…最初は憧れだった。俺が住んでた小さな町にも届くくらいの偉業、
それに憧れて町を出て、オラリオに来た。最初はどこのファミリアも断られ、路頭に迷っていたが、今の神様に出会い、救われ、ファミリアに入れてもらえた。
そんな俺が憧れたのはアイズさんとベルさんだった。
俺は元々剣に心得があり冒険者になってもすぐに上位冒険者に上がれると思い上がっていた時にたまたまダンジョンで見たあの人の剣は今の自分がちっぽけに思えるほど美しかった。あの時に俺はいつかこの人を超える剣士になると誓った。
アイズさんの武術に憧れたのに対し、ベルさんは人としての在り方に憧れた。確かに武術も今の俺が手も足も出ないくらいすごいが、あの人の真の強さは周りを巻き込む力、一種のカリスマ性だと感じた。
他にも俺が持っていない力を持っている人達が沢山いて、そんな人達を追いかけ、越えようと努力した。そのおかげかレアスキルも生まれ、1年でレベルも2つほど上げ、周りからも注目され始めた。その頃には出会いに恵まれ、アイズさんとベルさんやロキファミリアやヘスティアファミリアの人達とも仲良くなれた。
そんな時にふと故郷にしばらく帰っていないことを思い出し、神様に相談をして一週間ほど戻ることにした。
…思えばこの選択でこれからの全てが決まった。
家族とも会え、沢山の知り合いと挨拶を交わし、充実した一週間を過ごして帰って来た俺が見たものは崩壊したオラリオだった。
あれほど高かった壁は破壊され、近辺の地面も何者かにえぐられたような跡が沢山あった。急いでファミリアに帰ると、そこにはとても暗い神様がいた。話を聞くとなんとあの黒龍が突然オラリオに攻めて来たらしい。その場で神様を慰め、他の知り合いの所を巡った。あそこまで明るかったロキの顔も、いつも笑顔だったヘスティアさんの顔も、いつも馬鹿みたいに騒いでいたファミリアの仲間達の顔も全て絶望に染まっていた。突然襲って来た黒龍に対応するためレベル4以上の冒険者は全て撃墜に回り、なんとか退けたがあの勇者も、猛者も、
憧れだったアイズさんやベルさんも死んでしまった。
「嘘…だろ。」
深い絶望が俺を襲った。そしてその絶望は憎しみに変わった。俺から憧れ達を奪った黒龍と、何も守れなかった自分自身に。
気がつけばオラリオの端の方の丘に一人でいた。
「どうしてだよ…なんであの人達が死ぬんだよ。なんで俺がいない時に来るんだよ!俺がいた所で何も変わらないかもしれない!それでも一緒に戦えた!何か変えれたかもしれない!でも居なかったら何もできないじゃねえか! どうしてだよ…クソ!」
誰も居ない所で一人で叫び続けた。
「こんな運命認めねぇ!認めてたまるか!誰も幸せになれない結末なんて俺は認めない!」
一人で叫び続けるとふと声が聞こえた。
「…貴方の願いを叶えます。 どうかこの未来を救ってください。」
その声が聞こえた瞬間意識が切れた。