った傷を狙う剣士や同じように膝裏を狙って突く槍士、他の弱点を探る両手斧使いや場所を問わずとにかく殴る拳士など、種族、パーティ問わずの全員を巻き込んだ総力戦。
後方からは魔法使い達が詠唱を始め、小竜への致命傷を狙う。
当然、小竜も周囲の冒険者を振り払うため、様々な形で抵抗するが、ズィーヤとリリによってそれも遮られる。
尻尾を振り払おうと体を捻じればそれを感じとったズィーヤが尻尾の付け根を狙い槍を突き出し、ブレスで焼き払おうとすればリリの指示で顔に攻撃が集中する。
横転する事で押し潰そうとすれば、ズィーヤの指示で冒険者達は避け、魔法によって設置された泥の槍が無造作に体へ突き刺さる。
悲鳴を上げれば完成した魔法が口内に放たれ、小竜は正に絶体絶命と言える。
だが、それでも足りない。小竜を絶命させるための一撃が足りない。火力が足りないのだ。
「溜まりましたっ!いけます!」
もっとも、彼らの奮闘は致命の一撃を入れるための時間稼ぎが目的だったため、その心配は必要無かったのだが。
「全員、小竜から離れろぉ!!」
ヴェルフの叫び声に反応し、冒険者達は一斉に退避する。
突然離れていく冒険者達に憤慨し、追いかけようとする小竜だったが、その目的は決して果たされない。
「【ファイアボルト】ぉ!」
白の燐光を纏った炎は雷の速さで空を駆け、無防備な小竜の頭部を直撃する。
着弾と共に爆炎を迸らせ、小竜の首から上は空洞へと姿を変え、数瞬後に魔石を残して灰へと変わる。
一瞬の静寂の後、戦いに参加した冒険者達から歓声が上がる。
上層における事実上のフロアボスである希少種の魔物と戦い、目立った傷を受けた者も死傷者もいない
この戦いのMVPであるズィーヤ達にも様々な賞賛やパーティへの誘いもあったが、危険極まるダンジョン内ということもあり、全員が早々に別れ、各々の探索へと戻っていた。
先程まで賑やかだった場所が静かになったところで、ようやくズィーヤ達は一息つくことができた。
「しかし、ベル君の攻撃は凄かったね。何かのスキル──っと、ステイタスの詮索はマナー違反か。忘れてくれ」
「いえ、気にしてないので大丈夫ですよ。お察しの通り、スキルの力です」
「もう、ベル様!いくらズィーヤ様だからといって、あまり軽率にステイタスのことを話すのは……」
「まぁまぁ、リリスケ。他に聞いてるやつもいなさそうだし、俺よりも付き合いの長いズィーヤなら教えてもいいんじゃねぇか?」
「そういう話ではございません!勿論、ズィーヤ様を信用していない訳ではありませんが、ステイタスという生命線の重要性について!ベル様にはしっかりと意識を持って頂きたくてですね──!」
「あ、あはは……」
「まぁ、リリの懸念ももっともだよ。信用できる人でも、ステイタスを明かさない方が無難だ。生き残るため、無用な戦いを避けるためにも、あまり人に話さないようにね」
「……はい!」
その後、スキルの影響で体力を消耗したベルの姿からこれ以上の探索は危険と判断して帰還、普段よりも少し早めに地上へ戻りそれぞれの家へと足を進めていくのだった。
月光も届かない闇の中で、泥の剣を振り下ろす。
体重、重心、関節、足運び、叩き落とすと言うよりも斬り下ろすことを目的とした素振り。
一刀ごとに動きを確認し、一刀ごとに修正し、一刀ごとに隙を無くす。ひたすら、体に斬る感覚を覚え込ませる。
「すぅ……ふっ!」
風切り音も聞こえない最速の一刀。しかし、ズィーヤの目には断ち切ることの出来ない小竜の筋肉が映っていた。
仮想の巨躯、想像の怪獣、今日であった強敵の断ち切ることのできなかった肉を斬る為、振り下ろし、振り上げ、薙ぎ払う。
暗闇の中にあってなお、青の瞳は轟々と燃え盛る炎のように煌めいていた。