断たれた2つ目の道
T大学ラクビー部のGM兼監督らラグビー関係者らの応援メッセージが削除されたのと同じ日に、3月5日には1347万円だった募金が1500万円に達したと新情報がアップされ、同時に小沢コーチのコメントも掲載された。
「おかげさまで目標金額に(ママ)達成することが出来ました。この場をもちまして、御礼申し上げます。今後につきましては、追ってご報告します。皆様、誠にありがとうございました」
さらにそれから数日後「小沢克年を救う会」のHPが閉鎖された。
私は2021年4月9日から26日まで、渡航移植の実態を現代ビジネスで連載した。この記事では小沢コーチは仮名だったが、自分に向けられた批判を十分に認識していたはずだ。
私は海腎協の中谷代表も取材した。移植費用のうち1500万円は募金だと知ると中谷は血相を変えた。
「藤木から話がきた時、募金を集めて移植するということを知りませんでした。わかっていればこの計画には最初からかかわりません。私どもが小沢コーチの移植を引き受けることは絶対にありません。間一髪のところで助かった」
2021年2月ないし3月に小沢コーチは中谷代表の事務所を訪れている。
中谷代表は、メキシコでの移植は、ドナーの詳細はわからないが病院側からは生体と聞いている。鮮度の高い臓器が期待でき、待機期間も短くて済む。旅費は約90万円、到着後5日程度で移植手術が行われ、1週間入院。ホテルで2~3日療養して帰国というスケジュールになると説明した。
その説明を聞いた数日後、メキシコの病院で移植を受けるために、中谷が指定する都内の病院で小沢コーチは血液、HLA検査をすでに終えていた。また5月10日に移植手術を受けるという予定も組まれた。
「募金詐欺ではないのか」
中谷はこう語る。
「自費で検査を受け、生体腎移植に強い関心があり、メキシコはドナーが生体であることを十分に認識していたと思う」
メキシコでの移植は臓器売買によるものだと小沢コーチは十分に知りえたということだ。
しかし、中谷代表は最終段階で小沢コーチのメキシコ移植は「断る」と明言した。
移植費用が募金である以上、渡航先、移植病院、移植の経緯、臓器売買による移植費用の明細などの公表を迫られる。それができるはずがない。
菊池に「絶縁状」を突きつけられたが、生体腎移植がメキシコで可能と思っていた矢先に、今度は中谷代表からも募金を理由に拒絶されてしまった。小沢コーチの渡航移植計画は完全に宙に浮いてしまった。
その頃から小沢コーチの周辺には「募金詐欺ではないのか」という風評が立ち始めていた。
(文中敬称略)
以下、中編記事「海外で移植手術をさせる「臓器ブローカー」に頼った患者の証言は、どこまで信用できるのか?」 に続く