《黄金の館》訓練所
ここには多くの眷属たちが集まっている。みんな異世界の英雄がどうやって戦うのか、またレベル9の実力とかどんなものなのか見ておきたいのだろう。何せレベル9なんて当時最強だったと言われている。ヘラファミリアにも一人しか存在していなかったまさしく御伽話の存在だ、そんな御伽話が目の前にいるのだから気になってしょうがないだろう。
私は剣を鞘から抜き構える。マーリンさんは杖を付いているだけでで特に構えといったものは無かった。
「構えて」
「構えているとも。私は魔術師だ、君は私が構える事より、他の事に気をつけなさい。勝負は既に仕掛けられていると思いながら戦うんだ。魔術師と戦う時の基本だよ」
軽口を叩きながらそういっている彼は何処かものを教えるように話す。
「それじゃ、初め!」
フィンの言葉と同時に私はエアリアルを発動して最大速度で彼に近づき剣を振るう。魔術師では反応することはできないであろう速度。リヴェリアにだってこの速度は対応出来ない。アイズの目論みは正しい。魔術師相手に中距離などからチマチマ攻撃しても先に精神疲弊《マインドダウン》をするのは確実。なら一手目で勝負を仕掛けるのは至極正しい判断だ。しかしそれはただの魔術師であった場合のみ、《九魔姫》リヴェリアや《白妖の魔杖》ヘディンなら完璧に対応は困難でも、必ず回避などの行動に移す。それは、長年の経験からくる戦闘の勘や、自身の弱みを理解しているからだ。しかしここにいるのは冠位《グランド》の資格を持つ稀代の魔術師。アイズの目論みなど戦闘が始まる前から考えついている。
(避けない!?)
アイズの剣が振るわれようとする瞬間、彼はニヤリと笑いながら
「そぉ〜れっ!」
杖から剣を抜いて私の剣を弾き返した。なんで彼は魔術師じゃなかったの?そんな疑問が浮かび上がる。魔術師は近づかれたら無力じゃないのはアイズは知っている。リヴェリアがそうだ、彼女はある程度なら近距離の戦闘もこなせる。だがそれはあくまで自分にとって優位の状況を作り出すための手札であり、近距離で敵を殺すのを主軸とした戦い方では決してない。だから余計に疑問に感じる。先程の攻撃を跳ね返した時に感じる、剣には確実に芯があり、攻撃に慣れた感じがあった。故にアイズは聞く
「魔術師じゃないの?」
「確かに私は魔術師さ、けれど呪文って噛むだろう?剣で殴った方が早いだろう?」
そう言うと、彼は剣を構える。そして気づいた時には懐にいた。剣を構えた魔術師が
(早っ!?)
アイズは剣をバックステップでなんとか避けようとする。大丈夫避けれるそう思った時。突然視界の外から攻撃が来る。
「っ!魔法!?」
そこには杖を構えたマーリンがいた。
「アルトリアもよくこれには引っかかってたなぁ」
マーリンの攻撃は止まらない、剣での攻撃かと思えば魔法、魔法かと思えば剣と面倒極まりないスタイルで攻撃してくる。アイズもなんとか応えようと打ち合うが次第に対応出来ずに、体に少しずつ傷が出来て来ている。
(こうなったら!)
「エアリアル!」
暴風が訓練所を渦巻いている。まるでアイズ以外を立ち入らせないように絶対的な風の壁になって。轟轟と風はアイズを中心に舞っており、攻撃を続けていたマーリンも手を止めざるおえない。
「おいフィン!もう良い加減いいんじゃないのか!?彼の実力は知れただろう!」
リヴェリアが叫ぶ、普段の彼女なら叫ぶ事はしないがアイズが放った魔法が声を聞こえなくしてしまう為フィンに叫ぶ。
「いや、まだだ!」
フィンは何か考えがあるかの如く否定する。何故だ、アイズの《エアリアル》の発動で既に観戦していた団員たちの殆どが立っているのもやっとの状態だ、辛うじて見られているのが私たちを始め、ガレスやベート、ティオネ姉妹が観戦を続けられている状態。また、明日は遠征がある。何が起こるのかわからないダンジョンでは万全の状態で臨みたいと言うのに。しかも相対しているマーリンは呑気に風を観察している始末だ
「いやぁー、アルトリアを思い出すなぁ。あの子も風を操るまで結構苦労したもんだ。」
マーリンは思い出に浸るように顎に手を当てて誰かを語っている。
「しかし、このままでは他の団員たちも辛そうだね」
マーリンが杖を振るう。するとアイズを取り巻いていた嵐のような風は、花びらが舞う幻想的なものに変化していた。アイズも何が起こったかわからない様な顔をしている。そこを見逃して次の攻撃が来るのを待っているほどマーリンは人間的ではない。アイズのそばに近寄って杖を体に向ける。
「さ、これでチェックメイトさ。」
「、、っ!・・・参り・・ました。」
訓練所にいた団員たちは唖然としている。確かに事前にレベル9だと言われていたがアイズだって冒険者の上澄も上澄なのだ。勝利とまではいかなくとも食い下がれるくらいにはあると思っていた。しかし蓋を開けてみれば何もできていない。《エアリアル》だってマーリンの手を止める事は出来たていたが、それも一瞬で破られてしまっている。まるで赤子が遊んでもらっているかの様な光景にみんな時が止まってしまっている。
「さ、アイズ君お疲れ様。疲れたかい今日はゆっくり休むと良い。
それで満足のいく結果だったかな?団長殿?」
マーリンはフィンに問う。結果は分かりきっている。それに今からいう言葉の逆を言ったところで団長もついに耄碌したかと言われるだろう。
「あぁ、満足だよ。マーリンには明日の遠征について来てもらう。」
そう言うと他の団員達が歓声を上げる。遠征が予定していたものよりも安全になりそうだと思う人、新しい英雄に立ち会うことができたと喜んでいるもの様々だ。
「さて、皆!マーリンに意見するものは、もういないね。彼の力は確かに凄まじいが、彼に頼りきりにならないよう明日の遠征ではしっかりと自分の役割を全うするんだ。そのためにも今日はここで解散だ、しっかりと休んで明日の遠征の為に準備しておいてくれ!じゃあ、解散!」
団長からの号令がかかり団員たちは各々散り散りに消えていく。残ったのはロキとファミリアの幹部のみだ。
「ねぇねぇ、マーリンって剣も使えるの?すごいねぇ〜、今度貴方のお話聞かせてよ!」
「確かに私も気になるわね、それにどうやって詠唱もなしに魔法を打っているのかも知りたいし」
ティオネ姉妹が興味満々でマーリンに詰め寄る。あんな戦いの後だ気になることを知りたがっているのだろう。ベートなんかは興味なさげ、元々戦闘スタイルが違うからなのかあまり質問をしようとしていない。まぁ苛立ちもあるんだと思う。レフィーヤやアイズを破ったことをいまだに信じられていない様子が見られている。
「さ、聞きたい事は山程あるが今日は一旦休もう、もう夜は遅い」
フィンがまとめるように手を叩きながら幹部にも号令をかける。確かにもう夜も耽ってきた、これ以上起きるのはあまり良くないだろう。
「ちぇー、もうちょっと話聞きたかったのになぁー」
「まぁ、しょうがないわよ。明日の遠征中にでも聞きましょう」
残念そうに帰っていくティオネ姉妹、またねーと言いながら帰るティオナにマーリンは手を振りながら見送っていた。残っているアイズはマーリンに聞く
「マーリン、、、さん、戦いの時に話していた。アルトリアって誰?」
「呼びにくいのならマーリンでいい。アルトリアは昔私が仕えた王様の事だよ。ほら団長殿も言っていただろう、私は此処とは違う世界から来た。向こうの世界では私は王様の宮廷魔術師だったんだ。」
「でも、王様に剣を振るっていたの?」
「アルトリアが小さい頃、私が彼女に剣を教えていたんだ。だからアルトリアにとって私は師でもあるわけさ。」
「そう、なんだ。・・・えっと、あの、もし良かったら私を弟子にして下さい。」
フィンの執務室。そこにはロキやリヴェリアがいた。ガレスがいないのは他の飲み足りない眷属をつれて食堂でドンちゃん騒ぎを起こしているからだろう。
「それにしても意外だったな、フィンが戦闘の継続をさせたのは。」
普段だったらすぐにでも止めている戦いだった。それほど先程見せたアイズの風は凄まじいものだった。いつものアイズならば剣に付与魔法《エンチャント》するだけで終わっている。しかしあの時のアイズは全身から風を発生させていた。それだけ勝ちたかったとでも言うのか。
「不思議かい?まぁ、そうだろうね。いつもの僕だったら止めていた。しかし最近のアイズは焦っているのは目に見えていたからね。」
ステイタスの伸びが悪い事は私たちも知っていた。しかしそれは仕方のない事なのだ。レベルが上がるにつれて、器はどんどん強化されていく。その為並大抵の偉業では上がりづらくなっている。かく言う私たちだってここ数年はステイタスの伸びが悪い。しかしそれは戦闘を止めない理由にはならない。
「アイツのスキル《キングメーカー》か?」
ロキが言う。私も数時間前に見た彼のスキルを思い出す。あぁなるほど
「あぁ、彼のスキルにある、師事するだけでステイタスの伸びが良くなるスキル。これがあればアイズの問題も解決できると思ってね。また、彼に師事してくれている間は彼女もダンジョンに無理に突撃しなくなるだろう。」
確かに彼とアイズの戦闘スタイルは結構似通った所がある。いわゆる魔法剣士のスタイルは私たちではあまり教えられそうにもない。
「・・・わかった、しかし今度からは事前に知らせてくれ。心臓に悪い」
「ははは、すまないね。僕も彼のスタイルを見るまでは半信半疑だったからね」
「しっかし、アイツがアイズを弟子に取るか分からんで、結構な碌でなしっぽい感じやし」
「かもね、でもそこは心配してないんだ。彼は頼まれごとは断らなそうな感じはあるしね。」
アイズは答えを待つ。マーリンは、とてもいい笑顔で
「すまないが、断るよ」