待機室で軽く瞑想をしていると外からノックが聞こえた。
「入るよ。じゃあそろそろ行こうかシン君。」
入って来たのはフィン達だった。
「ああ分かった。」
「所でシンはなんか使ってる武器とかあるん?ここへ来た時も少し荷物あったけど。」
「一応父さんが昔使っていた片手剣は貰ったからそれを使っている。」
「そかそか、剣は誰に教えてもらってたん?」
「ああ〜」
(未来のアイズさん達に教えてもらったなんて言えないしなー)
「父さんの知り合いに元冒険者がいてその人が教えてくれたんだ。」
「そうか。なら楽しみにしているよ。」
「期待に応えれられるよう頑張るわ。」
一同が中庭に行くとそこには、1人の少女が剣の素振りをしていた。
「あれ?アイズたんなんで今日ダンジョン行ってへんねんやろ?」
「あのバカは…ここ最近ずっとダンジョンに篭りっぱなしだったから無理やり今日は休ませたんだ。だが鍛錬をしたら意味がないだろう…」
(アイズさんはあんなに小さい頃からずっと厳しい鍛錬を己に課していたのか…俺はそんな人を変えなければ行けないんだ…!)
話をしながら近づくとその少女…アイズはこちらに気がついた。
「…どうしたの?みんな揃って。」
「ああ、ここにいる彼、シン・サカモト君が入団希望でね。その最終試験を今から行うんだよ。」
「シン・サカモトです。気軽にシンと呼んでください。ほかの皆さんも。」
「よろしく。私はアイズ・ヴァレンシュタイン、私のこともアイズって呼んで。」
アイズがそう返事をすると少し笑った。その顔を見た瞬間シンの胸中には様々な感情が渦巻いた。後悔、悲しみ、怒り、憎しみ、それはシンの心をより奮い立たせた。
(今更後悔しても遅いんだ。だから今度こそアイズさんを、他のみんなを守ると誓ったんだろ!)
「じゃあシンと呼ばさせてもらうよ。とりあえず軽いウォーミングアップをして来てもらえるかい?」
「了解。」
そう言うとシンは自分の剣を持って少し離れた場所で素振りを始めた。それを見ていたフィン達は
「…どう思うリヴェリア。」
「ああ、いくら剣を習っていたとしてもまだ12歳だ、普通は剣に振り回されたり、振り回されなくても少しは重心がずれたりする筈だ。なのにシンはそれが全然ない。とても12歳とは思えんな。」
「シンは12歳なんだ。てっきり私と同い年か少し上かと思った。」
「そうだよアイズ。これはかなり期待が出来そうだね。」
「がっははは、イキのいい新参が入ってきよったの。」
それぞれが感想を言い合っているとアイズがフィンに話しかけた。
「フィン、シンの相手私がやりたい。」
「いきなりどうしたんだい?」
アイズの言葉にそこにいるみんなが驚いた。
「シン私とあまり年が変わらないのにとても強そう。それによく分からないけどここで勝負をしなきゃ後悔する気がして。お願いフィン」
(それに何故かシンのことが気になる。どうしてあの時シンはとても悲しそうな目をしたんだろう。)
「アイズもこう言っていることだしいいんじゃないかフィン。それにこれからのことを考えると今のうちから年が近い者同士触れ合わせた方がいい。」
「分かったよアイズ。ただし、ある程度加減はしないといけないよ。シンにはまだ恩賜を与えていないからね。」
「そうなの?わかった。」
そう言うとアイズはシンに近づいて行った。
「シン、すまないけど試練の相手が僕じゃなくてアイズに変更になった。」
「?ああ分かった。」
(それに今のアイズさん…アイズがどれくらいの力を持っているのか気になっていたしな。ちょうどいい。)
「よかった。ならもう始めようか。ルールを説明する。武器はこちらで用意した木刀を使ってもらう。敗北の条件はどちらかが気絶するか降参するか。それ以外は何でもありだよ。ではお互いに位置について。」
そう言うとお互いに少し離れ、向かい合った。
「では…初め!」
最初に動き始めたのはなんとシンだった。レベル1の中間くらいまで迫る速さでアイズに木刀で畳み掛ける。しかしアイズもレベル3の冒険者。すぐにシンの速さに対応して攻撃を受け流していく。
剣での打撃、蹴り、フェイントなどを織り交ぜてとても12歳とは思えない攻撃を仕掛けるが、それも全てアイズに流されてしまう。アイズも隙をみては攻撃をする。しかしそれはシンもしっかりと受け流す。そのまま試合は膠着するかと思われたがシンが後ろへ大きく下がり距離を取る。
「…凄いねシンは。恩賜も貰っていないのにそんなに強いなんて。」
「まだ攻撃は一度も当たっていないけどな。それに攻撃も避けるので精一杯だ。」
「それでも凄いよ。なら私も本気でいくね…!」
そう言った瞬間、アイズがシンの視界から消えた。シンは直感に従って横に大きく転がった。これはほとんどまぐれの様な者だ。ついさっきまでシンがいた場所にはアイズが剣を振り下ろした状態で立っていた。
(まずい流石に能力差がありすぎる。目で追ってるんじゃ間に合わない…!でも反応できないわけじゃない。目で追えないなら動き出し、筋肉の動き、目の視線、足の動き全てを観て行動を予測すればいい。ただ負ける訳には行かないんだ!)
それからはアイズの独壇場だった。シンはアイズの速さについていけず攻撃もさせてもらえていない。しかしアイズの攻撃を間一髪急所だけは全て外していた。もしそれも出来なかったらもうすでにシンは倒れているだろう。
シンはなんとかアイズの攻撃を防いでさっきと同じように大きく距離をとった。
(もう殆ど体力もないし意識も朦朧としてきた。なら次の攻撃に全てを賭ける!)
(シンはもう立っているのがやっとのはず。なら次に全てをかけてくるだろうから全力で迎え撃つ!)
シンは居合の構えを取り腰を深く落とした。
(今までのスピードじゃ対応される!なら今までの限界を今超えろ!全てを搾り取ってこの一刀に賭けるんだ!)
シンがアイズへ向かい踏み込んだ。そのスピードはもはやレベル1どころかレベル2にも達していた。それに対しアイズも剣を正面に構えてシンは向かっていく。
互いに近づき、互いの剣が交わろうとしたその時、横槍が入った。
「両者そこまで!このままでは流石に大怪我に繋がりかけないから止めさせてもらうよ。それにもうシンの実力も覚悟も見させて貰ったしね。」
両者の剣を涼しげに止めたのはフィンだった。このままでは結果がどうなろうともどちらかは確実に大怪我をすると見て止めに入ったのだ。
「シンありがとう。君の実力しかと見させてもらったよ。合格だ。ようこそロキファミリアへ!」
「ッッ!!あ、ありがとうフィン。」
「本当に強いんだねシンは。最後のはレベル2の冒険者にも負けない速さだった。」
「いやアイズこそ俺の剣を全て受け流してたじゃないか。剣士としての格差を感じさせられた。」
「お疲れさ〜ん2人とも!まさかシンがこんな強いとは思わんかったわ!とりあえずファミリアへの紹介は晩御飯の時するし先に部屋戻って恩賜刻んでしまおか!」
「分かった。」
「全くヒヤヒヤしたぞ。とりあえず2人ともそこへ並べ。軽くだが治療してやる。」
リヴェリアからの治療をお互いに受け、みんなでロキの部屋へ向かった。