フィン達と離れた後、アイズに連れられて様々な場所に案内してもらった。
「ここがみんなでご飯を食べる所。毎日朝はみんなで食べるのがルールになっているからシンも守ってね。」
「了解。昼と夜はいいのか?。」
「うん。昼はみんなダンジョンに行ってて居ないし、夜もみんな帰ってくるのがバラバラだから。」
「なるほどな。仲間と親睦を深めるには飯を一緒に食べるのが手っ取り早いしな。大御所なだけあって纏め上げるため色々考えているんだな。」
「そうなのかな?結構前にロキが言い始めてから始まったから、そうなのかも。」
2人で雑談をしていると、廊下から2人組がこっちに来た。
「あれ?アイズじゃん!こんな所で何してるの?」
「えっと、新しい人が入るからファミリアの中の案内をしてた。」
「へー、君が新人さん?私はティオナ!よろしくね。」
そう言ってニコニコしながらこっちへ寄って来た。
「もうティオナったら、そんないきなり詰め寄ると相手も困惑しちゃうでしょ。ほら離れて。」
そこへティオナとよく似た人が来てティオナを離れさせた。
「ごめんねいきなり。私はティオネ。さっきの子とは姉妹なの。よろしくね。」
「ああべつに気にしてない。俺はシン。今日からロキファミリアの世話になる。よろしく頼む。」
「よろしくね。それよりなんでアイズが案内をしてるの?あんたにしては珍しいわね。」
「中庭で鍛錬をしてたらフィン達がシンと来て、シンと戦って流れで。」
「えぇ〜!シンアイズと戦ったの!?!?大丈夫だった?」
「アイズは加減が苦手だから結構ボコボコにされたんじゃない?」
「悔しいがその通りだな。ポーションとリヴェリアの治癒魔法がなかったら今頃寝てただろうな。」
「あれでも最初の方は少し手加減はした。私だってやれば手加減くらい出来る。」
そう言ってアイズは少し頬を膨らませた。
「あははは!ごめんごめん。私達もシンの案内付いて行っていい?なんだか面白そうだし!」
「いいよ。シンは大丈夫?」
「ああ、特に問題はない。」
「ありがとう!じゃあ出発!行こお姉ちゃん。」
「しょうがないわね。分かったわよ。」
そう行ってまたファミリアの中を回り始めた。
回っていくうちに時間が過ぎ、夕食の為また食堂へ戻ってきた。
そこへちょうどフィン達がやってきた。
「ちょうどよかった、食堂でシンをファミリアのみんなに紹介するから心の準備をしておいてくれ。」
そう言ってフィン達は中に入って行った。
「私達も行こっか。」
アイズ達と食堂に入り、少しするとフィンが大声で周りのみんなの注目を集めた。
「みんな食事中の所すまない。みんなに伝えたいことがある!シン、こちらへ来てくれ。」
フィンの声に従いフィンの隣へ行くシン。
「彼が今日からロキファミリアに入る。みんな気にかけてやって欲しい。 シン、自己紹介を頼む。」
シンは少し緊張した声で話し始める。
「今日からロキファミリアに入れてもらうシン・サカモトだ。年は12、元々敬語があまり上手くないので口調は大目に見て欲しい。よろしく頼む。」
シンの自己紹介を聴くと、周りから歓迎の声が多々聞こえる。どうやら歓迎ムードのようだ。
「話はこれまで!ではみんな各自食事に戻ってくれ。」
シンもアイズ達の席へ戻り、食事を再開しようとした所に周りの人から質問が飛び交う。
「どこから来たの?」「かなり可愛い顔してるわね!」「若いのに偉いな!」
飛び交う質問に困惑しながらも一つ一つ答えて、ほとぼりが冷めると食事を再開した。
「よかったじゃないシン、もう人気者ね。」
ティオネのからかいを含めた言葉に苦笑いで返す。
「あまり会話は得意じゃないんだがな、まあ歓迎してもらってるだけありがたいな。」
食事も終わりフィンから割り当てられた部屋に戻り荷物の整理を済ませるとシンは屋根の上へ登った。月の光が周りを照らす中、物思いにふける。
(今日1日で沢山の方があったな。まさかアイズさんと戦える日が来るなんて、あの頃は実力も全然追いついてなくて訓練の時も全然相手にならなかったからなぁ。それに表情も、最初は違和感かと思ったがよく観察して分かった。俺の知ってるアイズさんより今のアイズさんは表情が全然変わらない。まるで感情を失ったみたいだ。昔に辛い事があったって事は知ってるがまだこの時は立ち直れていない?これが一番考えられるな。それにアイズさんはベルさんといる時は特に表情が柔らかくかった。てことはベルさんがきっかけでアイズさんは感情豊かになるのか。)
その考えが頭によぎった時、シンの心に痛みが走った。
(なんだこの痛みは?俺がベルさんに嫉妬してる?いやそんなことはないはずだ、俺はベルさんを尊敬しているしそもそも嫉妬する所が無い。もしくは俺がアイズさんを…いやそれは無いな。俺がアイズさんに抱いている感情は尊敬のはずだ。第1俺じゃアイズさんに釣り合わねえ。でも、アイズさんには笑っていて欲しい。昔のアイズさんを知ってる分今のアイズさんを見ていると悲しくなる。アイズさんには悲しい顔は似合わない。その為なら俺は…)
「何してるの?」
深い思考の海に沈んでいると、横から誰かが話しかけて来た。
「ん?ああアイズ、いや今日のことを振り返っていただけだ。沢山のことがいっぺんに起こったからな。」
「そうなんだ。」
そう言葉を区切るとアイズはシンの横に座り、月を眺めた。
静かな時間が流れる。シンがこんな時間もいいなと考えていると、アイズが話し始めた。
「…一つ質問していい?どうしてシンはそんなに強いの?」
そう質問して来るアイズの目はとても真剣だった。
「俺はまだ全然強くなんか無いさ。」
「ううん。シンと剣を合わて分かった。シンの剣には迷いが全然無かった。それに心が強く無かったら試練の時あれだけ立ってられなかったはず。…何の為にそんなに強くなろうとするの?」
その時のアイズの目はまるで迷子の子供のようだった。
「…そうだな、しいと言えば大切な人を守る為、だな。」
「大切な、人?」
「ああ、昔に大切に思っていた人たちを失って、自分の無力さが許せなかった。だから次は後悔しないように力をつける。」
「そう、なんだ。すごいねシンは、私より一つ年下なのにそこまで考えているなんて。」
「そんなことない。アイズはどうして強くなろうとするんだ?リヴェリアから聞いたがかなり無理な生活をしているみたいだが。」
「…昔私が暮らしてた村にドラゴンが襲って来て、その時にママとパパが私に逃げるように言ってその場に残ったの。私はその時のパパのすぐに戻るって言葉を信じて逃げた、それで近くにいたフィン達に助けてもらった、ママとリヴェリアは知り合いみたいだったから。最初はパパもママもすぐ帰って来ると思ってたけどどれだけ待っても帰ってこなかった。その時ね思ったの、私が弱かったから置いてきぼりにされたんだって、だから強くなりたくて。もう置いてきぼりは嫌だから。」
そう話すアイズの顔はとても悲しそうだった。その顔が見てられなくて、気がつけば話し出していた。
「なら一緒に強くなろう。誰も失わないように、誰にも置いていかれないように。俺もすぐにアイズの所に辿り着いて追い越してやる。」
そう言って笑ってやると、アイズは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに笑顔になってこう言って来た。
「うん。一緒に強くなろう。でもすぐには追い抜かれない、よ?」
そう言って笑うアイズの顔を見て、シンは自分の気持ちの正体がわかった。
(…ああ、簡単なことだったんだ。俺はとうの昔にアイズさんに、いやアイズに惚れていたんだ。だってアイズの笑顔を見るだけでこんなにも心が満たされてやがる。だが、このままじゃまたあの黒龍にアイズもみんなも殺されちまう。その前に誰よりも強くならなくちゃならない。アイズさんを守れるように。)
シンの目に決意の炎が激しく燃え上がった。