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経済・企業 労働問題

オリンパス子会社「ジョブ型」雇用導入で200人が大量降格――訴訟提起や自殺未遂も

オリンパスの国内販売子会社「オリンパスマーケティング」で大量降格事件が発生した Bloomberg
オリンパスの国内販売子会社「オリンパスマーケティング」で大量降格事件が発生した Bloomberg

 大手医療機器メーカー、オリンパスの販売子会社で「ジョブ型」雇用制度の導入に伴い、大量の降格人事が発生し、問題となっている。40~50代の中堅社員約200人が、基本給を決める人事上の「等級」で新入社員相当に引き下げられ、製品運搬や回収などの単純作業を担う部署に配置転換される事例も多発した。一部の社員は、「ジョブ型雇用に名を借りた事実上のリストラ」として、降格の取り消しとパワーハラスメントに対する損害賠償を請求する訴訟を起こしたほか、精神的な苦痛から自殺未遂を起こす社員も発生している。

 問題の発端はオリンパスの医療機器販売子会社「オリンパスマーケティング」の安藤幸二社長(当時)が2022年8月5日、23年4月から導入する「ジョブ型」の新人事制度について説明会を開き、従業員に通知したことにさかのぼる。

米「モノ言う株主」の大株主浮上で企業改革プラン

 オリンパスやグループ会社の従来の人事制度は、年齢や勤続年数、過去に認められた能力・実績で等級や給与が上がる「年功序列(職能)」型であった。しかし、18年5月に米アクティビスト(モノ言う株主)ファンドの「バリューアクト・キャピタル」が大株主として浮上すると、竹内康雄社長ら経営陣は19年6月に同ファンドから社外取締役を受け入れると同時に、全社横断的な企業改革プラン「Transform Olympus」をスタートした。その柱の一つが「ジョブ型」雇用制度の導入だ。

 ポイントは、人事から年功序列(職能)的要素を排し、業務(職務)の内容に応じて給与を支払う報酬体系に移行することだった。19年に国内管理職層に先行導入し、23年4月からは国内非管理職層にも拡大することになった。

社員向け説明会では「人事等級は原則引き継ぎ」

 オリンパスマーケティングの新人事制度の説明会は22年8月に続き同年11月28日、29日、30日も行われた。ここで、会社側は新人事制度でも各個人の等級は23年3月時点の旧制度の等級に基づき、原則として引き継がれるとした。等級は、基本給を決める際の指標となっており、非管理職層は旧制度では、P1~3とS1~5の計8段階に分けられていた。新制度ではG8~12の5段階に簡素化されたが、例えば、旧制度でP2の等級を持つ者は、新制度ではP2と同等のG9に移行すると説明された。

 しかし、12月に入ると状況が一変する。まず、12月16日に40歳以上の全従業員に対し、社内メールで「社外転身支援制度」と題した希望退職制度の案内があった。そして、19日から、40~50代の中堅社員が上長から呼び出され、新人事制度での等級引き下げを内示される事案が多数発生した。

50代の社員、降格で基本給4割減に

 具体的な事例は以下の通りだ。例えば、オリンパスを原籍とし、21年10月からオリンパスマーケティングに出向しているA氏(50代)。A氏の勤続年数はオリンパス時代と合わせ30年近くに及ぶ。A氏は22年11月の説明会では、旧制度でP2の自身の等級が新制度ではG9に原則移行すると説明されていた。しかし、12月19日、上長からG11に降格されることを内示された。G11は旧制度では新卒社員と同等のS2~3に相当する。A氏はG9からG11に降格されることにより、標準基本給が約4割減ることになる。A氏が上長に降格の理由について尋ねたところ、上長は「聞かされていないので分からない」と回答した。そのうえで、上長はA氏に19日に正式に人事通達された希望退職制度への応募を勧めたという。

ジョブ型導入で「能力やキャリアに関係なく」降格

 降格の内示を受けた一部の社員が23年1月、この件についてオリンパスマーケティングの人事部長に確認をしたところ、「新しい制度となった為、今までの能力、キャリアは関係無く、新たに配置転換を行った。ジョブ型になったので、あくまで配置された職務の等級になっただけ」との回答だった。

 同時期にオリンパスの労働組合にも確認したが、「組合執行部は会社側と『新人事制度後も等級は原則として旧制度の等級に見合ったものに移行する』と確認していた。しかし、オリンパスマーケティングに関しては例外の人が非常に多く発生し、多数の問い合わせがあったので、会社側に確認する」という返事があった。だが、その後、2月に組合から「オリンパスマーケティングの安藤社長に確認したところ、しっかりと経営陣の方から従業員に等級変更が行われることを説明し、納得してもらっているので、問題がないという回答だった」との返事を得た。

配置転換で「製品運搬」の単純作業に従事

 A氏が希望退職に応じずにいたところ、23年4月の新人事制度のスタートに伴い、内示通りG11に降格となった。職場も顧客に医療機器の使い方などを説明するためのデータベースを構築する都内の「カスタマーインフォメーションセンター」から都郊外の営業部に新設された「エリアサポーター」に配置転換となった。この部署はA氏も含めて配属はわずか2人で、業務や職務内容、評価基準も未定だった。

 1カ月後の5月10日からようやく「エリアサポーター」の運用が始まったが、A氏の職務内容は、担当エリアの医療機器営業社員の要請に応じ、製品の運搬、修理品の回収と持ち込みをする運搬業務が主であり、これまでの経験を生かせない、裁量権の一切ない単純作業ばかりであった。

1300人中、降格者は200人、40人が希望退職に応じる

 関係者の推計によると、A氏のような降格人事はオリンパスマーケティングの全社員約1300人のうち、約200人に及んだ。200人のうち26人がA氏と同様に、各地に新設された「エリアサポーター」に配属された。結局、降格対象者のうち、約40人が希望退職に応じ、会社を去った模様だ。

 人事に納得できない一部の降格者は、23年11月、弁護士を通じ、オリンパス本体のシュテファン・カウフマン社長(当時)に降格とエリアサポーターへの配置転換人事の撤回を要求する通知書を送付する事態となった。

オリンパス本体の人事責任者「理由伴わないなら人事権の濫用」

 ある社員は24年3月28日、オリンパス本体の人事本部の井川憲一・副本部長(当時)と新人事制度について面談した。井川氏は、ジョンソン・エンド・ジョンソン、みらかホールディングス(現H.U.グループホールディングス)などの医療機器会社で人事を担当し、オリンパスには21年4月に入社した。日立製作所やGEなどを経て19年11月にオリンパスに入社した大月重人・執行役員と二人三脚で、今回の「ジョブ型」の新人事制度の企画・設計・導入を主導した人物だった。

 社員がオリンパスマーケティングの大量降格人事について説明したところ、井川氏は「会社の言い分が正しいと仮定しても、説明責任を果たしているかが問題。正直、以前からすごくオリンパスマーケティングは危ういと思っていた」「今回の件は一端であって、上が作るもの言えない風土が問題だとしたら、~中略~、本当にまずい」「オリンパスマーケティングが信用できない組織という話はあるが、その風土を作っているルーツはオリンパス」「先月の終わり、関係会社の社長全部集めて、職務型人事制度を濫用するなという注意喚起を一時間くらいしゃべってきた。要は『ちゃんと理由が伴っていないと、ただの人事権の濫用だ』と」と回答した。井川氏は一部の降格社員の降格取り消しに奔走したのち、24年8月にオリンパスを退職した。井川氏はこの件に関する編集部の取材に対し、「コメントは控えたい」と回答している。

子会社社長と本部長から降格者に「パワハラ発言」

 その後、24年9月5日、安藤社長の後任に4月から就任した小林功社長と「ジョブ型」雇用の企画・運用を推進してきた山下環・経営戦略本部長から、オリンパスマーケティング社員70名以上を対象に説明会が開かれた。この説明会は、労働組合が降格人事について従業員に説明する場を求めたことに対して会社が開いたものだった。しかし、小林社長と山下本部長は「今回の新人事制度はジョブ型という形で、それぞれのジョブの箱の決めた中でアサインした。それぞれの個人の発揮能力を加味してアサインした」という抽象的な回答に終始。A氏がより具体的な回答を求めたところ、「Aさん、いやなに?今糾弾したいの?」「何回も同じことを言わせないで欲しい。本当に違法だということであれば、訴えてもらう形になるんだけれどね」などと威圧的な態度で答えたという。

オリンパス竹内社長と子会社社長を相手取り民事訴訟提起

オリンパス本体の竹内康雄社長も社員から訴えられている
オリンパス本体の竹内康雄社長も社員から訴えられている

 こうした経緯を経て、A氏は25年2月28日、オリンパスの竹内康雄社長とオリンパスマーケティングの小林社長、山下本部長を相手取り、①降格人事とエリアサポーターへの配置転換の取り消し、および、②降格と配置転換による精神的苦痛、③説明会における小林社長、山下本部長の発言によるパワーハラスメント被害――に対して損害賠償を求める民事訴訟を東京地裁に提起した。

 A氏の代理人である東京法律事務所の伊久間勇星弁護士は、「会社の人事権に基づく、降格処分においては、きちんと契約上の根拠が定められていること、その際の評価基準が明確、かつ合理的であること――が必要だ」とする。そのうえで、①A氏の原籍であるオリンパスの旧人事制度の就業規則には、きちんとした降格の規定が定められていない、②新人事制度の移行に伴い降格される場合の基準や手続きが何ら定められていない――と指摘。

 さらに、仮に評価基準があったとしても、その基準に照らし合わせてきちんと評価していない場合も人事権の濫用に当たるとした。「A氏の場合は、直近の十数年間にわたって社内で平均以上の評価を受けてきた。それにもかかわらず、ジョブ型人事制度の導入に伴って、一気に新入社員相当の等級まで落とす降格処分は根拠を欠く。これは、人事権の濫用に当たり、降格人事は無効である」と主張している。

精神的に追い込まれ、自殺未遂に至った社員も

 降格人事をきっかけに、精神的に追い込まれ、自殺未遂に至ったケースも発生している。勤続10数年のある正社員は旧制度でP2の等級だったが、23年4月からの新制度でP2に相当するG9ではなく、G10に降格され、基本給は約3割の減給となった。降格の理由について上司に説明を求めたが、「人事が決めたことなので分からない」と言われた。その後、降格・減給にもかかわらず、G9相当の業務を与えられたため、心労がたたり、休職に。最終的に自殺未遂に及んだという。

オリンパス広報・IR部「コメントは差し控える」

 オリンパス広報・IR部は編集部の問い合わせに対し、大量降格問題について、「当社はジョブ型を採用しており、職務内容に応じて等級を設定している」とコメント。訴訟については、「訴状を受理している。これ以上のコメントは差し控える」、自殺未遂の社員が発生した件については、「個々の社員については公表していないので、回答は控える」と回答した。

 今回の事例について労働問題に詳しいある弁護士は、「海外の資本が入り、海外と日本の雇用環境の違いに経営が不合理性を感じ、もっと簡単に人員整理ができるよう、人事制度改革に踏み出すケースが増えている」としたうえで、「実際にジョブ型制度を導入しようと思っても、就業規則をどう変える、組合の理解をどう得るかというところが、大きな壁になる。それに対し、経営者側の思いが行き過ぎた時に、トラブルが発生する」とコメントしている。(稲留正英・編集部)

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