「リュウマくん! 大丈夫かい!?」
日が落ちて夜の帳が下りる頃、ヘスティアが工房内に駆け込んできた。
バイトの飲み会に向かう途中でゴブニュ・ファミリアの団員から用件を聞いたヘスティアは、大慌てで向かってきたのだ。
そこでヘスティアが見たのは、アマゾネスの女性を口説き落とそうとしている眷属候補の少年の姿だった。
「そんな童話があるんですね。初めて知りました」
「ユーマ君がいたところはアルゴノゥトの童話は伝わってなかったんだ?」
「はい。御伽噺として有名だったのはヤマトタケルノミコトの逸話でしょうか」
「へえ、どんな話だったの?」
2人の少年少女の周りには、ぐったりと疲れ果てた様子のゴブニュ・ファミリア団員たちがいる。
「あの暴力アマゾネスをたった1人で鎮静化するなんて……」
「さすがゴブニュさまのお眼鏡に適っただけのことはある……」
「対【大切断】決戦兵器として何としても我がファミリアに……!」
リュウマの株がバブル急上昇中である。
「ヘスティアさま、大丈夫ですか?」
肩で息をしているヘスティアに気付いたリュウマが心配そうに覗き込んでくる。ヘスティアは自分がしていた心配が無駄だったような気がして少し腹立たしくなってくる。
「ああ。そういう君は、可愛い女の子と、話せて楽しそうだね……!」
なぜ目の前の女神が怒っているのか分からないリュウマは首を傾げる。そんな2人の様子を見ていたティオナは、開け放たれたままのドアの向こうがすっかり暗くなっているのに気付き大声を上げた。
「うっそ!? もうこんな時間!?」
早く行かなければ『豊穣の女主人』で開かれるファミリアの酒宴に遅刻してしまう。「とりあえずウルガの予備も作っといてね!」と泡を吹いて倒れている親方に言い残して駆け出す。
「ごめん用事があるからもう行くね! 今度会ったらヤマトタケルって人のお話聞かせてね!」
「はい! お気をつけて!」
すっかり暗くなった街中へ駆け出していくティオナを見送ったリュウマ。その名残惜しそうな表情を見てヘスティアは軽口を叩く。
「なんだい、あの女の子にすっかり惚れこんじゃったみたいじゃないか」
「……英雄の、童話が好きなんだそうです」
「うん?」
噛み合わない返事を不思議に思うヘスティアに向かってか、言葉を続ける。
「強くなります」
ドアの向こうを見続けていた視線をヘスティアに戻す。
「英雄に、なります」
断言する。それは純然たる決意。そのまっすぐな眼差しの中に、数刻前露店で会話を交わした時にはなかった灯火が宿っているのを見て、ヘスティアは微笑んだ。
「”夢”は、見つかったみたいじゃないか」
「はい!」
昨日レアスキルを発現したばかりの
「ようやく来たか」
「ああ、待たせたね」
ゴブニュとヘスティアが対峙する。初対面となる両神はお互いに「この少年を守ってみせる……!」と敵意をむき出しに交渉の席に着くこととなった。
交渉は難航するかに思われた。
しかし、リュウマの鶴の一声によって交渉はすんなり終着点を見つけることとなる。
『英雄に、なります』
憧憬を抱く子どもを見て、両神は彼の希望に沿うよう条件を煮詰めていくことを決意した。
会談開始からわずか半刻でレンタル移籍の詳しい内容は決定された。
一、 黒鐘龍馬に恩恵を授ける神はヘスティアとする。
一、 ギルドに届け出る所属ファミリアは【ヘスティア・ファミリア】とする。
一、 契約期間中、黒鐘龍馬の住居提供は【ゴブニュ・ファミリア】が行う。
一、 契約期間中、神ヘスティアは神ゴブニュに対して黒鐘龍馬の全ステイタス内容を開示する。
一、 【ゴブニュ・ファミリア】は【ヘスティア・ファミリア】に対してレンタル期間中1月5万ヴァリスの支払いを行う。
一、 黒鐘龍馬が冒険で得たドロップアイテムの所有権は【ゴブニュ・ファミリア】が持つ。
一、 黒鐘龍馬が冒険で得た”魔石”及び換金した金銭は黒鐘龍馬個人の所有財産とする。
一、 この契約はヘスティア・ゴブニュ両神の同意、又は黒鐘龍馬本人単独の意思表明によって解除することが可能となる。
ゴブニュがねじ込んだのは、住居提供と金銭支払いの2点だ。
まずは何を企んでいるか分からないヘスティアからリュウマを遠ざけることを優先。また、ヘスティアが金銭目的かどうかを判断するため弱小ファミリアでは破格であろうレンタル料金を掲示したのだ。
一方、ヘスティアがねじ込んだのはギルドへの届け出と魔石関連の項目だ。
ギルド――公的機関にファミリア名を登録しておけば、いざという時に『保護』を名目として契約の強制解除や仲介、裁判の申請を行うことができる。ゴブニュ・ファミリア管理の物件にリュウマが住む以上、何か問題が起こった時にはいつでも自分が手助けできる状況にしたいというのがヘスティアの考えだ。さらにジャガ丸くん購入時にリュウマ本人がオラリオで流通している貨幣を所持していないのは確認済みであったことから、少しでも充実した暮らしをしてほしいとの思いから魔石から得た金銭や利益はリュウマのポケットマネーになるよう計らった。
リュウマが頼んで追加してもらった項目はステイタス内容の開示とドロップアイテムの扱いについてだ。
自分がより強くなるには、より多くの先達からアドバイスを受けたい。ヘスティアからもゴブニュからも公平な目線でアドバイスがもらえるよう本来なら機密事項であるステイタス内容の共有を提案した。また、住居提供やレンタル料金の支払いで多くの負担を強いてしまうことになるゴブニュ・ファミリアに少しでも恩返ししたいとの思いからドロップアイテムの所有権を移譲した。
また、満場一致で盛り込まれたのが恩恵と契約解除に関する項目だ。
リュウマ自身がヘスティアから恩恵を受けることを望んでいるため、ゴブニュも特に反対はしなかった。
契約解除に関して注目すべきは、リュウマ本人の意思が最重要視されていることだ。
ヘスティアは、ゴブニュの所有欲からリュウマを守るため。ギルドを通したオラリオの民法との二段構えでリュウマの保護を目論む。
ゴブニュは、ヘスティアの毒牙からリュウマが抜け出しやすくするため。契約内容にあえて『恩恵を授ける神』を明記したのは、リュウマが契約解除を望んだ際にヘスティアから授かった恩恵を消去する屁理屈を通すためでもある。
リュウマは……特に何も考えていない。
ともあれ、こうして三者三様の思惑を巡らせながらレンタル移籍契約への署名が行われたのだった。
その後【ゴブニュ・ファミリア】内でゴブニュ立ち合いの下、ヘスティアによる『
Lv.2
力:I0 耐久:I0 器用:I0 敏捷:I0 魔力:I0
《発展》
【鶴嘴】I
《魔法》
【】
【】
【】
《スキル》
【
・特定の武器を装備している場合のみ発動。
・早熟する。
・希少素材の獲得確率上昇。
【
・理不尽への反抗。
・逆境下での覚醒。
・不撓不屈。
【】
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