出久の原点、オールマイトとの出逢いを話終えようとしたい時にその変化は起こった。体の内側が沸き立つ感覚、幾ら時が経とうとも忘れることの無い感覚。それが熱を帯びて甦った。
「ど、どうして?!消えた筈のOFAが!?」
稲妻の迸る掌を出久は目を見開いて見詰める。しかし、口から出た疑問はこの中にいる誰にも分からなかった。ベルは当然として、ヘスティアにも未知の出来事だった。
「え、えぇぇッ!?イズクさんの体がひ、光ってる!」
ベルはビリビリと音を立てながら発光する出久の体を捉えて驚愕。騒がしい少年の隣にいる女神は対照的に頭を抱えていた。
「神様、これは一体?どうして僕の個性、OFAがまた発現したんですか?この世界には個性なんて無いはずなのに」
「⋯⋯分からない。全くの未知さ。多分、ボクが君の中に眠っていたソレをボクの力で呼び起こしたんだと思うんだけど⋯」
頭痛がするのかヘスティアは痛そうに眉間を摘みながら曖昧な回答をする。そこまで答えてもらって出久はヘスティアを再認識した。
相手は人ではない、神様なのだと。自分の世界では祀られる存在だった神がこうして居るのなら、OFAの復活は不可能ではないのかもしれない。そんな事を出久は思っていると、
「それとイズク君⋯⋯じ、実は力を呼び起こす時、歴代の、その、OFAの記憶をボク見ちゃったんだ」
「――ッ!?
「え、わんふぉーおーる?記憶?一体なんの話ですか??」
話題を共有して互いに戸惑う様子の青年と女神にベルはあっけらかんとして疑問を呟いた。首を傾げる少年を見て出久は会話に付いてこられるよう配慮し、口を開く。
「さっきはギリギリ話せなかったけど、このOFAは僕がオールマイトに授けてもらった力なんだよ。でもこの力、OFAは役目を終えて、消えたはず、だったんだけど」
この通り、と出久は困惑げに閃光の走る体を腕を広げて際立たせる。それを耳にしたベルはそれはそれは心を躍らせて、
「オ、オオ、オールマイトの力ァ――!?拳の一振で天候を変えて、一瞬で何処へでも駆け付ける、平和の象徴オールマイトの力をイズクさんが!!?」
「うん。オールマイトが初対面の僕を認めてくれたんだ。無個性だった僕が、無謀にも友達を助けるため敵に飛び出した行動を、あの人は誰よりも勇敢だったって言ってくれて。あの衝撃は今でも忘れないよ」
胸に手を置いて憧憬を想起させる出久にベルはその物語の壮大さに圧倒され、ひしひしと子供心を擽られていた。誰もが憧れる英雄に認められ、託される。
そんな夢物語が現実にあるのだと、ベルはこれ以上ない程に深く感銘を受けていた。俯きながら瞳を輝かせる少年に出久は微笑を送ると、女神へ向き直る。
「それで、ヘスティア様。継承者達の記憶を見たってことは、OFAの本質を知ったんですよね?そしてどのようにしてその役目を終えたか」
OFAの出力を抑え、出久は表情を真剣なものに変えた。ヘスティアはそれに応え、小さく頷くと、
「君達がどのように始まってどのようにOFAを完遂させたか、勝手ながら見たよ。⋯⋯本当に、よく頑張ったんだね。最後、辛かっただろうに」
「⋯⋯⋯ッ」
悲哀感の漂うヘスティアの言葉、そこに込められた意味を理解し、出久は押し黙る。哀愁が空間を埋めつくし、青年と女神の間に沈黙が訪れる。顔を落とす二人の雰囲気にベルも心を感応させ、不安げに目を左右と動かしていた。
「――彼、志村転狐の命を救う事は、できませんでした」
ポツリとか細い小さな独白が沈黙を破った。青年の顔は見えない、だが悲しんでいる事は声から分かる。ヘスティアとベルはただ黙って彼の独白に耳を傾ける。
「心に手を伸ばして、憎しみが砕けても、転孤は最後まで彼の仲間達のリーダーだったから。救えていたとしても、互いに最後まで戦うことは避けられなかった」
出久は吐息し、「でも」と言葉を紡ぐ。
「最期の瞬間、彼は笑っていました。苦しんで泣いていなかった。心は救えたんだと思うんです。だけど、彼は人生の全てをAFOに操られて死んでしまった」
「――だから、いつも思ってしまうんです。彼の出会いが正しいものであったなら、転弧の人生はもっと違って、幸せだったんじゃないかって。でも、それでも、後悔したって彼の命は現世には戻らない。だから――神様」
縋る言葉と共に青年は、出久は顔を上げた。頬に流れる一点の雫が光を反射して白く輝く。
「祈ってくれませんか?彼が来世は笑って過ごせるように。幸せな毎日を送れるように、祈ってあげてくれませんか」
「――ッ、嗚呼!勿論さイズク君」
出久の願いにヘスティアは笑みを浮かべながら、彼の傍まで歩み寄るとその手を取る。
「ボクはその子のために何度だって祈るよ。フフッ、イズク君、ボクはこう見えて、結構偉い神様なんだぜ?」
神様らしく甲斐性を垣間見せるものの、軽口を差し込んでくるヘスティアに出久は謂れのない感情に口元を綻ばせ、口を開いた。
「――フフッ、ありがとうございます。ヘスティア様!」
ニコリと屈託ない笑顔を浮かべた出久を見て、ヘスティアは満足気に頷くと同時にほんの少し目尻に淡いものを浮かばせた。
大人になろうとも記憶の中で見たあの頃の少年のように何処までも他人を想える彼にヘスティアは――
「⋯⋯さ、さて!話を本筋に戻そうか!えーと、そう、そうだ!何故OFAが再度発現したか、三人で共に明かそうじゃあないか」
パッと出久から手を離し豊満な胸を張ってヘスティアはそう宣言。出久もベルもその事は気になってしょうがなかった為、大きく頷いた。
「よし、ではまず二人の意見を聞こう!まずはイズク君からッ!」
「はい、まず僕が思ったのは【神の恩恵】についてなんですが、これは神様の力、つまるところそれに適応して個性が変質したんだと思うんです。OFAも元は個性を譲渡する個性から始まってそこからAFOに力をストックする個性を与えられて混ざりあった結果始まった力で――」
早口&情報過多によって出久を除いた他二名は頭から煙が上りそうな具合で脳をパンクさせ、フラフラと左右に揺れる。
出久の考察は果して二人が座り込むまで続いたのだが、要するにOFAが神の血に影響を受けて、取り込み、個性因子をもう一度復元したのではないかという説だ。
「あ、あいわかった。次、ベル君、簡・潔・に頼む」
「ア⋯アハハ、僕も同意見です⋯。やっぱり、イズクさんの世界の能力なので、それが本来存在しない神様の力でどうにかなったんじゃないんですかね?」
「成程ねー。でも答えは違うんだなぁ〜」
頬をポリポリと掻きながらベルは困り顔で苦笑すると、出久と同意見だと表明。それに対しヘスティアは意味深なことを言いながら、そこら辺に落ちていた白紙の紙を拾い、ペロンと出久の下着を捲ると、
「⋯⋯?神様?」
「答えは〜〜、これだァ――ッ!」
「イッ――!!?」
ベチンッ!と小気味良い音が背中で炸裂し、出久は突如訪れた鋭い痛みに腰を前へ反り上げる。しかし、ヘスティアは一撃食らわせただけでは終わらず、猛攻を続ける。
「こんな!厄介な!ものを!スキルとして発現!させるなんて!!君はボクを何処まで困らせる気なんだァァ!!!」
「イイイタイタイッ!!なんで叩くですかヘスティア様!?」
女神の猛襲が終わり、出久はヒリつく背中を擦りながらヘスティアに問うが、彼女は憤怒した様子でそっぽを向いた。が、観念したように大きく吐息すると、
「じゃあ二人共、これを見て欲しい」
背中を叩くと同時に貼り付けていた紙をヘスティアはソファの座席に置くと、こちらを手招きする。紙を覗き込むと、出久は自身の名前が紙に書かれていることに気が付く。
そして、視点を下げた先には続々とこう書かれていた。
緑谷出久
Lv.1
《基本アビリティ》
力:I0
耐久:I0
器用:I0
敏捷:I0
魔力:I0
《魔法》
《スキル》
【
・継承数に応じて全スキル能力上昇
・任意発動
・%(パーセンテージ)の振れ幅により攻撃力及び身体能力の超超高強化
・任意により%の調節可能
・器に見合わない力を行使した場合、使用部位が損傷する。
【
・力の結晶に含まれる内包スキル
・任意発動
・自身が継承を認めた相手に身体の一部を取り込ませることにより、全スキル譲渡可能
【
・力の結晶に含まれる内包スキル
・任意発動
・発動時、速度の超域補正
・一速から五速までシフトチェンジ可能
・
・触れた他者に対して効果発動可能
【
・力の結晶に含まれる内包スキル
・任意発動
・同様の能動的行動に対するパワー蓄積
・一部スキルと複合可能
【
・力の結晶に含まれる内包スキル
・自動発動
・あらゆる害意に対して即座に発動、危機を継承者へ伝達
・継承者に危機感知が不要な場合、周囲の他者の危機を感知
【
・力の結晶に含まれる内包スキル
・任意発動
・黒色の帯を生成
・広範囲拘束
・一部スキルと複合可能
【
・力の結晶に含まれる内包スキル
・任意発動
・発動時、広範囲に煙を展開
・一部スキルと複合可能
【
・力の結晶に含まれる内包スキル
・任意発動
・発動時、宙に浮くことが可能
・これら全てのスキルはLvやアビリティ値の影響を受けない
【
・スキル【力の結晶】の成長速度促進
・守護対象の数に比例して成長速度向上
▽
「正解はこれさ、個性でなく《スキル》に全てが反映されたんだ。で、ボクが怒ってる理由、賢いイズク君になら分かるよね?」
「⋯⋯はい、初代の、譲渡の部分ですよね」
日本語でも英語でも無い文字で書かれている文字――
「神様、答え知ってるじゃないですか。それならなんで僕たちに質問を?」
「別にー、深い意味はないよ。ただみんなの親睦を深めようと思っただけさ。これから同じ【ファミリア】になるんだし」
ベルとヘスティアが会話をする中、出久はヘスティアが危惧している訳、もといオールマイトの忠告を思い出す。
「――『力を求めるのは、悪い人だけじゃない』それに人間を玩具として見る神様達がいる。ヘスティア様が危惧しているのはこういう事ですよね」
「⋯⋯嗚呼、その通りさ。全く、困りもんだよこれは。OFA、デタラメな力の譲渡、こんなスキルがもし他に知られたなら、君は全世界から追われる身になる。確実に」
声を低くするヘスティアに出久は無言で頷いた。力の譲渡、それは出久が元いた世界でも一般には知られることはなかった秘密。しかしそれは、言伝でしかなかったからで、この世界は勝手が違う。
「いいかい、イズク君。これは【ステイタス】として刻まれた。だから背中を丸裸にされたら一発でバレる。ステイタスは神聖文字で神にしか読めないと言っても、博識の人間には読めたりする。絶対に背中を許しちゃいけないよ」
ヘスティアの忠告を聞き、出久は息を飲む。再度背負った力の責任が殊更に大きくなったのだ。八年間というブランクもあり口が緩んでしまわないか内心出久は心配だった。
「はい、気をつけます⋯」
「⋯⋯ホントに〜?記憶の中の君は誰かれ構わず救おうと必死だったよ?勿論、それは良い事なんだけど、ここで人助けをするなら常々気を抜かないようにね」
「⋯⋯はい」
ヘスティアへ自身の行動心理すら見透かされている事に出久は心の臓が飛び出しそうになるが何とか阻止。動揺で及び腰になりつつも床から立ち上がる。
ヘスティアもそれを見計らったように出久とベルを交互に見ると、「では」と仕切り直し、
「こほん、改めて二人共、ボクの【ファミリア】に入団してくれてありがとう!!今日は色々あったし、これからも続くだろうけど、皆で支え合っていこう!今日はボクらの新しい拠点で祝賀会だ!!」
「新しい拠点で祝賀会!?楽しみすぎる!あっ、イズクさん!じゃあ祝賀会でヒーロースーツ姿披露して下さい!」
「あ⋯うん。もちろんだよ。約束したしね」
出久から笑顔の同意を得たベルは満面の笑みを浮かべて、万歳、万歳と手を振って大はしゃぎ。釣られたヘスティアも両手を上げながら、二人を拠点へと導いていく。
出久は狂喜乱舞で通りを進んでいく女神と少年の背を歩きながら朗笑すると、ふと、空を見上げた。
行き交う人々を、都市の活気を、全てを隔てたように立ち尽くしながら黄昏色の青空を見詰める。どの世界でも変わらぬ空の景色を映す緑色の目は、新たな決意が宿っていた。
「⋯⋯きっと、意味はあるんだ」
虚空に、或いは広がっていく暗闇に、出久は希望を見出す。連綿と受け継がれてきたOFAの再点火、『役目』を終えた筈の聖火がまた灯った意味に出久は理由がないとは思えなかった。
「イズクさん、一人になると危ないですよ!」
「あ、ごめん!今行くよ!」
突然の理不尽でも、もう一度『役割』を与えられたなら、それなら、笑顔でやり遂げよう。
「⋯⋯?なんだかイズクさん、嬉しそうですね?」
「嗚呼、それもあるけど、⋯⋯知ってるかなベル君?世の中笑ってる奴が一番強いんだよ。どれだけ恐くても、自分は大丈夫だっつって笑うんだ」
指で頬を吊り上げて笑みを作る出久。傍から見れば不細工で、ヘスティアはクスクスと笑っているが、ベルは感激したようで同様に真似をした。
ハチャメチャで温かみのある空間を三人は共に新たな【
そんな大事な存在が出来た新たな世界で、出久は本当の意味で歩き始めたのだった。